軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

094 雷鳴の牙、そして階段で二人

俺とリフレイアは二人で四層へ続く下り階段まで移動した。

霧惑い大庭園では多くのパーティーが探索していても、そうそう探索者同士が鉢合わせしたりはしない。

単純に迷宮が広いからというのもあるが、原因の大部分は深い霧にある。一説によると、この霧が探索者同士をお互いに違う方向へと無意識に誘っているらしい。まあ、眉唾な話だが、迷宮などという謎な空間。そういうこともあるのかもしれない。

実際、階段までどのパーティーとも鉢合わせすることがなかった。

階段前に1パーティー見張りを置くことになっていて、万が一、魔王が昇ってきたら、そのパーティーが角笛を鳴らすことになっているのだそうだ。

まあ、いずれにせよ、今日魔王が出る可能性はほとんどないだろうが。

「あ、僕たちもここで見張りに参加します。よろしくお願いします」

四層へ下る階段にはすでに見張りのパーティーが詰めていた。

見張りといっても、実際には魔王が出るまでやることはない。

階段周辺には魔物はほとんど出ないし、時間つぶしの為のスマホがあるわけでもない。

実際、その探索者パーティーは3人でカードゲームをやって遊んでいたようだ。

「あっ、よろしくお願いします……って、ヒカルじゃん!」

こちらを振り向いた探索者の一人は、カナダ人のイケメン、アレックスだった。

「あれっ? アレックス戻ったんじゃなかったのか?」

「それはこっちの台詞。でも……わかるぜ。魔王討伐なんておもしろいイベント見逃せないもんな」

俺は視聴率一位をとるためなのだが、アレックスは単純におもしろいから残ったらしい。実に異世界を楽しんでいて羨ましさすらある。

「ヒカル、探索者に知り合いがいたんですか?」

リフレイアが俺の後ろから顔を出すと、アレックスたちは三人揃って「あ」「い」「う」と発して硬直した。

「ヒカルとパーティーを組んでいるリフレイア・アッシュバードです。よろしくお願いします」

礼儀正しく自己紹介するリフレイア。

ぺこりと頭を下げると、サラサラとプラチナブロンドの髪が下に垂れて謎の艶めかしさがある。

「ぼぼぼ、僕はジャック・アレクサンダー・フォックスです! アレックスでもジャックでも、好きなほうで呼んでください!」

「お、俺はカニベールです! 銀等級探索者です!」

「お、同じく! ジャ、ジャルダンです!」

舌を噛み切るんじゃないかというほど、つっかえながら自己紹介を始めるアレックスたち。最後の彼はジャルダンなのか、ジャジャルダンなのか。

ちなみに、カニベールは赤毛の巻髪で盾と斧を装備していて、ジャジャルダンは青い髪で顔は貴公子然としているが太っている。装備も軽装、精霊術師だろう。

「よ、よかったら、僕たちとトランプして遊びませんか! アレックスが作ったカードで、すごく面白いんですよ……!」

カードの並びをみるに、賭けポーカーをやっていたらしい。

というか、アレックスめ、トランプを自分が作ったと言い切るのは、なかなか肝が太い。まあ、こういうのは早いもの勝ちなのかもしれないけれど。

俺はリフレイアの顔をみた。

別に彼らとトランプするのは悪くない。視聴率的にも、なにもしないよりは数字を稼げるかもしれない。

だが、リフレイアには全くその気がなかった。

「ごめんなさい。彼と二人きりになりたいので」

「えっ」

おもむろに俺の腕をとって、引っ張るようにさっさと階段を降りていくリフレイア。

振り返ると、呆然と立ち尽くす3人のシルエットが妙に印象的だった。

◇◆◆◆◇

「このあたりならいいですかね」

しばらく階段を降りて最初の踊り場をすぎたあたりで、リフレイアは立ち止まった。

「どうしたんだよ。あいつら、呆然としてたぞ」

「だって、変な目で見てくるじゃないですか、あの人たち」

「ん、まぁ。それは確かにそうかも」

「そうですよ」

うちも妹たちが「変な目」で見られがちだったから、なんとなくわかる。

好奇の視線。それは本人に悪気がなかったとしても、居心地が悪いものだ。

リフレイアは美人だから、どうしてもああいう反応になってしまうってのは、わからないでもないのだが。

「ま、男なら仕方ないことなんだよ。別に悪い奴らじゃない」

「それはわかってます。それに……二人きりになりたかったのは本当のことですから」

そう言って、座るように促す。

3層の階段は、庭園と同じように面取りされた石材で作られていて、座りにくさはない。

ただ、4層からの冷気がここまで届いているのか、なんとなく肌寒さがある。

「リフレイア、眠かったら寝てもいいよ。俺、見とくから」

「さすがに、まだ眠くはありませんよ」

階段は通常の魔物はあまり近寄らない。

だが、油断は禁物というやつで、100%絶対にというわけではないらしく、極々稀に下に降りていく魔物や、上に登っていくやつがいるらしい。

なので、二人とも寝てしまうのは自殺行為。

当然、魔王が上ってくる可能性もあるのだ。

静寂が支配する空間。

4層の滝の音も、すぐ上にいるはずのアレックスたちの声も聞こえない。

「あー、でもここだと、三層に魔王がいた場合、気づかないかもしれませんね」

「いや、まだ三層にはいないと思う。逆に下からは、ヤバい気配感じるから」

「感じるんですか……? 魔王の気配を?」

「なんとなくだけどな。精霊たちの感じが違うというか」

「すごいんですね『愛され者』って……」

この感覚は、この世界に降り立って森を命懸けで走破したことで、身についたものだった。

濃い精霊力を持った存在……生物や魔物がいることがなんとなくわかるのだ。

もちろん、精霊の寵愛の能力による部分も大きいだろうけれど、これは俺が獲得した数少ない特技の一つだった。

「なら、魔王が階段を上がってきても、わかりそうですね」

「絶対ではないけど、強力なやつならわかるんじゃないか」

「じゃ、頼りにしてまーす」

実際、魔王と呼ばれるほど強力な存在なら知覚できる。

そんな、根拠のない確信があった。

とはいえ、まだ魔王は近くにはいないようだ。

今は戦闘に備えて少しでも体を休めておいたほうがいいだろう。