軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

47.

思い至ると同時に、サロンの方が一気に騒がしくなった。言葉までははっきり聞き取れないが、大勢の男性の言い争う声や怒号が聞こえる気がする。

「チッ。本当に来たのかい」

ロラの言葉で、これはさっきコンスタンが言っていた国家会計局の捜査が入っているのだと察する。反射的に部屋を出ようとした瞬間、左手首に鈍い痛みが走り、こめかみのところでカチャリと聞きなれない音がした。

「騒ぐんじゃないよ」

「ロラさん……⁉︎」

気がつくと、右側頭部に何か硬質なものが押し当てられていた。部屋に置かれている鏡に映る自分を見ると、小さな銃を当てられている。

狩猟用に使われるライフルとは完全に別の、人を撃つためのものだ。左手首の鈍い痛みは、ロラがエイヴリルの手をきつく掴んでいるせいだった。

「あの、落ち着いてください」

「この店はもう終わりだよ。先代から受け継いで以来、この街で一番の高級娼館であることを誇りにやってきた。でも何もかも終わった。未来なんてない」

非道な行いとは反対に、ロラの声は震えている。エイヴリルは問いかけた。

「捜査に入られたら何か問題でも?」

「大ありだよ」

「でもそれは他の娼館でも同じことではないでしょうか?」

「うちとは金額の規模が違う。それに、シュクレール商会に契約を打ち切られちまった。高級な酒や食材が手に入らなくなるどころか、うちと取引をしてくれる商会は皆無になるだろうよ」

「ですが……」

確かに、今後は娼館で働く女性から給金を巻き上げることはできなくなるだろう。しかし、ベル・アムールと取引をしてくれる商会が皆無になるという見通しは、あまりにも悲観的すぎやしないだろうか。

躊躇なく反論するエイヴリルに、ロラはしびれを切らした様子だった。

「わかんない子だね。というか、この状況でお前はどうしていつも通り話ができるんだい⁉︎」

その理由はただ一つ。

(だって、弾が入っていませんから……!)

エイヴリルは銃に詳しくないし、これまでの人生で読んだ本に銃のカタログはない。多少不運な人生を送ってきたものの、真っ当な道を歩いてきたからだ。

そして今、鏡越しに見えるリボルバー式の銃のシリンダーには、弾が装填されていなかった。

(闇貿易商のテオドールさんが仰っていました。このタイプの銃は正面から残りの弾数がわかってしまうと……!)

しかしそれを口にして、ロラがナイフを持ち出したら面倒なことになってしまう。彼女を刺激しないようにこの場を切り抜けるにはどうしたらいいでしょうか、と考えていると、部屋の扉が勢いよく開いた。

「……エイヴリル⁉︎」

「ディラン様⁉︎」

部屋に入ってきたのは、国家会計局の人間を引き連れたディランである。

エイヴリルがこの部屋にいるとは思いもしなかっただろうが、妻の状況を一目で察したディランは躊躇なくロラに体当たりをした。ロラの呻き声が響く。

「くっ……! 何するんだい! あんたの妻がどうなってもいいっていうのかね⁉︎」

「その銃には弾が入っていないだろう? 弾薬は高額だ。恐らく、弾薬代を節約してリボルバー本体だけを脅しに使っていたというところか」

「なぜそれを……⁉︎」

ロラの普段の守銭奴ぶりを考えれば、ディランの推測は間違いなく当たっているだろう。床に転がったロラを、クリスと国家会計局の人間が縄で縛る。

それを冷たい瞳で見届けたディランは、一転して優しげな視線をエイヴリルに向けるのだった。

「迎えに来た」

「来てくださってありがとうございます」

ほっとして微笑むと、急な捜査で困惑している従業員や女性たちが店主の部屋を覗いていることに気がついた。

この事態はどういうことなのか、ロラに聞きに来たのだろう。部屋になぜかエイヴリルがいて、しかも客ではない男性と親しげにしていることに気がついた一人が、ものすごく怪訝そうに聞いてくる。

「あんた、その人、誰?」

「そういえば、噂で結婚してるって聞いたけど」

「あれ⁉︎ その人のこと見たわよ⁉︎ なぜかあんたのことを指名してたお客さんじゃない?」

「え? どういうこと?」

エイヴリルの正体を知っているのは、ここではロラとルイーズ、そしてコリンナだけだ。予想外の事態に当然みんながざわざわと騒ぎ出す。

「皆様」

エイヴリルの呼びかけに、女性たち全員の視線がこちらを向いた。

「ベル・アムールはしばらくお休みになります。その間、ここで休養される方はそれでいいですし、新しいお仕事をお探しの方は、ランチェスター公爵夫人である私が力になります」

「ランチェスター……公爵夫人?」

呆気に取られたフレイヤの声がベル・アムールに響く。ざわざわとした空気が収まらない中、エイヴリルはディランへと向き直るのだった。

「ディラン様。従業員用の寮で休んでいるルイーズさんのことを、公爵家までお連れしてもいいでしょうか?」

「ああ、もちろん」