軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第四十五話「試飲」

トリア暦三〇一七年九月五日。

兄たちとともに一年ぶりに故郷に帰り、十日ほどのんびりと過ごしていた。

とはいっても、ウェルバーン組が加わり、鍛冶師ギルドから派遣された蒸留職人見習いたちが一気に増えたことから彼らの宿泊先の手配をしたり、若手の鍛冶師クルトとドリスの二人をベルトラムのところに連れていったりと、いろいろ雑事はあった。だが、大きな事件も無く、七月の激動と比べると平和そのものという感じだった。

兄の妻、ロザリーたちも村の生活に慣れ始め、何とか日常らしくなっている。

村に到着した日に従士たちやその家族との顔合わせを兼ねて、屋敷で歓迎の宴が開かれ、ロザリーたちも割とすんなりロックハート家に溶け込むことができたようだ。

宴の席で村の感想を聞いてみたら、村全体が明るく、清潔であることに驚いていた。

「ロッドから聞いていたのですけど、本当にいいところですね。美しいところですし、民たちが皆、本当に幸せそうで……まるで楽園のようですわ」

兄が花嫁を連れて帰ってくるということで、村人たちが家の周りや道沿いに花を植えていた。夏の盛りということで、赤や黄色の美しい花々が緑の丘に映え、観光地と言ってもおかしくないほど美しかったのだ。

もちろん、村人たちも薄汚れた姿の者はおらず、皆いつもより着飾っていた。そして、兄たちが通ると、用意してあった花びらを撒き、笑顔で出迎えたのだ。

帝国北部では熱狂的な人気を誇るロザリーでも感心するほどの歓迎ぶりだった。

上級貴族の令嬢であるロザリーが田舎暮らしに馴染むか、皆心配していたようだが、今のところ全く問題は起きていない。共用浴場に村人と一緒に入ることになることがあるが、全く気にしていないように見える。聞いた話では村の女性たちの方が上級貴族の娘である“姫様”に恐縮してしまい、逆にロザリーの方が積極的に話しかけていたそうだ。

侍女であるアンジェリカとエレアノールの二人もメイド長のモリー・ヴァッセルとうまくやっているらしい。

村に到着した翌々日には護衛の騎士たちが帰還し、日常に入っていくが、ロザリー、アンジー、エレナの三人はロックハート家の訓練に目を丸くしていた。

自警団の訓練は通常十五歳から四十歳までの成人男性が対象で、二十人から三十人くらいで行われていたのだが、最近では十五歳未満の子供が訓練に参加し、中には十歳に満たない幼い者もいる。ほとんどが従士の子供たちだが、学校の授業の合間に参加する子もいる。

三人も俺たちの訓練を見ており、耐性はあったのだろうが、祖父ゴーヴァンや従士頭ウォルト・ヴァッセルの変わりようには驚きを隠せなかったようだ。

兄たちはロックハート家の屋敷に住むことになったのだが、元々屋敷というより少し大きな家程度であるため、俺とリディ、ベアトリスの三人が一緒になるとかなり手狭になる。

その点は父も考えていたようで、屋敷の東側、白樺と楓の森の手前に白い壁のコテージ風の家が用意されていた。距離にして三十mほどでほとんど離れといった感じだ。

父にそのことを聞くと、

「いずれ手狭になると考えていたからな。ここなら屋敷で一緒に食事も出来る。それにダンたちも実家に戻るより、ここで一緒の方がよかろうと思ってな」

ドクトゥスでの生活に慣れた俺たちのことを考え、新たに家を用意してくれたようだ。

二階建てのペンションのような造りで、一階がリビングとキッチンなどの共用スペースとなっており、二階が寝室になっている。風呂は無く、トイレは屋敷と共用だが、部屋の数は寝室だけで八室あり、一人一部屋に出来る。

こうなると、屋敷が一番貧相に感じてしまうのだが、父も祖父も、そして兄も建て替える気はない。

父にそのことを聞くと、

「古いとはいえ、まだ十分に使える。ロッドのところに子供が生まれれば、増築くらいするかもしれんが、誰に見せるわけでもないのだから十分だ」

祖父も兄も同じ意見で、まだ使える屋敷を建て替えるくらいなら、村のために金を使った方がいいとのことだ。

村の様子だが、十年前と比べて人口が約一・五倍の七百五十人ほどになっている。

乳幼児死亡率が下がったことと、村から出ざるを得なかった農家の次男や三男たちが戻って来たことが大きい。今まで開発が遅れていた北が丘周辺にも農地が広がっており、順調に発展している。

今では酒場兼宿屋が三軒に増え、更に常設の商店もできたことから、村の中心部はかなり賑わっている感じだ。

内政担当の従士、ニコラス・ガーランドが校長を務める学校だが、村のほとんどの子供が通っており、今では百人近くの生徒がいるそうだ。領主である父が教育を慫慂していることと、農業改革によって生産効率が上がったこと、更に蒸留酒による現金収入が増えたことなどが要因だ。現在、十歳から十五歳の識字率はほぼ十割で、更に簡単な四則演算も出来ることから、キルナレック――近隣の城塞都市――の商人たちはラスモア村の子供に奉公に来て欲しいと勧誘に来るそうだ。

蒸留所の状況だが、スコットの蒸留所に加え、彼の助手の二人が新たに建設された蒸留所の責任者となり、現在三つの蒸留所で蒸留酒の生産を行っている。この二人は蒸留酒造りの最初期からスコットの助手をしており、実力は十分にある。今では樽に彼らのイニシャルが記され、スコットを交えた三人で腕を競い合っている。

更にスコットの息子たちを筆頭に、若い世代の蒸留職人たちも育ち始めている。

だが、俺はここラスモア村ではこれ以上蒸留所は建てないことに決めていた。父や内政担当のニコラスにもその旨は伝えており、二人からも了承を得ている。

意外に思えるかもしれないが、もちろん理由はある。

まず、原料の醸造酒の入手が困難になっていることだ。現状ではラスモア村と近隣の村で原料である大麦を確保するのだが、元々この辺りは辺境と呼ばれ、人口はそれほど多くない。このため、穀物の余剰生産分も少なく、酒造りに回す余裕はあまりなかった。ニコラスが有輪式重量犂を普及させ、生産量を増大させたが、それでも限界はある。鍛冶師ギルド本部のあるアルスのドワーフたちがワインや りんご酒(シードル) を運んでくれるが、その程度では蒸留所を増やせるほどの量にはならない。

更に燃料の問題もある。

ラスモア村の東の森には石炭の露頭があり、比較的容易に良質な石炭が手に入る。だが、露天掘りではそのうち採掘できなくなるため、極端な増産は石炭の枯渇を招いてしまうだろう。今のところ、東の森にはかなりの量が埋蔵しているようだが、森を切り開いて道を作る必要があり、この点からも極端な増産はかなり難しい。

もう一つの理由は貯蔵庫の不足と樽の管理の人手不足だ。

見事な赤レンガ倉庫が立ち並んでいるが、今以上のペースで生産を続けるとすぐに増築が必要になる。更に樽も放っておけばよいというものではないため、管理のための人手が必要になる。

今のところ、蒸留酒造りを学びに来ている職人たちで人手は足りているが、彼らもそのうちここから出て行くことになる。もちろん、蒸留酒造りを学びに来る職人はこれからもいるだろうから、ある程度余裕はあるが、これ以上増産するとそう遠くない時期に人手不足に陥る可能性があるのだ。

それらを勘案した結果、当面は半数を長期熟成用とし、半数を三年熟成で出荷する体制を維持するが、将来的には長期熟成酒を主力とした高級路線で行こうと思っている。

そもそも、この村は大消費地から遠い。

今はアルスやペリクリトル――北にある冒険者の街――から買い付けに来てくれるが、そのうち大都市近郊に蒸留所が建てられるはずだ。そうなれば輸送コストが掛かる分、ラスモア村産の蒸留酒は価格競争力を失ってしまうだろう。そうなる前に高級路線に切り替えられるよう準備しておくのだ。

ウェルバーンからきた職人たちを統括するギルド職員、ジョナサン・ウォーターは、スコットの蒸留所に住み込むことになった。彼は職人たちとは異なり、二年間ここで学び、再来年の夏にはウェルバーンに戻る予定になっている。これは三年で職人が戻ってきたときのためにウェルバーンで先行して蒸留所を建設しておくためらしい。同じ理由でクルトとドリスも二年半ほどでウェルバーンに戻ることになっていた。

酒関係ばかりのようだが、この間にも自警団の訓練に参加したり、更には東の森に魔物の討伐に行ったりしている。

だが、やはりというか、最大の仕事は酒関係、つまりザックコレクションの出荷準備だろう。

初めて蒸留に成功してから、十一年の時が経っている。初年度は三〇〇六年の十二月に小型の蒸留器で作っただけであり、実質は十年物のウィスキーが最も古いものになる。

この十年物だが、試行錯誤をしたため、樽の酒類がまちまちだった。 楢(オーク) の新樽のクォーター樽――百リットル強の小型の物――、赤ワインを醸造した後の大型のバット樽――約五百リットルの大型の物――など様々なのだ。

そのため、いちいち味を確認しないと、どれがどの程度熟成しているか、どんな個性を持っているか全く判らない。

この十日間で八年物も含め、五十樽ほど確認した。

この“作業”で思ったことがある。

思った以上に大変だということだ。

一つ一つ味を確認していくのだが、味や香りを表現する語彙が圧倒的に足りない。恐らく誰かにそう言われれば“なるほど”と思うのだろうが、少し酸味を感じるとか、木樽の香りが強すぎるとかは言えても、テイスティングレポートのような、花やフルーツ、カカオやコーヒーと言った香りの表現も怪しく、更には複雑な香りが混じっているようなものにはどう表現していいのか困ってしまうのだ。よくある皮革の香りやタバコの香りなんて嗅ぎ分けられない。

テイスティンググラスでトゥワイスアップ――ウィスキーと水を半々で割った飲み方――を作り、一口含んで香りと味を確認しメモしていく。そして、口に含んだ酒を吐き出すのだが、貧乏性の俺はどうしても勿体無いと思ってしまうのだ。

酔わなければいいだろうと解毒の魔法を掛けながら飲んでいくのだが、やはり飲み込むと慣れというか飽きというか、どうしても味がぼやけてしまう。

何とか五十樽の確認を終えたのだが、それから先も悩みどころが多い。

(シングルバレルでいくか、ヴァッティングするか……加水する気はないから、カスクストレングスになるんだが……アルスに持っていくなら、今現在で最高のものを持っていきたい。俺の舌でブレンドして旨い物が出来るのか……だが、樽の個性が強すぎて“旨い!”と自信をもって言える物がない……)

結局、単体の樽のシングルバレル物はやめ、三樽くらいをヴァッティング――モルトウィスキー同士を混ぜ合わせること、“ブレンド”は本来、モルトウィスキーとグレーンウィスキーを混ぜることをいう――することにした。

そして、それからがまた大変だった。

少しずつ混ぜてみるのだが、どうしてもバランスが良くない。

俺にブレンダーの才能が無いことが最大の原因だろうが、どうしても十七年物くらいのものをイメージしてしまうことも原因の一つだった。

今回は十年程度の“若い”ウィスキーであり、更に初期の物ということで蒸留初期に出てくるフォアショッツ――ヘッドともいう――や、最後の方に出てくるフェインツ――テールともいう――がうまくカットできておらず雑味が混じっているものもあった。また、熟成のさせ方も判っていない素人が作ったものであり、どうしても味が変な方に尖ってしまっていたり、逆にぼやけていたりする。

(とりあえず、何パターンか混ぜてみて、ベルトラムの意見を聞いてみるか……)

先に蒸留責任者のスコットの意見を聞くか悩んだが、やはり最大の顧客であるドワーフの意見をまず聞いてみようと思ったのだ。

何とか合格点を付けられそうな割合の物を五種類作り、それぞれボトルに詰めて、ベルトラムの工房に向かった。

そのベルトラムだが、四年前に弟子になったミーナこと、ヴィルヘルミーナと二年前に結婚している。未だに子供は生まれていないが、夫婦で仲良く工房をやっている。最近では人口が増えたことで、生活用の金物や建築用の工具の需要が増えたこと、自警団が増員になったことで武器の補充や手入れが増えたことから、二人でもかなり忙しいらしい。

今回ウェルバーンからやってきた鍛冶師のクルトと見習いのドリスが働くことになり、昔に比べれば、工房はかなり賑やかになっていた。

夕方の訓練を終え、風呂に入ってからベルトラムの工房がある“北が丘”の東に向かう。

訓練前の早い時間でも良かったのだが、ベルトラムたちに酒を持っていくと仕事にならないため、仕事が終わった時間を見計らった。

いつもながら、酒が絡むとリディとベアトリスが一緒についてくる。酒なら何でも好きなベアトリスはともかく、蒸留酒より 発泡(スパークリング) ワイン派のリディがついてくる意味があるのかと思ってしまうが、彼女に聞くと、「折角だから一番に飲みたいじゃない。おいしくなくても」とのことだった。

いつかリディを見返す酒を造ると心に誓いながら、夕焼けが映える畑の中の道を歩いていく。

ちなみに夕食は持参している。といっても、つまみになりそうな物を適当に見繕って来ただけだが。

工房に着くと、ベルトラムが「何のようだ?」と怪訝な顔をするが、すぐに笑みを浮かべ、「まあいい。飯でも食っていくか?」と言って招き入れてくれた。

だが、取り出したボトルを持ち上げ、「こいつの感想が聞きたい」と言った瞬間、その笑みが消える。そして、搾り出すような声で、

「出来たのか……遂に飲めるのか……」

俺が頷くと、一気に顔が綻ぶ。

「ミーナ! 酒の準備は後だ! ザック、何がいるんだ? ジョッキか! いや、グラスだったな! つまみはいるのか? 水がいるとか言っていたな……」

興奮気味のベルトラムに「まあ落ち着け」と言って苦笑するしかなかった。

「今日は本当に感想を聞きたいだけなんだ。まだ、俺は全く納得していない」

そこまで言ったところで、ベルトラムは自分が興奮していたことに気付く。

「そうか……だが、十年物なんだろう? 早く飲ませてくれ」

興奮は収まったが、視線はボトルに釘付けになったままだった。

俺は苦笑しながら、工房の中に入っていった。

工房の奥の住居部分に行くと、ミーナ、クルト、ドリスの三人が興奮気味のベルトラムを不思議そうに眺めていた。

ベルトラムが「ザックコレクションだ」と一言言うと、三人の目が光った。だが、すぐに自分たちには飲む資格が無いと諦めの表情を浮かべる。

「いや、まだザックコレクションじゃないんだ。俺が目指すのはこの程度じゃない」

そう言いながら、ボトルとグラスを出していく。

グラスは小型のテイスティンググラスだ。

「どうにも納得がいかないんだが、俺一人じゃ限界がある。そこでベルトラムの意見が聞きたいんだ」

俺はそう言いながら、ボトルを並べていく。

「こいつは華やかな香り……こいつはコクを重視した。今飲んでいる三年物に比べたら良くはなっているんだが……」

ボトルは透明なガラス製で、ウィスキーの色の違いがよく判る。

その間、ベルトラムたちは一言もしゃべらなかった。視線がボトルに釘付けになっており、時々、ゴクリという唾を飲み込む音だけが聞こえていた。

「講釈を垂れていても仕方がないな。全員に飲んでもらおうか」

俺の分も含め、三十五個のグラスを取り出し、ボトルの前に並べていく。

グラスに注ぐ“トットットッ”という音が工房に響く。開け放った窓から夕日が差し込む部屋の中、リディを含め誰一人しゃべらない。

冷静に考えれば異様な雰囲気なのだが、誰もおかしいとは思っていないようだ。もちろん、俺もその時はそれが普通だと思っていた。

一つのグラスに三十ccほど注ぎ、金属製の小さな蓋を置いていく。これは香りを閉じ込めるとともに他の香りと混じらないようにするためだ。

三十五個のグラスに注ぎきり、全員の前に順番通りにおいていく。

全員の前に置き終わると、クルトがおずおずといった感じで確認してきた。

「俺たちも飲んでいいのか? これは あの(・・) ザックコレクションなんだろう? 俺みたいな駆け出しが飲んでも……」

俺は 頭(かぶり) を振り、

「 まだ(・・) ザックコレクションじゃないんだ。それに出来るだけ多くの人の意見が聞きたい。ベルトラムは十年以上飲んでいるが、クルトたちはほとんど飲んでいない。ミーナとドリスには女性のドワーフの意見が聞きたいしな」

そういった後、リディとベアトリスの方を向き、

「二人の意見も参考にさせてもらうぞ。ここまで来たんだから、ちゃんとした感想を言ってくれよ」

二人は互いに顔を見合わせ、プルプルと首を振る。

「私にスコッチの味なんか判らないわよ」

リディに続き、ベアトリスも困惑した表情で、

「あたしもだ。旨い酒なら何でも好きだが、意見と言われてもな……」

俺は「冗談だ」と言ってニヤリと笑った。

「別に好きか嫌いか、旨いか不味いかだけでもいい。最近、酒でからかわれ続けていたからな、ちょっと逆襲してみただけだ」

リディはちょっとむくれた顔をするが、何となく場の雰囲気が和らいだ。

そして、視線をグラスに戻し、飲み方の説明をしていく。

「悪いが今日は味見だ。俺の言う順番で少しずつ口に含んで欲しい」

そう言うとベルトラムは「そうか」と言って、少し寂しそうな表情でボトルを見つめる。その姿が余りにおかしかったので、「後でちゃんと飲ませてやるから安心しろ」と言うと、表情が一気に明るくなる。

(相変わらず、酒のことになると判りやすいな。さて、始めるか……)

「まずはこいつからだ。こいつはバランスを重視したタイプだ。こうやって飲む直前まで蓋は取らず、顔の前で蓋を取ってくれ。無理に感想は言わなくてもいい。ただ、思ったことは何でもいいから教えて欲しい」

手本となるようグラスを持ち、蓋を取って一口含む。

比較的色の薄い大型の樽の物をベースに、熟成がかなり進んだ小型のクォーター樽の物とやや香りの強いワイン樽の物を少量ずつ混ぜ合わせている。

(悪くはないんだが、“パンチ”がないんだよな。一番の理由は“スモーキー”さが無いことだろうな……)

俺がそんなことを考えていると、ベルトラムたちが恐る恐るグラスを手に持っていた。

俺が目で合図すると、一斉にグラスの蓋を取った。

六人が一斉にグラスを鼻のところに持っていく。そして、全員が全く同じタイミングでグラスに口をつけた。

その瞬間、時間が止まった。

部屋の中が静寂に包まれ、外から吹き込んでいた風すら止んでいた。

ベルトラムが呻くように「何だ、これは……」と言った。

「こ、これで未完成なのか?」

まん丸に目を見開いたベルトラムがそう言うと、ドワーフ組は一斉に頷いていた。

「ああ、まだ“硬い”んだ。もう少しふくよかな感じがしてもいいはずなんだが……で、感想は?」

「もっと旨くなるのか……ああ、感想だな……うまくいえねぇが、今まで飲んでいたのは何なんだって感じだな。口に含んだ瞬間、刺さるんだが、その後が全く違う。なんて言ったらいいんだ……」

頭を抱えるベルトラムに「そんなに考え込まなくてもいいぞ」と声を掛け、ミーナに意見を聞いて見た。

「これは本当においしいわ。飲むのが勿体無いくらい。今までのスコッチが“バーン”ってくる感じなら、これは“グー”って来る感じかしら?……そうね、味と香りが一緒に来るって言うか……難しいわ」

クルトにも意見を聞こうと思ったのだが、彼はグラスに口をつけたまま、涙を流して嗚咽を漏らしていた。

「これが……まさか、 あの(・・) ザックコレクションを半人前の俺が……うめぇ……ここに来てよかった……うぐっ……」

俺はその様子に苦笑してしまった。

「前にも言ったが、俺の酒は味が判る奴なら誰が飲んでもいいんだ。それにこれは まだ(・・) 俺が目指す“ザックコレクション”じゃない。蒸留器を作ろうという職人が、こんなもので納得してもらったら困るんだ」

「この程度って……ウェルバーンで飲んだスコッチも旨かったが、これはそんなレベルじゃないんだ! しかし、俺が作る蒸留器でこんなものが作れるのか……」

ちょっとプレッシャーを掛け過ぎて、酒造りに携わることに不安を感じさせてしまったようだ。

最年少であるドリスの方がクルトよりこの状況を楽しんでいる。

「本当においしいですね。無理を言ってついて来て、本当によかったです。うふふ、“長期熟成酒”を一番に飲めるなんて……まだ、ギルド長でも飲んでないのに、本当にラッキーです」

そう言いつつも真面目に味を確認していた。だが、やはり酒の味を表現する語彙が少ないのか、「おいしいんですけど、どう言っていいのか……」と首を傾げてしまった。

ドワーフ組には好評だったが、リディとベアトリスはそこまで感動していないように見えた。

まずはリディから聞いてみると、

「そうね。スコッチにしてはおいしいかも。どっちかというとりんご酒の蒸留酒の方が好きなんだけど、これなら飲んでもいいって思えるわ。まあ、ジョッキで飲む気にはならないけど」

どうやら、合格ラインには達しているようだ。

ベアトリスにも聞いてみると、

「あたしも旨いと思うね。何といっても香りがいい。あたしらのような獣人だと、香りがきついと飲みづらいんだよ。三年物のスコッチは香りがきつい。あの鼻に来る匂いがちょっとな……だが、こいつならほとんどきつさは感じないね。僅かに春の花みたいな甘い香りがする気がするかな……リディアーヌじゃないが、あたしも葡萄の蒸留酒の方が好みだが、これなら飲んでもいいと思えるよ」

ベアトリスにも好評だった。

さすがに獣人の敏感な嗅覚をもっていることから、一番参考になった。

(ベアトリスの方が俺より才能があるかもしれないな。獣人のブレンダーっていうのもありか……)

好みの問題もあるので何とも言えないが、好評ではあるが二人とも感動まではいっていない。

(さすがに十年物で感動ってわけにもいかないな…… 葡萄酒(マールタイプ) の長期熟成なら、リディもベアトリスも納得するかもしれない……)

他の四種類も飲ませてみたが、ドワーフたちにはいずれも大好評だった。ただ残念なことに参考となるコメントがもらえなかった。

リディとベアトリスは似たような好みだった。二人とも柔らかい感じの香りの優しい物が好みのようだ。二人が一般的な嗜好なのかは判らないが、少なくとも嗅覚の鋭い獣人には今のスコッチより、長期熟成酒の方が好まれることは判った。

その後、宴会になり、あっという間に五本のボトルが空けられてしまった。