軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

185 身代わりの指輪、そして第2陣転移

タイマーが0になったが、世界地図にはまだ変化はない。

一気に300名が転移してくると思っていたのだが。

「増えないな? 第2陣は青点が付かないとか?」

「いや、ポイントの割り振りの時間があるんだろう。地球で配信されていると考えると、こちらとあちらはリアルタイムで繋がっているはずだ」

なるほど、俺が制限時間切れでゆっくり選べなかったのも、そのあたりに理由があったのだろう。とすると、ポイントの割り振りをさっさと済ませた人から転移してくるというわけだ。もしかすると、一番乗りの転移者には神からの特典なんかもあったのかもしれない。

『ピンポンパーン! 異世界転移者のみなさんにお知らせです! これより第2弾転移者を300名、そちらの世界に転移いたします! もし近くに転移する人がいたら、先輩としていろいろ教えてあげて下さいね!』

地図を注視していると、脳内に例の脳天気な声が響き渡った。

前回も同じようなことを言っていたから、神としては転移者同士で仲良くしてほしいのだろう。地図上に所在位置が出るのも、そのためのはず。

俺とジャンヌからすると完全にありがた迷惑だが、所在位置が分かるということは、逆に避けることも可能である。

ただ、借りた家も迷宮も動かすことができないから困る。

『第2弾転移記念として、特別なアイテムをお一人様1回だけポイント交換できるようになりました! そのアイテムとは「身代わりの指輪」。なんと、致命傷を1度だけ肩代わりしてくれる指輪です! 必要ポイントは破格の1ポイントのみ! このアイテムは交換も譲渡もできませんので、ご注意下さい』

「いいな。銃で撃たれても一発なら死なないで済む。必要ポイントも安いし」

神の声を聞いて、ジャンヌが言う。

「交換するのか?」

「するに決まっている。必須級だよ」

確かに身代わりになってくれるということは、そのまま「命の身代わり」になるということか。命が2つになるなら、1ポイントでは安すぎるほどだろう。

『さらに、第2弾転移者転移まで無事に生き残ったで賞として、第1弾転移者全員に1ポイントを進呈致します! ぜひ、身代わりの指輪と交換してみて下さいね』

それきり音は止んだ。神からのメッセージはそれだけらしい。

ステータス画面を見ると、確かに1ポイント増えていた。

たった1ポイント、されど1ポイントである。

クリスタルを1ヶ月分溜めれば1ポイントになるとはいえ、クリスタル交換やなにやらでつい使ってしまい、実際に溜めるのはなかなか難しい。

これから長く暮らしていけば、徐々に溜めていけるのかもしれないが、それでも1ポイントは助かる。

「さっそく指輪と交換しよう」

「そうだな」

「えっ、指輪!? なんで指輪!? ちょ、ちょっと、どうなっているんですか? 私にもわかるように説明してくださいよ!」

ずっと黙っていたリフレイアだったが、確かに彼女にはステータスボードも神の声も聞こえないのだから、説明を求めるのは当然だろう。

「悪い。とりあえずまだ誰も転移してきていない。もう少しかかるみたいだ」

「それはいいですけど、その……指輪って?」

「レーヤ。それは後で説明するから待て。……交換っと」

リフレイアを手で制し、よどみない手つきでステータス画面を操作するジャンヌ。

「じゃあ、俺も交換しておくか」

闇夜の籠手を外して、ステータスボードから身代わりの指輪を選びタップする。

1ポイントが消費されると同時に、右手の薬指にシンプルな金色の指輪が出現した。

なるほど譲渡も交換も不可なだけある。最初から取り外すことができない状態で現れるということだったのか。

「じゃ~ん。おそろいの指輪~~~」

「お、おい」

ジャンヌが俺の腕をとり、自分のと見せびらかすようにリフレイアに見せる。

「あああああああああ! なんですか! なんですか、それ! ズルい! 抜け駆け! 私も欲しい!」

「残念だったな、レーヤ。この指輪は転移者専用なんだ」

「外せないみたいだし、良い効果じゃなかったら呪いの指輪だな……」

「私もヒカルに呪いの指輪買ってもらう!」

「おちつけ」

ギャンギャン騒ぐリフレイアをなんとか宥め、事情を説明して、なんとかわかってもらえた。

ジャンヌは面白がってこうやってリフレイアをよくからかうが、リフレイアはけっこう真に受けるタイプだからできればやめてほしい。

ちなみに、指輪は買う約束をさせられた。

「そろそろ、第2陣が転移してくるぞ。ドットが増えてきている」

ジャンヌの言葉で、もう一度地図に目を向ける。

確かにジワジワ増えてきている。今のところ、リングピル大陸には誰も転移してきていないが――

「あ、増えた。これ結構近いよな? ちょい北の……丸で囲われたとこ。……なんだっけここ?」

「ここは……奈落だ。ギルドの地図である程度は周辺の地理を調べたが、ここは1度落ちたら最後、決して抜け出せない死の荒野らしい。レーヤも知っているだろう?」

「ええ、怖いですよね。私も実際には見たことないですが、探索者の先輩が縁まで行ったことあるって言ってました。目が眩むくらい下まで距離があって、落ちたら絶対死んじゃうって。なんか、すごい大きいトカゲとか鳥とかがいて、並の探索者じゃ絶対生き残れないような場所らしいです。あと、どっかの国では死刑の代わりに、罪人を奈落に送ってるとかなんとかって聞いたことありますね」

「可哀想だがこの転移者は死んだな。ランダム転移でも選んだんだろう」

「そうか……」

当然、助けになんて行けるわけがない。

奈落というのがどういう地形なのか、話を聞いてもイマイチピンと来ないが、グランドキャニオンみたいなところなのだろうか。

俺もランダム転移で死にかけた。なんとか生き延びて欲しいが、聞いた限り俺の時より過酷な環境のようだ。……生き残るのは難しいだろう。

再ランダム転移でも選べば別かもしれないが、どうするのだろうか。

「む、他にも増えたな。南だ。私が転移した場所だな」

「港町だっけ?」

「そうだ。小さい街だし、こいつはメルティアまで来るかもしれないな」

ノートに新しい転移者のドットを書き足していくジャンヌ。

第1陣転移者は●で、第2陣は☆で書き込み、区別していく。

「そういえば、このドットの人ってこんなとこにいたっけ?」

俺たちより北西にある青点。第2陣転移が始まる前から少し気になってはいた。

アレックスともう少しですれ違うと思うが、位置関係的にメルティアを目指しているのかもしれず、そうだとすればあと数日で到着するだろう。

「そいつは第一陣転移者だが、誰でもいいだろう。第1陣なら第2陣よりは少しは安全だろうし、わざわざ私たちに会いに来るわけでもないはず。迷宮目当てだろうな」

「ならいいけど」

そうこうしている間にも第2陣の青点は増えていった。

南にもう7つ点が増え、さらにメルティアにも点が6つも現れた。

王都ストラノアなどは、23個も点が増えたくらいだ。あきらかに街に転移している転移者が多い。

もちろん、奈落に転移してしまった彼あるいは彼女のように、街などなさそうな場所に一人で転移した人もそれなりにいる。

だが、ほとんどが安全な場所に転移したようだ。おそらく、これは第1陣転移者が短い期間で何百人も死んだことによるものだろう。俺だって生き残れたのはほとんど偶然、運が良かっただけみたいなもの。

第1陣が300人死んだのは本当のことなのだから。

「想像以上にリングピルに転移してきたな。あとは何人がここまで来て、総勢何人がメルティアに住むことになるかだが……この分だと20人程度にはなりそうだ」

ジャンヌが難しい顔をして言う。

300人中20人が一つの街に集結する。転移が世界全体であると考えると確かに多いか。

「やっぱ転移場所を選べたのかな」

「おそらく、街の名前で選ぶことはできなかったんだと思う。それができるならグラン・アリスマリスにもっと人が集中しなければおかしい。前回と同じように、ランダムな街の前に転移というだけだろう」

確かに街を選べるなら、ほとんどの人は大きな街を選ぶだろう。

つまり、この転移者の分布からして、選べなかったと考えるのが自然だ。

「ところで、グラン・アリスマリスってなんだ?」

「む? 知らないのか? 世界最大の迷宮都市を」

「ええええ、ヒカル知らないんですか!?」

「懐かしいなこのやりとり。リフレイアは俺が世間知らずだって知ってるだろ」

どうやら、探索者なら知っていて当然の知識だったらしい。

世界最大の迷宮都市ということは、メルティアよりも大きいのだろう。

なるほど、それなら行きたがる転移者は多いのかもしれない。

「火・水・土・風・光の大精霊様が集まってできた、世界最大最古の迷宮がある都市ですよ。闇都ミリエスタスよりさらに遠くですから、当然行ったことはありませんが、探索者なら憧れの場所ですよね。そうだ、いつか行きましょうよ!」

「いつかな。あんま長い距離旅するのってあんまり想像できないけど」

「転移者どもがあんまり鬱陶しかったら、考えてもいいかもしれないな。クロのシャドウストレージもあるし、それほど危険な旅にはならないかもしれない」

「どれくらい離れてるんだ? 地図でいうと」

ジャンヌが、ノートのほうの地図の一カ所を指さす。

この異世界は地球とは違うだろうが――、赤道を越えて南半球だ。ロシェシル大陸のだいたい中央。最低2回は船に乗って、歩きなら数ヶ月はかかりそうな距離だ。

「これ移動するの無理だろ」

「無理なんて簡単に言うな。やってやれないことはないさ。ポイントで車を買えるようになるかもしれないし」

「車があってもガソリンがな……」

道も整備されていないし、まだマウンテンバイクのほうが現実的だろう。

まあ、そんなものはポイントでも交換できないから、言っても仕方がないことだが。

ちなみに馬はかなり燃費が悪いので、旅に向いているようで向いていない。俺たちは位階が上がって体力があるし、自分の脚で移動するのが結局無難だ。

しばらく青点が出続けるのを待ち、300を数えたところで改めて数を数えた。

「メルティアだけで6人か。近くの街に転移した人も、ここに来る可能性が高いだろうな……」

「迷宮は我々異邦人が手っ取り早く稼ぐのに適しているからな。ギルド員になれば、最低限の身分にはなるというのもある。まあ、私もクロも、転移者と関わり合いになりたくないと、ちゃんと話してあったし、分別のある者なら無理に接触はしてこない……だろう。たぶん……」

だんだん声が小さくなるジャンヌ。

彼女は魔物相手には強気だが、人間はあまり得意ではないのだ。

とはいえ、現状できることはない。

すでにメルティアに6人転移者がいる。その事実だけだ。

「まだ初日だし、今日は夜まで迷宮にいて、暗くなってから家に戻るとするか。状況によっては、高性能周辺地図を取得する必要もあるかもしれない。あまり取りたいとは思わないが」

「周辺地図って、どういうのなんだ?」

「取った場所の半径……何キロだったかな、それなりの範囲の詳細な地図が出るらしい。私もメッセージで聞いたことだから、そんな程度の知識だが」

「キロ単位なら悪くなさそうだけど、ポイントが高いんだっけ」

「5ポイントだ。多分だが、その分かなり詳細な地図なのだろう。メッセージによると、この高性能周辺地図をとった人はほとんどいないらしいけどな」

転移したときに5ポイントと聞いても、そこまで高額だと思わなかったが、今となっては5ポイントはかなり高く感じる。

ただ、初見の迷宮で使えると考えるとこれでも破格かもしれない。

俺たちがもしメルティアの未踏の階層にまで至ることができたなら、使うことも視野にいれることになるのだろう。

「高性能周辺地図を取れば、おそらくメルティア全域をカバーできるはず。どこに転移者がいるか常に把握して行動することができれば、出会わないようにできたり、家の前で待ち伏せされたりするのを防げるわけだ。私たちは面が割れているし、長い目で見れば早めに取っておくのも悪くない選択肢ではある」

「なるほど……。でも、5ポイントはなぁ」

第2陣転移者に気をつけるべきだとは俺も思うが、どこまでリソースを割くかは難しい。

究極的なことを言えば、絶対に出会うことがないように、転移者のいない場所へ移動し続けるしかないわけだが、犯罪者でもないのにそんな生活ができるわけがない。

これが……もし俺一人だったら、その選択肢をとった可能性もある。

だが、迷宮踏破を目標に掲げているジャンヌをそれに巻き込むわけにはいかないし、まして、一緒に迷宮を踏破する約束を反故にして一人で逃げるわけにもいかないのだ。

「あとは出たとこ勝負だ。大癒のスクロールもあるし、結界石も、身代わりの指輪もある。そうそう新人に後れを取ることもないだろう。重機関銃を掃射されたらどうにもならないだろうが、さすがにそんなバカは来ないと信じよう」

「怖いこと言うなよ」

「クロ。世の中には、私たちとは違う人間がいるんだよ。日本で暮らしていたお前には理解しにくいだろうけど」

ジャンヌはそう言うが、メルティアに来た6人の中に危険人物が混ざっている可能性は、かなり低いだろう。もっと言えば、俺たちをわざわざ狙ってくるような人間が存在する可能性自体が、かなり低い。理屈でいえばそのはずだ。

だが、わずかでも可能性があるなら、対策を考えておくべきなのも確かだった。

結局、その日は3層で軽く狩りをしながら時間を潰して、夜中にこっそりと屋敷へと戻った。

幸い、屋敷で張っている転移者はいなかった。

心配のしすぎなのだろう。そう思いたい。