軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五話「ダンの帰還」

六月十八日。

ウェルバーンに行っていたダンが戻ってきた。

エレナことエレアノール・メイスフィールドとの結婚について、彼女の父メイスフィールド卿に許しをもらいにいき、無事許しを得た。

それどころか、もっと早く申し込まないかと言われたほどで、早く孫を見せろと言われたらしい。

そのメイスフィールド卿と奥方も一緒に村に来ており、七月一日のドワーフ・フェスティバルに合わせて結婚式を執り行うことになっている。

一番の仕事は結婚の申し込みだが、俺の依頼もしっかりとこなしている。

まずドクトゥスでラスペード先生とキトリーさんへ伝言を行い、二人から分厚い資料を預かってきた。

ラスペード先生の資料だが、ゴーレムの魔法陣に関する情報がまとめられていた。これはニコラスの義手をより良くするために頼んであったもので、僅か一ヶ月で百ページ以上の論文を書き上げ、更に参考になりそうな文献も三冊見つくろって送ってくれた。

ただ残念なことに先生の資料でも義手に使える魔法陣はなく、手がかりになりそうなことを示唆しているだけだった。

使えるものがなかった一番の理由はゴーレムが魔物に分類され、人もしくは動物を模したものしか精霊たちが上手く制御できないためだ。

先生の示唆は古代遺跡などにあった罠に関する魔法陣のことで、石像や人形の腕を動かす魔法陣が記されていた。

それに従っていくつか作ってみたが、金属の精霊にイメージを上手く伝えられず、まともに動くものはできなかった。

何となくヒントらしきものは見つかったので、いずれ先生に相談に行きたいと考えている。

キトリーさんの方だが、こちらは少し重い内容だった。

彼女には神々の関係、特に 創造神(クレアトール) 、三主神、八属性神、そして 虚無神(ヴァニタス) の関係について、教えてほしいと頼んであった。

更にダンの口から 闇の神(ノクティス) と 光の神(ルキドゥス) に関わる組織、具体的には魔族と光神教の動きが怪しいと伝えている。

魔族については言うまでもないが、光神教については明確な情報を持っているわけではない。ただ“ルキドゥスの御子”というキーワードから何らかの動きがあると予想している。

ダンの話ではキトリーさんも古代文明が崩壊したのはヴァニタスが関与していると考えており、その鍵となるのが南の島ジルソール島にある“始まりの神殿”、つまりクレアトール神殿であると結論付けていた。

キトリーさんからも五十ページ近い手紙がきており、神々の関係やヴァニタスという存在についての考察が書かれていた。

神々については大きく分けて三つに分類できるらしい。

世界を作った創造神クレアトール。

三主神と八属性神。

虚無神ヴァニタス。

この分類については、俺の考えと一致しており、目新しいものはない。

クレアトールについては世界を創造したものの、その後の神話にはほとんど登場しない。

世界創造後の主役は三主神と八属性神だ。この十一柱の神々がクレアトールの作った器に様々な特性を与え、今の世界を完成させた。

そして謎の多いヴァニタスについては、クレアトールと対になる神であるとしか書かれておらず、極端に情報がないそうだ。

それでもドクトゥスにあるプラエタリア図書館、通称“大図書館”で文献を探した際にいくつかの話を見つけてくれた。

例えば、クレアトールとヴァニタスが出会うと新たな世界が生まれるとか、クレアトールの前に世界を治めていた神であるとかという話で、神話体系にはない俗説に近いものばかりだが、今までほとんどの研究者が見向きもしなかった情報らしい。

そのため、具体的に何をする存在かは明確ではなく、名前から終焉を意味する神々ではないかというのが研究者たちの通説となっているそうだ。

そしてもう一つ重要なことがあった。それは光神教とヴァニタスの関係だ。

光神教はおよそ五百年前にソーレ半島で突然現れた宗教だ。

当時、ソーレ半島は帝国の西部域と呼ばれ、豊かな土地と温暖な気候によって開発が進んでいた。しかし、帝国の貴族たちによる搾取に遭い、農民たちは貧しい暮らしを余儀なくされた。

更に不幸なことに、帝都は遠く、農民たちの苦難は帝国政府に伝わることはなかった。

西部総督はその状況を憂い、何度か改革に着手したが、西部域に領地を持つ元老たちによってことごとく潰されていった。

そんな時、ルチオ・ブリッラーレという光の神殿の神官が光神教という組織を立ち上げた。

その思想は穏やかなもので、 光の神(ルキドゥス) は貧しい者を含め、すべてを照らし、来世の幸せを約束するというものだった。

ソーレ半島には光の神殿の総本山があり、元々ルキドゥスに対する信仰の篤い土地だった。そのこともあり、光神教は貧しい農民たちの間に瞬く間に広がっていった。

西部総督はその信仰を利用し、帝国からの独立を目論んだ。当初は圧倒的な戦力差に敗北の連続だったが、人口が多かったことと、帝国本国といえるウェール半島から遠かったことから致命的な状況に陥ることはなかった。

何度も危機を迎えながらも戦闘の経験を積み、徐々に支配地域を増やしていった。そして、二百年後に完全に独立を果たすことになる。

ルークス聖王国成立に多大な貢献をした光神教だが、その教義におかしなことがあるとキトリーさんは指摘してきた。

それは光の神殿ではヴァニタスの存在を認めていたものの、光神教になった途端、ヴァニタスの存在が消され、十二柱の神になっているのだ。

更に光の神であるルキドゥスと対になる闇の神のノクティスが邪神とされた。

この点に作為があるのではないかというのが、キトリーさんの推論だった。

そして重要なことはその教義が発表された前後に、教祖ブリッラーレがジルソール島を訪問したという記録があるらしいのだ。

始まりの神殿を訪ね、そこで何か示唆あるいは天啓が降りたとすれば、クレアトール神殿が鍵を握っている可能性は高い。

「帰りにキトリーさんと話したのですが、ザック様と直接話をしたいと何度もおっしゃっていました。それとすべての神々、これはヴァニタスも含めてですが、始まりの神殿に繋がる話が多いそうなんです。なので、できれば一緒にジルソール島に行ってほしいとも……」

ジルソール島は帝国の最南端チェスロックから更に百キロ南にある絶海の島だ。経路としては帝国南部の各都市から出ている不定期便を使うか、商業都市アウレラ経由で海路をいくかの二択となる。

帝国南部を通る場合、帝都近くを通らないといけないのでできれば使いたくないが、アウレラからの海路ではルークス聖王国の港に寄港する必要があり、光神教と揉めた身としては大きなリスクを伴う。

そのため、ジルソールに向かうことはあまり考えていないが、何となく行かなければいけない気がしている。

「僕が独自に手に入れた情報なんですが、光神教について面白い情報がありました」

「面白い情報?」

「はい。ザック様もご存知ですが、ルークス聖王国では聖王府と教団が対立しています。表面上は教団が優位にあるようですが、聖王府の役人たちが少しずつ巻き返しているようなんです」

「確か今の総大司教が権力を握った時に前聖王派を粛清していたな。その前聖王派が巻き返しを図っているのか?」

「ええ、偶然宿が一緒だったアウレラの商人から聞いた話なんですが、教団の強硬派と呼ばれる若い司教や司祭たちを聖王国から遠ざけるようにラクス王国に送り込んでいるらしいんです」

「ラクスは勢力拡大の重要拠点じゃないのか? そんなところに強硬派なんて送り込んだら教団の評判は最悪になるんじゃ……そういうことか!」

「はい。実際、ペリクリトルで聞いたのですが、ラクス王国の辺境の町の司教がノクティスの神殿を守ろうとした冒険者を暗殺しようとして捕まったらしいんです。その司教なんですが、帝国との戦いで活躍した武闘派だったんです」

「武闘派……そう言えば督戦隊がいたって話があったな。その一人なのかな」

「そこまでは分かりません。その司教なんですが、冒険者に逆襲されて大怪我を負い、それが元で死んだんです。ただ、酷い話があって、自分の部下である助祭も光の輪の魔法で胴体を輪切りにして惨殺したらしいんです。それで光神教は狂っているって話を何回も聞きました」

「部下まで惨殺……それにしてもその冒険者は凄いな。光の輪の魔法で胴体を輪切りにできるのなら、レベル六十は超えているはずだ。魔法に慣れていないと対応は難しいと思うんだが」

「ええ、僕も同じことを思って聞いてみたんですが、何でも騎士崩れの冒険者みたいなんですが、僕たちより若い十八歳だと聞きました。その歳で槍の名手で魔法も使えるとか。酒場での噂なのでどこまで正しいかは分かりませんが、世の中広いですね」

「そうだな」

「話を戻しますが、ラクス王国では国を挙げて光神教を排除しようと考えているらしいです。この情報が聖都に届くと教団の上層部は慌てるだろうと商人は笑いながら言っていました」

ダンの話をまとめると、光神教は国内から過激な思想の聖職者を排除し、遠方のラクス王国に送り込んだ。その者たちが問題を起こし、ラクス王国では排斥運動が始まろうとしている。その情報が聖都パクスルーメンに届けば、問題解決に動かざるを得ない。

(この機会にルキドゥスの御子が台頭するんだろうか? ありえない話じゃないな……)

俺が考えに没頭していると、「ルナさんのことなんですが……」とペリクリトルにいるルナの状況の報告を始める。

「“荒鷲の巣”のヨアンさんに聞いた話ですが、元気にしているそうです。まだ級は上がっていませんが、レベルは順調に上がっていて、若い冒険者たちの間では弓使いとしてちょっとした有名人みたいです」

「そうなのか?」

レベル二十五程度で有名になるという感覚が分からない。

俺がそう聞くと、ダンは笑いながら、

「ロックハート家の基準で考えてはいけませんよ。十七、八の若手のレベルは二十にも満たないのが普通なんですから」

確かにその通りだと苦笑いが浮かぶ。

「今年中にはヨアンさんの宿に移れそうです。そうなったらもう少し気に掛けられるとおっしゃっていました」

「ヨアンには手間を掛けさせてしまうな」

「そう思うならスコッチをもう少し回してくれっておっしゃっていました」

俺の性格を読まれていたらしい。

「了解した。鍛冶師ギルドに回す分が減ってきたからもう少し回しておこう。その方が定期的に情報が来るだろうから」

それですべての話が終わったと思ったら、「全然違う話なんですが、相談が……」と言ってきた。

その表情に憂いがあったので、「何があったんだ?」と聞くと、

「僕の結婚式のことなのですが、やっぱりドワーフ・フェスティバルの日じゃないといけないんでしょうか?」

「何か問題があるのか? ウルリッヒやデーゲンハルトが喜んでいたし、メイスフィールド卿も乗り気だったんじゃないのか。まあ、お前とガイが乗り気じゃないことは知っているが」

彼の結婚式がドワーフ・フェスティバルの日に決まったのはウェルバーン支部長デーゲンハルト・グラブシュから提案があったからだ。

俺たちの結婚式がドワーフ・フェスティバルに合わせていたので、「ダンのもそうしたらいいんじゃねぇか」といい、匠合長のウルリッヒも「それがよい」と賛成したことから決まった。

唯一、ダンと彼の父ガイがもう少し控え目にしたいと言ったが、エレナの父ヒースコート・メイスフィールド卿がドワーフたちと飲んだ際に酔った勢いで「素晴らしい!」と賛成したため、彼らも諦めたという経緯がある。

「そのメイスフィールド卿が奥方に叱られまして……」

彼の説明では酔った勢いで賛成したものの、部屋に戻ってから彼の妻ミラベルに叱られ、困っているらしい。

メイスフィールド卿だが、父マサイアスと同じ四十五歳。六年前のルークスとの戦いで武勲を挙げている騎士だ。

もっとも戦士としてではなく、指揮官としての戦果で、剣術士レベルは三十程度と聞いている。見た目も偉丈夫という感じはなく、ドワーフたちを説得できるほどの気迫があるようには思えなかった。

「今更無理だと思うぞ。デーゲンハルトだけじゃなく、ウルリッヒまで乗り気だからな。何なら俺から奥方に話をしてもいいが?」

俺の言葉に僅かに落胆するが、

「僕の方で何とかします。ありがとうございました」

そう言って立ち去った。

結局、ダンの説得は上手くいかなかったようで、ドワーフ・フェスティバルの酒類品評会の前に館ヶ丘の正門前で盛大に行われることになった。