軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話「移籍先探し」

四月十二日。

カルドベックの町をリディと二人で出発し、冒険者の街ペリクリトルに到着した。

宿は以前にも利用している“荒鷲の巣”亭だ。

この宿にしたのは冒険者が多く宿泊しているから情報が手に入りやすいということもあるが、主人のヨアンが信用できるという点が大きい。

ヨアンとは学院に入る時の旅で出会ったが、それ以降もスコッチを卸す店ということでこの街に来るたびに利用し、酒や料理の話をしている。

この世界での年齢は離れているが、いい感じで友人関係を築けており、ルナが入れそうなパーティを探す手掛かりにしたいと思っている。

但し、この宿に泊まっている冒険者パーティを対象とするつもりはない。

ここに常時泊まれるような冒険者は比較的高レベルで、駆け出しを卒業したばかりの七級が泊まるようなところではないためだ。

今回はこの宿に泊まっている冒険者が持つ情報をヨアンから聞き出し、候補となるパーティを探すつもりでいる。

宿に入ると、「久しぶりだな」とヨアンが出迎えてくれた。半年前にカルドベックに向かう時に泊まって以来となるためだ。

「しばらく厄介になるよ」

「今回は二人だけかい?」とエプロン姿の女将のミラが聞いてきた。

「とりあえず二人だが、もう少ししたら増えると思う……それより後で相談したいことがあるんだが」

俺がそう切り出すと、ヨアンとミラは顔を見合わせるが、「まあ、お前さんの頼みなら少々のことは聞いてやるよ。夕食後でいいな」と笑って了解してくれる。

夕食後、片づけを終えたヨアンとミラが食堂で待っていた。

「話っていうのは何なんだ? 酒絡みか?」

その言葉に苦笑が浮かぶが、すぐに表情を引き締める。

「今回は酒とは関係がない。俺の家族のことで少し相談があるんだ……」

これまでの経緯とここに来た目的を話す。

「つまりだ。お前の義理の妹がパーティを探していると。それもロックハートの名を出さずに」

「そういうことなんだ。リーダーが五級くらいで、六級から七級が主体の女性がいるパーティを探している」

「弓術士なのよね、彼女は」とミラが聞いてきた。

「ああ、レベルは二十三。森の中での行動は一通り教えてあるから、足手纏いになることはないはずだ」

「そうね。うちには該当するパーティはいないけど、それとなく他の宿にも聞いておくわ」

「俺もここの客に聞いておくが、お前の妹なら貴族の令嬢ってことになる。あまりややこしいことにならなきゃいいがな」

ヨアンの懸念は理解できる。ここペリクリトルは都市国家連合に属しているが、帝国の版図の中だ。帝国貴族と揉めたくないと思うのは冒険者ギルドだけでなく、街に住む者も同じだろう。

「その点は気にしなくてもいい。あいつもロックハートの名を出すことはないだろうし、父ももしものことがあっても問題にしないと明言しているから。何なら父の署名入りの文書をギルド総本部に出してもいい」

「まあ、そこまでは必要ないだろうが、受け入れるパーティのリーダーがどう考えるかだろうな」

そんな話をした後、部屋に戻る。

「明日からはどうするの?」とリディが聞いてきた。

「任せっきりというわけにもいかないからな。俺たちでも動くつもりだが、弓師を探してルナの弓のメンテナンスの仕方を教えることも考えないといけない」

ルナが入るパーティを探すことが一番の目的だが、彼女の弓の手入れのことも考えないといけない。彼女の弓はこの世界では特殊な作りで、木属性魔法の 改質(モディフィケーション) を使って作ってある。そのため、魔法の掛け方を説明する必要があるのだ。

「そうね。そっちの方は私に伝手があるから大丈夫よ」

「そうなのか? 聞いていないが」

「まだいるかは分からないけど、昔ここにいた時に世話になったエルフの弓師がいるの。弓の他にもいろいろ作っているけど、木属性魔法が使えたはずよ」

「四十年くらい前の話なんだろ? まあ、いなくても跡を継いだ人もいるだろうから、その線でいってみるか」

翌日、冒険者街である南地区の南端、鍛冶師街と呼ばれる地区に向かう。ここには鍛冶師たちが多く住むためそう呼ばれているが、武器や道具などを扱う商店も多くあり、弓師もここに居を構えていることが多い。

「ギーゼルヘールにあいさつにいっておくか」とリディに提案する。

ギーゼルヘールは鍛冶師ギルドのペリクリトル支部の重鎮で、前にも世話になっているし、ラスモア村がアンデッドの襲撃を受けた際も冒険者たちを率いて救援に来てくれた。

ドワーフフェスティバルにも毎回やってきているので、この街では商人のヘンリー・ノートンに次いで顔を合わせている人物ということになる。

ギーゼルヘールの工房にいくと、

「よく来てくれた! まあ、まずは飲め!」

いつの間にか用意されていたジョッキが渡される。

「今日は飲みに来たわけじゃないんだが……」と断るものの、一応礼儀として一杯は飲むことにした。

「再会を祝って乾杯!」

「乾杯! ジーク・スコッチ!」

リディにもジョッキが渡されており微妙な顔をしながらジョッキを掲げる。

乾杯を終え、ギーゼルヘールにしばらくこの街にいると伝える。

「そうか! それはいい!」と喜ぶが、「村を離れてもよいのか?」と心配顔になる。

「村の方は問題ない。まあ、しばらくはドワーフフェスティバルにも参加できないが、一、二年のことだ」

昨年の戦勝記念祭、今年のドワーフフェスティバルの両方とも参加していない。この先はどうなるか分からないが、ルナが別のパーティに入ってもしばらくは陰からサポートするつもりでいる。といってもそれほど長い期間はできないだろう。

そんな話をしたが、ルナの話はしていない。ここで話せばこの街のドワーフの間で一気に噂が広まることは目に見えているからだ。

何杯かビールを飲んだ後、また来るからと言ってギーゼルヘールの工房を後にした。そして、リディが言っていた弓師の工房に向かう。

鍛冶師街の中にあり、ギーゼルヘールのところから五分ほどで着いた。

「ここよ。まだやっているみたいね」

古びた木の看板があり、そこには“ユーグ・ギャランジェの工房”と書かれていた。

中に入ると、木と 膠(にかわ) が混じった独特の匂いが鼻を刺激する。何張りもの弓が並べられ、革のマントやグローブなども置かれていた。

「お客さんかい」といって大きなエプロンをつけたエルフの男性が現れる。相変わらず年齢は不詳で、すらりと背が高く、白皙の肌と緑掛かった金髪、翡翠色の瞳が特徴的な二枚目だ。

「ザカライアスと言います。実はお願いしたいことがありまして……」

そう言ってリディに持ってもらっていた和弓を見せる。

「このような弓の手入れをお願いしたいと思いまして」

ユーグは弓を手に取ると、しげしげと眺め始める。

「珍しい形だね。魔法で細工してあるのか……これの手入れは僕には無理だね」

そう言って肩を竦める。

「実は私が作った物なんです。なので手入れの方法を説明することはできます」

「話が見えないね。なら、君が手入れすればいい話じゃないか」

「すみません。最初から話をします。この弓は私やここにいる彼女が使うものではなく、別の者が使う物です。私がずっとこの街にいればよいのですが、いつ離れるとも限りません。ですので、腕のいい弓師の方にお願いしようと思って伺いました……」

事情を説明すると、「なるほどね」と言うが、興味は弓に向いていた。

「これの作り方を教えてくれるということでいいのかな? ミスター・ロックハート?」

俺のことに気づいたようだ。

「どうして名を?」と聞くと、

「ザカライアスという名とこれだけ丁寧な 改質(モディフィケーション) の魔法が掛けられた弓を見れば、ラスペード氏の愛弟子、ザカライアス・ロックハート氏であることはすぐに分かるよ」

「ラスペード先生と面識がおありでしたか」

「ああ、彼とは机を並べた学友だったからね。随分昔の話だが、彼のような有名人の話はよく聞くから」

ラスペード先生の学友ということは百五十歳を超えているということだ。

「先生の友達だったんだ」とリディが小声で驚いている。

ユーグはその言葉に気づくことなく、

「手入れの話は受けてもよいが、まずは君の作り方を見せてもらえないだろうか。久しぶりに新しい技術に触れられると興奮を抑えられないのだ」

その言葉にラスペード先生を思い出し、笑みが零れるが、キラキラとした目で見られており、すぐに説明を始めた。

「この弓の素材はイチイの木です。この部分に改質の魔法を掛けて弾力性を上げ、この部分は逆に剛性を上げます。それを連続的に変化させていくことがこの技術の最も難しいところです……」

簡単な説明の後、工房で実際にやってみせる。魔法自体はそれほど難しいものでも魔力を使うものでもないが、連続的に性質を変えるイメージが難しく、一時間ほど掛けて教えていく。

「……なるほど……ここのイメージは柳で、ここは樫か……最後に全体を整える感じで……これは難しいな……」

そう言いつつも二時間ほどでコツを覚える。さすがに百年以上職人をしているだけのことはある。

「実に興味深い! これを使えば他の長弓の威力を上げることが可能だ! しかし、私に教えてもよかったのかね。普通なら秘匿すべき技術だが?」

「元々隠すつもりはありませんでしたし、今回は私の縁者のためでもあるので問題ありません」

「隠すつもりがないと……この程度の技術は大したことがないということか。なるほど……」

「お願いがあるのですが、先ほどいった私の縁者のことなんですが、そのことはできるだけ周りに言わないでほしいのです。事情も含めて聞かないでいただければ助かります」

「何か事情があるようだが、これだけの技術をタダで教えてもらったのだ。そのことは覚えておこう」

ラスペード先生の学友だが、先生ほど非常識ではないらしい。そのことを口にすると、

「彼と一緒にされるのは名誉なことだが、心外でもある。私には彼ほど才能はないが、あんなに非常識ではないからね」

やはり先生が非常識というのは昔からのようだ。

ルナの弓のメンテナンスの件も片付き、宿に戻る。

ヨアンに話を聞くが、さすがに半日では候補になるパーティの情報は見つからなかった。

翌日から俺たちも情報収集を始めた。ギルドの訓練場に行き、若手の冒険者たちを見ていくが、俺の名を出すわけにはいかないので情報収集すらままならない。

ペリクリトルについて三日後の四月十五日、ヨアンがいい情報を見つけてくれた。

「近くの宿に泊まっている連中だが、最近弓術士が引退したそうだ。それで腕のいい弓術士を探しているという話だった」

「どんな構成なんだ?」

「リーダーは治癒師で五級。剣術士兼斥候の六級が一人、ハルバード使いの八級が一人だ。リーダーは若い女で、剣術士は獣人、ハルバード使いは一年ほど前に仲間になった若造だそうだが、依頼の失敗がほとんどない堅実なパーティだと聞いたな」

思った以上に理想的な構成だ。

リーダーが女性であり治癒師という点がいい。それに人間より視力や嗅覚に優れた獣人が斥候として加わっていることも安全面から言えば安心材料だ。

不安があるとすれば、最近入った八級の新人と人数が普通のパーティより少ないことだろう。

新人についての懸念だが、ハルバードは思った以上に扱いが難しい武器という点だ。

見た目の派手さと高い攻撃力は魅力だが、正式な訓練を受けていないと生半可な訓練ではまともにダメージを与えることができない。正式な訓練を受けていても才能がなければ戦力とはなりにくく、まして我流ではどれだけ訓練しても使い物にならない可能性すらあった。

実際、ロックハート家ではハルバードを採用していない。これは装備の共通化という面が大きいが、それ以上に熟練するまでに時間が掛かり、戦力化が難しいためだ。

もう一つの人数が少ない点だが、単に人を増やせばいいという問題でもない。戦力のバランスのよい配置を考える必要があるためだ。このパーティなら防御力の高い、いわゆる“ 盾(タンク) ”役がいればバランスが格段によくなるが、防御力が高いということは装備に金が掛かるということで、比較的若い者で構成されたパーティには少ない。

「話を聞きたいんだが、大丈夫かな」

「それは多分大丈夫だと思うぞ。俺からそれとなく話をしてもいいが?」

「そうだな。話の頭出しだけでもしておいてくれると助かる。できればリーダーだけに話がいくような感じで」

「分かったぜ」

翌日、そのパーティがギルドの訓練場で鍛錬をするという話を聞き、それとなく探りにいった。

近くにいた冒険者に話を聞き、いろいろな情報が手に入った。

リーダーの名はヘーゼル。二十代半ばの明るい感じの女性だ。訓練中に見せた治癒師としての能力も悪くなく、指示の出し方も的確だった。

剣術士はファンといい、二十代前半の小柄な猫獣人だった。猫獣人らしい鋭い動きだが、剣の腕はそれほどでもない。レベルは二十台前半というところだろう。

ハルバード使いはライアンといい、まだあどけなさが残る十代半ばの少年だ。体格は立派で百九十センチほどの長身と分厚い胸板を持つ。事前の情報通りハルバードの腕は素人同然で、我流であることは扱ったことがない俺にでも分かったほどだ。

「森の奥にはとてもいけないわね」とリディが小声で言ってきた。

全く同感だ。この三人なら八級程度の依頼、具体的にはゴブリンや森狼の小さな群れの討伐が精一杯だろう。

「引退した弓術士のレベルが高かったらしいな。遠距離から敵を減らすか傷つけ、近寄ってきたところで二人が止めを刺す。そんな感じだったんだろう」

ちなみにその弓術士は怪我などの身体的な理由で引退したわけではなかった。結婚が決まり、それを機に安定した職に就くため冒険者を引退し、小さな村で狩人をすることになったらしい。

「で、どうするの?」と聞いてきた。聞きたいことはルナを託すかどうかということだ。

「力量的にはルナとそれほど違わないから、劣等感を抱くことはないだろうな。心配なのは神々の敵が狙ってきた時だ」

「でも、それを言い出したら、村にいるしかないんじゃないの? ヴラド・ヴァロノス(アンデッドの王) クラスの敵が来るなら三級が主体の私たちでも守りきれるとは思えないわ」

「そうだな」

リディのいうことはもっともだ。もし神々の敵から守ることを考えるなら、要塞化した館ヶ丘くらいじゃないと守ることは難しい。

「今回の目的はルナの成長を促すことだ。だとしたら、このパーティは結構いい。あとはルナがどう考えるかだ」

翌日、ルナたちがペリクリトルにやってきた。