軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十五話「二級冒険者」

九月七日の午後。

アクィラ山脈の調査は失敗に終わった。そのため、魔物討伐の最前線リッカデール村に戻っている。

午前中に冒険者ギルドの役員であり、ペリクリトル市の防衛責任者であるランダル・オグバーンからギルド専属の冒険者にならないかと勧誘された。

提示された条件は破格で、メリットは充分にあるが、神々の敵がどう動くか分からない状況でギルドに拘束される状況を嫌い、断っている。

今日は昨日までの死闘の疲れを癒すため、終日休養に当てるつもりで、宿でのんびりと過ごしていた。

そんなまったりとした俺たちに、冒険者ギルドから報酬の確認のためにもう一度来てほしいという連絡が入る。

調査の報酬は確定したはずで話が見えない。伝言を持ってきた職員に聞いても詳しくは知らないようで、用件を告げたらすぐに帰っていった。

「何なんだろうな? 報酬は決まっていたはずなんだが」

「そうね。討伐分の報酬で何かあったのかしら」とリディも首を傾げている。

「どうせ暇なんだから行ってみるかね」とベアトリスが伸びをしながら立ち上がる。

彼女の言う通り時間もあるし、大した距離でもないことから行ってみることにした。

支部に着くとそこにはランダルが待っていた。

「すまんな。さっき言い忘れたことがあったんだ」と言ってニヤリと笑う。

横にいた職員が「皆さんのオーブを出していただけますか」と言ってきた。オーブは個人情報が入った魔道具で、冒険者ギルドや傭兵ギルドだけでなく、町や村でも使われるものだ。

俺たちが首を傾げていると、

「二級の依頼を八件達成されました。皆さんのオーブの情報を書き換えます」

そこで契約にあった 大魔(グレーターデーモン) の討伐の条項を思い出す。

「契約では大魔だけに適用されるはずですが?」と聞くと、ランダルがニヤリと笑って契約書を出す。

「ここを読んでみな」といって指で差した部分を読む。

「ザカライアス殿のパーティに限り、大魔の討伐を二級の依頼として追加するものとする。本依頼は討伐数に応じて達成とし、討伐がなされない場合も失敗とはみなさないものとする。討伐証明は魔晶石により確認、もしくは他のパーティに属する複数の二級冒険者による証言であっても認めるものとする。なお、大魔の存在が確認できなかった場合は、同等ないしそれ以上の能力を持つ魔物であっても大魔の討伐とみなすものとする……」

そこで大魔の存在が確認できなかった場合の部分をもう一度見る。

「この部分で無理やり読んだのですか? ここは大魔という情報が誤認で、それ以上の魔物、例えば一級相当の 魔将(アークデーモン) だったような場合に適用される条文ですよ」

「そうとも読めるな。だが、その条文だけ見れば、お前さんのパーティは大魔と同等かそれ以上の魔物を討伐すれば依頼達成となるってことだ」

「そうですが……契約書を悪用している気がするので遠慮したいんですが」

堅いといわれるかもしれないが、契約書作成時の合意を 反故(ほご) にするような読み替えは行うべきではないと思っている。これは契約書自体、すべての状況を想定して作ることは不可能であり、自分たちに不利益な読み替えをされることを防ぐために必要だからだ。

それにこれを認めると、俺たちだけが優遇されているように見え、他のパーティから苦情が来る可能性がある。

「まあ、そう言うな。契約にも“予め想定されない事態が発生した場合は双方が協議し決める”とあるんだ」

確かに一般的な協議の条項は入っている。俺が反論しようとすると、それを目で押し留め、更に説得してきた。

「それにな。お前らの活躍がなかったら一流の連中の半分を失っていたかもしれんのだ。これは一種の 特別報酬(ボーナス) だと思ってくれ。それに他のパーティの連中にも合意を取ってあるぞ。もちろん、全員が賛成してくれている」

あまりの手回しのよさに驚くより呆れる。

「だからこの時間まで掛かったんですか……」

「お前らの実力は三級じゃねぇ。これは俺だけの意見じゃなく、他の連中も認めていることだ。要は実力にあった級になっただけってことだ」

そう言われても裏があるようで素直に受け取れない。俺が逡巡していると、シャロンが「いいのではありませんか」と言ってきた。

「そうは言うがな……」

「二級になればギルドや他のパーティに協力してもらいやすくなります。それにもしギルドが今回のような方法で悪意をもって何かしてきたら、その時はギルドを潰すつもりで対応すればいいと思います」

シャロンは笑顔でそう言うと、ランダルにチラリと視線を送る。

「おっかねぇな」と苦笑いを浮かべるが、すぐに真顔になり、

「お前らを契約でどうこうしようって気はねぇ。というか、お前らに手を出したら鍛冶師ギルドとカウム王国を敵に回す。それだけじゃねぇ、お前らは魔術師ギルドや傭兵ギルド、あげくにゃ帝国の上級貴族とまで繋がっているんだ。冒険者ギルドがお前らに手を出せるわけはねぇよ」

ランダルがいうことは大袈裟ではない。やる気はないが、俺が本気になれば冒険者ギルドを潰すくらいは簡単にできる。そして、シャロンなら俺に害を成すと判断した瞬間、ためらいなく実行するだろう。

そこでリディたちを見ていく。

リディは「いいんじゃないの」といい、ベアトリスは「ちょっと早くなっただけじゃないかね」と気にしていない。

メルは「私も二級?」と驚いているが、俺の視線に気づき、「私も賛成です」と力強く頷いた。

「分かりました。では、この話を受けることにします。ですが、こういうことは二度としないでください。冒険者ギルドという組織に対して不信感を持つことになりますから」

そう言って釘を刺しておく。

「分かった、分かった」とランダルは苦笑いを浮かべ、「普通は素直に喜ぶもんだぜ」と零す。

手続きを行うため、職員にオーブを渡す。職員はそれを持って別の部屋に向かった。

「ところで明日からどうするんだ?」とランダルが聞いてきた。

「まだ決めていませんが」

「もう一度山に入ってくれないか。行方不明者の調査を放っておけんのでな」

「確かに放っておくわけにはいかないと思いますが、昨日までの状況を考えたら難しいですね」

そこでランダルは今までの飄々とした感じから真剣な表情に変える。

「俺が同行する。それでも駄目か」

ランダルはレベル八十の剣術士で、祖父ゴーヴァンに匹敵する凄腕だ。それに元三級冒険者であり、森や山での経験も充分ある。

「最高の助っ人ですけど、俺たちには俺たちのやり方があるんで、お断りします」

頼もしい助っ人だが、ロックハート家以外の者と組むと制約が多くなりすぎる。特に 収納魔法(インベントリ) を使えなくなることは大きなデメリットだ。

もう少し信用できる関係なら収納魔法の存在を教えてもいいが、秘密を教えられるほど信用していない。

「そうか」とランダルは落胆する。

「依頼を受けるつもりはありませんが、山には入るつもりです。その過程で大魔や行方不明者の情報を手に入れたらギルドに連絡することでどうですか」

「そうしてくれると助かる。今回ギルドは ギルド長(レジナルド) が先走ってベテランたちの信用を失った。レジナルドも悪い奴じゃないんだが、 ペリクリトル(街) を守ることに意識が向き過ぎている。分からんでもないんだがな」

冒険者ギルドのギルド長、レジナルド・ウォーベックも元冒険者で、俺たちとは多少の縁がある。

七年前、ルナを救出した後、ティセク村に再調査に向かう時に指揮を執っていた槍術士だった。会議の後でそのことを教えられるまですっかり忘れていたが。

「でも、これからどうするんですか。グラディスさんたちもペリクリトルに戻ると言っていましたが」

今回調査に参加した八組のパーティのうち、五組は元々リッカデールを本拠として活動していた。しかし、今回の調査でパーティメンバーを失ったり、武器や防具を損傷したりしており、そのほとんどがペリクリトルに戻ることになっている。

三級以下のパーティはいるが、トップクラスの冒険者パーティがすべていなくなるのは大きな痛手だろう。

「頭が痛ぇ問題だ。奴らも何ヶ月かしたら戻ってくるんだろうが、その間がな……」

俺たちがどうこうできる問題ではないが、冒険者ギルドとしては頭の痛い問題だろう。特にランダルはペリクリトル市の防衛責任者でもあり、魔族の存在が疑われる状況で調査ができなくなることを懸念しているのだろう。

優秀なパーティの不在が街の安全を脅かす事態に繋がる可能性があるためだ。

そんな話をしていると、職員が戻ってきた。

「おめでとうございます。史上最年少の二級冒険者ですよ」といって俺にオーブを渡す。

一般的に二級冒険者になるにはレベル六十以上の実力と二十年以上の経験が必要と言われている。レベルについては二級相当の依頼をこなす実力が必要であることを示し、経験年数については昇級に必要な依頼数をこなす時間を示している。

だから二級への昇級は若くても三十代前半だ。もっとも三級以上の一流と呼ばれる冒険者になれる者はごく少数で、四級以下で止まることがほとんどだが。

正確な数字を知っているわけではないが、今までの二級の最年少は三十二歳くらいと言われている。つまり、俺はその記録を十歳近く更新したことになる。

だからといって一級冒険者になれるのかと言われれば、簡単な話ではないと答えるしかない。

昇級の条件は現在の級に相当する依頼を百件分達成しなければならない。一つ上の級なら一件で十件分にカウントされるが、それでも自分より上の級の依頼を十件はこなさないといけないのだ。

つまり一級に上がるには二級の依頼を百件、もしくは一級の依頼を十件成功させる必要がある。

しかし、その二級の依頼自体、数が少ない。これは二級相当の魔物は山深いところに生息しており、人里近くに下りてくることが稀だからだ。

ここで思い出してほしいのは、冒険者ギルドの仕事は魔物から“人々”を守ることということだ。つまり、被害が出ないような山奥にいる魔物は討伐依頼の対象とならない。だから二級の魔物をいくら討伐しても依頼が出ていなければ達成扱いにならず、昇級できないのだ。

二級相当の依頼はここリッカデールでも年に十数件しかない。他の二級冒険者たちもいるから当然取り合いとなる。

俺たちの場合は討伐に特化しているから、他より多く受けられるかもしれないが、それでも年に三、四件達成できれば多い方だろう。これに三級相当の依頼が十件程度受けられるとして、年に五件分にしかならない。つまり、百件分の依頼達成に二十年の時間が必要になるのだ。

今回のようなイレギュラーな達成がなければ、俺の昇級は早くても来年後半以降だっただろう。もちろん、ペリクリトルやリッカデールで依頼を受け続けるという前提でだ。

それが二級相当の依頼八件分の達成、すなわち三級の依頼八十件分の依頼達成という異常な事態が起き、一気に昇級したということだ。

「それにしても二十代前半で二級か。それも三人も。ギルドの歴史が変わったな」

そういってランダルが俺の肩を叩いてからかう。

「お前も忙しい身だから一級は難しいかもしれんが、討伐関係のややこしいのがあれば一級の依頼として優先的に回すぞ」

「それは勘弁してください」と笑うしかない。

一級相当の魔物といって一番に思いつくのが“ 竜(ドラゴン) ”だ。

それも町に被害をもたらすような凶暴な奴で、普通は“邪竜”と呼ばれる。そんな相手の討伐を優先的に回されても困るだけだ。

他にも兄が倒した十メートル級の巨人“ 一つ目巨人(サイクロプス) ”や、“ 魔将(アークデーモン) と呼ばれる 妖魔(デーモン) 系の高位の魔物が一級となる。どれも一筋縄でいく相手ではない。

「何となくだが、ヤバイことが起きている気がする。冗談抜きで討伐の依頼が増えるかもしれんから、その時は頼むぞ」

それまでの軽い調子ではなく、真面目な表情だった。

ランダルとの話し合いが終わり帰ろうとしたら、ギルドのホールにグラディスら二級冒険者たちが集まっていた。

「二級になったそうだな」といってグラディスが俺の肩をバシンと叩く。

「これで俺たちの仲間だ。またやばくなったら頼むぜ」

「分からんことがあればいつでも相談に乗るぞ。何といっても仲間を助けてくれた恩があるからな」

そんな感じで次々と声が掛かる。

その後、グラディスたちが泊まる宿に連れていかれ、そのまま宴会に突入した。

「ここのビールは美味いぞ」とグラディスが言うと、剣術士のロニーが小さく首を振る。

「こいつの二つ名を知っているか?」

「 全方位のハーレム王子(オールレンジプリンス) じゃないのか? いや、 真闇の魔剣士(ダークネスソードウィザード) ってのもあったな」

「いや、“ 酒神(スコッチゴッド) の申し子(セント・チャイルド) ”だ。ドワーフたちがそう呼んで崇めているって話だぜ。そんな奴によく酒を出せるな」

「そういや、そんな話を聞いたな」とグラディスが固まる。

「俺は美味い酒が好きですが、こういう楽しい雰囲気で飲む酒が一番だと思っています。なので気にしないでください」

そう言ってジョッキに口をつける。夏を越えたばかりのこの時期にしては香りのいいエールで「美味いですね」と自然に言葉が出るほどだった。

「そうだろ。じゃ、こいつも食え」といって肉を出される。

二級といえば超一流の冒険者であり、その気さくさに面食らう。俺の表情から気づいたのか、弓術士のピーターがソーセージの皿を勧めながら説明してくれた。

「お前も俺たちの仲間になったんだ。本当の意味でな」

「本当の意味ですか?」

「そうだ。今回のことでも分かると思うが、俺たちは危険な依頼を受けることが多い。三級とは比較にならないほどな。そんな依頼は合同で受ける方が多いんだ。つまり、俺たちにとって二級の連中は別のパーティであっても大事な仲間なんだよ」

話を聞くと二級冒険者たちは他の冒険者と比べ仲間意識が強い。もちろん、パーティごとにやり方が違うから常に一緒に依頼を受けるわけではないが、今回のような遠征は比較的あり、命を預けあう関係と言えるからだ。

「お前たちはまだ三級だったのに俺たちを助けてくれた。だから、お前たちを二級に上げるっていうランダルさんの話に乗ったんだよ。これからも頼むぜ、ザック」

「初めて知ったね。ドクトゥスならあんまり気にしなかったが、この辺りならそう考えてもおかしくはないね」

ベテランのベアトリスも初めて知ったらしい。

その後、深夜まで宴会が続いた。