軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22.

「それは本当か? 嘘だったら承知しない」

「本当ですわ? どの店にいるのかは、私を助けてくださった後で教えてもいいですけどぉ?」

囁きの内容は聞こえなかったのだが、おそらくこの反応から察するに『エイヴリルが十一区の娼館で働いているのを見た』とでも言ったのだろう。

ディランの動揺を見たコリンナは余裕そうに腕組みをする。

「あの子が心配すぎて、公爵様が私を助ける前にいなくなってしまったら困るから先に明かすけれど、彼女は役立たず。持ち場はベッドルームではなく厨房と洗濯室、常にモップとシーツとお皿を運んでいますわ?」

「……」

ディランとコリンナが睨み合っているところに、さっきまでコリンナの髪を掴んでいた女たちが割って入る。

「こっちを無視するんじゃないわよ! で、その男が罰金を払ってくれるっていうの? この女、邪魔をしたのは一度じゃないわよ」

「三回邪魔されたから、三倍はもらわなきゃ」

口々に言う女たちに、コリンナはニヤリと笑ってみせた。

「いいわよ。こちらの公爵様がいくらでも」

「払わないが?」

「えっ」

最強の味方を手にしたと思い込んでいたコリンナは、まさかの拒絶にぽかんと顔をあげてディランを見つめている。

けれど、ディランはもうコリンナに用はないと判断したようで、席を立った。

「無料で有益な情報をありがとう。結婚式を乗っ取ろうとした償いを果たせてよかったな」

「えっ⁉︎ ちょちょっと、公爵様⁉︎」

「これで失礼する」

ディランは立ち去るためにぎゅうぎゅうの部屋の中を歩こうとする。それに追随する者が二人いるのが見えた。

(クリスさんと……あれはフェルナン・ブランドナー様?)

夫はここに自分を探しにきてくれたのだと想像はついていたものの、予想外の同行者に警戒心が強まる。

なぜなら、エイヴリルがこんなことになっている原因は、フェルナンの婚約者であるキトリーに何か逆恨みされてしまったからだ。

もし彼が一緒にエイヴリルの捜索をしてくれているのならば、疑うのは申し訳ないが、フェルナンがどちらの味方なのか気になるところだった。

婚約者を庇うため、ディランに虚偽の捜査結果を伝える可能性があるからである。

(これからディラン様が十一区の娼館を調査してくださるとしても、フェルナン様の妨害が入る可能性もあります。いい人だと思っていますが、貴族社会ではお家のご事情が関わると全く別の話になりますから!)

しかしこのチャンスを逃すわけにはいかない。決意を固めたエイヴリルは思い切って挙手した。

「あのっ! こういうのはいかがでしょうか」

ざわざわとしているサロンに、エイヴリルのこの場に不釣り合いなしっかりした声が響き、しんとした。

ディランを含めた全員の視線がこちらへと向く。皆の怪訝そうな眼差しが、ウィッグを被り地味な色のドレスを着て、メガネを身につけたエイヴリルの元へと注がれる。

(ロラさんはルイーズさんを私への人質にしています。だから、ここで名乗ることなくディラン様に私だと気づいていただき、コリンナと同じベル・アムールにいることをわかっていただいたうえで、後日正攻法でお迎えにきていただく必要があります)

自分にできるのだろうか。しかし、やるしかないのだ。目標を定めたエイヴリルはニコリと微笑む。

「罰金は彼女が自分で払うのが当然と存じます。……ですがあなた様は、その元手を増やすお手伝いをして差し上げてはいかがでしょうか?」

「は?」

こちらに向けられているディランの低い声からは、たった数メートル先にいる自分をエイヴリルだと認識していないのが伝わってくる。

本当は、今すぐにメガネとウィッグを取ってしまいたい。何も言わなくても、ディランならそれだけでわかってくれるとは思う。けれど。

(もどかしいですが、ルイーズさんを見捨てるわけにはいきません)

出がけに、エイヴリルが代筆した手紙を眺めてうれしそうにしていたルイーズの姿が思い浮かぶ。

今日、自分が帰らなかったとしても、ルイーズが怒ることはないだろう。けれど、今後彼女がどんな目に遭うのかは想像もつかなかった。

(私には知らないことが多すぎます……)

となると、今ここで彼女を見捨てるわけにはいかないのだ。エイヴリルの心中を知ることもなく、二人の会話を聞いていたコリンナがふんふんと頷いた。

「あ、わかったわ! カードゲームで私の賭け金を増やしてくれたら、あの子の情報をあげる。悪い話じゃないでしょう?」

「いいや、私は――」

ディランが頑なに断ろうとするのを察したエイヴリルは、いつの間にか自分の周りにできていた隙間を利用して夫の元へと近づく。

視界の端。扉前にロラがいるのが見える。

おそらく、喧嘩騒ぎを聞きつけて様子を見にきたのだろう。たとえディランがエイヴリルに気づいたとしても、それを悟られてはいけない。

ウィッグもメガネもそのままで、エイヴリルはディランをまっすぐに見据えた。

「後日調べ直すよりも、今ここで聞ける彼女の言葉が一番信頼できるのでは?」

一瞬、ディランの瞳に訝しがるような気配が映る。

それは、この妙な格好の女がエイヴリルではと疑っているというよりは、言葉の意味を考えているように思えた。