作品タイトル不明
第五十八話「不可解な妨害」
トリア暦三〇一七年九月二十四日正午過ぎ。
鍛冶師ギルドの依頼で、アルス周辺を中心に、蒸留所建設用地を探しにいくことになっていた。
午前中は俺たちの新しい武具を作ってくれる鍛冶師たちと打合せを行い、昼過ぎにアルスの南にあるタナック村に向かう予定だったのだが、いざ出発しようとした時、トラブルが舞い込んできた。どこで聞きつけてきたのか、騎乗したアドルファス・エッジカンブ伯爵が慌てた様子で近づいてきたのだ。
彼の後ろには 黒鉄(くろがね) 色の重厚な鎧を纏い、大型のカイトシールドと、派手な羽根つきの兜、銀糸を織り込んだ華美なマントを装備した騎士たちがいた。
その総数はおよそ三十。全員が騎乗しており、ギルド本部前は重装備の騎士たちでごった返している。
伯爵は華美なマントを翻しながら華麗に馬を降り、僅かに息を整えると、先日のような芝居掛かった仕草で話し始めた。
「蒸留所建設用地の調査を行うと伺った! 陛下は 黒鋼(こっこう) 騎士団の精鋭に護衛をお命じになられた! 道中の安全は我らにお任せあれ!」
国王が わざわざ(・・・・) 俺たちのために護衛を派遣したようだ。それもカウム王国の正規軍である黒鋼騎士団をだ。
カウム王国の軍制において、騎士団と名が付く組織は二つ存在する。一つは近衛兵である 聖銀(ミスリル) 騎士団であり、もう一つが実戦部隊である黒鋼騎士団だ。黒鋼騎士団は騎兵、歩兵、弓兵、魔法兵で編成されたカウム王国軍のうち、重装騎兵部隊であり、聖銀騎士団と並ぶエリート部隊だ。黒鋼騎士団は重要な国境の警備も担当しており、トーア砦も所掌している。
その騎士団が護衛を行うというのだ。
俺の第一印象は“迷惑極まりない”というものだ。
今回の調査は現地の水質や醸造所の施設を確認するだけでなく、その村が蒸留所を歓迎するのか、それとも敬遠するのかを見たいとも思っていた。常識的に考えれば、蒸留所は金のなる木であり、誘致に反対することは考えられない。だが、今回訪問する村は王都に近く、今の農産物と麦酒の生産だけでも十分に豊かだ。そう考えると、今以上のことをする必要は無いという保守的な考えがあってもおかしくはない。
更に蒸留所を建設すれば、その職人はラスモア村で修行した人物になる。この村の醸造職人がラスモア村で修行をし、最後までやり遂げられれば問題はないが、残念ながら今アルスから来ている職人は皆若く、責任者クラスはほとんどいない。もし、タナック村に蒸留所を建設するなら、現在の醸造責任者は若者の下で蒸留酒を作るか、下請けとなって醸造酒を供給するしかない。
当然、人間関係もややこしくなるので、そういった点も見たいと思っていたのだ。
だが、伯爵や騎士たちが同行すれば、村人は俺たちを歓迎せざるを得ない。王都に近い村で権力者に逆らうことなど考えられないし、第一、国王の命令となれば、嫌でも蒸留所を建設しなければならない。
俺は心の中で大きく溜息を吐く。
(面倒だ。まだ可能性調査の段階だし、国王や領主に知られたくなかったんだが……)
昔、新規事業の立ち上げで 可能性(フィージビリティ) 調査(スタディ) 、いわゆるF/Sをやったことがある。
通常、新規事業のF/Sでは顧客調査や交通アクセス、自治体の優遇措置などを調べるのだが、当時は設計部門から外され、営業関係もやっていた頃で、両方判るお前が適任だろうと全くの未経験者である俺に回ってきたのだ。
その時の経験から言えることは、この段階で自治体、正確に言えば、政治家に嗅ぎつけられると碌なことはないということだ。
会社の上層部に話を持っていくならかわいい方で、酷い場合では取引先に手を回されたこともあった。取引先の方も嫌々情報を聞きに来ており、苦笑いが絶えない打合せを行った記憶がある。
(ウルリッヒに頼んでも問題はこじれるだけだろうし、ここで俺がはっきりと断れば国王の心証を悪くする。だからと言って同行させれば、目的の半分は達成できない……時間もないし、やんわりと断るしかないな)
俺は意を決して、断ることにした。
「大変ありがたいお気遣いではございますが、私どもの護衛はドレクスラー匠合長より傭兵をつけていただいており、万全を期しております。王都の守護、騎士団の精鋭方は、陛下をお守りする重要な任務がございますので、お手を煩わせるのは……」
エッジカンブ伯は右手を上げて俺の言葉を遮ると、
「陛下は卿らの身を案じておられるのです。王都の守りはもとより万全。王都周辺に不穏な噂もありませんからな」
どうやら伯爵は俺が恐れ多くて遠慮していると考えているようだ。どう言っていいのか考えていると、騎士の一人、最も階級の高そうな騎士が馬上から話に割り込んできた。
「平民風情が何をグダグダと言っておるのだ。そなたらは陛下のご厚情を素直に受ければよい。このようなところで我らの時を無駄に費やすな。さっさと案内せよ」
エッジカンブ伯爵より若干年上の三十代後半と思える騎士で、傲慢さを隠そうともしないし、上級貴族なのか、馬から下りようともしない。
エッジカンブ伯が「グレンジャー伯、客人に対して無礼であろう。まずは馬を下りられよ」と言うが、彼の言葉を無視する。
これほど侮蔑の混じった言葉を直接受けたことはなく、一瞬怒りを覚えるが、ここで揉めるのも馬鹿馬鹿しいと思い直す。
俺がやんわりと反論しようと「しかし……」と言うと、グレンジャー伯なる騎士は更に高圧的な態度で怒鳴りつけてきた。
「口答えをするな! すぐにでも目的地に向かって出発しろ! 我らとて暇ではないのだ!」
俺は今回の目的を話し、それで納得してもらうしかないと考えた。
「お言葉ですが、この調査は村人が蒸留所を喜んで受け入れるつもりがあるのかということも含まれております。国家の象徴たる騎士方が同行されれば心の内を隠し、調査になりません……閣下がどうしても騎士方の同行を押し通されるのであれば匠合長 閣下(・・) にその旨申し上げ、今回の依頼はなかったものにさせて頂きます」
ウルリッヒを閣下と呼ぶことで鍛冶師ギルドの権力者からの依頼だと聞こえるようにした。更にアルスでの蒸留所建設に協力しないと言ってやったのだ。
これだけ言えば、いくら想像力に欠けた男でも不味いと感じるはずだ。そう思ったのだが、愚かなため理解できなかったのか、それとも他に理由があるのか、俺の言葉を無視して不機嫌そうに馬上で鞭を振っている。
俺は方針を変えることにした。まだ話が判るエッジカンブ伯と交渉し、騎士たちの同行を阻止することにした。
「エッジカンブ閣下に申し上げます。陛下のご厚情には感謝の念にたえませんが、私の申したことも事実。調査に支障が出ることは陛下の御心に沿わないのではないでしょうか」
エッジカンブ伯は「確かにそうかも知れぬ」と思案顔になる。
だが、グレンジャーは更に苛立ちを募らせ、怒気を込めて恫喝してきた。
「冒険者風情が陛下の御心などと……貴様らは言われたとおり、ただ従えばよいのだ!」
その言葉にエッジカンブ伯が「グレンジャー殿! 客人に対する礼を失しておりますぞ!」と、いつものような芝居掛かった物言いではなく、素の状態で叱責する。
俺は肩をすくめながら、エッジカンブ伯に顔を向ける。
「申し訳ございませんが、これでは現地に行くまでもなく、調査が失敗に終わることは火を見るより明らか。私も無駄だと判っている調査を行う気はありませんし、皆さんも無駄足になることはお望みではないでしょう」
エッジカンブ伯は「そうかもしれんが、調査を投げ出すわけには行かぬのでは」と調査の続行を示唆してきた。
俺は 頭(かぶり) を振り、
「私どもは鍛冶師ギルドの、ウルリッヒ・ドレクスラー匠合長 閣下(・・) より、直々に依頼を受けております。しかしながら、これは契約に基づくものではなく、あくまで匠合長閣下と我がロックハート家との 友誼(・・) によるもの……」
再び、グレンジャー伯が割り込んできた。
「それがどうしたというのだ! 貴様が匠合長と懇意であろうが、我らには関係のない話だ! 我々は陛下より勅命を受けておる! 何度も言わせるな! 貴様ら平民は我らの命に黙って従えばよいのだ!」
そういいながら、苛立ちを表すかのように鞭を俺の方に向ける。
このグレンジャー伯という男は、想像力がないというだけでは片付けられないほど愚かだった。正直な話、このような男が同行すれば、調査などできるはずがない。そんなことすら理解できない国王とこの国の上層部に呆れるしかなかった。
俺は苛立ちを覚え、徐々に口調が厳しくなるのを止められなかった。
「何度も言っておりますが、目的を達し得ないのに、調査に向かう必要は感じません。確かに他国の騎士の次男など平民のようなものかもしれませんが……」
グレンジャーは腰の 騎士剣(ブロードソード) をスラリと引き抜く。そして、その切っ先を俺に向けた。
「いい加減にしろ! グダグダと無駄話を続けおって!」
鍛冶師ギルドの依頼を受けて蒸留所建設の調査に行く者に剣を向けたことに驚くが、更にそれを多くの鍛冶師が行き来するギルド本部前で行ったことが信じられなかった。そして、驚き以上に身の危険を感じた。
国王が勅命をもって派遣した人物が剣を向けてくる。この事実はカウム王国が俺を排除しても問題ないと考えていることを示している。
この事実に俺は驚愕していた。
鍛冶師ギルドのお膝元であるアルスで、ギルドと良好な関係を保とうと考えるはずの権力者がロックハート家に手を出してくるとは全く考えていなかったからだ。
(俺の考えが甘かったようだな。しかし、カウム王国は何を考えているんだ。全く判らない……このままでは拙い。この状況が続けば、リディかメルが暴発する。そうなったら収拾がつかなくなってしまう……)
実際、メルは剣に手を掛けているし、リディとシャロンは魔法を唱えようとしている。比較的冷静なベアトリスとダンの表情も硬く、武器を強く握り締めている。
俺はハンドサインで手を出すなと指示を出し、暴発を防いでいた。
グレンジャーの行動にエッジカンブ伯が慌て、「グレンジャー殿! 貴公は理解しておるのか! ザカライアス卿に剣を向けることの意味を……」と止めに入るが、
「エッジカンブ殿は何を恐れておるのだ? たかが小僧一人ではないか」
グレンジャーはそう言って冷笑を浮かべている。
ここに至れば、グレンジャーが俺を排除しようとしていることは明白だ。そして、その男は国王から勅命を受けている。つまり、 カウム王国(・・・・・) が俺たちを害そうとしているのだ。
国家を相手にするのならば、全力で身の安全を確保しておかなければ、俺や仲間たちの身が危うい。俺は覚悟を決め、強気に出ることにした。
「私に、いえ、我々に危害を加えるつもりならば、それ相応の覚悟をして頂こう!」
グレンジャーは俺の言葉を鼻で笑う。
「覚悟だと? 剣と魔法を多少使えるようだが、そのようなもの、ここでは何の意味もない。王国の 上級貴族(・・・・) たる、この私に剣を向ければ、王国に剣を向けることになるのだ。少し名が売れ増長しておるようだが、世の中には越えられぬ壁というものがあるのだ」
この男が俺を敵視していた理由が判った。
(恐らく、ここの国王が朝議の場かなにかで、俺に対して爵位を与えるとでも言ったのだろう。さっきから身分がどうのと言っているから、この国の身分制が絶対だと思っているようだ……この男は俺のような若造が爵位を受けることが気に入らないんだろう……四十前の男が情けないとは思うが……しかし、なぜ国王はこのような男に勅命を出したのか?……考えるのは後でいい。今は自分たちの身を守ることの方が重要だ……)
俺は出来るだけ冷たく聞こえるよう、声を低くし、「何も出来ぬと思っているなら、それでも構わない」とグレンジャーに言った後、周囲に聞こえるように、
「 カウム王国(・・・・・) が、私と私の仲間に危害を加えるつもりなら、今後、 永久(・・) にザックコレクションはこの王国に住む者には売らぬ!……ドワーフの鍛冶師方には申し訳ないが、ここにいる限り、ザックコレクションは永久に飲めないということだ! これがどういう意味か判らぬようなら存分にするがいい!」
そこで呆然としているギルド職員ジャック・ハーパーに顔を向ける。
「ジャック! 今の言葉をウルリッヒに間違いなく伝えてくれ。俺の遺言だと言ってな」
ジャックは大きく頷くと、脱兎の如く駆け出した。だが、誰もそれに注意を払おうとしない。
俺の言葉が衝撃となって駆け抜けていたからだ。
愚か者のグレンジャーでも、つい先日大騒動になったザックコレクションという名に聞き覚えがあったようだ。鍛冶師たちが涙を流して待ち望む酒の供給を止めることになれば、この国の命運は尽きる。
これまで小国であるカウム王国が他国からの侵略を受けなかったのは、鍛冶師ギルドの本部の存在が大きい。その鍛冶師たちが一斉に王国からいなくなれば、ここは原料を採掘し売るだけの三流国家になり下がる。
もっとも鍛冶師ギルドがこの国を見限る以前に、怒り狂ったドワーフたちによって、グレンジャー本人の生命の方が危ういだろう。
恐らくこの男は今になってそのことに気付いたのだろう。もちろん、国の命運の方ではなく、自らの生命の危機という点に。
彼は俺に向けた剣をどうすべきか悩むかのように周囲を見回している。だが、彼の部下である騎士たちは誰一人、眼を合わそうとしない。
「グレンジャー殿! 早く剣を納めよ!」
その言葉に納めようか悩んでいた剣の動きが止まる。そして、怒りに打ち震え、吼えるかのように、エッジカンブ伯に怒気をぶつける。
「この私に落ち度があるというのか! 陛下の甥にして国家の重鎮ノーリッシュ公爵の次男である、このグレンジャー伯オズワルドに!」
真っ赤な顔でそう吼えるが、エッジカンブ伯は剣を納めないグレンジャーを一瞥するだけで、何も言わず、芝居掛かった大袈裟な所作を加えながら、同行している騎士の一人に向けてこう命じた。
「伝令! 直ちに陛下にこう言上せよ! ノーリッシュ公爵(・・・・・・・・) のご次男、グレンジャー伯オズワルド殿がザカライアス卿を害そうとしたと。そして、こう付け加えよ! 害そうとした場所は鍛冶師ギルドの本部前であるとな!」
そして、更にグレンジャーに向かって、
「直ちに王宮に引き上げていただこう。陛下の命を忘れた貴公に、これ以上ここですることはない」
グレンジャーは呆然と「陛下の命を忘れただと……」と呟く。
エッジカンブ伯はグレンジャーの表情など全く意に介さず、
「陛下はこうおっしゃられた。“ザカライアス卿とその一行の安全を第一に考えよ”と。しかるに貴公はザカライアス卿に剣を向けた。それでも陛下の命に背いておらぬと言い張るおつもりか」
ここに至り、頭に血が上っていたグレンジャーも自分が大きな失態を犯したと気付いたようだ。彼の部下たちは指揮官の方を向かず、エッジカンブ伯しか見ていなかった。すなわち、グレンジャーは自分に味方するものがいなくなったことに気付き、紅潮していた顔面が見る見るうちに蒼白になっていく。そして、右手に持っていた剣を取り落とした。
ガチャンという音が鳴り響き、その音に驚いた馬がいななく。
(ここまで気付かなかったのか? それとも誰かにそう仕向けさせられたのか……)
グレンジャーを無視して、エッジカンブ伯は俺に体を向ける。
「ザカライアス卿のおっしゃりたいことは理解した。しかしながら、陛下も、そして私も、このようなことを意図したわけではないことだけはご理解いただきたい。今日のところは引き上げますが、近いうちに陛下に謁見いただけまいか」
(この状況で謁見か……何を考えているんだ?)
俺が「謁見ですか?」と疑問を口にすると、
「陛下も此度のことでは御心を痛めることは必定。恐らくは陛下より遺憾の意が表されるかと」
(どうもこの伯爵の言っていることは胡散臭い。今回の件もわざわざあんな男を選ぶ必要はなかったはずだ。だとすれば、裏があるんだろうな……いまいち、伯爵の目的が判らんが、これ以上関わらない方がいい気がする……これ以上向こうから関わってこないように、釘を刺しておくべきだな……)
俺は出来るだけ感情を排した声で、
「 安全(・・) さえ確保して頂ければ十分でございます。大変申し訳ございませんが、謁見の件はご容赦頂けないでしょうか」
伯爵は「しかし……」と何か言おうとするが、俺はそれを無視して話し続けた。
「それよりも重要なことがございます。ドレクスラー匠合長、更には鍛冶師方がお怒りになることは間違いないでしょう。 陛下の勅命(・・・・・) を受けた上級騎士が蒸留所建設を邪魔するだけでなく、長期熟成酒の 持ち主(オーナー) である私を害そうとしたのですから。もし、あの場で無礼討ちにあっていたら……」
そこまで言ったところで、伯爵が慌て始める。
「いや、此度の失態はすべて私、エッジカンブ伯アドルファスに責がある。陛下は私にお命じになっただけで……匠合長にはそう伝えてもらえないだろうか……」
話している途中から、芝居掛かった物言いも影を潜め、かなり焦っているようだ。
証拠はないが、ここでも権力闘争に巻き込まれつつある気がする。
俺が「それではそのように匠合長に伝えましょう」と言うと、隠すことなく安堵の表情を見せる。
(どうもこの国の貴族たちはあまり出来がよくないようだな。その点、カエルムの上級貴族は抜け目がなかったな……帝国北部総督のラズウェル辺境伯は優秀な統治者だったし、俺たちを暗殺しようとしたゲートスケル准男爵も能力は高かった……)
俺はラズウェル辺境伯の居城、ウェルバーン城での出来事を思い出していた。
(……兄の結婚式では、 ロックハート家(うち) と誼を結ぼうと接触してくる貴族が多かった。嫡男の失態を逆手にとって伝手に変えたシーウェル侯爵なんて人もいるしな……まあ、魔族の侵攻でも起きなければ、いや、侵攻されてもトーア砦が落ちなければ、それほど影響はないだろう。この国の統治者たちの質が少々悪くても……)
その後、エッジカンブ伯らは王城に戻っていったが、今度は騒動を聞きつけたドワーフの鍛冶師たちによってギルド本部前は大混乱に陥っていた。
ウルリッヒも慌てた様子で駆けつける。右手には 槌(ハンマー) が握られており、仕事の途中で慌ててやってきたようだ。
「何事じゃ! 遺言がどうのと聞いたが?」
俺は今あったことを彼に伝える。
ウルリッヒを始め、ドワーフたちは俺たち以上に怒りに震えていた。
「国王だろうが、騎士団だろうが、儂らが守ってやる! いや、今から落とし前をつけに行かねばならん! 王城へ行ってくるぞ!」
そう言って、王城に向かおうとする。
大事(おおごと) になったが、こちらに非は無いし、ここで止めても止まらないだろう。
駆け出そうとするウルリッヒに「今日の調査を中止する!」と叫び、
「悪いがギルド本部に匿ってもらえないか。この国の上の連中は信用できない」
俺の言葉にウルリッヒは片手を上げて「おう!」と了承し、「ジャック! 後は任せた!」と振り向きもせず坂を上っていった。
その後ろには続々とドワーフたちが続いていく。
手にハンマーを持っているのが気になるが、俺が出ていくと更に話が大きくなりそうで、結局、彼らを見送ることしかできなかった。