軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

48.

十一区にある娼館『ベル・アムール』からランチェスター公爵家に戻ったエイヴリルを待っていたのは、寝不足の顔をした公爵家の使用人たちだった。

特に、行方不明になった日、茶会に同席こそしていなかったものの、王宮には同行していたグレイスはひどく憔悴して反省し、目も当てられない様子だった。

「エイヴリル様、ご無事でお帰りになって本当に良かったです。この度は、このような事態になってしまい大変申し訳なく……」

目を真っ赤にして詫びてくるグレイスに、エイヴリルも低頭平身、全力で謝罪する。

「グレイス、私こそ申し訳ありませんでした! 勝手にいなくなってご迷惑とご心配をおかけし、申し開きもございません……!」

「いえ、エイヴリル様の行動力を甘く見た私の落ち度です」

「ご、ごめんなさい……!」

謝られているのか貶されているのかわからなくなってしまった。ディランが双方を宥めるような視線を送ってくる。

「この件、エイヴリルは全然悪くない。警備が厳重な王宮での茶会に参加していて、貴族令嬢らしき子どもたちに誘われたら、普通は疑いなく付いていく。当然のことだ」

「そうかもしれないのですが……」

久しぶりに家で会った夫が優しすぎる。けれどエイヴリルとしては、今回の事態は公爵夫人としての自覚が足りなかったことも理由だと思っている。

ディランのフォローをそのまま受け入れるわけにもいかず、目を泳がせた。

(ローレンス陛下は国王になったばかりで、しかもディラン様は最も彼から信頼され目をかけられているお方。弱みを握るために、他の方からこのような目に遭わされる危険もあったのです)

しかし、ディランは引き下がらない。

「その謝罪を認めたら、サミュエルのような子どもまで疑わないといけなくなるだろう? 俺はエイヴリルに落ち度があったとは思わない」

「ディ、ディラン様……? ここは私が本当に悪い、ということで一つ」

妻をずっと捜索し奔走していたせいですっかり疲弊してしまっている夫は、それでも、自分をぼろぼろにしたエイヴリルをとことん甘やかしたいようだった。

申し訳ないとは思いつつ、愛おしむような眼差しと甘い空気感にどきりとする。その瞬間。

「あーはいはい。そこで終わりでいいかしらぁ?」

甲高く響いたコリンナの声で、急に現実へと引き戻される。

(そういえば、コリンナがいましたね)

本来、コリンナはリンドバーグ伯爵家に連行されるはずだった。しかし、王宮にいるアレクサンドラからの指示がまだ決まらないため、彼女は一旦ランチェスター公爵家へとやってきていた。

束の間の自由を得たはずのコリンナだが、自分が置かれている立場をあまりわかっていないようで、公爵家のソファに座って勝手にくつろいでいる。そうして、好き勝手に暴言を吐き続けた。

「私、人がいちゃつくのって腹が立つのよねえ。相手がいい男であればあるほど嫌よ」

(コ、コリンナ……!)

義妹のあまりにもな振る舞いで、当面の問題を思い出したエイヴリルはコリンナに問いかける。

「コリンナはこの後どうするのかしら? アレクサンドラ様のご意思が優先になるけれど、まだベル・アムールで働きたいのなら、きっと交渉の余地があると思うわ」

「は? 正気?」

バッサリと投げかけられた言葉に、エイヴリルは目を瞬いた。

(えっ? てっきり、コリンナは、娼館でお金持ちの男性を探す毎日を楽しんでいるのだと思っていたのだけれど⁉︎)

あれだけ派手に振る舞っていたのに違ったというのか。エイヴリルはあわあわと問いかけた。

「もしかして、リンドバーグ伯爵家に戻りたいの?」

「ふん。そんなの嫌よ」

コリンナは目を合わせず端的に答える。普段から何を考えているのがわからない義妹だが、今日こそはいよいよわからない。

けれど、あれだけ精力的にパトロンを探していたコリンナが今後について濁していることを考えると、何か大きな心境の変化があったのだろう。

心あたりがあるとすれば、あの貴族サロンの夜だ。実はあの夜以来、コリンナはベル・アムールで特定の客を取ることはせず、サロンで会話を楽しんで過ごしていた。

お金を持っていそうな男性やエイヴリルが知っている貴族に声をかけられてもついていくことはなく、適当にあしらってお手本のような大人の恋愛を楽しむばかりだったのだ。

(つまり、貴族サロンの夜、コリンナはコンスタン・シュクレール様以外の方と親しくなったのでしょうか……?)

そんなことを考えていると、コリンナはフンと偉そうに笑う。

「私の部屋はどこかしら? 公爵夫人の部屋を開け渡してくれてもいいけれどぉ?」

「あなたには使用人用の屋根裏部屋をご用意しましたよ。どうぞ」

「ひぃっ⁉︎」

突然背後から現れたクリスに、コリンナは飛び上がって怯えている。先日、布団でぐるぐる巻きにされ、朝まで放置された記憶が新しいのだろう。

けれどクリスは顔色を変えることなくコリンナの首根っこを掴み、使用人部屋へと連行して行ったのだった。

あの二人はなかなかいい関係になりそうだ。

そんなことを思いつつ、エイヴリルのコリンナへの疑問は解けずじまいだった。