軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

095 愛を告げて、そして真実を告げて

「リフレイア、寒くないか? これ使いな。昨日買ったやつで汚くないから」

俺は外套をぬいで、リフレイアに羽織らせた。

ゴワゴワとした固めの生地でできた外套だが、ないよりはマシだろう。

「……ヒカルは寒くないんですか?」

「いや、俺はけっこう暑がりなほうだから」

「そんな青白い顔して、絶対嘘じゃないですか……えいっ」

「おっ、おい」

密着するように座り直してから、俺が掛けた外套を二人を包みこむようにかけ直すリフレイア。

お互いの熱が外套の中に籠もり、暖かい。

けど、かなり気恥ずかしい状況だ。

「ほら。こうすれば二人とも暖かいでしょう?」

「そりゃそうだけど……」

「ふふ……。前のパーティーでもこの階段で夜を越したことあるんです。でも、あの時は男の子とこうして並んで座って夜を過ごすことになるなんて、想像もしませんでした」

「それは、俺だってそうだよ。この街で、誰とも親しくなるつもりなかったくらいだったんだから」

「そうだったんですか?」

「ああ。リフレイアと仲良くなったのは、大いなる誤算ってやつ」

「またそんなこと言って……」

そうして、俺達はしばらく一言も発さずにいた。

静寂に支配された暗がりで、ただお互いの体温を感じている。

――この戦いが終わったら、もう俺たちがいっしょに潜ることはなくなるだろう。

彼女は地元で聖堂騎士になって、俺はずっとこの迷宮で暮らす。

もしかしたら時々は会いに来てくれるかもしれない。俺にはそれだけでいい。

こうしていれば、彼女を離しがたくなる。

それは俺の偽りのない本音だった。

昨日、リフレイアが俺を光の当たる場所へと連れ出してくれて、俺は確かにほんのわずかな時間でも、地球のことを忘れることができた。

彼女となら、この世界でも歩いて行けるのかもしれないと、確かに感じたのだ。

――ずっと一緒にいたい。

たった一言、そう言えたらどれほど楽だろう。

だけど、そう思えば思うほど。

彼女を大事だと思えば思うほど、俺は彼女を遠ざけなければならない。

地球にいる70億人に彼女を見られてしまうから。

「……ヒカル。私、あなたのことが好きです」

リフレイアがポツリと呟く。

もう何度目かの告白。

どうして、そんなに彼女に好かれてしまったのか、自分でもよくわからない。

けれど、恋愛なんてのは案外そういうものなのかもしれない。

「こうしているだけで、他に何もいらないくらい満たされて……家のことも、妹のことすら忘れてしまうくらいに」

「……そうか」

「……だから、ヒカル。私、これが終わっても……あなたとずっといっしょにいたい。いっしょに迷宮に潜って、いっしょに部屋を借りて――期間限定なんて言わずに、ずっと」

「リフレイア……」

いつか、言いかけたセリフを彼女は言い切った。

俺は二週間と期限を切っていた。それが視聴率レースの期限だったからだ。その間だけ、彼女を利用しようと思ったからだ。

でも、当初こんなにリフレイアが俺に関心を持つとは思わなかった。すぐに、自分の勘違いに気付いて自分から距離を取るだろう。そう考えていたのだ。

リフレイアは、アレックスの反応を見ても明らかなように、突出した美人だ。

プラチナブロンドの少し癖のある髪。アーモンド型の大きな目。艶やかな唇。少し赤みが差した頬。スタイルだってモデル級だ。

そんな彼女は、まさに引く手数多だろう。

だから、俺みたいな地味で特徴の無い男になびくとは信じられなかった。

好きだというのは、命を助けられた義務感か、あるいはそう自分に言い聞かせているのだと思っていた。

……でも、彼女の今の言葉には嘘はない。

切実で、誠実な響きがあった。

「リフレイアとは……もういっしょにいられない」

だからこそ、俺は歯を食いしばって、そう答えた。

――彼女に惹かれていた。どうしようもないほど。

俺だって一緒にいたい。

これからも、リフレイアとグレープフルーと三人で探索者ができたなら、どれほど楽しいだろう。

事故同然に連れてこられてしまったこの世界で生きる意味を、彼女となら見つけることだってできる。そう確信するほど、彼女との時間は特別なものだった。

それでも。

だからこそ。

リフレイアとは、これ以上いられないのだ。

「……私のこと……嫌いなわけじゃないんですよね?」

「それに答えたら、俺は卑怯者だ。だから……答えられない」

愛しているからこそいっしょにはいられないでは、彼女だって納得できないだろう。

だが、理由のほうは……まだ終わっていないが、伝えてもいいかもしれない。

いや、伝えなければならないだろう。

それで彼女が俺から距離を置くのなら、それで良いのだから。

もう、日にちもほとんどない。魔王を倒せば視聴者レースも終わりだ。

リフレイアの力はもうこれ以上ないほどに貸してもらった。

「じゃあ、どうしてなんですか……? 私たち……良いパーティーでしたよね? 三層の攻略も終わって、これから四層や五層にだって潜れたかもしれないのに。教えてくれなきゃ……私、諦められません……」

「リフレイア。……俺さ……この世界の人間じゃないんだ」

「えっ?」

俺の出し抜けな告白に、彼女は目を丸くした。

いきなり、意味不明なことを言い出したのだから、当然だ。

「こことは違う世界から来た。ほんの……40日くらい前に。こんな話、信じられないかもしれないけど」

「そんなの――。……ううん、本当のことなのね? ヒカル」

俺から少し身を離して、身体をこちらに向け、まっすぐ瞳を見つめてくる。

その瞳には、俺と向き合おうという真摯な光があった。

「お前といっしょにいられない理由も、そこにあるんだ。俺たち『転移者』は、元の世界の人間たちに見られている。見世物として戦わされる剣闘士みたいに。今、こうしている間もな」

「見られてるって……。でも、誰も見てませんよ?」

キョロキョロと周囲を見渡すリフレイア。

俺だって、ステータスボードと事前情報がなければ、誰かに四六時中監視されているなんて、信じられなかっただろう。

「そんな目で見るなよ。こんな馬鹿馬鹿しい嘘をつくわけないだろ……。今だって、8億もの人間が俺たちを見て、この話だって聞いてるんだ」

「8億人って……。そんな人数……聞いたこともないですよ……」

この世界では「億」なんて単位自体を聞くことがないかもしれない。

リフレイアは、まだ疑うような眼差しを俺に向けている。

そりゃそうだ。俺だって、もし地球にいるときにそんな話をされたら、相手の正気を疑っただろう。