軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五十八話「闇色の武具の謎」

トリア歴三〇一八年十月二十九日午後三時頃。

西の森で倒したグールの焼却処分を終え、屋敷に戻ろうとしていた時、西の森に多くの人の気配を感じた。

アルス街道から村に向かう道がドワーフで溢れていたのだ。

事前に千三百人に上ると聞いていたが、実際それだけの人数を見ると圧倒される。昨年アルスを訪問した際にも鍛冶師ギルドの総本部で数百人のドワーフに囲まれているが、その倍以上であり、更に全員が武装している。その姿は圧巻だ。

先頭の集団に匠合長ウルリッヒ・ドレクスラーがおり、俺の姿を見つけるとドタドタと駆け寄ってきた。更にゲールノート・グレイヴァーやオイゲン・ハウザーら高名な鍛冶師たちも同じように駆け寄ってくる。

「おお! 無事と聞いておったが、心配しておったぞ。本当によかったわい!」

森の中で数十人のドワーフが次々と声を掛けてくる。心から心配していたという気持ちが伝わり、目頭が熱くなる。

「ありがとう。今は後始末をしているが、それもあと数日で終わる。そうなれば元の平和な村に戻る」

俺の説明にドワーフたちが頷き、ウルリッヒが「では村に向かうぞ!」と号令をかけた。それに対し、ドワーフたちは「「ジーク・スコッチ!」」という掛け声で応える。

(ジーク・スコッチ? 何だ、その言葉は……響きが宇宙世紀の公国に似ているんだが? それとも金髪の皇帝の銀河帝国の方か……)

そんなことが頭に浮かぶが、ドワーフたちは熱狂しており、意味を聞く雰囲気ではなかった。隣にいるシャロンが「どういう意味なのでしょう?」と聞いてくるが、肩を竦めることしかできなかった。

グールの残骸を処理し終えていた俺たちも一緒に村に向かうが、ドワーフたちの歩く音に圧倒される。大地を踏み締める足音は重装歩兵の行軍と言ってもおかしくないほどだ。実際、重厚な鎧を身に纏っているから、見た目は完全に重装歩兵なのだが、彼らは兵士ではなく、鍛冶師なのだ。

森を抜けると父と兄がウルリッヒたちを出迎えに来ていた。更にカウム王国軍も指揮官ロクスバラ男爵と百名程度の兵士たちが同じように出迎えに加わっている。

伝令によって知らされていたが、ドワーフたちの中にカトリーナ王妃の馬車があり、それを出迎えるためだ。王妃の馬車は安全を考えて隊列の中央部にいるため、先ほどは顔を合わせていない。

帝国と王国の間の協定に王室関係者の訪問の取り決めはないが、今回はカウム王国軍の慰問という名目らしく公式訪問になるらしい。

父がウルリッヒたちを出迎えていると、一台の馬車が村に入ってきた。カウム王家の紋章が入った豪華なもので、十騎ほどの騎士が前後を固めている。

その騎士たちだが、アルスから同行したのではなく、途中から加わったそうだ。それほど慌ただしく出発したらしい。

カウム王国軍の兵士たちが一斉に剣を引き抜き、顔の前に掲げる。その統一された動きは王国屈指の精鋭だと感じさせるものがあった。

王家の馬車が止まり、中からドレスを纏った貴婦人が現れた。長旅の疲れも見せず、優雅に馬車を降りてくる。

王妃はロクスバラ男爵らに笑みを向けるが、すぐに父の方に向かった。父と兄は片膝を突いて頭を下げ、他国の王家に対する敬意を示している。

「この度は大変な激戦が行われたと聞き、心を痛めておりました。亡くなった勇者たちに哀悼の意を表します。また、貴家の武勲に対し、王国を代表して敬意と、そして感謝を捧げます」

王妃の言葉に父が「もったいないお言葉を頂き、感謝の念に耐えません」と返し、正式な出迎えが終わる。

「それでは屋敷の方に」という父に王妃は優雅にお辞儀をし、馬車に乗り込んだ。

最近は大酒飲みという印象しかなかったが、さすがは一国の王妃だと感心した。

(さすがは“女王様”だ。“カティさん”の面影は見た目くらいしかない。しかし、王妃自らがこの村を訪問する理由はやはり鍛冶師ギルド絡みか。ウルリッヒたちがトラブルを起こさないように付いてきたんだろうな……)

鍛冶師ギルドの施設を守るという名目でカウム王国がラスモア村に援軍を派遣する取り決めがなされたが、王家、それも王妃という高い地位の者が村を訪れる理由にはならない。

特に戦場である可能性が高い場所に、護衛も付けずに王妃が出向くことは不自然というより異常だ。

安全が確認されるまでラスモア村に入らないという考えだったかもしれないが、ロックハート家が敗北していたならば、アルス街道にアンデッドの群れがなだれ込んでいただろう。そうなれば、カウム王国側も安全とは言い難い状況になっていたのだ。

そんな状況の場所に王妃が出向く理由は王国の存亡に関わる事態が想定されたからだろう。つまり、鍛冶師ギルドとの関係を配慮したということだ。

(情報はないが、ウルリッヒたちのことだ、きっと暴走したんだろう。カティさんはトラブルにならないように露払いをしたって感じだろうな。それにしても村に来る必要はないんじゃないか? まさかスコッチを飲みに来たわけでもないだろうし。何か政治的な意図でもあるのかな……)

ウルリッヒたちがやってくることは想定していたが、王妃が来る理由が思い付かない。街道をスムーズに移動するという目的なら、国境の町ボグウッドまでで充分だ。あの抜け目のない王妃が村に来るということはそれなりの理由があるはずだ。

(後でシャロンと考えるか。シャロンはカティさんの考えを読むのが得意だからな。どうしてかは分からないが……)

王家の馬車が出発した後、ウルリッヒたちと共に館ヶ丘に向かう。

「この辺りは戦場にならなかったのか」と、村の中心部を見ながらウルリッヒが呟く。

「ありがたいことに戦場は館ヶ丘周辺だけだ。研修所も蒸留所もここと同じように全くの無傷だ。まあ、蒸留所は造りかけの原料が全部駄目になったから、掃除が大変だったんだがな。それもペリクリトルの鍛冶師たちが手伝ってくれたお陰でほとんど終わっている」

そんな話をしながら丘の間を抜けていく。

北ヶ丘を抜けると集められたスケルトンの残骸、つまり白骨の山が見えてくる。その山はいくつも並んでおり、不気味な光景を作り出していた。更にスケルトンたちが使っていた錆びた剣も山積みにされており、死者の国のような物悲しさがあった。

豪胆なドワーフたちもその光景に目を奪われ、絶句している。

「あの山が東と北にもあるんだ。あれの処分を考えると頭が痛いよ」

俺の軽口にウルリッヒが「スケルトンだけで一万一千と聞いたが、あれほどとは……」と呟く。他のドワーフたちも同じような感想を持ったのか、しきりに頷いていた。

館ヶ丘の周辺の草原はアンデッドたちに踏み荒らされ、ところどころ土が見えているが、まだ晩秋というほどでもないため、その部分も既に芽吹き始めていた。

歩きながらウルリッヒに彼らの宿泊について説明していく。

「王国軍は館ヶ丘の西に天幕を張って野営してもらっているが、鍛冶師方には館ヶ丘の学校と民家に分かれて泊まってもらおうと思っている」

「それには及ばん。儂らも天幕を持参しておる。もちろん酒と食料もな……」

事前の情報にはなかったが、ドワーフたちの隊列の後ろに荷馬車が百輌以上いるらしい。あまりの手回しのよさに驚く。

「手回しがいいな。ギルドの職員も同行しているのか?」

「いや、職員は連れてきておらん。カティ、いや、王妃がエルウェス卿を連れてきたんじゃ。エルウェス卿がすべて手配してくれた……」

四月の技能評定会と酒類品評会、いわゆるドワーフフェスティバルの際にやってきた若手官僚、オットー・エルウェス卿が同行していた。当初はここまで一緒に来る予定だったが、安全が確保されたという連絡が入り、ドワーフたちへの補給物資、つまり酒を手配するため、急遽アルス街道の宿場町に対策本部を立ち上げたそうだ。今も不眠不休で働いているらしい。

(ドワーフ千三百人分の酒か……ビールだけで考えても一人一日十リットルとして、一万三千リットル。中型のホグスヘッド樽で五十以上だ。何日滞在するつもりかは知らないが、アルスに戻るまでだけでも最低十五日は掛かる。それだけで八百樽近い量の酒がいる。宿場町や近隣の村から掻き集めてもあっという間に足りなくなるな……)

頭の中で計算し、エルウェス卿の仕事の困難さに同情した。

ウルリッヒら主要な鍛冶師は、祖父ゴーヴァンと従士ニコラス・ガーランドの見舞いのため、屋敷に向かった。他のドワーフたちは野営の準備のため、北の草原に向かっている。

屋敷に入ると、王妃が祖父を見舞っていた。祖父はアンデッドの王、ヴラド・ヴァロノスとの死闘で重傷を負っただけでなく、ヴラドの漆黒の剣によって精神に強いダメージを受けている。

身体の方はほぼ完治しているが、精神的なダメージはまだ抜け切っていない。同じようにヴラドの攻撃を受けたニコラス、ベアトリス、メルも精神的な疲労を訴えており、呪いの類いを掛けられたらしい。

当初は俺が 状態回復(リカバリー) の魔法を何度も掛けたのだが、あまり効果がなかった。単純な闇属性魔法によるダメージではないと考えていたが、それを回復させるイメージがなかなか作れなかったのだ。いろいろ試してみて、ようやく効果が現れ始めたところだ。

戦闘直後は立ち上がることすらできなかった祖父だが、今は何とか歩けるところまで回復している。症状が比較的軽かったベアトリスとメルは完全に回復し、ニコラスも日常生活に支障がないまでになっていた。

王妃が見舞った後、ウルリッヒたちも見舞うため、俺が同行した。

ウルリッヒはドワーフの鍛冶師たちが心血を注いで作った防具が役に立たなかったことに衝撃を受けていた。

「ベアトリスとメルの鎧はゲールノートの最高傑作じゃ。それにゴーヴァン殿の鎧もデーゲンハルトたちがザックの知恵を借りて作った最新のもの。それが役に立たなかったとは……」

「役に立たなかったわけではない。あれは敵が異常だっただけじゃ」

祖父が鍛冶師たちにそう言い、俺が補足する。

「リッチの魔法はほぼ完ぺきに防いでいた。それに確証はないんだが、あのアンデッドの王は我々の知っている魔法とは別の力を使っていたと思う。実際、闇属性に対する治療をしてもあまり効果がなかったんだ」

ドワーフたちは別の力と聞き、首を傾げている。

「後でウルリッヒたちに見てもらうつもりだが、あの漆黒の剣は闇属性だけじゃない気がする。だからと言って他の属性が付与されているようにも見えないんだ。だが、見てもらえれば分かる。あの剣には何か別の力が込められていると」

今回、ウルリッヒたちが来ると知り、ヴラドの剣と鎧を彼らに検分してもらうつもりでいた。俺とベルトラムで調べているが、超一流の鍛冶師に見てもらった方がいいと思ったのだ。

その後、ニコラスを見舞うが、彼はウルリッヒたちが来たことに恐縮していた。

「私はあまり役に立たなかったですから。それに既にザック様のお陰で、この通りほとんど回復しています。わざわざ来ていただいて申し訳ありません」

見舞いを終え、従士やリディたちに挨拶を終えると、ウルリッヒが珍しく歯切れが悪い感じで声を掛けてきた。

「少し気になったんじゃが、祝勝会はもう終わったのか。いや、終わったのならそれでいいんじゃが……」

その問いに父が俺に代わって答えた。

「今回の戦いで三十名もの尊い犠牲が出ているのです。幼い子を残した若い父親、結婚したばかりの若者、年老いた母を残していった者……家族の気持ちを考えれば、追悼の式典は行っても祝勝会は行えません。そういうことです」

戦闘が終わってから既に四日が過ぎている。しかし、家族を失った者たちの悲しみは深くなるばかりだろう。

「そうか。そうじゃな。すまなかった。今のは忘れてくれんか」

そう言ってウルリッヒは頭を下げた。

「その詫びでもないが、儂らにできることは何でも言ってくれ。自慢ではないが、これだけのドワーフがおるんじゃ。力仕事なら騎士団の連中より遥かにできるぞ」

今回アルスから来たドワーフは千三百人。半数は女性だが、ベルトラムの妻ミーナを見ても分かるようにドワーフの女性は人間の成人男性以上の力を持つ。また、老人といえども屈強な体つきをしており、人間であれば三千人分くらいの労働力になるのではないかと思っている。

しかし、今のところやってもらうことが思い付かない。激しい戦闘が行われたとはいえ、家屋に損害はなく補修する必要はないし、防壁や堀が多少傷んでいるが、それも俺の魔法で簡単に補修できる。

第一、世界に冠たる鍛冶師たちにそんな雑用を任せるというのは人材の浪費としか思えない。

「正直、ほとんどやることがないんだ。今のところ修理が必要な物はないし、武具の手入れもベルトラムとギーゼルヘールたちがやってしまっている」

ゲールノートが「遠慮せんでいいんじゃ。儂らはこの村のためなら何でもする」と言ってくれるが、本当に思い付かない。

そのことを告げると、ウルリッヒたちはがっくりと肩を落とす。

その時、シャロンがおずおずと手を上げた。俺が「何か考えがあるのか」と聞くと、

「スケルトンの骨を細かくしてもらってはいかがでしょうか? 幸い皆さんハンマーをお持ちですし……」

スケルトンの骨は焼いて灰にして西の森に撒くか、埋めるつもりでいた。魔晶石を取り出し脆くなっているとはいえ、一万以上の通常サイズのスケルトンや百体近い数のオーガサイズのスケルトンの骨がある。正確な量は分からないが、恐らく五十トンは下らない。それを焼くだけでも何日かかるのか正直分からない。

しかし、それでも超一流の鍛冶師に頼むのは気が引ける。

「確かにそうだが、ウルリッヒたちのような超一流の鍛冶師がやるようなことじゃない」

シャロンは俺の言葉に「出すぎたことを言いました」と頭を下げるが、ウルリッヒは大きな声で「それをやらせてもらおう!」と言った。

「いや、ウルリッヒやゲールノートがやるようなことじゃ……」と言いかけるが、

「儂らがやりたいんじゃ。やらせてくれんか。それに儂らなら一日あれば粉々にできるぞ。川に流しても溜まらん程度に砕くこともできる。そうすれば、お前の仕事が一つ減るじゃろう」

ウルリッヒは骨を砂のように細かく砕き、 黒池(ブラックラフ) から流れ出るブラック川に流してはどうかと提案してきた。

俺としては産廃を川に捨てるようであまり気乗りしないが、カウム王国の一部では死者を焼いた灰を川に流す風習もあるらしく、忌避感はないそうだ。

「川に捨てるかはともかく、骨を砕く仕事は儂らがやる。明日の朝から始めるから、どうすればいいのか教えてくれんか」

他のドワーフたちも完全にやる気になっており、結局任せることになった。

その後、ヴラド・ヴァロノスの剣と鎧を鍛冶師たちに公開した。アルスの親方クラス三百人とペリクリトルの主要な親方三十人ほどが集まり、学校の前の広場で検分作業が行われた。

漆黒の剣だが、長さは一・五メートルほど、 剣身(ブレード) の幅が狭く、一見するとエストックのように見える。しかし、その剣身はカミソリのような鋭利な刃を持ちながらも、 細剣(レイピア) のようなひ弱さは一切感じさせない。

恐怖こそ撒き散らしていないが、未だに禍々しい雰囲気を保っている。

同じく漆黒のフルプレートアーマーは光を一切反射せず、本当に金属でできているのかと思うほどだ。この鎧はオーソドックスな形だが、剣と同じく独特の禍々しさがあった。

ウルリッヒが剣を、ゲールノートが鎧を穴が空くほど見ている。他の鍛冶師たちもやや離れた位置から見つめており、順番に見ていくようだ。

二時間ほどで全員が一通り見終えたが、ドワーフたちの様子がいつもとは異なった。禍々しい雰囲気はともかく、剣も鎧も作り自体は非常に精巧であり、更に俺が調べても分からない特殊な素材が使われている。

いつもなら自分たちが触れたことがない武具を見れば興奮気味に仲のいい鍛冶師仲間と盛り上がるのだが、今日に限っては全員が沈黙し、その顔に笑みはなかった。

「こいつは何でできているんだ? お前ならある程度予想できているんじゃないのか」

ウルリッヒがそう聞いてきた。しかし、俺にも全く見当が付いておらず、肩を竦める。

「分からないんだ。最初は何かの合金だと思って金属性魔法で分析もしてみたんだが、何度やってもよく分からない。金属に見えるが、別の素材じゃないかと思っている」

「そうじゃろうな。儂もゲールノートも、他の連中も全く見当がつかん。叩けば金の音がするんじゃが……」

ウルリッヒに代わりゲールノートが説明を始める。

「儂の見立てでは、強度はアダマンタイトに匹敵するんじゃが、重さは鉄の半分にしかならん。こんな素材は初めてじゃ。もし、これが使えれば武具に革命が起きる。それほどのものじゃ。少なくとも儂らが知る“金属”ではないな」

ウルリッヒたちドワーフの名工は金属性魔法が使える。長年の経験で武具に使う金属なら見ただけで、その生産地まで当てることができるのだが、この剣と鎧に関しては金属であるかすら分からなかった。

「魔法陣についてはどうじゃ。儂が見るに剣には何らかの魔法が仕込んであるが、八属性のいずれでもない。第一、魔晶石が見当たらん」

それも俺がぶつかった壁だ。

確かに魔法陣らしきものは刻んであるが、俺が知るどの属性にも該当しなかった。ただ、増幅回路と出力回路に該当する部分は俺が知る魔法陣と大きく変わっていない。つまり、入力部分が謎なのだ。

「属性が何なのかは全く分からない。ただ効率がいい魔法陣であることは分かっている」

その後、ウルリッヒから父に正式に申し出があった。

「あの剣と鎧を鍛冶師ギルドに売ってくれんか。儂らで研究してみたいんじゃ」

「それは構いませんが……ザック、問題ないのだな。呪いを受けるようなら、処分した方がいいが」

「厳重に保管し、誰にも装備させないなら問題はないと思います」

装備しないといったが、剣は持っても異常状態にならないし、魔力を通しても俺には影響なかった。さすがに鎧を着る勇気はなかったが。

処分といっても簡単に処分できない。ハンマーで叩いても全く凹まず、アダマンタイト用の高温の炉に鎧の一部を入れてみても変形すらしなかった。

それならと金属性魔法で金属を抽出して壊そうとしたが、魔法すら全く効果がなかった。こうなると完全にお手上げで、処分する方法は地中深くに埋めるくらいしか思い付かない。

何かの拍子で知らない者の手に渡る可能性があるなら、鍛冶師ギルドに保管してもらった方が安全だろう。

そう説明すると、父も頷くしかなかった。元々、ここに置いておくつもりもなく、処分方法に困っていたのだ。

下手に持っていて皇帝辺りから献上しろと言われる方が面倒だ。皇帝がどうなろうが関係ないが、呪いで死者が出たらロックハート家が責任を問われる可能性がある。それなら、皇帝すら取り上げられない鍛冶師ギルドに預かってもらうのが一番いい。

金額については“無期限貸与”という形で受け取らないことにした。これは既に優秀な武具を無償で受け取っているためで、父がどうしても無償で渡したいと言ったからだ。

その後、シャロンを含めたザックセクステッドで王妃の訪問の目的を考えた。しかし、シャロンですら、明確な答えは思い付かなかった。

その日の夜は北の草原でドワーフたちが戦死者を弔いながら酒を飲んでいた。

父からスコッチを差し入れるように言われ、そのことをウルリッヒに告げに言ったが、

「今日は戦死した勇者を静かに弔わせてもらう。スコッチは明日に回してくれると助かる」と言って断られた。

最初は耳を疑ったが、いつもは陽気な彼らが静かにジョッキを傾ける姿に、本当に村のことを思ってやってきてくれたのだと改めて感じた。