軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

092 魔導銀級の戦闘、そして一縷の希望

霧の立ちこめた第三層『霧惑い大庭園』の探索を開始する。

それぞれが別々の方向に散ったことで、すぐに別の隊の姿は見えなくなった。

「魔王を見つけたら、どうやって他の隊と合流するんだ?」

「三層は角笛ですね」

「角笛?」

リフレイアによると、風の精霊具である角笛で、3層の場所ごとに決められたフレーズを吹いて、魔王を見つけた場所を教え合うらしい。

「じゃあ、笛の練習がいるな」

「そうなんですよ。私は参加したことないんですが、ギルドでたまに合同練習をやっています。フレーズを知らなきゃ駆け付けることだってできないですしね。……とはいえ、3層まで来た魔王ってもう何年もいないらしいですけど」

「4層ならどうするんだ?」

「4層は発見した隊が花火を滝に向けて放つんです。あの階層はだいたいどこからでも滝が見えるそうですから」

「なるほど。考えられてるんだな」

3層は霧の階層だ。魔王を見つけても、お互いに駆け付けることができなきゃ話にならない。だから、角笛のフレーズでお互いの位置を把握しあおうということなのだ。

霧の中を先行していたモアップルさんが戻ってきた。

「グレ2、トロ2なん」

熟練パーティーらしく省略されているが、グレムリン2体とトロール2体の混成パーティだろう。

この階層に出る魔物としては、厄介な組み合わせだ。

さて、どうするのかな。

「ヒカルって他の探索者の戦闘ってちゃんと見たことあります?」

「あるけど、上級探索者のは見たことないな。そういえば」

せいぜい銀等級までだと思う。金、ましてその上である魔導銀級は初だ。

先導しているのは、赤毛リーダーのパーティーらしい。

6人全員が戦闘職。このレベルのパーティーになると、回復係やらポーターやらといった『戦わないメンバー』という発想自体がないようだ。

「ポーターは雇わないんだな」

「魔導収納袋持ってますからね」

「なにそれ?」

「ほら、ヒカルの影に収納する精霊術あるじゃないですか。あれを再現した魔導具ですよ」

「そんなもんまであるのか……! いや、水の回復術を再現する魔導具があるんだから、当然か」

闇ノ納「シャドウバッグ」は確か三番目だか四番目だかに覚えた術だ。別に高度な術というわけでもない。魔導具化も不可能ではないということか。

「金貨25枚とかするんですけどね」

「そんなに」

魔導具は元々高価なものらしいが、それにしたって金貨25枚は凄い。家が建つ金額だ。

まあ、それだけ有用ということなのだろうけど。

ちなみに、シャドウバッグと同じ程度の収納力ということは、精霊石を収納するだけなら、一回の探索分なら十分入る。

ミスリル級パーティーとなれば、魔物から採れる精霊石はかなり大きいサイズのものが中心となるだろうから、リュックに入れて移動するのはかなり大変だろう。

「あっ、始まりますよ」

グレムリンとトロールの混成パーティーはまともに戦えばかなり厄介らしい。

俺たちはグレムリンとトロールを分断して殲滅するというやり方しかしたことがないから、実際にどう厄介なのかは情報としてしか知らないのだが、グレムリンの精霊術でトロールを倒すのを邪魔されて面倒くさいらしい。

基本的にグレムリンはトロールの後ろにいるから、普通に戦うならトロールを倒してからじゃないと、グレムリンには手出しできないのが常だ。

トロール相手にもたついている間に、グレムリンの精霊術で嫌がらせを受けて、前衛が崩れることになりがちなのだという。

さて、魔導銀級の戦いはどうかというと――

「あー、はぁ。なるほどなぁ……」

一瞬で終わった。

まず、グレムリンの一体が強弓の一閃で倒され、次の瞬間にはモアップルさんの細剣でもう一体が貫かれ死んだ。

正直、モアップルさんがいつトロールを抜いて後ろに回り込んだのかわからなかった。

トロールの一体は赤毛リーダーの巨大な斧の袈裟斬りで分断され、最後の一体もこれまた剛槍の露と消えた。

「凄すぎて勉強にならないんだけど」

「圧倒的でしたね。さすがです」

文字通り「レベルが違う」。

ゲームで、低レベル帯に行ったとき、どんな魔物も全然相手にならないあの感じに近い。現実で見るとこういう感じなのか……。

「あの人達は何層潜ってるんだ?」

「六層ですよ。彼女たちは第五層『栄光への奈落』を抜けられる数少ない探索者パーティーですから」

「六層! 現在の最深部じゃん」

俺達が潜っている迷宮が全何層かはまだ明かされていない。

が、情報が出回っている五層までだって、「誰か」が探索し情報を持ち帰ることで、他の探索者が安全に魔物を狩れるようになっていったのである。

そして、まだ情報が出回っていない六層『暁の大平原』に潜るとは、全くの未知の迷宮、未知の魔物と戦っているということなのだ。

それは、本当の意味での「探索」だ。彼女たちは、この迷宮街でも数少ない「本物の探索者」であると言えるだろう。

「あの……ヒカル、ひょっとして彼女たち……『 真紅の小瓶(クリムゾン・バイアル) 』を知らないなんてことありませんよね?」

「いや、知らない」

「ええっ……! この街で一番有名な探索者パーティーなのに……! なんか喋ってて違和感あると思ったら……」

「俺、この街に来てまだ数週間ってとこだし……。じゃあ、あの人たちがその真紅の小瓶ってパーティーなのか?」

「そうですよ。全員が オンディーヌ(ミスリル) 級。リーダーのガーネットさんは、もう少しでサラマンデル級に手が届くとまで言われてます」

すげぇな。サラマンデル級は、第一等級。つまり一番上。

この街には今は第一等級はいないという話だから、貢献度が一番高いパーティーでもあるということか。

前の世界では一般的に荒事は男の仕事だった。

だが、この世界には「位階」があり「精霊術」がある。

俺みたいな比較的小柄な男でも戦えているのは、これが理由でもある。

当然、女性でも戦闘に問題はない。どちらかといえば、パーティーとして連携が取れているかのほうが重要だ。

「そんなパーティーと知り合いなんて、すごいなリフレイア」

「前に実家の子たちと組んでた時、同じ女性だけのパーティーだったから、良くしてくれたんですよ。後輩の面倒を見るのも上位者の務めだって」

「なるほど。まあ、男のほうが多いのも確かだもんな」

それほど探索者に詳しいわけではないが、パッと見で男が多い業界なのは確かだ。

女性だけだと肩身が狭い。それで、お互いに協力し合う体制が出来たのだろう。

「グロリアさんのパーティーも有名なんですよ。『女神のくしゃみ』なんて可愛いパーティー名ですけど、パワフルで」

先ほどの戦闘に参加していたのは『真紅の小瓶』の6人だけだ。

俺達と、残りの6人は待機。待機中のほうが『女神のくしゃみ』ということだろう。

ブルネットのウェーブした髪を一括りにしたグロリアさんを始め、全員重装備であり、なんというか突進力がありそうなパーティーである。

「ちょっとリフレイアちゃん、こんなに華奢で可愛い乙女にパワフルはないでしょ? 可憐で美しくて強いって言ってよ」

「あら、グロリアさん聞いてたんですか?」

「そりゃ、聞こえるわよ。パワフルっていったら、リフレイアちゃんのほうがパワフルじゃない。そんなバカデカい剣使っちゃって」

「私は魔物に力負けしない探索者を目指してますからね。まだまだ師匠には及びませんが」

グロリアさんたちは、リフレイアと同年代(少し上のようだが)のパーティーで、「真紅の小瓶」よりは気楽な関係のようだ。

「それにしても、真紅姐さんたちはさすがよねぇ。三層の魔物なんて歯牙にもかけないんだもんなぁ」

「真紅姐さん?」

「あはは、ガーネット姐さんのあだ名よ」

真っ赤な鎧、赤い髪、そして巨大な赤い斧を振るうガーネットさんは、たしかに炎の化身と言ってもいいほど存在感があった。

あの赤い色は、自分に魔物を引きつけるような効果もあるのかもしれない。マタドールみたいに。

「なんにせよ、今日は気楽な探索になりそうね。パンサーが出れば別だけど、あれって滅多に出ないし」

「あれ? 魔王は出ないんですか?」

「あはは~。魔王は一つの階層上がるのに、数日間かけて力を溜める必要があるからね~。2日前に五層で見つけたんなら、今は四層に来てるか来てないかってとこ。それでも、例外が過去にあったから三層もちゃんと確認しとくってだけで」

なるほど。三層で迎え撃つのは良いが、ウッカリ四層を探している間にすでに三層に来てた魔王が二層に到達してしまうのは危険ということか。

それだけ、階層上昇による能力アップの幅が大きいということなのかもしれない。

「じゃあ、明日は四層ですか?」

「そうよ~。ヒカル君は四層の経験は?」

「ないですね」

「じゃあ、お姉さん達の後ろにくっついてなさいね。守ってあげるから」

バチンとウインクをキメるグロリアさん。

しかし、このままいけば四層のまだ出会っていない魔物を見るチャンスだし、五層まで降りるとなれば、ベテランの攻略方法を間近で見ることができる。

次は彼女達『女神のくしゃみ』が戦うらしい。

俺は離れた場所でそれを見ながら、ボンヤリと考える。

(視聴率1位取れていてよかった)

もし現在の瞬間視聴率が1位じゃなかったなら、俺は一人でも魔王と出会うために四層に降りていたかもしれない。

昨日、リフレイアに連れ出されるまで俺は完全に思い詰めていたし、実際そのつもりだったのだから。

だが、現在の順位を維持していれば総合1位になれる状況なら話は別だ。無理をして死んでしまうほうが怖い。

消極的な考えかもしれないが、ここまできて失敗してしまうほうが……怖いのだ。

『死者蘇生の宝珠』が手に入る。もうほんの少しのところまで来ている手応えがあった。

ステータスボードを操作し、もう何度も見た説明を読む。

『死者蘇生の宝珠:神器 あなたの大切な誰かを彼岸より此岸へ呼び戻す神の宝珠。地球で亡くなった者、異世界で亡くなった者、どちらにも使用できる。死者は亡くなった場所で復活するので注意。あなたにとって大切な者でなければ蘇らせることはできない』

1位になれば、ナナミを生き返らせることができる。

それで、俺のこの人生がどう変わるかなんてわからないし、あるいは何も変化はないのかもしれない。

ナナミを生き返らせることができたからといって、生き返る場所は「亡くなった場所」。つまり地球のナナミの部屋だ。

今の俺には、あいつが生き返ったことを知る術すらない。

でも、それでもいいのだ。

今はなにも考えられなくても。この世界で生きることに意味を見いだせなくても。

幼馴染みを生き返らせることができたという、たった一つのやりとげたことがあれば、せめてこの世界に来てしまったことに――世界中の人間に憎まれていることに意味を見つけることができるのだから。

それが希望なのか、あるいは意味のないただの感傷なのか、それはわからない。

それでも、今の俺に縋れるものはそれしかないのだ。

もう俺は元の世界には戻れず、この世界で好奇の視線に晒されながら生きていくしかないのだから。

死ぬまで――そうして生きていくしかないのだから。