作品タイトル不明
第三十二話「ドワーフフェスティバル:その二」
トリア暦三〇一八年四月二十一日の正午頃。
鍛冶師ギルド主催の酒類品評会が始まった。
鍛冶師ギルドの総本部及び各支部が持ち込んだ酒は百樽を超え、それぞれのブースとなっているテントで振舞われている。
今回用意された酒はエールなどの上面発酵タイプの麦酒が三十種類、ラガーなどの下面発酵タイプの麦酒が二十種類、赤ワインと白ワインがそれぞれ二十種類、リンゴ酒などその他が十種類となっている。
最も多くの酒を持ち込んだアルスの総本部で約三十の樽が並んでいる。
地域別で整理すると、アルス総本部が約三十、プリムス支部が約二十五、ウェルバーン支部が約十五、ペリクリトル、ドクトゥス、フォルティスの各支部がそれぞれ十種類程度で、およそ百種類の酒がラスモア村に集まっていることになる。
更に村の麦酒だけでなく、近隣のキルナレックやボグウッドからも数樽ずつ麦酒が提供されている。
主要な国家、都市で参加していないのはルークス聖王国、ラクス・サルトゥース連合王国、商業都市アウレラだが、今までこのようなことが行われたことはないそうだから、世界最大の酒と食の祭典と銘打っても言い過ぎではないだろう。
今回、アルス総本部の酒が多いのは比較的近いこととこのイベントの主催者であるためだが、それに匹敵しているのがカエルム帝国の帝都プリムスの支部だ。
支部長であるギュンター・フィンクから聞いたのだが、これは帝国の上級貴族シーウェル侯爵の意向であり、プリムス支部はロックハート家との関係を強化するため、シーウェル侯爵の支援を受けているとのことだった。
本来、鍛冶師ギルドの鍛冶師たちが貴族と付き合うことはあまりない。特に武門でもないシーウェル侯爵家はこれまで鍛冶師ギルドとの接点はほとんどなかった。今回は侯爵からロックハート家とは“酒”を贈るほど懇意であり、蒸留酒の生産についても全面的な協力を受けることになっていると説明され、侯爵家の支援を受けたそうだ。
侯爵の思惑はこの機に鍛冶師ギルドとのコネクションを強め、更に自領の特産品である食材を売り込むことだ。鍛冶師ギルドとのコネクションは政治に利用できるだけでなく、その後の自領の酒の販路としても活用するのだろう。
ギュンターは「プリムスの鍛冶師が美味いと思っている酒を全部持ってきたぞ!」と豪快に笑いながらいい、「侯爵からいろんな酒があった方がよいと聞いたからな」と当たり前という感じで大量の酒を持ち込んだ理由を教えてくれた。
確かに種類は多かった。特に目を引いたのはサトウキビの搾りかすから作った醸造酒だ。今回は運ばれていないが、この他にも様々な穀物で作った醸造酒があり、とうもろこしやライ麦から作られた発泡酒もあるらしい。
(これを蒸留したらグレンウィスキーだけじゃなく、バーボンやラム酒もできる。ここで作るわけにはいかないが、蒸留所がいろんなところにできれば、一気に“スピリッツ”の種類は増える……さすがに米の酒はないか……)
そんなことを考えていると、リディとベアトリスが目敏く聞いてきた。
「新しいお酒ができそうなの?」とリディが言い、ベアトリスが「どんな酒なんだい?」と聞くと、周囲にいたドワーフの視線が一斉に俺に突き刺さる。
ベルトラムが代表して、「どんな酒なんだ? いつできるんだ?」と真剣な眼差しで聞いてくる。俺は苦笑いを浮かべるしかなかった。
「蒸留酒の原料は醸造酒だ。醸造酒の種類がこれだけあれば蒸留酒のバリエーションも確実に増える。まあ、いろんなところに蒸留所ができたら考えるよ」
俺の言葉にドワーフたちの目が光る。ウルリッヒが「儂らが飲んだことのない酒がまだまだできるということか。それは楽しみじゃ!」と隣にいるゲールノートに言い、「そうじゃな。ますます楽しみじゃわい。ガハハハ!」と豪快に笑って俺の背中をバシンと叩く。
高名な鍛冶師たちが“酒”という単語でこれだけ幸せそうな顔をすることに感心し、「“酒”の話だけで幸せになれるんだな。うらやましいかぎりだよ」と言うと、
「これだけ酒に拘っている奴に言われるとはな」とか「お前には敵わんよ」と笑いながら返されてしまった。否定できずに沈黙していると、周囲から爆笑が起きる。
「ふふふ……本当にそうね。あなたはお酒のことを考えている時が一番幸せそう……ふふふ」
リディが涙目でそういうと、ベアトリスが「確かにそうだ! ハハハ!」と大きく笑い、メルも「本当にそうですね」と満面の笑みを浮かべている。
シャロンは何も言わないが、同じように笑っており、ダンは笑うわけにはいかないと我慢しているような微妙な表情を浮かべている。
「酒のことだけじゃないぞ」と反論すると、「肴のことじゃろう?」と即座に突っ込まれる。
「否定はしないが……まあ、いいか」と俺も釣られて笑い出す。
笑いながらこの幸せな時間がいつまでも続いてほしいと思っていた。
各ブースを回っていく。俺の周りにはリディ、ベアトリス、メル、シャロン、ダンといういつものメンバーに加え、セオ、セラ、ソフィアの弟、妹たち、そして、ルナがいた。
ルナは最も信頼しているメルにしがみつくように身を隠し、セラたちが声を掛けてもほとんど応えない。
ただ、何となく元の世界を思い出させるようなハンバーガーやジェラートを見て、何かを呟いているように見えたが、何を言っているのかは分からなかった。
今回の酒と料理だが、格安で売られている。ウルリッヒや商人たちは無料でいいと言っていたのだが、それをするともらうだけもらって食べきれない者と逆に無くなってしまい食べられないという者が出てくる可能性があり、原価を割るが一定の金額を徴収することにした。
価格は安いものが銅貨一枚(十 e(エーレ) =約百円)、高いものでも大銅貨一枚(五十e)に抑えてある。質が段違いだが、イメージは学園祭などの模擬店だ。
ロックハート家のブースに戻ると、そこには人だかりができていた。
うちのブースで出している料理はフライドチキンや魚のフライなどの揚げ物とそれらをパンに挟んだサンドイッチやバーガー、更に石窯で焼いた簡単なピザ、そして、俺とシャロンの魔法で作ったジェラートだ。
揚げ物はうち以外にも 黒池(ブラックラフ) 亭などでも出しているようで、ラスモア村名物として認知されつつある。特にドワーフたちが非常に気に入っており、揚げるそばから無くなっていく。
パンに挟むサンドイッチはシンプルなハムサンドとスモークサーモンサンドだ。メイド長モリーの焼く食パンはあの美食家のラドフォード子爵が褒めるほど上質であり、これも飛ぶように売れている。更に鉄板で焼いたハンバーグと野菜を挟んだハンバーガーは珍しさもあってか、これも大人気だった。
ピザは生地の作り方を知らなかったのでパン生地をそのまま使っている。それを薄く延ばしてチーズと野菜――玉葱やハーブ、ドライトマトなど――、ベーコンやサラミを載せた“ピザトーストモドキ”という感じの適当なものだ。
ドライトマトでケチャップモドキを作っておりいい加減な割にはうまくできている。子供から大人まで幅広く気に入ってもらえているが、特にラガータイプのビールと合うため、ビール片手に買い求める人たちが多い。
そんな中で最も好評だったのがジェラートだ。ジェラートの正しい定義は知らないが、温めた牛乳に砂糖と果汁などを加え、混ぜながら擬似ペルチェ効果の魔法で冷やし固めたもので、まだ暑くない季節であるにも関わらず、飛ぶように売れている。
ちなみにコーンはワッフルコーンを使っており、器ごと食べられるという点も珍しいと評判になっているようだ。
味はシンプルなミルク味、ベリー系の果実酒――アルコールは飛ばしてある――、ミントの三種類だ。持ち込まれた食材を使えば、もう少しバリエーションを増やせるが、時間がなかったため、三種類にしている。
このジェラートだが、商人たちからの問合せが煩わしいほど多かった。疑似ペルチェ効果の魔法は俺とシャロンしか使えないので、冷却用の氷を作るための水属性の魔術師が必要になると伝えたが、どうしても教えてほしいと何人もの商人から懇願された。更には独占的に買い上げたいといってくる者が続出する。
その時、俺はいろいろなブースで酒を飲んでおり少し酔っていた。その酔った勢いもあり、遊び感覚で商人たちに簡単なオークションで競わせてしまった。
作り方自体は簡単であり、大した金額にならないと思っていたら思いのほか盛り上がり、最終的にはプリムスの商人バート・ロビンスが一万 C(クローナ) で競り落とした。
俺としては無料でも良かったのだが、商人たちのやる気を削ぐことは本意ではない。それでも一万C、つまり一千万円で儲けが出るのか心配になるが、ロビンス本人はホクホク顔で何度も俺に礼を言ってくる。
気になったので理由を聞いてみると、「ラドフォード子爵閣下からロックハート家の料理で売れそうなものがあれば独占契約を結ぶようにと助言を頂いております」と教えてくれた。彼らがここに来る途中、領地に戻る子爵と会い、そこで助言されたそうだ。
子爵の思惑は何となく読めた。このような話を広めて、ロックハート家とのパイプが太いと世間に思わせておき、頻繁に連絡を取ろうというのだろう。
ロックハート家の屋台の面倒だけでなく、会場にある樽の温度の確認、更には酔い潰れた者の治療などであっという間に二時間が経過した。
少し余裕が出たところでリディたちと再び会場を回っていくと、各都市のブースでは商人たちが精力的に宣伝を行っていた。
「フォルティス名物、鶏肉のチーズ焼きだよ! フォルティスの赤ワインとばっちりだ!」とか、「ペリクリトルじゃ、こいつを食わない奴はもぐりだぜ! 岩猪(ロックボア) の香草串焼きだ! ペリクリトルのエールが一番合うぞ!」という声が響いている。
一応、俺の思惑通り、料理と酒のセットで宣伝を行っている。実際、微妙な感じの組合せもあったが、無難なところで落ち着いており、その中で美味そうなものを見繕っていく。
アルス総本部のブースではウルリッヒ御用達のビールである白ビール――大麦ではなく小麦を使ったもの。ドイツのヴァイツェンが有名――に、太めの白ソーセージの焼いたものを合わせていた。
「どうじゃ、こいつにはこの腸詰が一番じゃ。食え食え」と勧めてくる。
自分用のガラスのジョッキを渡し、白ビールを入れてもらう。やや白濁しているが、しっかりと泡立ち、小麦特有の甘くフルーティな香りが鼻をくすぐる。
(ちょうどいい酸味だ……酸味が強いヴァイツェンはあまり好みじゃないが、これは美味い……)
俺がそんなことを考えて味わっていると、周りが静まり返っていた。ウルリッヒが「どうじゃ?」と聞いてくるが、周囲の人々は俺が何を言うのか聞き耳を立てているようだ。
「前にも言ったが、本当に美味いよ。りんごか桃のようなほのかに甘い香りがするが嫌味じゃない。今回に合わせて一番いい状態になるように持ってきたんだろう。これ以上発酵が進むと酸味が出てくるはずだからな。さて、ソーセージも頂くか」
ウルリッヒが「さすがによく分かっている!」とバシンと背中を叩き、すぐに茹でてあったソーセージを自ら網で焼いてくれる。周りではウルリッヒの白ビールに注文が殺到していた。
(絹挽きかと思ったら、意外と粗い挽き方だな。スパイスとハーブは何だ? 白胡椒とショウガ、パセリくらいは分かるが……)
ボイルで火を通した後に軽く炙っているため締まりすぎず、焼き目の香ばしさが更に豚肉の味を引き出している。
口の中に豚肉の脂が残った状態で白ビールを流し込む。豚肉の甘みとスパイスの爽やかさに白ビール独特のフルーティな香りが加わり、更に美味さが増す。
「確かにこの組合せはいいな……このソーセージだがアルスで食べた時より美味くなっていないか? 香辛料が変わった気がするが?」
俺が独り言をいうと、ウルリッヒが「分かるのか!」と驚きの表情を見せる。
俺にとってはその驚きの方が意外であり、「いや、分かるだろう、普通。なあ、リディ?」とリディに話を振る。
「言われれば、そんな気もするけど……半年も前に食べたものの味なんてはっきり覚えていないわ」
リディの言葉にベアトリスも頷き、「確かにアルスで美味いと思ったが、普通は覚えていないぞ」と呆れる。
こういう時に味方になってくれるのはメルとシャロンだが、メルはプルプルと首を振るだけで何も言わず、なぜかシャロンは別の方を向いていた。
(俺が異常なのか? 十日近く毎日食べれば嫌でも覚えると思うんだが……)
そのやり取りに周囲から大爆笑が起きる。
ウルリッヒは「さすがはザックじゃ! ガハハハ!」と豪快に笑う。
「お前が酒には肴も重要だと言ったじゃろう。そこでじゃ、作っている職人にもっと美味くできんかと言ってみたんじゃ。すると、何十という腸詰を持ってきてな。そこで一番いいと思うものを選んだんじゃ。儂だけじゃないぞ。ゲールノートもゲオルグも他の連中も同じようにやっておる……」
俺たちが帰った後にソーセージやハムを作っている職人に味の改善を命じたようだ。
「今じゃ、ギルドの腸詰はちょっとした名物になっておる。職人たちが忙しすぎると零すほどにな。ガハハハ!」
元々、アルス近郊はソーセージやハムの名産地だったが、鍛冶師ギルド御用達のものは素材こそ最高級のものが使われるが、そこまで味に拘っていなかった。宴会の時に俺がもう少し工夫すればもっと美味くなるのにと言ったことがきっかけで改善が行われたようだ。
それはいいことなのだが、一つだけ心配があった。
(職人たちが苦労しているような気が……ソーセージを作るのは結構大変だったはずだ。それを何十種類もサンプルを作って持っていったのか。パニックだったんだろうな……これからはちょっとした発言にも気を付けないといけない……)
その後、ゲールノートの一押しである黒ビール――スタウトタイプ――を味わう。
コーヒーのような香ばしい香りに黒砂糖のような甘み、そこに僅かにスパイシーさが加わっている。
ここでもゲールノートがチラチラと俺の表情を窺っており、「どうじゃ?」と聞いてきた。どうやら、他の支部の酒の味を見ている俺の反応が気になるらしい。
「じっくり飲むには最高の黒ビールだ。夏より冬を越えたものの方が美味いのかな。秋に飲んだ時より全体にバランスがいい気がするが?」
ゲールノートは俺の言っている意味が一瞬分からなかったようだ。
「うん? そうなのか? 毎日飲んでおると気づかんかったわい。ウルリッヒ、どうじゃ?」
横で黒ビールを飲むウルリッヒに感想を求める。ウルリッヒも首を傾げ、
「……よく分からんな。いつも通り、ゲールノートのところの黒ビールは美味いとしか思えん……何か理由があるのか?」
ウルリッヒの問いに「何となくだ」と答えるが、内心では別のことを考えていた。
この世界には冷蔵施設がない。ラガータイプの下面発酵の麦酒は地下室のような涼しい場所で醸造されるが、このスタウトのような上面発酵の麦酒の醸造は普通の家で行われることが多い。
アルスは高地にあるため、夏場も比較的涼しい土地だが、それでも盛夏になると気温は結構上がる。醸造は酵母の働きで行われるため、温度の変化は味の変化に繋がるはずだ。今回は春先に作られたものであり、ゆっくりとした発酵により、味がまろやかになったのかもしれない。
ゲールノートは俺が美味いと言ったことに気を良くし、「こいつを食え。このビールにはこれが一番じゃ」と言って干した杏とドライサラミを載せた皿を突き出してきた。
まずは周りが白カビで覆われたサラミをつまむ。この白カビのサラミだが、豚肉ではなく、 岩猪(ロックボア) という魔物の肉を使っている。猪肉のサラミは味が強すぎて好みではないのだが、この白カビのサラミだけは別だ。
皮部分のナッツのような香ばしさと半年以上熟成した猪肉の旨みが相まって、ビールや赤ワインと抜群に相性がいい。特に甘く感じるスタウトには強めの塩と香辛料、野生の血の香りが合い、アルスから土産に持ち帰ったほど気に入っている。それだけではなく、時々 蒸留酒定期便(スコッチライナー) に運んでもらってもいる。
「このサラミは本当に絶品だな。特にこの黒ビールとは最高に合う……」
俺がそう呟くとゲールノートは満足げに頷いている。なぜか横にいるウルリッヒが少し悔しそうな顔をしていた。
(何か賭けでもやっているのか? まあいい。さて、ドライフルーツだ……)
意外に思うかもしれないが、黒ビールにドライフルーツという組合せは結構合う。世間一般ではどうかは知らないが、少なくとも俺は好きでパブでは干したパイナップルやチェリー、レーズンなどをつまみながら、黒ビールをチビチビと舐めていた。これをやると一緒に飲みに行った同僚から必ず奇異の目で見られていたが。
「サラミの後にこの干し杏は絶妙だな。口の中の脂を旨く調和してくれる。それにこの黒ビールの甘みを更に引き立ててくれる。しかし、いつからこの組合せが気に入ったんだ? 半年前には“何を食っておるんじゃ”と言っていた気がするが?」
ゲールノートは明後日の方向を見ながら、「わ、儂は昔から美味いと思っておったぞ」と惚けている。
その後、ゲオルグ・シュトック、オイゲン・ハウザー、ヨハン・ヴィルト、ウード・レーヴェンガルト、リュック・ブロイッヒらベテランの親方連中が俺に酒と肴を勧めてくる。
キリリとしたピルスナーのようなビールと鶏の串焼き、やや度数が高いブラウンエールとハード系のチーズ、果実実の強い赤ワインとミートローフ、すっきりとした白ワインと鱒のポワレ、 リンゴ酒(シードル) と ソバ粉のうす焼き(ガレット) ……さすがに気合が入っているだけのことはあり、そのどれもが美味かった。
それはいいのだが、どうもこのベテランたちの動きがおかしい。俺の言葉に一喜一憂している感じがしていたのだ。
「さて、何を企んでいるか、教えてもらおうか」と少し凄んでみせるが、ウルリッヒらは俺と目を合わせることなく、「何のことじゃ?」と惚ける。
「まあいい。言いたくなければな」と言うと安堵の表情を見せる。
「後で余興に付き合ってもらおうかと思ったが残念だ。酒を使った余興だったんだが」
俺の言葉に「酒を使った余興じゃと!」と七人が声を揃えて驚く。
「ああ、こんな使い方や飲み方もあるというのをここで披露しようと思ったんだが、他の誰かに味を見てもらうことにする」
俺の言葉に七人は顔を見合わせ、ボソボソと小声で話し合う。ウルリッヒが「仕方あるまい」と言ってから、話し始めた。
「実はの、七人で賭けをしたんじゃ。お前が一番気に入った酒を出した奴がザックコレクションを一杯ずつもらえるという賭けじゃ」
「やっぱりか。だが、どれが一番いいなんて言うはずがないだろう」
そう言うとゲールノートが髭をいじりながら、「それはそうじゃが、後でシャロンかメルに聞いてもらおうとな……」とぼそりと言った。
どうやらイベントが終わり、俺が気を抜いたところでシャロンかメルを使って聞き出そうとしたようだ。
「まあ、何じゃ。お遊びのようなもんじゃ。酒の席でのな」とオイゲンが言い、ほかの六人も頷いている。
酔った上での遊びであり、目くじらを立てることは無いと思い、「分かったよ。後で誰かに伝えておく」と笑って伝えた。
ちなみに一番美味いと思ったのは俺の好みに合わせたゲールノートの黒ビールで、シャロンを通じて彼らに伝えている。
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第一回ドワーフフェスティバルは予想を超える盛り上がりをみせただけでなく、その後の酒食文化にも多大な影響を与えている。それについてイグネイシャス・ラドフォード著の「トリア大陸における酒食文化の変遷」の記述を引用する。
『……第一回ドワーフフェスティバルにおいてアルスの鍛冶師たちが用意した肴は絶大なる支持を集めた。特に匠合長ウルリッヒ・ドレクスラー自らが 選んだ(セレクトした) 腸詰(ソーセージ) は後にアルス名物の“白ソーセージ”の原型となったと言われている……また、名工ゲールノート・グレイヴァーの持ち込んだ白カビのサラミは帝都でも評判となり、プリムス周辺では多くのサラミが作られるようになった。サラミを作る農民たちは売り物にならないサラミをうまく食べる方法はないかと考え、ある時ロックハート家が供した“ピッツァ”なる料理との相性が良いことに気付いた。帝国南部域では多くの農村でチーズも作っており、このピッツァが一気に広まった。しかし、帝都ではチーズが垂れ食べ辛いこの料理を田舎料理といって敬遠し、中々広まらなかった。この偏見が消えるには長い年月が……』
そして、ジェラートについても言及されている。
『……ジェラートの製造法をザカライアス卿から購入したバート・ロビンスは専属の水属性魔術師を雇うと、すぐに帝都で販売を開始した。珍しいものに目がないプリムスっ子たちはすぐにこのジェラートに魅了されていく……しかし、入手した製造方法はそれほど複雑なものではなく、すぐに模倣する店が現れ乱立する。彼は入手した製造法を独自に改善するとともに、ラスモア村に何度も足を運び、更なる改善を図った……ロビンスのジェラート店は三十種類のジェラートを常時置くことで、“一ヶ月間、毎日食べても別の味が楽しめる”という宣伝を行った。これはザカライアス卿のアイデアとされ……ロビンスは後に一万クローナで製造法を購入したことを“ザカライアス卿を顧問にしたと思えば、非常に安い買い物だった”と述べたという……』