軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11.

ベル・アムールの一日の営業が終わった。

ギャンブラーと仲良く一部が炭化したステーキを食べ、闇貿易商と高価なシャンパンやワインを飲み比べたことはすでにもう遠い彼方。

エイヴリルの頭はただぼんやりとしていた。

(ルイーズさんは、娼館への借金が膨らんでいてここを永遠に離れられない。離れたところで収入を得る手段がなく、生きていけないということでした。この場合、どこから連鎖を止めるべきでしょうか)

決して何も思いつかないわけではない。けれど、このベル・アムールはかなりの歴史がある。

それだけの年月、経営者の交代を挟みつつ女性たちを酷使してきた経緯を思えば、ちょっとやそっとで変えられるものではないのだろう。

(難しいですね……)

朝焼けの空を見上げ、帰っていく客をうわの空で見送ったエイヴリルに、眠そうなコリンナが話しかけてくる。

「見て? これ、もらっちゃった」

コリンナの手には、何やら豪華すぎるブレスレットが握られていた。質のいい金と高価な宝石でできているのが一目でわかる、高級品である。

そうだ、ルイーズの身の上のことばかり考えていてすっかり忘れていたが、義妹はこういう人だった。隣国にも名を轟かせた悪女を思い出したエイヴリルは、遠い目をして問いかける。

「そちらはどなたから強奪、いえ戴いたのでしょうか……?」

「さあ? 私、名前を覚えるのが苦手で、全員のことまとめてダーリンって呼ぶことにしてるし」

「⁉︎ それなら間違いようがないですものね。コリンナは変なところで頭が回りますね……」

ディランの父といい、コリンナといい、遊びが上手い人たちはどうしてこんなにその分野にのみ悪知恵が働くのだろうか。呆れつつもうっかり感心していると、横からフレイヤが割り込んできた。

「贈り物をいただくのもすごいけれど、見て、これ」

そうして、営業終了まで裏に隠してあった黒板を皆に掲示する。そこにはコリンナをトップとする表があった。

「これがこの三日間の売上表よ。コリンナさんの成績が群を抜いているわね? ここへ来てまだ三日なのに、すごいわ」

「私が本気になればこれぐらい当然でしょう?」

ふふん、とピンクブロンドを靡かせるコリンナに、フレイヤはニコニコと教えてやる。

「それだけじゃないのよ。これを見て」

フレイヤは黒板の一番下を指差した。それは数字だけを見ると、今日限定で出勤している、注目株の人物に見える。この三日間で今日しか働いていないのに、今日の売り上げはコリンナに続いて二位。

そんな人が一体どこに、と首を傾げかけたエイヴリルだったが、視線を左に逸らして奇声を漏らすことになった。そこには、見慣れた名前があるのだった。

――『エイヴリル』

「わ、私ですか⁉︎」

慌ててフレイヤに問いかけると、彼女はひどくおかしそうに笑う。

「そうなの! 今日の売り上げ、二位ですって!」

「な、なぜ……」

「ステーキ三枚と希少なウィスキーのボトル。それにシャトー・オルフェウスのヴィンテージ、同じもののロゼ。それに、この店でめったに出ない最も高価なワインがお高い順に五本。もちろん全部ボトルで入っているわ」

「ああっ⁉︎」

すっかり忘れていたのだが、そういえば、と今日の出来事を思い出して大声を上げたエイヴリルに、フレイヤはさらに続ける。

「ちなみに、第一サロンから第三サロンまで全部含めて、この店でサロンのみでの歴代最高売上だそうよ。新記録の樹立!」

「ええっ⁉︎」

その瞬間、皆からわぁっ、と拍手が湧き起こる。

なぜこんなことになってしまったのか。意味がわからないエイヴリルだったが、その中に一人だけこちらを睨んでいる者がいた。

いうまでもなくコリンナである。

(私はただお財布の中を空にして早々と帰っていただこうとしただけで……! 褒められていい人間ではありません。ですが、まさか私にコリンナを見て安心する日が来るなんて)

義妹だけはわかってくれる、という不思議な想いに包まれた。けれど、その期待はすぐに裏切られる。

「ふーん。あんた、無能だと思っていたけど結構やるじゃない」

「そんな⁉︎」

コリンナに褒められたのは生まれて初めてかもしれない。大きな衝撃を受けていると、フレイヤが両手をすり合わせ、うれしそうに続けるのだった。

「明後日、貴族サロンに数人を派遣するんですって。この調子なら、コリンナさんのほかにエイヴリルさんもメンバーに選ばれるのではないかしら?」

「なにそれ」

「貴族や富裕層の方が集まるサロンよ。少数精鋭が派遣されるの」

「なにそれ。意味わかんないんだけど」

「あらあらまあまあ」

きょとんとした顔で同じことをしつこく聞くコリンナと困り顔のフレイヤを前にしてやっと、エイヴリルに冷静さが戻ってくる。

(これは、ロラさんが言っていた貴族サロンの話ですね。そこでコリンナの話が広まれば、じっと待っているよりも早く、私がここにいることがディラン様に伝わるかもしれません)

そうすれば、エイヴリルはここから出られるし、ルイーズのことも医者に診せることができる。閃いたエイヴリルはコリンナに向けて意気揚々と説明する。

「そこへ行けば、お金持ちの方がたくさんいらっしゃって、ここの常連になってくださるかもしれません」

「はぁ? よくわかんないけど、つまりあんたお金持ちを横取りしようってこと?」

「いえ、そうではなくて……」

コリンナに話が通じないのは、別に今に始まった事ではない。

懇切丁寧に説明している間に、フレイヤも説明に加わってくれ、どうやら自分自身も貴族サロンのことをふわふわとしかわかっていないことを悟る。

説明を聞いても想像が広がっていかないということは、知らないことが多すぎるのだ。けれど、エイヴリルはしっかり決意を固める。

(ディラン様に知ってもらい、そしてルイーズさんを助けるため、頑張りましょう。わからないことだらけですが、フレイヤさんも一緒でしょうし、きっと何とかなる気がします!)