軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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ここで、フェルナンを手の内に入れていることで、キトリーを庇う彼が捜索の妨害をするかもしれないと思い至ってくれれば、エイヴリルとしては上出来だった。

狙い通り、夫は賢明だった。けれど一瞬、こちらに視線を送ったのは気のせいだっただろうか。

「……わかった」

短く応じた彼はすぐに席につく。

(よかったです!)

しかし当然、喜び安堵したのはエイヴリルだけではない。コリンナが勝ち誇ったように腕組みをし、横柄に顎をしゃくるのだった。

「本当ですか、公爵様! ……ふふん、そこの下品な女二人、見てなさいな。今から簡単に罰金を払ってやるから!」

「はぁ? 下品な女ってあんたもでしょう⁉︎」

「罰金を払わされる側なのに偉そうなのはどうしてなの?」

一方、コリンナの喧嘩相手は二人とも困惑している。相手をこちらのペースに巻き込んでしまうコリンナにある種の感動を覚えつつ、エイヴリルは勝算を立てた。

(ディラン様ならば、きっと難なく勝つことでしょう。普段から、ローレンス陛下やクリスさんたちとカードゲームに興じていることは知っています)

エイヴリルはポーカーをしたことがないが、部屋から出てきたディランがローレンスに「お前がわざと負ける時、負け方が絶妙で上手すぎるな。そういうのが一番腹が立つ」と偉そうに叱られているのは見たことがある。つまり、それほどの腕ということだろう。

それを見越しつつ、コリンナからディランに『エイヴリルはベル・アムールにいる』という確定した情報を伝えてほしくてこの提案をしたのだが、ここで予想外なことが起きた。

「これをチーム戦にしたい」

急なディランからの提案に、サロンの中がざわりとする。けれど、彼は動じることなく自分のチームを指定した。

「三対三にしよう。こちらは私の連れと――そこの彼女」

「!」

ディランの手が指す先は、エイヴリルに向いていた。

(ど、どういうことでしょうか)

指名されてしまったエイヴリルは分厚いメガネの向こうで目を瞬く。

(ディラン様は私だと気づいている……? ありがたいことではありますが、それはそれでまずいです。なぜなら、ここで私と親しげにする様子をロラさんに見られてしまったら……)

ちらりと扉前を見る。そこではロラが支配人らしき男と談笑していた。

ロラは、コリンナが起こした騒ぎが落ち着いたため、こちらには興味を失ったようだ。けれど、一応は見張られている状態だ。

ここでディランに自分がエイヴリルですと告げるのはリスクがありすぎる。現状、ディランから距離を取るのに越したことはないのだ。

しかし、提案しておいていざ自分が渦中に巻き込まれ、無視するのはどう考えても不自然なのもわかる。できるだけこの場を穏便に収めないといけない。

そう考えたエイヴリルはおずおずと前に出て、ディランの隣に座ることになってしまった。そして、今さらながら気がついた。

(そういえば私……ポーカーのルールを知りませんね……⁉︎)

驚愕の事態に冷や汗が落ちる。

ポーカー台には、左からエイヴリル、ディラン、クリスの三人がついている。自分の図太さにはそれなりに自覚があるが、この状況ではさすがになんだか安心する……とは言えなかった。

一方、コリンナが揉めた女性たちも、懇意にしているらしい男性を三人出してきた。髭の金髪が一人、髭のない金髪が一人。黒髪が一人。

(お目にかかったことがない方々です)

おそらく貴族ではなく、誰かの招待で参加した裕福な商人や貴族の傍系なのだろう。ロラがこちらを見ていないのを確認しつつ、エイヴリルはディランに向けてこっそりと白状した。

「あの、紳士様。私、ポーカーのルールを知らないのですが」

「……」

隣のディランがじっとこちらを見ている。今、自分の声は意外と大きく響いた。ロラに会話を気づかれてしまったのではと不安が募る。

もし自分だとわかっていたとしても、ここでディランに極端な行動には出てほしくない。それを告げるのも躊躇われて、エイヴリルはウィッグで顔を隠しつつ俯く。

視界の端では、ロラが支配人の男性と大口を開けて笑っている。今夜の売り上げを計算した後なのか、あまりにも上機嫌だった。今ならディランと会話しても大丈夫だろうと判断したエイヴリルは問いかける。

「あの……」

「カードの強さはわかるか?」

端的な、けれど優しい声音だった。エイヴリルは頷く。

「はい、それはわかります。それから、いくつかの役も」

「それなら十分だ。手札は二枚。弱いカードならすぐに降りていい」

小声で告げられるディランの声音は穏やかで、心地よく響く。ドキドキしていた心臓がやっと落ち着いてくる。

そして。

(ディラン様は、間違いなく私がエイヴリルだとわかっていらっしゃいますね……!)

それでいて指摘しないとなると、彼もこちらの状況を理解しているのだろう。

そう思えば心の負担が減る。事態が予想外の方向に飛ぶことなく、手の上でコントロールできる状態にあるのなら、この状況を何とか乗り切れそうだ。

(勝って、ベル・アムールの名前をコリンナから伝えてもらいたいと思いましたが、その必要はなさそうです)

察しが良すぎる夫に感謝していると、隣でディランが何かを思い出したようにふっと笑う。何だろうと思えば、彼は前を見たままエイヴリルに囁くのだった。

「ここでは、考えたことをそのまま口にしては駄目だよ」

「は、はい……!」

甘い声だと思ってしまったのは、自分の気のせいだろうか。こんな状況なのを一瞬忘れそうだ。ざわざわとした周囲に囲まれ、他人のふりをして顔を寄せ合って話していると、まるで秘密の会話のよう。

そんなことを考えている場合ではないとわかっているのに、つい鼓動が速くなった。ディーラーがカードをシャッフルしているのを前に見ながら、もう一度、気配だけで右隣の様子をそっと窺う。

「上手だ。ここでは何気ない視線でさえも戦略の一つだ」

(こ、これは内緒話です……!)