軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

074 リザードマン、そして闇ノ還

ダークネスフォグの闇を身に纏ったまま、ジャイアントクラブへとじりじりと近付いていく。どうやら、そこまで感覚の鋭敏なタイプではないようで、20メートル程度まで近付いても、こちらに気付く様子はない。

「ファントムウォリアー」

俺は物陰に隠れてファントムウォリアーを出現させた。

こいつの使いどころは難しいところがあり、せっかくの不意打ちのチャンスを、自らフイにするという側面がある。

しかし、確実性という点ではこいつのほうが上だ。

幻影の戦士が、盾に剣を打ち付けながらノシノシと歩いていく。

巨大カニはすぐに気付いて、身体を起こして臨戦態勢を取った。

(意外と素早いぞ)

サカサカと動いて、ハサミでファントムウォリアーを挟むように攻撃するカニ。

かなり好戦的な上に、動きの速さが想像以上だ。

正直、この巨大カニは四層の中では弱い部類の魔物だと考えていたが、上方修正したほうが良さそうだ。

さすが、伊達に嫌がられていないな。四層。

俺は闇に紛れたままファントムウォリアーと格闘しているカニに近付いていった。

心臓の音が自分でも聞こえるくらい、緊張している。

短刀を握る手が震えて、今にも落としてしまいそうだ。

距離が3メートルを切り、俺はダークネスフォグの範囲を広げ、二体の巨大カニを包みこんだ。

同時に、シャドウバインドで動きを封じる。

闇の触手たちが、カニの手足に絡まっていくのを見ながら、俺は魔物へ突進した。

(一つ! 二つ!)

ジャイアントクラブの眉間に短刀を突き立てる。

バリンと殻の薄い場所を破る感触と共に、短刀が沈みこみ、命脈を切断する。

一体を始末して、返す刀ですぐもう一体も同じように仕留めた。

カランと大きめの精霊石が落ちる音が、戦闘の終了を告げていた。

「はぁ、はぁ。……ダークセンス」

周囲を精霊術で探り、魔物が接近してきていないかを確かめてから石を拾い、呼吸を整える。

――倒せた。

結果的にいえば、三層の魔物と同じように倒せた。

だが、消耗の度合いは高い。

初めて戦う魔物なのだから当然といえば当然だが。

今までの経験から一度上手くいった戦術は、同じ種類の魔物ならば、ほぼ上手くいくことがわかっている。

もっと知性の高い魔物が出てくるようになったら別かもしれないが、その時はその時だ。

一人で戦うのはリスクは高いが、上手くいった時のリターンも大きいと言えた。

「精霊石は、無垢と水ですね。このサイズはかなり高く売れるでしょう。四層は大変な分、三層より儲かるかもしれません」

俺は一度階段まで戻り、また別の方向へ探索を開始した。

階段の出口の目の前は巨大な滝であり、そちらの方向へは進めない。

いや、進めるかもしれないが、足を滑らせて滝壺に真っ逆さまになるのだけは避けたい。近寄らないほうがいいだろう。

いちおう、左右に通路が続いているので、そちらの方向から探っていくのだ。

スライムを召喚術で処理しながら進んでいくと、別の魔物の反応があった。

目視でも確認。

「リザードマンがいました。一体ですが……めちゃくちゃ強そうです」

なんというか……デカい。

トロールと同じくらいはある。2メートル級だ。

しかも、トロールと違い全身が筋肉の鎧に包まれていて、歩いている姿だけでその力強さが伝わってくるほどだ。

しかも、盾と剣も所持している。

「リザードマンは感覚器官が人間とは違うかもしれません。ヘビなんかはピット器官という赤外線を感知する器官がありますよね。それと同じであれば、あれも熱を感じて襲ってくる可能性があります。ただ、見た感じトカゲに似ているので、その心配はないとは思いますが……」

熱を感知して襲ってくるタイプならば、俺の天敵になり得る。

調べてみる必要があるだろう。

俺はかなり離れた場所から、ファントムウォリアーを出した。

この幻影の戦士は任意で、音を立てないムーブもすることが可能だ。

俺は階段へすぐ避難できるように、さらにリザードマンから距離を取った。

ファントムウォリアーは静かにリザードマンへと向かっていく。

「リザードマンがファントムウォリアーに気付きましたね。戦闘が始まりました。どうやら、ピット器官オンリーではないようです」

リザードマンがファントムウォリアーに気付かなかった場合がヤバかった。あれに気付かないなら、視覚ではなく熱知覚のタイプ(あるいは別の知覚)である証拠になってしまったからだ。

どっちも持っている可能性もゼロではないが、とりあえず希望は残った。

「すーーーーーーー、はーーーーーーーー。では行ってきます」

俺は深く深く呼吸して、覚悟を決めた。

初めて戦う魔物とは、仕損じて死闘になる可能性があるから、その覚悟だ。

心が定まっていないと、イレギュラーが発生したときに動けなくなる。

常に最悪を想像して行動する。

こんな迷宮の中なのだから、当然のことだ。

あの魔物はジャイアントクラブより強い。

そして、当然俺よりも強い。

そういう直感があった。

俺は未だに幻影の戦士と戦っているリザードマンに、闇に紛れたまま接近した。

短刀はとうに抜き放っている。

「サモン・ナイトバグ」

少しでも意識を逸らせるために、ナイトバグを出す。

このレベルの相手にはあまり効果はないだろうが。

ナイトバグはブンブンと飛び回り、かなり鬱陶しい。

まして、ファントムウォリアーの相手をしながらだと、そちらへも意識を割く必要があるのだ。

闇に潜み静かに歩み寄る俺へ、注意を払っている様子は見られない。

だが、今までの相手よりも強い圧を感じていた。

表皮は硬そうな鱗に覆われており、俺の短刀で貫けるのか不安が過る。

(でも、やるしかない! ここまで来たら!)

たった一体のリザードマンくらい倒せなければ四層の探索など不可能だ。

スキュラに出会う可能性だってあるのだから。

「シャドウバインド!」

闇を広げて俺は一気に駆け出した。

同時に発した闇の触手がリザードマンの四肢を縛る。

(いけるッ!)

背後からの一撃。トロールの時と同じように一撃で仕留める――そのはずだった。

しかし、リザードマンは強引にバインドの戒めを解き、わずかに身体を反転させた。

それだけで剣の軌道が逸れ、短刀は鱗に覆われた左肩へ突き刺さってしまう。

(マズい!)

不幸中の幸いか、まだバインドの効果はゼロになってはいない。

しかし、バインドの効果が最大になる瞬間からわずかにズレてしまったのだろう。

リザードマンがサーベルのような片刃の剣を横薙ぎに振るう。

俺は肩に突き刺さったまま抜けない短刀から手を放し、反射的に籠手で受けた。

「グッ……!」

腕が折れるかと思うような衝撃。

反射的に後ろに飛ぶことで多少は威力を逃すことができたが、ビリビリとしびれた左腕はしばらく力が入らなそうだ。

バインドの効果があるはずなのに、この剣速。

相手の状態が万全であったなら――そして、神獣からの贈り物である闇夜の籠手がなければ、確実に斬られていた。

俺は心の中で、素晴らしい贈り物をくれた神獣リリムーフへ感謝した。

リザードマンは闇雲に剣を振るっている。

どうやら、闇の中では見えないようだ。それが知れただけでも良かった。

このまま逃げてもいいが、短刀が奴の左肩に刺さったままだ。あれは回収したい。

(使うか)

シャドウストレージから、混沌の精霊石を取り出す。

マンティスの石。

リザードマンよりは弱いだろうが、即席の仲間としては十分だろう。

俺は石を握りしめ、その術を唱えた。

「――クリエイト・アンデッド」