軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31.内緒話をします

次にエイヴリルの前に座った女性に、キャシーたちのことを視線で示しつつ小声で聞いてみる。

「……夜になると、いつもここはこんな感じなのですか?」

「そうね。私たちも寝ているし、見張り役の数人はうとうとしていることがあるわ。でも、この部屋には鍵がかかっているし、見張りの女たちは銃を持っているんだもの。警戒が緩くなったと思っても、怖くて動けないわ」

「なるほど」

加えて、ここに一週間以上閉じ込められている人もいるのだろう。エイヴリルはさっき来たばかりなので元気いっぱいだが、長期間拘束されては逃げ出そうという気力がなくなるのもわかる気がした。

ちなみに、諸事情によりピッキングにハマっていたことがあるエイヴリルは鍵を壊して脱出することができる。けれどそれでは全員が逃げることは不可能だし、何よりも相手が銃を持っているとなると話は別だ。

(違う方向で考えた方がよさそうです)

「あの、リーダーのおばあちゃんが座っていた椅子の後ろの扉の先は、機関室に繋がっていそうですね」

「おばあちゃんって……あんた、すごい呼び方をするのね? でも、船内のことはよくわからないけどこちらの扉から人が入ってくるのは見たことがないかも。バックヤードだということは確かだと思う」

女性の髪を梳かし終えたエイヴリルは、頭頂部の髪を編み込むと仕上げに彼女が持っていた髪飾りを後ろにつけてやった。派手ではないけれど、きちんと感がある上品なダウンスタイルの完成だ。

「できました」

「わぁ。悪女っていうから、人をこき使うことしかしないのかと思ったら……違うのね」

エイヴリルはただ微笑んで否定も肯定もしない。キャシーたちには悪女だと思っていてもらわないとある程度自由に動けないし、一方でこの女性たちを救出するときには悪女ではないと気づいていてもらえないとスムーズにことが運ばないのだから。

そうしてエイヴリルが皆の髪型を整えながら情報を聞き出しつつ深夜を回る頃には、隠し部屋内の空気は一変していた。

初め、犯人たちに一目置かれ親しげに話すエイヴリルは『とんでもない悪女』で、犯人たちの仲間なのでは? と警戒されていたが、今は『もしかしてこの悪女はいい人なのでは?』という戸惑いの空気に包まれている。

ひたすら皆の髪を結い続けたエイヴリルは少し眠くなっていたが、まだ寝てはいけなかった。明日には次の港についてしまう。もしディランが助けに来なかった場合、そのタイミングで一般客に紛れて脱出しないといけないのだ。

(異国についてしまったら、私たちは売られるしかありません)

ちょうど、クラリッサの隣でうとうとと眠っていたリンが目を覚ましたようだったので聞いてみる。

『リンさんはどうやって一等船室のデッキまで行ったのですか?』

『んー? あっち側の扉から抜け出したんだよ』

リンが指さしたのは、さっきまで老婆が座っていた椅子の後ろにある扉だった。

『あの向こうには一等船室のデッキに繋がる道があると?』

『うん、そんなかんじ。バックヤード? のエンジンルームとかがあるんだけどそこの非常階段を登ると、二等船室用のデッキに出られるのに気がついたんだ。そこからエイヴリルのとこまで行ったの。でも狭いから、子供じゃないと通れないと思う』

『なるほど。そもそも、ここの見張りの方々は銃を持たれていますよね。リンさんはどうやって見つからずに外へ?』

『うーん。私、言葉が通じないじゃん? だから、見張りも甘いみたいなんだよね。それに私はずっと路地裏で一人で生きてきたし、人の目を掻い潜るのはすごく得意なの。扉が開きっぱなしの時にするっと抜けるんだ。機関室のおじさんたちとも何度か話したよ。全然話が通じなかったけど。あはは』

そんな不用心なことがあるとは。ここの悪女たちは捕らえた女たちを完璧に支配できているという自信があるらしい。

(慢心しているのなら、大胆に動けますね)

リンの言葉で、エイヴリルの頭の中はすっきりとまとまった。これならば、もし夜明けまでにディランが助けに来なくても、港に着くと同時に脱出できるだろう。

『リンさん。ここから皆さんを救い出すために、協力していただけるとうれしいのですが』

『うん! もちろん。何したらいいの?』

『それはですね』

エイヴリルは用心深く、リンの耳元で内緒話を始めたのだった。