軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十七話「地下遺跡」

キトリー・エルバイン教授の依頼を受け、アクィラ山脈で古代遺跡探しをしていた。帝国軍が通ったらしい道を見つけ、それを追っていくと小さな洞窟を発見した。

その中を調べると、そこには古代遺跡に繋がる裂け目があり、全員で探索することになった。

最初に入った場所は教室か会議室のような作りで、扉が三つある。スライド式の扉は二つあり、それぞれ同じ廊下に繋がっているが、その右側面にある扉はどこに繋がっているのか分からない。

「どちらからいきますか」とキトリーさんに確認する。

「そうね。まずは小さい方の扉から確認しましょう。今までの経験だと倉庫みたいになっていることが多いのよ」

「了解です。扉に罠が仕掛けられていることはあるんですか」と確認すると、

「基本的には罠はないわ。鍵は掛かっていることは多いけどね」

それを聞いたダンが「僕が開けます」といって扉に向かう。ベアトリスから「気をつけるんだよ」と声が掛かると、ニコリと笑って小さく頷いた。

「俺が扉の横に立つ。ベアトリスは少し離れたところから警戒してくれ。シャロンはベアトリスの援護を。リディとメルは周囲の警戒を頼む」

それだけ言うと、すぐにそれぞれの持ち場に散っていく。

俺はドアの横に張り付くようにして待機した。

「では開けます」といってダンがドアノブに手を掛ける。但し、無造作に触るのではなく、ナイフで軽く叩いて罠がないか確認していた。

とりあえず危険がないと判断したのか、ドアノブを掴み、「開けます!」と宣言してノブを捻る。

特に何もおきず、ガチャリという音がして、ゆっくりと扉は手前に開いていった。

一呼吸置いてから奥を覗き込むが、キトリーさんが言ったように小さな倉庫のような感じで、作りつけの棚があるだけだった。

「大丈夫そうです」と俺が言うと、キトリーさんが慎重な足取りで近づいてきた。さすがに遺跡調査に慣れており無造作に入るようなことはしない。

「ザック君はついてきて。ダン君はここで待機。他の人はさっきのザック君の指示のままでいいわ」

そう言うと警戒しながら中に入っていく。俺もエルフであるキトリーさんも夜目が利くため、灯りは必要ないが、外から状況が見えるよう灯りの魔道具で照らしながらついていく。

(“何とか準備室”みたいな感じか。といっても、俺が知っているのは昭和の時代の学校だから、違うのかもしれないが……)

棚には段ボール箱のような軽量の箱がいくつも並んでおり、キトリーさんはそれを手馴れた感じで確認していく。

ほとんどの箱は空だが、時折、バインダーで束ねられた書類が出てくる。

「普段なら持ち帰らないんだけど、あなたの収納魔法に入れてもらえるとありがたいわ」

「構いませんよ。俺の方でも手当たり次第に入れていきます」

そう言って箱を開けて中の物を 収納魔法(インベントリ) に入れていく。

ほとんどが無意味な文字が羅列された紙だが、時々、サインペンのような筆記用具も出てくる。

「教室の備品庫といった感じね。教材が残っていればよかったのだけど……」

箱をすべて開けたが、やはり大した物はなかった。

「じゃあ、廊下に出てみようかしら」

「先に俺とダンで偵察してきます。少し待っていてください」

そう言ってダンを呼び、スライド式のドアを開ける。

廊下も黒御影石のような光沢のある床で、窓も照明器具もなかった。灯りの魔道具を点けて確認すると、今いる部屋と同じような作りの扉と窓がいくつもあった。

「廊下に異常はありません」というとキトリーさんは俺の横から廊下を覗き込む。

「同じような部屋が続いているわね。どうやらここは学校だったようね」

「そんな感じですね」と答えるが、時間の制約があることも伝えておく。

「ここで野営する気はないのであと三時間くらいしかないですが、どうされますか?」

キトリーさんは三時間という制限に不満気な雰囲気を見せたが、この場が危険であると思い出したのかすぐに了承した。

「そうね。同じような部屋は扉を開けて中を確認するだけで、奥に進みたいわ。ここは“当たり”の遺跡のようだから」

“当たり”という時の声が弾んでおり、楽しくて仕方がないという感じを受ける。本人も危険なことは百も承知なのだろうが、護衛の俺としては苦笑いを浮かべるしかなかった。

「了解です。但し、扉は俺たちが開けます」

ダンと二人で先行しながら廊下を進む。扉を開けて確認するが、会議室か教室のような作りの部屋が三つ続いただけで特に何もなかった。

曲がり角に差し掛かり、奥を見ると、今までと違う両開きの扉があった。

その扉も二人で確認し、「罠も鍵もありません」とダンが報告する。

キトリーさんが頷いたので、ゆっくりと扉を開ける。

中からは微かに懐かしい匂いが漂ってきた。それはインクと紙、そして僅かにカビ臭さを感じる匂いだ。

中は幅が二十メートル、奥行きは三十メートル以上あり、そこには多くの書棚が並んでいる。俺たちは図書室を見つけたようだ。

「凄い蔵書の量ね! これだけの本が残っているところは初めてよ!」

キトリーさんが興奮している。

確かに凄い量の本で、何万冊あるか全く分からない。しかし、古代文明の文字は情報汚染の影響で意味を成さない文字になっているから読むことはできない。

そのことを指摘しようとしたら、「地図とか絵がたくさんある本を探して」とキトリーさんが言ってきた。

(なるほど。図面や絵なら情報汚染があっても役に立つな……)

安全を確認した後、全員で書棚に向かった。ここまで全く危険がなかったため、手分けをして探した方が効率がいいと思ったのだ。というより、書棚の数が多すぎて適当に見ていくだけでも時間が掛かりすぎる。

「地図らしい絵があったらすぐに教えて! 他にも面白そうな絵があったら適当に置いておいてザック君に回収してもらうから」

全員から了解の声が上がるが、キトリーさんのテンションに俺たちは若干引き気味だった。

(この人もラスペード先生と同じ研究者だったんだな……)

そんなことを考えながら書棚の本を手に取り、ぱらぱらとめくっていく。

俺が選んだ書棚は植物か農業関係の棚だったようで、植物の絵や写真、成長具合を示すグラフなどが多く見られた。その中には図鑑らしき本があり、それを 収納魔法(インベントリ) に放り込んでいく。

三十分ほど調べたが、終わる気配がない。何かあった時に回収できないと困るので、選び終わった本を先に回収することにした。

しかし、回収しながらもどんな本か気になる。そのため、つい中を覗いてしまう。引っ越しと同じ感覚だ。

「後でじっくり見せてあげるから、今は片付けることだけを考えてね」

もっと熱中しているはずのキトリーさんに注意されてしまった。

「すみません」と素直に謝るしかなかった。

更に三十分ほどですべての書棚の確認が終わった。

七人で選んだ本は千冊ほどになり、それを無造作にインベントリに放り込んでいく。

その間にダンとベアトリスが周囲の偵察に行くと言って図書室の奥にある扉から出ていった。

「来てよかったわ。こんなに状態がいい本がこんなにたくさん手に入るなんて今までなかったことよ。この場所は本当に価値があるわ。今日は諦めるけど、明日も来るわよ」

いつもの冷静な感じとは異なり、力を入れて話していた。

「何か来るわ!」と突然リディが警告の声を上げる。

「何が……」と言いかけたところで、悪寒のようなものを感じ、その直後、ベアトリスたちが慌てた様子で戻ってきた。

「 亡霊(ゴースト) の群れがやってくる! 尋常じゃない数だ」

俺はすぐさま、「さっきの部屋に戻るぞ!」といって剣を抜き、走り出した。

俺たちだけなら防具の性能で何とかなるかもしれないが、キトリーさんの防具にミスリルコーティングは施されていない。もし、ゴーストに取り付かれたら生命力を奪われてしまうため、早急に脱出する必要がある。

リディたちも俺の後に続くが、廊下に出たところで立ち止まるしかなかった。既にゴーストたちが廊下に溢れ返っていたのだ。強行突破するにはアンデッドに強い俺たちであっても数が多過ぎる。

「どうするの?」とリディが聞いてくるが、逃げるルートは他に思いつかない。

「隣の部屋に別の扉がありました。行き先は確認していませんが、廊下に繋がっていることは間違いありません」

ダンがそう叫び、俺たちを先導していく。

隣の教室に駆け込むとそこにはまだゴーストはおらず、一息つく。

「あの扉です。僕が先に確認しましょうか」

「いや、時間がない。一気に走り抜けよう」とダンの提案を却下し、俺が先頭に立って走り始める。

走りながら、リディとキトリーさんに向かって、

「 浄化(プリフィケーション) の魔法を使うかもしれません。いつでも使えるように心積もりを」

浄化の魔法はアンデッドに対して有効な魔法だ。憎悪に染まった魂を浄化し、成仏させることができる。特にゴーストなど低位のアンデッドには効果的で、最悪の場合は踏み止まってすべてを浄化することも考えていた。

最初からやらないのはどの程度の数がいるか分からないからだ。

俺とリディ、キトリーさんはいずれも光属性魔法の高位の使い手で、百や二百のゴーストなら簡単に浄化できる。

しかし、ゴーストだけとは思えないほどの憎悪を感じている。最初に感じた悪寒でも数百程度のゴーストが発するものではなかったが、今は更に強くなり、少なくとも数千、それも上位の 死霊(スペクター) や更に強力な 死霊魔術師(リッチ) クラスが混じっていると確信するほどだ。

廊下に出るとゴーストの姿があった。耳障りな声のような念が撒き散らされ、通常のゴーストより強い感じがする。しかし、まだ数が少ないことと、俺たちの持つ剣が強力なため、先頭を走るダンと俺だけで容易に倒せる。

廊下は突然途切れ、階段室になった。上に行く階段と下に行く階段があるが、どちらに行けばいいのか判断がつかない。振り返ろうとした時、キトリーさんの声が響く。

「下に向かって!」

その指示に即座に反応し、下に向かう。

理由を聞く時間を惜しんだため、彼女がなぜ下を選んだのかは分からなかったが、遺跡の専門家なので何らかの法則を知っているのかもしれない。そう思い、一番下まで一気に駆け下りる。

その間にもゴーストたちは次々と襲ってくる。

『どうして生きているの?』、『お友達になってよ』、『一緒に遊ぼう』という子供のような思念の中に、『死ね! 死ね!』、『苦しめ! 苦しめ!』、『憎い! 憎い! 憎い!』という憎悪の思念が混じる。

その雑多な思念を受け、頭を締め付けるような鈍痛を感じ、思考がぼやける感じがした。横を見るとダンも苦しげな表情を浮かべ、後ろの五人も同じように顔を歪めている。

ミスリルで強化された防具に加え、精神耐性を持つ俺でもこれほどの影響を受けているので、時間が経てば不味いことになる。

「世のすべての光を司りし 光の神(ルキドゥス) よ。輝ける御身の力にて心の闇を払いたまえ。御身に我が命の力を捧げん。清浄なる光よ! 状態回復(リカバリー) !」

咄嗟にリカバリーの魔法を発動した。

柔らかな光が俺たちを包み込むと、それまでの痛みが一気に消える。ミスリルを使った防具でも防御しきれないほど強い悪意だったようだ。

「助かったよ」というベアトリスの声が聞こえるが、

「後ろからまだ来ます!」というメルの声がそれを遮る。

階段を降り切った先は再び廊下が続いていた。その廊下の左右には教室のような部屋が続き、すりガラスの窓からゴーストたちが襲い掛かってくる。

「リディ、走りながら 浄化(プリフィケーション) の魔法を頼む!」

纏わりつくゴーストをアダマンタイトの剣で斬りながらリディに指示を出す。

俺に応えることなく、リディは呪文を唱え始めた。

「世のすべての光を司りし 光の神(ルキドゥス) よ。聖なる御身を包みし、光の衣を我に貸し与えたまえ。御身に我が命の力を捧げん。穢れし魂に 禊(みそぎ) の光を! 浄化(プリフィケーション) !」

先ほどのリカバリーの魔法より強い真っ白な光が廊下を照らしていく。

窓から出ようとするゴーストはその光を受けて萎むように消えていった。

リディの魔力でこの出力を維持するのは五分が限界だろう。特に走りながらという悪条件であり、三分程度しか使えないと考えた方がいい。

そんなことを考えていると十字路に差し掛かった。

「どっちに行ったらいいですか!」と叫ぶと、キトリーさんは「左に行って!」と叫び返してきた。

彼女の指示通り左に向かうと、大きな観音開きの扉があった。

出口に到着したと思い、安堵しそうになるが、まだ後ろからゴーストたちがワラワラと湧き出ている。

「鍵が掛かっています!」というダンの叫びに、メルが「どいて!」といって飛び出してきた。

ダンが慌てて飛び退くと、入れ替わるようにして前に立ったメルが、扉を一刀両断するかのように、青い光を纏わせたアダマンタイトの魔法剣を振り下ろす。

扉は斜めに切り裂かれ、 閂(かんぬき) が断ち切られたためか、ゆっくりと開いていった。

「やった!」とダンが叫ぶが、すぐに「出口じゃない!」と落胆の声を上げる。

更に悪いことにその中から強い瘴気が溢れ、今までよりも強いアンデッドがいると感じた。

「出口はその先にあるはずよ! あいつを倒せば脱出できるはず!」

キトリーさんの指差す先には巨大な黒い瘴気の塊があった。それは単体のアンデッドではなく、ゴーストが集まってできたものだった。

その瘴気の塊は闇を固めたような触手を伸ばして襲い掛かってきた。

「俺が魔法で倒す。キトリーさんはリディに代わって浄化の魔法を! シャロンは火属性魔法を撃ち込んでくれ。俺はその間に対アンデッド魔法を撃ち込む」

村を襲った 死者(アンデッド) の王、ヴラド・ヴァロノスに苦戦した経験から、強力な対アンデッド魔法を作れないか研究を行っていた。

その結果としてできた魔法を今回使う。

「世のすべての光を司りし 光の神(ルキドゥス) よ。御身の裁きの力を我に。我、御身に命の力を捧げん……」

俺が呪文を唱えている間にシャロンが 獄炎の槍(ヘルフレイムランス) の魔法を撃ち込んだ。しかし、瘴気の塊の一部を消しただけで大きなダメージを受けたようには見えない。

ダンとリディがミスリルの矢じりのついた矢を放つが、それも一部を消すだけでほとんどダメージは与えられていない。

そんな光景を横目に見ながら更に魔力を込めていく。

「……穢れし者に神の裁きを! 光の神の裁き(ジャッジメント・オブ・ルキドゥス) !」

魔力を半分ほど持っていかれると同時に強烈な脱力感が襲う。しかし、それと引き換えに真夏の太陽を思わせる眩い光が部屋を満たしていく。

瘴気の塊から伸びる真っ黒な腕はその光を受け、蒸発するように消滅していく。更に俺の腕で輝いていた光の塊はゆっくりと前に進み始め、瘴気本体に向かっていく。

『ギャアア!』という耳障りな悲鳴が脳に直接響く。しかし、それはすぐに消え、辺りにアンデッドの気配はなくなった。

今回俺が使った魔法は究極の対アンデッド魔法と言えるもので、アンデッドの弱点である光の浄化能力を凝縮したものだ。そのため、物理的な攻撃力はほとんどなく、アンデッド以外には眼つぶし程度の効果しかないが、開けた場所なら広範囲のアンデッドを一気に殲滅することができる。

光が収まるとそこには瘴気の塊はなく、闇属性の魔晶石が一つ落ちていた。大きさは一級相当で、まともに戦ったら容易には勝てない相手だと改めて感じた。

瘴気で見えなかったところに、大きな扉があった。

「私の記憶があっているなら、あの扉から出れるはずよ」

キトリーさんの言葉に全員が走りだす。

突然、ゴゴゴという地鳴りのような音が建物全体から響いてきた。

「遺跡が崩壊するわ! 早くあの扉に!」

何が何だか分からないが、危険であることに違いはない。

走りながら魔晶石を拾い、扉の取手に手を掛ける。一瞬入口と同じように鍵が掛かっていると思ったが、すんなりと扉は開き、外の眩しい光に目が眩んだ。

目を細めながら足元を見ると、既に黒御影石のような床ではなく、普通の地面に代わっていた。そのため遺跡から脱出できたことが分かったが、地鳴りのような音は大きくなる一方で、俺たちは崩壊に巻き込まれないよう全力で走り続ける。

二十メートルほど離れたところで後ろを振り返ると、俺たちが出てきた扉から土煙が上がり、扉は完全に破壊された。

「遺跡が崩壊したわ……」とキトリーさんは呟く。

そして周囲を見回すと、「ここが帝国軍の兵士が見た遺跡のようね」といって遠くを見つめていた。