軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

075 マンティスゾンビ、そして連携して

精霊石から光が溢れる。

ドクンと、星をちりばめたような混沌の石に命が灯る。

輝きが光となり溶け出していく。

色とりどりの光が石から溢れ出し、不思議な鼓動と共に、石から発せられる熱は、生きてるかのように高まっていく。

「これを使うのは2度目だけど……まるで、石に命を与えてるみたいだな……」

まさに、命そのものを石に注ぐが如く、身体から吸い出されていく精霊力が普通の精霊術の比ではない。

熱くあふれ出した光が、集まり、そして濃密に膨れ上がっていく。

俺は石を手放した。

すぐに石は緑色の像を結び始め、それは一体の魔物の姿へと結実した。

「…………」

マンティス・ゾンビは静かにそこに立っている。

立ち上る精霊力の揺らめきは、術の作用によるものだろうか。

俺がダークネスフォグを解くと、マンティスはゆっくりとリザードマンへと歩き出した。

リザードマンもすぐに臨戦態勢を取る。

どういう理屈か、マンティス・ゾンビが敵だとわかるらしい。魔物同士で仲間だと思ったところをグサリ! という戦法は使えないようだ。

二体の魔物が肉弾戦を開始する、その刹那――

「シャドウバインド!」

影の触手で肉体を拘束されたリザードマンは、マンティスの鎌による連撃で、あっという間に倒れ精霊石へと姿を変えた。

あまりにあっけない結末に少し驚いたが、マンティスはリフレイアよりも単体戦闘力が高いのだ。なら、この結果は当然だろう。

逆に言えば、マンティスと俺のコンビでこういう結果にならないなら、リフレイアと四層に降りることは不可能ということになる。単純な話だ。

「…………」

戦闘は終わったが、マンティスゾンビはまだそこにいた。

前回の「ほむら猩々」の時は、すぐに消えたが、俺の精霊術そのもののレベルが上がっているからか、あるいはダンジョンという特殊な環境が術を強化しているのか。

いずれにせよ、心強い仲間だ。

俺は短刀とリザードマンの精霊石を拾い上げ、ダークセンスで周囲を探った。

「向こうにジャイアントクラブがいる。行くぞ」

「…………」

マンティスはめちゃくちゃに寡黙だが、意思の疎通は可能のようで、黙って付いてくる。

そして、戦闘も何も練習してないのに、連携がバッチリ決まり、ジャイアントクラブくらいなら容易く撃破することができた。

「うーん、やはり俺が生んだアンデッドだからかな?」

おそらく、口に出さなくても意思疎通ができているのだろう。

それは一瞬一瞬で戦況が変わる戦闘という舞台では、かなり大きなアドバンテージだと言えた。

その後も、リザードマンとジャイアントクラブを何体か倒したが、どうも入り口付近には、こいつらとスライム以外の魔物はいないようだった。

この階層で出る魔物は、あと「サハギン」「マンティス」「ラミア」「スキュラ」の4種類だ。サハギンとはちょっと戦ってみたかったが、半魚人だし水の中に潜んでいるのかもしれない。

それに、あんまり奥に行ってスキュラと遭遇してしまうのも怖かった。

スキュラは四層最強の魔物。

俺だけでは逆立ちしても勝てないだろう。

「ま……すでに十分無理してんだけどな」

呟いてみても、マンティスゾンビが返事をすることはない。忠実なる自分の為だけの戦士。闇属性は正直けっこう地味だが、第8の術は本当に特別な術だと再確認できた。

マンティス・ゾンビは、魔物との6回目の戦闘時に消えた。

時間にして、1時間程度だろうか。混沌の精霊石一つ分としては、かなり有用なサポートだといえる。伊達に隠された第8の術じゃないということか。

ちなみに、マンティスと共に倒したリザードマンから一つ混沌の石が出たので、いざとなれば、次はあれを呼び出すことが可能だ。

まともな戦士(しかも使い捨てにできる!)が呼び出せる術、その有用性は計り知れない。

「寒くなってきました……。リフレイアが言っていた意味もわかります。気温もそうですが、滝からの水しぶきが舞っていて服が濡れるのが原因のようです」

四層に来て、感覚的には入り口の近くでしか探索を行っていないのに、服はびしょびしょに濡れ、気温の低さも相まって、かなり身体が冷えていた。

戦闘そのものをマンティスゾンビに頼っていたから、自分はあまり身体を動かしていないというのもある。

これでは風邪をひいてしまうかもしれない。視聴率レースの途中でダウンなんて洒落にもならない。

まあ、一応は病気耐性もあるし、ポーションの類いもいざとなったら交換できるからどうにでもなるだろうが、一応着替えておこう。

ダークセンスを使い周りに魔物がいないことを確認して、予備の服に着替える。

リフレイアが火だか水だかの精霊術士が必須といっていたのは、この辺りが理由なのだろうか。いちいちちょっと濡れたからといって着替えてなんていられないだろうし、火の精霊術か水の精霊術で水を乾かしたりするのだろう。

火や水にそんな術あるのかどうか知らないけど。

ステータスボードを確認すると、四層に来てまだ1時間半程度しか経っていなかった。

あと4時間くらいは狩りを続けたい。

「1人での狩りもいいですが、四層に慣れる為にももう一度クリエイトアンデッドを使おうと思います」

リザードマンの「混沌の精霊石」を取り出す。

「クリエイトアンデッド!」

キラキラとした混沌の光が、リザードマンを復活させていく。

筋骨隆々の戦士。剣と盾を装備しているのが不思議だが、魔物とはそういうものなのだろう。

「さて、アンデッドは時間制限があるのでどんどん行きます」

リザードマンゾンビはそう長くは顕現させていられないはず。

短期決戦で使うなら便利だが、例えばフィールドの移動なんかのお供として使うには心許ない時間。混沌の精霊石は滅多に出ないが、確率的にみてもリザードマンやマンティスみたいな強く、なおかつ「混ざっている」魔物からはそれなりに出るのだろう。

俺は、ダークセンスを併用しながら、奥へ歩を進めた。

「リザードマンですが……2体……いや、3体いますね。さすがにヤバそうです」

1体と2体なら、2倍の強さになるかといえば、そうはならない。

普通は数倍の厄介さになるだろう。

まして3体ともなれば、対処できずに負ける可能性が高くなってくる。

オーガやトロールですら2体が上限だったのに、まさかリザードマンが3体同時に湧くとは……。

(……1体は俺が倒して、もう1体をアンデッドリザードマンが倒す。最後の1体は流れでいけるか)

俺はそう作戦を立てた。

いや、作戦なんてカッコイイものではない。いきあたりばったり、破れかぶれと言ってもいいかもしれない。

「ダークネスフォグ……!」

戦わないという選択肢はない。

俺だけなら避けただろうが、こっちにはアンデッドリザードマンがいるのだ。ここで逃げるのなら、混沌の精霊石を使った意味がない。

リザードマンを伴って闇を進む。

マンティスアンデッドの時もそうだったが、不思議と俺が生み出したアンデッドは、闇の中でも先が見えているようだった。キッチリ俺に付いてくるから、何か精霊力のパス的なものが繋がっているのかもしれない。

闇の中で見えている戦士なんて、ほとんど無敵だが、ただ俺の近くを付いてきているだけの可能性もある。闇の中で戦わせるのは冒険過ぎるだろう。弱い魔物で試しておけばよかった。

「1体だけわずかに離れてますから、あいつから狙います」

ほんの10メートル程度だが、この距離の差は大きい。

洞窟内を反響する滝の音が、俺とアンデッドリザードマンの足音や呼吸音を消してくれる。四層は全体的に薄暗く、滝の近くは不思議な光源があり、一層と変わらない程度には明るいが、横穴に潜れば二層と変わらない。

つまり、俺のダークネスフォグで、姿をほぼ完璧に隠蔽できるということだ。

ここからは、一瞬の判断違いも許されない。

相手のほうが格上なのだ。先制攻撃のアドバンテージを最大に生かして攻撃を仕掛けるのだ。

「サモン・ナイトバグ」

バグを発生させ、3体のリザードマンに殺到した瞬間に、3体共ダークネスフォグの中に沈める。リザードマンは闇に対応できないタイプだから、少なくともこれで数秒は稼げる。

「シャドウバインド!」

手前の1体を闇から出したと同時に、バインド。

そいつの命脈の中心を、間髪容れずにアンデッドが切り裂く。

(一つ!)

バインドは効果が残っている間は使用できないが、使った相手が死ねば話は別。すぐに、再使用が可能だ。リザードマン相手にバインド無しでの接近はハッキリ言って怖すぎる。

しかし、これで状況は2対2。

2体のリザードマンは、ナイトバグ相手に剣を振り回しており、迂闊に近付くのは危険だ。

俺はさらに闇を操作して、近くの1体を闇から出した。

すぐさま、アンデッドと戦闘が始まる。

リザードマン同士だが、自分とは異質な「敵」だとすぐに認識できるのは、どういうカラクリなのだろうか。腐臭でもするのか?

「シャドウバインド」

攻撃のモーションに入る刹那、闇から飛び出した触手たちがリザードマンの四肢を縛る。

どれほど屈強な魔物でも、弱点が存在している以上、一瞬の隙を突かれれば必殺の攻撃を食らうことになるのだ。

アンデッドの突きで、2体目も絶命し精霊石を落とした。

「残りの1体は自分でやります」

俺はアンデッドを待機させ、闇に紛れてリザードマンを観察した。

未だに状況を把握できず、ブンブンと飛び回るナイトバグへの攻撃を続けている。

剣速は鋭く、そのまま食らったら真っ二つにされてしまうだろう。

俺はこの階層では、「攻撃を食らったら一撃で死ぬ人間」だ。

だが、弱点への攻撃を当てれば一撃で倒せるのはこちらも同じ。

やれない理由はない。リスク度だけを言えば、他の魔物とだって変わらない。

俺はオーガの一撃でも、トロールの一撃でも、カニの一撃でも、もろに食らえば即死することに変わりがないのだから。

「シェードシフト。ファントムウォリアー」

シェードシフトは気休め程度だが、一応使っておく。

ファントムウォリアーだけが見えるように、闇を操作し、俺はそっと迂回し背後へと回り込む。

リザードマンは、幻影の戦士との戦闘に備えて剣を振り回すのを止め、迎撃の構えを取った。

俺は背後から静かに近付き、シャドウバインドを使いリザードマンの自由を奪った。

そして、頸椎の付け根。精霊力の命脈の中心へ、短刀を渾身の力で突き入れる。

静かに。自分の存在を気取られないように。無音ですべては遂行された。

リザードマンもまた音もなく精霊石へと姿を変え、地面にコトンと落ちた。

「……混沌の精霊石です。これで元を取りましたね」

冷静ぶって喋りながら、俺の心臓は早鐘を打ち続けていた。

バインドの戒めは絶対ではない。振りほどかれて一撃を食らう可能性は常にあるのだ。リザードマンが気付いているかどうか、バインドで本当に動けなくなっているのか。

それを知る手段は、俺が相手を倒すか――そうでなければ、俺自身が代償を支払う形だけなのだから。

3体のリザードマンからは、混沌の精霊石が一つ、水の精霊石が二つ。

四層は滝ステージだけあって、水の精霊石を出す魔物が多いのかもしれない。

その後も、俺はあまり深入りはせず、ときどきクリエイトアンデッドでリザードマンを呼び出しながら、一人で戦闘を続けた。

スライム、ジャイアントクラブ、リザードマン、サハギン。

リザードマンも1対1ならタイミングを合わせて、確実に倒すことができるようになったから、新しい階層の下見としては十分だろう。

サハギンは、水の中から飛び出してくる半魚人だが、ダークセンスによりいることがわかっていれば、対処は容易い。強さとしてはホブゴブリンと同程度の魔物だろうが、三叉の槍を持っているので、多少厄介かもしれない。

ハードな戦いの連続で、他人から俺がどう見えたかまで気にしてはいられなかったが、視聴者数もかなり伸びている。

やはり、最初にリザードマンの攻撃を食らったのが良かったのだろうか。

さすがに死んでは意味がないので、死なないように立ち回るのは大前提だが、もとより余裕はない。

だが、視聴率が瞬間的に1位になっていた。

総合ではまだ1位にはなれていないし、残り日数も少ない。なにかもう一つ起爆剤が必要だろう。

スキュラと戦うか。

それとも、闇に紛れて四層を突破し、五層へと降りるか。

それとも何か別の手段があるのか。

もう、それほど考えている時間はない――

【 闇の精霊術 】

第二位階術式

・闇ノ虚 【シェードシフト】 熟練度12

・闇ノ棺 【シャドウバインド】 熟練度93

・闇ノ喚 【サモン・ナイトバグ】 熟練度77

第三位階術式

・闇ノ見 【ダークセンス】 熟練度8

・闇ノ化 【ファントムウォリアー】 熟練度14

・闇ノ納 【シャドウストレージ】 熟練度6

第四位階術式

・闇ノ顕 【ダークネスフォグ】 熟練度92

特殊術式

・闇ノ還 【クリエイト・アンデッド】 熟練度4

【 全転移者視聴率レース 途中経過 】

転移者ナンバー 1000 クロセ・ヒカル

○ 瞬間視聴者数 1 / 714

○ 総視聴時間 4 / 714