作品タイトル不明
第六十一話「決意」
トリア歴三〇一八年十月三十日の夜。
カウム王国の王妃カトリーナ・ブレントウッドとの会談を終えた。王妃からは明日の祝勝会でリディとベアトリスと結婚することを宣言し、更にメルとシャロンと婚約したと発表するよう強く勧められた。
帝国貴族からの干渉を防ぐという意味で、王妃の提案は頭では納得できるものだ。しかし、結婚という人生の最重要事項をそんな理由で決めてしまっていいのか悩んでいた。
本来なら明日の祝勝会の準備をしなければならないのだが、とりあえずこの話を片付けなければ準備に集中できない。リディとベアトリスにこの話をすることにし、離れに戻る。
二人を俺の部屋に呼ぶが、なかなか話が切り出せない。おかしいと思ったのか、リディが「どうしたの? 明日の準備で何か問題でもあるの?」と聞いてきた。
ベアトリスも「あたしらにできることなら何でも言ってくれ」と言い、前に乗り出してくる。
「いや、祝勝会の準備はジョニーががんばってくれている。徹夜になるかもしれないが、何とかなるだろう……」
そこで気合を入れ直す。
「王妃殿下、いや、カティさんからある提案を受けた。俺とリディ、ベアトリスの結婚のことだ……」
王妃から受けた提案を話していく。話が進むうちに二人の表情が驚きに変わっていく。
「……明日の祝勝会でリディとベアトリスと結婚を、それだけじゃなく、メルとシャロンにも求婚しろということだ。あまりに急で心の整理がつかない。それにこんな理由でメルたちに結婚を申し込んでいいのか……」
話が終わっても誰も口を開かなかった。
一分ほど沈黙が続いたが、それを破ったのはリディだった。
「悩んでいるって言っても、もう結論は出ているんでしょ」
俺が口を開く前に更に話を続けていく。
「私たちにこんな話をしたのは既に心が決まっているからよ。そうでしょ?」
その言葉に強い衝撃を受けるが、同時に彼女の言いたいことも分かっていた。
「本当に迷っているなら私たちに相談するはずはないわ。だから正直になりなさい」
答えるべき言葉が見つからなかった。
「きっかけはどうでもいいのよ。あなたの気持ちが問題なの。メルとシャロンの気持ちはとっくに分かっているんでしょ。なら、迷うことなんてないわ」
リディは俺の目をしっかりと見つめている。
「あの子たちがどれだけあなたのことを想っているのか分かっているわね」
もちろん俺にも分かっている。
「メルはあのアンデッドの王に単身で向かっていった。俺のために命を捨てることを全く厭わなかった」
「それだけじゃないわ。あなたのためになるならって、ウルリッヒやゲールノートといった気難しい鍛冶師にいろいろと頼みごとをしているのよ。普通の十五、六の娘ならドワーフの親方の前に立つことすら嫌がるのに……」
俺には何のことか分からなかった。
「気付いていなかったようね。ううん、気付かない振りをしているのかしら?」
「何のことだ?」と俺が呟くと、「シャロンのことは気付いているわよね」と言ってきた。俺が首を横に振ると、大きな溜め息を吐く。
「シャロンはあなたのために村を守る方策を考えて実行したわ。ドワーフたちをこの村に呼んでお祭をやったり、王国の騎士団が村に急行できるようにしたり……そのことは気付いているんでしょ」
その言葉に答えることができなかった。
シャロンがジョニーを動かして鍛冶師ギルドに働きかけていることはうすうす気付いていた。あの記憶力がいいシャロンが、不自然に言い忘れていたことが多かった。俺に言えば反対すると思ったのだろう。
「あの子たちはあなたが悲しむことがないように、あなたが板ばさみにならないようにって、自分たちだけで鍛冶師ギルドとカウム王国を動かしたの。それがどれだけ大変なことか……あなたになら分かるでしょ」
普段アルスから出ることがない匠合長を村に呼び寄せる。そして大々的な祭の開催、研修所の開設、救援体制の確立……常識的に考えれば、そのどれもが実現不可能だと、考えることすらしないだろう。それを僅か半年で成し遂げている。生半可な覚悟でなかったことは容易に分かる。
リディはベアトリスを指差し、
「 ベアトリス(この子) もそうよ」
「あたしは何も……」とベアトリスが言いかけるが、
「この子はロックハート家に代わって自警団の子たちの不満を聞いていたのよ。それをさりげなくゴーヴィやウォルトに伝えていたわ……」
ベアトリスが自警団の打ち上げにたびたび参加していたことは知っていた。姉御肌で美人の彼女は若い自警団員からベテランまで人気が高い。
実際、今回の防衛戦でも彼女の率いる部隊は他の部隊以上に活躍している。それは指揮官である彼女に心酔していたからだろう。
「確かにゴーヴィを筆頭にロックハート家の人たちは凄いわ。でもね、村の人と上手く付き合っている人って少ないのよ。ヘクターくらいよ、村の人が物怖じせずに言えるのは。そのヘクターも森に行くことが多くなったじゃない。みんな不満を溜めていたの……」
ロックハート家の従士団はウォルト・ヴァッセル、ニコラス・ガーランド、ヘクター・マーロン、ガイ・ジェークス、バイロン・シードルフ、ウィル・キーガンの六人に加え、イーノス・ヴァッセル、シム・マーロン、ダン・ジェークスの三人の嫡男たちで構成される。
このうち、ウォルト、バイロン、ガイの三人は強面で気安く声を掛ける雰囲気じゃないし、ニコラスは真面目な性格で愚痴を言いにくい。イーノスとシムはそれぞれ父と兄の副官役だし、ダンも俺たちと一緒にいることが多いから村人たちとの接点が少ない。ウィルは自警団員から出世しており、言い辛いところがある。
ヘクターは昔から自警団の取りまとめ役で不満や不平を汲み取る役だったが、東の森の偵察が増えたことから自警団の飲み会にあまり参加できていない。
他にも主だった従士たちの年齢が高くなり、自警団員たちの親世代になってしまったということもコミュニケーションが取れなくなった要因だろう。
そんなロックハート家にあって、ベアトリスは比較的自由な立場だ。俺の婚約者というふれ込みで村に来たが、冒険者生活が長いこともあり、若い連中とコミュニケーションを取るのがうまい。自警団員も裏表がなく豪放な性格のベアトリスなら多少の不満を言っても笑って済ませてくれると思っているのだろう。
「ベアトリスがおじい様たちにいろいろ提案しているのは知っている……」
「三人ともあなたのために、あなたを助けるためにがんばっているの。それでも迷う必要があるのかしら」
「ああ、俺にはもったいないくらいだ……」
俺の心が決まった。
「リディの言う通りだな。ありがとう」
そう言ったものの、リディとベアトリスの家族に挨拶にも行っていない現状で結婚を進めていいのかと思い直す。
「メルとシャロンは家族が近くにいるが、リディたちの家族に何も言わないのはどうなんだ?」
リディは真剣な表情から打って変わり、いつもの調子でひらひらと手の平を振り、問題ないと言ってきた。
「そんなこと別にどうでもいいわよ。きっと祝福してくれるだろうし、そのうち余裕ができてからでも。エルフはそういうところは気が長いから。ベアトリスも同じでしょ?」
「ああ、あたしも家出同然で村を出てきたからな。父や母は既にいないし、今更、兄に言う話じゃない。だが、急過ぎて頭が付いていかないよ」
「確かに急過ぎる。それは分かっている……二人はいいんだな。俺と結婚することは」
俺はそう言って立ち上がった。そして、リディの前に跪く。
「俺と結婚してほしい。君の人生の一部を俺にくれないか」
先ほどまであれほど雄弁に語っていたリディだが、答えはなかなか返って来なかった。シーンと静まり返ったリビングに、震えるようなリディの声が響く。
「ありがとう……昔、十年以上前にも同じことを言ってもらったけど……本当にうれしい。私の人生のすべてをあなたにあげるわ」
そういった後、俺に抱きついてきた。しばらく抱きしめた後、泣き笑いのような顔を見せる。
「私ばかりが独占したら悪いわね。次はベアトリスの番」
リディに口付けをした後、目を丸くしているベアトリスの前に立つ。彼女を立たせた上で先ほどと同じように跪き、
「俺と結婚してほしい。俺の隣にいてくれないか」
ベアトリスの手を取ると、その手は僅かに震えていた。ゆっくりと見上げると切れ長の瞳から一筋の涙が零れている。
「あたしでいいんだね。本当にこんなガサツな女で……あんたの隣に……喜んで……」
切れ切れに呟く姿が愛おしくなり、立ち上がって抱き締める。
「これからもよろしく」
そう言うと俺の肩に顔を埋め、泣き始めた。
リディが「ベアトリスもそんな風に泣くのね」とからかうが、「これからは家族なんだから弱みを見せてもいいのよ」と言って後ろから抱き締めた。
しばらくそのままでいるとベアトリスも落ち着きを取り戻す。
「みっともないところ見せちまったね」と笑うが、すぐに表情を引き締める。
「メルとシャロンに話をするんだね。だったら今の話はしちゃいけないよ。あんたが自ら決めたってことじゃないとかわいそうだ」
「ああ、もちろん、そのつもりだ。二人だけに相談するつもりだったからな」
その後、リビングに行き、メルとシャロン、そしてダンを呼んだ。
まず、明日の祝勝会でリディたちと結婚することを伝える。三人は「おめでとうございます!」と声を合わせて祝福してくれた。
三人の祝福を受けた後、メルとシャロンの二人を正面に座らせる。
「二人にも話がある」と切り出すが、その次の言葉がなかなか出ない。隣に座るリディが肘で突いてきたことで何とか言葉を絞り出す。
「メル、シャロン。俺と結婚してほしい」
そう言って頭を下げた後、二人を見つめる。
メルは俺の言葉が信じられないのか、元々大きな目を一杯に開き言葉を失っている。一方のシャロンも信じられないという表情を浮かべているものの、何か言いたげな表情を見せている。
シャロンの表情を無視して話を進めていく。
「と言ってもすぐにという話じゃない。明日の祝勝会で二人とも婚約したとウルリッヒたちに報告したいんだ。もちろん、こんな急なことだ。二人の気持ちの整理がつかなければ先に延ばしてもいい」
メルは真っ赤な顔になり、首を大きく左右に振っている。分かっているという意味を含め頷くと、更に話を続けていく。
「それにまだ父上やヘクターたちにも話していない。反対されるとは思っていないが、急すぎると言われるかもしれない」
俺が話し終えるとすぐにメルが立ち上がった。ただ言葉にならないのか口をパクパクと動かしているだけだった。代わりにシャロンが口を開いた。彼女も顔を赤く染め、言葉を捜しながらしゃべり始めた。
「な、何て言っていいのか……でも、うれしいです! メルちゃんも一緒だと思います。ううん、一緒です!」
シャロンの言葉でメルもようやく口が利けるようになった。
「ほ、本当にいいんですか! 本当に……」
俺は立ち上がり二人の傍にいく。そして、まずメルを抱き締めた。
「随分待たせた気がする……もう一度言わせてくれ。俺の妻になってくれ」
メルは俺の胸にしがみつき、わんわんと泣き始めた。泣きながらも「はい」と何度も言っている。こんな姿を見ると本当に一途に俺のことを想ってくれたんだと涙が零れそうになる。数分間抱き締めるとようやく落ち着きを取り戻した。
耳元で「まだシャロンがいるから」というと、「はい」と頷き、「ごめんね」とシャロンに謝る。
メルから離れた後、隣にいるシャロンも同じように抱き締め、
「いつも俺のためにありがとう。これからは妻として支えてほしい」
シャロンは真っ赤になり何も言えなくなった。大人びているようでもやはり十六歳の少女に過ぎないのだ。
蚊の鳴くような声で「ありがとうございます……」と答え、これで二人へのプロポーズが終わった。
しかし、やることはまだ残っている。そう、ダンのことだ。
ダンはメルがうれし泣きしていることを優しく見守っていたが、やはり心残りがあるのか時折寂しげな表情を浮かべていた。
本来なら彼のいないところでプロポーズすべきだが、十年以上彼女を見守っていたダンに対するけじめが必要だと思い、彼の前で求婚したのだ。
「残酷なことをしたと思っている。だが、謝罪はしない」
ダンは「はい……いいえ……」と言って必死に首を横に振っている。俺はそれに構わず、
「メルは必ず幸せにする。だから、お前も幸せになってくれ。すぐに気持ちを切り替えられないと思う……どう言っていいのか分からないが……」
ダンは立ち上がると俺の手を取り、「メルのことを頼みます。妹のことも……」と言って頭を大きく下げた。
そして、泣き笑いのような顔をしながら、
「僕も誰かいい人を探します。ザック様みたいに四人は無理だと思いますけど」
そう言うとメルに「おめでとう。ようやく夢が叶ったね」と言って祝福する。
メルが「ありがとう」と返すと、「僕は少し外の風に当たってきます」と言ってリビングを出ていった。
「 ダン(あの子) もいい男になったね」とベアトリスが言うと、リディも「あら、昔からよ。ザックよりよっぽど」と笑う。
「確かにな」と答えながら、ダンのことを考えていた。
(あんな素直で良い奴の初恋を、俺は散らしてしまった……悪いという気持ちはあるが、こればかりは譲ってやるわけにはいかないんだ……これで一皮剥けてくれれば、本当に良い男になるだろう。リディじゃないが、俺なんか比較にならないほど良い男に……)
ダンを見送った後、メルとシャロンが落ち着いたところで今後の話をしていく。
「今から父上やヘクター、ガイたちに話をしに行く。だが、その前に俺の考えを聞いてほしい」
二人だけでなくリディたちも居住まいを正す。
「リディとベアトリスとは明日結婚する。正式には 人の神(ウィータ) の神殿の神官に来てもらってだが、実質は明日、ウルリッヒたちの前で宣言した時だと思っている……」
四人は同じように頷いている。
「……メルとシャロンはとりあえず婚約だけだ。突然ということもあるが、俺としてはもう少し大人になってからの方がいいと思っているからだ……」
リディが「まだ待たせるつもりなの? いつまで待たせるつもりなの」と口を挟む。
「一年半くらいだな。本当は二人が二十歳になるまで待ちたいんだが、それでは待たせすぎだろう」
ベアトリスが「なんで二十歳に拘るんだい?」と聞いてきたので、
「子供ができた時のリスクだ。十代での妊娠はリスクが高い。まあ、俺とリディがいれば何とかなると思うんだが……」
妊娠という言葉にメルとシャロンが再び赤くなる。
「あら、十七、八の 娘(こ) が子供を産むなんて普通のことじゃないの? 早い子だと十五くらいでも産んでいるわ。この村にも何人もいるけど、特に問題は無いと思うんだけど?」
リディの言葉にベアトリスも頷いている。ちなみにメルとシャロンは真っ赤な顔で俯いたままだ。
「確かにその通りなんだが、俺のいた世界にはそんな話があったはずなんだ。身体が完全に出来上がるまでに出産することはリスクがあると。俺もうろ覚えで何とも言えないんだが、リスクは少しでも減らしたい。それにここ一年ほどはバタバタするはずだ」
「そうなのかい? あたしは今回の戦いで落ち着けると思っていたんだがね」
ベアトリスの言葉にリディが頷いている。
「恐らくだが、一度は帝都に行かないといけない。そうなればあっという間に一年くらいは過ぎる。それなら再来年の春、季節がよくなってから盛大に祝ってもいいんじゃないかと……」
王妃の指摘ではないが、今回の戦いでロックハートの名は高まりすぎた。もちろん俺の名もだ。
帝都はここから千キロ以上離れている。行くとなれば片道だけでも二ヶ月は掛かる。行ってからも用件を済ませてすぐに帰るなんてことはできないだろう。
下手な行動を取れば皇太子派、レオポルド皇子派の両方から手を出されるのだ。慎重に行動しようとすれば一ヶ月や二ヶ月はすぐに過ぎてしまう。それにシーウェル侯爵の領地に行ったり、辺境伯のところに寄ったりする可能性がある。そうなれば一年程度見ておくのが妥当だと思っている。
「あの子、ルナはどうするつもりなの? ここに置いていく訳にはいかないんでしょ」
「連れて行くつもりだ。ここにいるより俺たちと行動をともにした方が安全だからな。それに気分転換にもなる。戦闘があったこの村に残るより、他の場所を見せた方がいいんじゃないかって思っている」
父が帝都に行くことは間違いないが、主だった従士も行く必要があると考えている。王妃の言う通りロックハート家が子爵家になるなら、従士たちも騎士に叙任される可能性が高い。そうなれば当主か嫡男が行く必要があり、ラスモア村の戦力は大幅に低下する。
通常の魔物程度なら祖父とウォルトが残り、自警団を指揮すれば問題ないだろうが、万が一、今回のようにルナを狙う勢力が襲ってきたら危険すぎる。これはルナにとっても村にとってもという意味で。
「話を戻すが、結婚式は再来年の春まで待ってほしい。メル、シャロン、待たせてばかりですまないが、それで頼む」
「私は大丈夫です。だって、もうやきもきする必要がないんですから」
メルがそう答えると、シャロンも頷き、
「私もです。それに再来年の春なら、私も十八です。もう少し大きくなるはずですから……」
そう言いながらちらりと胸元に視線を向けていた。十六歳になったが、まだ少女の面影を強く残していることをコンプレックスに感じているらしい。
話を終えると、五人で屋敷に向かった。
父と母に報告すると、急な話に驚くものの、二人とも祝福してくれた。
母は「おめでとう、ザック」と言って俺を抱き締める。父は抱き締められている俺の肩に手を置き、「おめでとう」と祝福するが、
「それにしても四人も義理の娘ができるのか。それも年上の……」と呟いた。
その言葉がリディの耳に入り、「あら、何か不満があるのかしら。 義父様(おとうさま) 」と睨む。
父がしどろもどろになっていると、リディが笑い声を上げ、俺たちも同じように笑った。
その後、祖父や兄たちに報告し祝福された。
更にメルの両親であるヘクターとポリー、シャロンの両親であるガイとクレアに挨拶に行った。
ヘクターは「娘を頼みます」と俺に頭を下げた後、満面の笑みで「よかったな。夢が叶って」と言ってメルの頭を撫でていた。
ガイたちにも挨拶をすると、同じように頭を下げられた後、ガイが「この子の手綱をしっかりと握っておいてください」と言った。
「いや、普通は逆だろう。旦那の手綱を妻が握るんじゃないのか?」
そう言うとガイは真剣な表情で 頭(かぶり) を振る。
「この子はザック様のことになると、何をするか分かりません。ご迷惑をお掛けしないか、いつも心配していたのです……」
ガイは出来が良すぎる娘の行動に危機感を抱いていたようだ。
「大丈夫だ。シャロンはきちんと分別がついている。やってはいけないことは絶対にやらないよ」
俺がそう太鼓判を押すが、あまり納得していない。
「分かった。シャロンのことは任せてくれ。無茶なことは決してさせない。誓うよ」
両方の両親に挨拶を終えると、既に深夜になっていた。しかし、これでようやく落ち着けると思うと何となく心が軽くなった。
まだ、明日の準備があり、エルウェス卿とジョニーの手伝いが残っているが、それでもゆっくりする時間くらいは作れるだろう。
そう思ったのだが、祝勝会の準備に行く前に母に呼び出された。俺だけでなく、リディたちも一緒に。
俺たちが集まると、すぐに母がまくし立ててきた。
「明日着る服は用意できているの? リディアさんもベアトリスさんもロッドの披露宴で着たドレスを持っていらっしゃい。あなたたちのは大丈夫だと思うけど、メル、シャロン、あなたたちのドレスは手直しがいるはずよ。すぐに持ってきなさい。それにポリーとクレアも呼んでおいて。明日の朝までに直さなきゃいけないんだから」
その勢いに全員が固まる。
「何をしているの! 時間がないのよ!……のんびりしている暇なんてないの!」
母の剣幕に全員が一斉に走り出した。走りながら顔を見合わせ笑い出す。
死を覚悟する戦いが本当に終わったのだと改めて思った。