軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十三話「少年期の終わり」

トリア歴三〇一二年五月二十五日。

今日は俺の十歳の誕生日だ。

俺の誕生日の準備で、今日は朝から屋敷の中がバタバタとしている。

俺は次男で嫡男ではないが、騎士階級以上の家では十歳の誕生日を盛大に祝う。

農家や商家では十歳になれば、一人前同様に働くことが普通だ。

騎士の家でも 普通(・・) は十歳から本格的な武術の修行が始まり、十二歳で騎士団に入ることが多い。だから、大人と子供の分岐点、つまり節目と考えられている。

今日はいつものような麻の安っぽい服ではなく、騎士服のような立派な服を着せられている。自分の姿が見えないので、どういう感じになっているのか分からないが、少なくとも猟師紛いの野生児には見えないはずだ。

リディが俺の姿を見て、「結構似合っているわよ」と言ってくれたが、すぐにクスクスと笑い出したので、本当に似合っているのかと疑ってしまった。

ザックカルテットの面々は褒めてくれるが、猟師のロブから貰った毛皮のベスト――山賊が着ていそうなワイルドな物――でも格好いいと褒めてくれるので、三人の意見もあまり当てにならない。

四年前の兄の十歳の誕生日と同じように、村の代表者が様々な祝いの品を持ってきてくれる。

村の代表者であるゴードンから祝辞があったり、ボグウッドの街から派遣されてきた神官の祝福があったりと午前中は息つく暇もなかった。

昼食を挟んで、個人的な知り合いがポツポツとやってくるようになる。

猟師のロブたちは見事な猪を丸々一頭、蒸留所の責任者のスコットは、特別に度数を上げた“スコッチ”と“マール――ワインの搾りかすから蒸留した酒――”を三樽ずつ、木工職人のクレイグは美しく磨き上げた机をプレゼントしてくれた。

ドワーフの鍛冶師のベルトラムは造りかけの剣を手に持ち、「こいつはアルスの特殊な鋼で打っている剣だ。最終調整をするから、明日にでも工房に来い」と、自ら剣を打ってくれることを約束してくれた。

更に従士たち全員から、森に入るのに役に立つからと、様々な小物――丈夫なマントや 背嚢(バックパック) 、投擲剣を挟むこともできるベルトなど――をプレゼントされる。

ダンは自分で仕留めたウサギで作った小物入れを、メルとシャロンは恥ずかしそうな顔をしながら、一緒に作った焼き菓子を渡してくれた。

双子の弟と妹、セオフィラスとセラフィーヌは庭で取ってきた花で作った花束をくれた。

そして、夕食は猪のソテーがメインディッシュとなり、食後にはメルとシャロンが焼いた菓子を食べた。最近、砂糖を買うようになったので、かなりうまく出来たパウンドケーキのような焼き菓子だった。

その夜、祖父の部屋で家族からの祝いを受けた。

祖父が皮袋を引き出しから取り出し、

「ここに白金貨二十枚が入っておる。お前の好きなように使っていい」

祖父は白金貨二十枚、二万 C(クローナ) (=二千万円)分の現金を俺に渡してきた。

不思議そうな顔をしていると、父が話し始めた。

「武具を贈っても良かったのだが、剣はベルトラムが贈るだろうと考えたのだ。それに、お前は魔術学院に行くつもりなのだろう? それだけあれば入学金も授業料も出よう。もし行かずともそれだけの金があれば、お前の好きなことができる」

そこまで言った後、父はくすりと笑い、「まあ、元々お前が儲けた金だがな」と付け加えた。

どうやら、石鹸製法の売却益の一部をとっておいてくれたようだ。

そして、母が笑いながら、

「本当に困ったのよ。あなたの場合、贈れそうな物は他の人たちが持ってくるから……ふふふ、十歳の誕生日にお金っていうのもおかしいけど、あなたにはその方がいいだろうって、お義父様とマット――父、マサイアスの愛称――と話しあって決めたの」

「それにニコラスに魔術学院のことを調べさせておったじゃろう。ならば、これを渡せば心置きなく学院に行けるじゃろうとな」

祖父たちは、俺が学院について調べていることを知り、背中を押そうと考えたようだ。

「ありがとうございます。この後、話をしようと思ったのですが、この場でお話しします。七月にある入学試験を受けようと思います……」

昨日、俺がリディに話したことを両親と祖父に話していく。

話を聞き終わった祖父が、

「……お前の覚悟は分かった。我らはお前の家族。いつでも頼るんじゃぞ。分かったな?」

俺は大きく頷く。

「分かりました。ですが、やれるところまで頑張ってみます。これでもロックハート家の男ですから」

その後、リディの部屋に行った。

「父上たちは俺が魔術学院に行くことを感付いていたよ。誕生日プレゼントが授業料だった」

リディはくすっと笑い、

「ゴーヴィたちらしいわね。で、出発はいつにするの?」

「七月の下旬に試験があるはずだから、七月に入ったら出発する。恐らく、父上か従士の誰かが付き添ってくれるから、半月あれば十分余裕はある」

「そう、あと一ヶ月ちょっとなのね。分かったわ。私のほうもそれまでに決める」

話が終わり、俺が出て行こうとすると、「まだ、プレゼントを渡していないわ」と俺を呼び止める。

俺は首に下げた指輪を取り出し、「五年前にこれを貰っている。これで十分だよ」と笑うが、リディはいつになく真剣な表情になっていた。

「もし私が死んだら、私の魔晶石を上げるわ。その予約がプレゼントよ」

俺は思わず言葉を失い、立ち尽くす。

「私はあなたを守るわ。あなたの盾になってもね。それで死んでしまったら……私の魔晶石を貰ってほしいの。あなたとずっと一緒にいたいから……」

俺はその言葉に激しく反応してしまった。

「不吉なことは言わないでくれ! そういうのを俺がいた世界じゃ、“死亡フラグ”っていうんだ!……頼むから……俺の盾になって死ぬなんて言わないでくれ……」

その時、俺には彼女の想いが分かっていた。

だから、俺も覚悟を決めた。

「分かった……お返しに俺が先に死んだら、俺の魔晶石をプレゼントするよ」

リディは目を大きく見開き、「今言った言葉の意味が分かっているの?」と震えるように呟く。

「ああ、分かっているつもりだ。プロポーズの言葉なんだろう? 死んだら互いの魔晶石を同じ墓に入れる。死んでも一緒にいようっていう意味なんだろう」

リディの見開いた目から涙が零れ落ちる。

「私はエルフよ。あなたの子供は生めない。多分、無理……」

この世界にはハーフエルフなどの混血は存在しない。異種族間でも極稀に、百年に一回あるかないかといった程度だが、子供ができることがある。だが、それはどちらかの種族として生まれることになる。

「構わない。俺はこの世界にとっては異分子だ。普通に結婚しても子供ができるのか分からないし、そもそも、そんな余裕があるかすら分からない」

俺はリディに近づき、それ以上何も言わずに抱きしめる。

その夜、俺は自分の部屋に戻らなかった。

翌朝、俺はベルトラムの工房に向かった。

「よく来たな。お前さんに聞いた“日本刀”って奴の作り方で打ってある」

俺は蒸留器作りが一段落ついた頃、ベルトラムに日本刀の作り方を説明していた。

俺が作り方を説明してから三年ほど経つが、試作品が出来たことを確認しただけで、あまり気にしていなかった。

「炭は木炭を使ったし、お前さん言っていた“ 芯鉄(しんがね) ”を入れて“造り込み”をして……」

彼の手にある剣はちょうど“素延べ”を終えた段階のものだった。

この世界では両刃の“剣”の方が一般的なので、“本三枚”の変形版で両方に“ 刃鉄(はがね) ”を入れた作り方をしているそうだ。

素材にしたアルスの鋼は、ドワーフの多いカウム王国で金属性魔法によって精錬された高品位の鋼だ。ミスリルなどの特殊素材ほどではないが、高品質なため、かなり高価な素材であり、一振りの剣を作る材料だけでも数千C=数百万円は掛かるはずだ。

更に日本刀の作り方で剣を鍛えると折り返し鍛錬の結果、不純物がなくなり、一般的な鍛造の剣に比べても鋼の使用量は多くなる。恐らく、この素材だけで一万Cはしているはずだ。

俺がそのことを言うと、

「この鋼はスコッチの代金だ。俺がスコッチの考案者に剣を贈るって手紙に書いたら、アルスの職人たちが送ってくれたんだ。だから気にするな」

さすがはドワーフと思ったが、それでも受取りづらい。俺が渋っていると、

「うまい酒をもっと作ってやればいい。金よりそのほうが喜ぶ」

俺は酒飲みのドワーフたちを思い、思わず苦笑してしまう。

「ありがたく受取らせてもらうよ。お礼は五年待ってくれ。五年後には十年物のスコッチができる。そいつをみんなに贈らせてもらうよ」

「そりゃいい。アルスの連中にも言っておくぞ。よし、早速、お前さんの要望を聞かせてくれ」

俺は大振りのバスタードソードを注文した。

今の俺ではバスタードソード――片手半剣――というより、両手用の大型剣のようになるが、これからの成長に期待してかなり大きなものにしてもらった。

「七月に入ったら村を出るんだが、間に合うかな?」

「村を出る? どこに行くんだ? 騎士団にでも入るのか?」

「ドクトゥスの魔術学院に入るんだ。七月下旬に試験があるから、七月に入ったくらいには出発しないといけない」

「そうか……あと一月ほどだな。何とかしてやる。だが、できるだけ頻繁に顔を出せよ」

俺は「無理を言ってすまない」と言って頭を下げ、彼の工房をあとにした。

そして、館ヶ丘に戻り、メルたちに話をすることにした。

「……ということで、俺は七月にこの村を出る。夏休みには帰ってくるが、五年間は向こうにいるはずだ」

俺が話し終わると、メルとシャロンが目に涙を浮かべていた。

そして、堰を切ったように二人は泣き始め、メルが「ザック様……行かないで……」と縋りついてくる。

シャロンは言葉にならないのか、ただ俺の手を掴んで泣いている。

ダンだけは比較的冷静で、「もう少し大きくなってからでも……」と言ってきた。

「確かにここは楽しいし、離れるのは俺も嫌だ。だが、俺は魔法を極めたいんだ。ここではそれは無理なんだ」

二人の少女が泣き止むまで待ち、落ち着いたところで再び話し始める。

「気付いているかもしれないけど、俺は普通の子供とは違う。前世の記憶、まあ、生まれる前の記憶だな、それを持っている。もう一つ違うことがある。俺は神にあることを頼まれた……」

俺は転生のこと、神に遣わされた者を守ることなどを話していく。

十歳、十一歳の子供には難しいと思ったが、三人とも何とか理解してくれているようだ。

「……だから、俺は強くならないといけない。そのためにドクトゥスに行く。それに俺の使命はずっと続くものじゃないはずだ。すべてが終わったら、みんなで楽しく暮らそう。村にいてもいいし、若いうちはペリクリトル辺りで冒険者をやってもいいし、世界中を回ってもいい。だから、みんなもそれに向かって訓練に励んでくれ」

三人は俺の言葉に頷き、何とか納得してくれたようだ。

特にメルはかなり気合が入ったようで、涙を拭いて立ち上がり、

「私はもっと強くなる。先代様に鍛えて頂いて、ザック様の横に立てるように……誰にも負けない剣術士になる!」

それに感化されたのか、ダンも宣言するように

「僕も父上――ガイ・ジェークス。元冒険者の 斥候(スカウト) ――のような立派な戦士になる!」

シャロンはどうしようかと悩みながら、小さな声で、だが、しっかりとした口調で宣言する。

「私はザック様の少しでもお役に立ちたい……もっと、勉強をする!」

俺は三人の気持ちが嬉しかった。

子供だと思っていたが、しっかりとした考えができる歳になっていたようだ。

「ありがとう。俺たちはまた一緒になる。少しの間、五年間だけ待ってくれ。みんなに負けないように強くなってくるから……」

俺は三人とこれからのことを話し合った後、一人になるため、木剣を持って屋敷の庭に向かった。

俺は木剣を振りながら、自分の目標とすべきレベルについて考えていた。

(魔法は少なくとも今の倍以上のレベル、レベル五十を目指す。今のところ、毎日 魔力(MP) ギリギリまで魔法を使っているから、確実にレベルが上がっている。だが、今の上がり方だとレベル五十にするのはかなり厳しい。成長システムがよく分かっていないから何とも言えないが、RPG的に考えれば戦闘での経験値がレベルアップに繋がると考えてもいいだろう。ならば、魔術学院で勉強しながら、魔物狩りに行けばレベルアップは早いはずだ……)

そして、その他の技術についても考えを進めていく。

(剣術はじい様がいないから、自主トレになる。どの程度の効果があるかは分からないが、今までどおり朝と夕方に訓練を続けるしかない。魔法も剣もというと、虻蜂取らずになる。それなら魔法に特化すべきだろう。それと魔闘術をどうするかだな。これは時間の都合と訓練場所次第か……あとは隠密と気配察知だ。この二つの訓練はドクトゥスでは難しいだろうな。やはり森や山に積極的に入るしかない。あの辺りはどのくらい危険なんだろう……)

俺が剣を振っていると、祖父がやってきた。

「迷いがあるな。何を考えておる?」

俺は剣を振る手を止め、

「自分の目指すべき姿を考えていました。剣と魔法、斥候系の技術、それらをどう鍛えていくべきかと」

「お前に足らぬのは経験じゃ。場数を踏めばすぐに強くなる。だが、一人では危険じゃ。お前ほどの才能があっても、森や山は一人で入るべきではない。特にドクトゥスの北にあるサエウム山脈は危険じゃ……」

祖父は自分の経験を基に、俺が無茶をするのではないかと案じてくれているようだ。

だが、俺は多少の無茶は承知の上で魔物を狩ろうと思っている。今のところ、仲間はいない。リディがどう決着を付けるかは分からないが、一人でやっていくと考えた方がいい。

「多少の無理は承知の上で何とかやってみます。焦っているわけではありませんが、ここでやらずに後で悔やむのは嫌ですから」

祖父は「そうか」と呟くように言って、その場を離れていった。

その夜、リディが俺の部屋にやってきた。

「さっき、ガイの家に行ってきたわ。シャロンのことを話し合ってきたの……」

俺は黙って頷き、先を促す。

「シャロンはあなたと行きたがっている。ガイはお金のことで無理と言ってきたわ。私が出すと言っても首を縦に振らなかった……」

やはり入学金の一万 C(クローナ) と年間三千Cの費用がネックのようだ。ガイは祖父の食客であるリディに金を借りることに抵抗があり、どうしても了承しなかったそうだ。

「あなたの知恵を借りに来たの。シャロンは家出をしてでも付いていくってかなり食い下がっていたわ。このままだとガイとシャロンの関係がおかしくなるの」

シャロンは昼に俺が話をして一旦心の整理をつけたのだが、リディの話で俺と一緒にいられる可能性があり、再び心が揺れたようだ。

「そうだな……こうしたらどうだ? まず、受験で入学金が免除になる五番以内に入ることを条件にする。そして、その条件がクリアできたら、リディか俺が“シャロン”に金を貸す。入試で五番以内に入れば、それだけの才能があることになるから、学院に入る理由になる。それにシャロン個人に俺たちが金を貸すんだから、ガイが反対する理由にはならない」

リディは「そうね。シャロンに話してくる」と言って、外に飛び出そうとする。

俺は彼女を呼びとめ、

「シャロンが受験に失敗したら、リディもこの村に残るんだからな。それにシャロンを追い詰めるなよ。ガイのプライドも考えて……」

彼女は俺の言葉を遮り、

「分かっているわ。あの子もあなたと一緒にいるためなら、追い詰めなくても頑張るはず。ガイも可愛い娘のことを考えて、諦めさせようとしているだけだと思うの。だから大丈夫よ」

そして、部屋を出ようと歩き出すが、何かを思い出したかのように振り返る。

「それより、メルのことを考えておきなさい。シャロンが付いていけて、自分がいけないのはショックだと思うから」

「ああ、そうだな。考えておくよ」

そして、リディは再びガイの家に行った。

三十分ほどすると、彼女からガイの説得に成功したと聞かされる。

「シャロンもやる気になっているわ。あなたがいなければ首席で合格できるほどの実力よ。これであなたと一緒にいられる」

俺はシャロンの学力や魔法の能力は疑っていなかった。だが、受験というのはそれだけじゃないということも知っている。

「力が十分に出せれば、そうだろうな。だが、この村から出たことがないシャロンにとって、数百人が一緒に受ける試験というのはかなり厳しいと思うぞ。あまり楽観的に考えない方がいい」

俺がそう言っても「大丈夫よ」と自信満々の笑顔で答えてくる。俺は一抹の不安を覚えながら、明日シャロンとそのことを話さなければと考えていた。

翌日、朝の訓練の後、シャロンと話をするが、受験については全く心配していなかった。不安がらせるのもかわいそうだと思ったが、数百人が受ける受験というものについて、話を聞かせていく。

「試験を受けるというのは緊張するものなんだ。だから、普段通りの力が出ると思わない方がいい。リディの言っていることはかなり楽観的なんだ。だから、もし駄目でも……」

「大丈夫です。緊張するかもしれませんけど、絶対に負けませんから。リディアさんにも言われました。ザック様と一緒にいたいなら、死ぬ気で頑張りなさいと。“たかが試験よ。戦いではないのだから、殺されることはないわ。だから、そんなものに負けてはいけない”って……」

シャロンもこの二年間で何度か実戦を経験している。

接近戦こそ経験していないが、命の危険を身をもって知っている。だから、試験程度の勝負で緊張することはないと言い切ったのだ。

(確かに殺されることはないが、試験っていうのは緊張するものなんだが……情報がないから、分かっていないのかもしれないが、シャロンがこんなに強く言うなら大丈夫なのかもしれないな……)

そして、メルにシャロンが魔術学院を受験することを話した。

俺は話の途中で彼女が取り乱すのではないかと思っていた。だが、シャロンが一緒に行くと聞いても、時折唇を噛んではいるが、取り乱すことなく静かに俺の話を聞いていく。

「悔しいですけど、私が一緒に行くことは無理ですから。それに先代様に剣を教えて頂く方が強くなれます。だから私はここで頑張ります」

俺はシャロンにも驚いたが、メルが一気に大人になったような気がして言葉を失ってしまった。

「そうか……分かった。俺もメルに負けないように頑張るよ」

俺はそれだけ言うと、彼女のもとから立ち去った。

六月三十日

夏至祭の前日、俺は明後日の出発に向け、準備に忙しかった。

ベルトラムが鍛えていた剣――バスタードソード――も無事完成し、背中に背負えるように調整してある。

ベルトラムの他にも、蒸留所の責任者のスコット、猟師のロブらに別れの挨拶を済ませ、夏至祭の翌日、七月二日に約三百七十km離れた学術都市ドクトゥスに向けて出発する。

俺と一緒にドクトゥスに向かうのはリディ、シャロン、そして、シャロンの父ガイだ。

ガイには護衛と案内を頼んでいるが、もし俺やシャロンが試験に落ちた場合は帰りの護衛もすることになる。

七月一日。

夏至祭の音楽が館ヶ丘にも流れてくる中、出発準備を終えた俺は、のんびりと丘の南斜面に座っていた。

すると、誰かが近付いてくる足音が聞こえてきた。

俺の姿を見つけたメルとシャロンがやってきたようだ。

二人は俺の横に座り、しばらく何も言わなかった。

去年までは祭会場を走り回っていた俺たちだったが、今日は館ヶ丘でのんびりとした時間を過ごしている。

定位置――俺の右隣――に座ったメルが、静かに口を開いた。

「明日は出発ですね」

俺は伸びをするように草の上に寝転がり、「そうだな」と呟くように答える。

「来年の夏までお別れですね。いつ頃戻ってくるんですか?」

「夏休みは七月から二ヶ月だそうだ。早くても七月の中旬頃だろうな。まあ、試験に落ちて来月の上旬に帰ってくるかもしれないがな」

俺が冗談めかしてそう言うと、メルが強い口調で、

「ザック様には強くなってもらわないといけないんです! 絶対に合格してください! これはシャロンも同じよ」

俺は彼女の声に驚き、半身を起こして彼女に顔を向ける。

俺を見つめるメルの目には強い意志が宿っていた。

「そうだな。俺には強くならなければならない理由があるんだ。絶対に合格してみせるよ」

メルはそれに小さく頷き、半身を起こした状態の俺に覆い被さってきた。

「おまじないです」

恥ずかしそうにそう言って、口付けをするため、顔を近づけてくる。

俺は突然のことに目を白黒させていたが、俺の顔にメルの涙が落ちてきたことに気付き、彼女を受け入れるように強く抱きしめ、唇を合わせる。

横にいるシャロンがどうしているのか気になったが、メルとシャロンの間で話が付いていたのか、何も言ってこない。それにいつも一緒にいるダンがいないところを見ると、彼も一枚噛んでいるのだろう。

「やっぱり寂しいです……一緒にいたいです……」

鼻をすすりながら、そう言う彼女をもう一度抱きしめ、

「五年なんてあっという間だ。また、みんなで一緒に楽しく暮らそう……」

そして、静かな時間が流れていく。俺たちは何もせず、三人で空を見上げていた。

俺は蒼い空を見上げながら、“俺たちの少年期が今、終わったんだ”と感じていた。