軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第七十四話「三年後:後篇」

三年の時が過ぎたが、俺たちと関係のあった人物では、不動産業者のダグラス・マクラウドと、冒険者にして情報屋のサイ・ファーマンに大きな変化があった。

まず、マクラウドだが、彼は不動産業だけではなく、金融業に手を出し、成功を収めている。

彼は冒険者相手に低利の貸金業を始めた。実を言えば、この件には俺が一枚噛んでいる。

二年の終わりに、夏休みの間の家の管理を頼むため、彼の商会を訪れたのだが、その際に新たな事業について相談を受けた。

俺としては彼に肩入れする理由もなく、相談に乗るつもりはなかったのだが、何度も懇願され、結局根負けしてしまったのだ。

困った俺が提案したのは、冒険者に対する貸し付けだった。

当初、俺に知恵を借りたいと言ってきた割に、マクラウドは不安定な収入の冒険者に対して、金を貸すことを渋った。常識的に考えれば、いつ命を落とすかも知れない冒険者に金を貸すのはリスクが大きい。

更に担保にできるものと言えば武具類しかなく、その武具も命を落とすような状況ならほとんど回収できないし、武具は消耗品だから担保としての価値は低い。そう考えれば冒険者相手に金を貸すのを渋るのは、真っ当な商売人なら極普通の感覚だ。

だが、冒険者でもある俺の考えは違う。

まず、冒険者が命を落とし易い原因の一つに、装備の不備がある。特に若い冒険者は資金がなく、貧弱な装備で危険な森や山に入ることになる。ゲームのように、プレイヤーのレベルに合わせた敵が出てくるならいいのだが、現実はそんなに甘くない。

危険が少ないと思っている場所であっても、強力な魔物がふいに現れることがある。昔、 巨大ムカデ(ジャイアントセンチピード) が森の浅いところで出てきたように、経験の浅い冒険者が行くところであっても、常に危険は存在する。

そんな時、ある程度の装備が揃っていれば、大きなケガを負うことなく、撤退することができるかもしれない。

自分たちの力量に合った魔物であっても、ケガのリスクは常に存在する。こんな時でも防具に金を掛けられれば、ケガを負うリスクは大きく低減する。

ケガを恐れるのは、治癒師による治療費が高額であるからだ。骨折程度であってもケガを負えば、治療費だけで貯蓄を失ってしまう。治療費が払えればまだいいが、払えなければ自然治癒に任せることになり、その間の収入が途絶えることになる。

特に若い冒険者は貯蓄が少なく、数日間依頼が受けられないだけでもかなり厳しいそうだ。リディという保護者がいた俺には、その辺りのことは実感としては判らないが。

だから、俺はこの状況を変えたいと常々考えていた。

冒険者ギルドでも新人に金を貸すことはあるが、利率はかなり高い。年利で三十から四十パーセントほどで、金額も千 C(クローナ) 、百万円ほどだ。これはギルドが儲けようと言うより、貸し出した金の三分の一は回収できないという理由から決められているそうだ。ギルドとしても資金の貸し出しを無制限にするほどの予算はなく、少なくとも赤字は出さないようにするためには、それだけの金利を設定せざるを得ないと言うことだ。

返済だが、通常は一年以内に一括、または数回の分割で返すそうだが、それでも十七、八の若造にはかなり厳しい。特に金銭感覚のいい加減な者だと貯蓄をすることができず、返済が滞ることになる。これが意外と多いのだ。

俺はマクラウドに次のような提案した。

まず、冒険者ギルドと交渉し、報酬から天引きできるシステムを構築する。こうすることにより、不定期ではあるが分割での返済が容易になる。

天引きについてだが、税金やギルドの手数料も天引きで徴収しているので、システムとしては突飛なものではない。

金利についてだが、年二十パーセントを上限とし、初期に一括で加算しておく。そこから天引きされていき、一年が経過したところで残金があれば、それに利率を掛けて、再び回収する。いわゆる住宅ローンと同じようなシステムだが、このシステムの特徴は貸し手、借り手双方に利点が大きいことだ。

まず、貸し手だが、年利分の利益を確保することができる。更に早期に回収できた分は再投資に回せるため、資金の有効活用が可能となる。貸し倒れのリスクだが、最初の依頼で失敗しない限り、回収額がゼロになることは少ない。また、手元にある金を使い切ってしまうような者でも、冒険者として能力さえあれば、安定的に回収できることが有利な点だ。

次に借り手の利点だが、金利が安いことと、天引きシステムによる返済の簡略化が利点だ。特に社会に出たばかりの金銭感覚があいまいな若い冒険者には、自動的に借金が返済されていくシステムは画期的だ。報酬の二割を自動的に返済に回すと決めておけば、受け取る金額を使い切ってしまっても借金は返せる。そして、全額返済後に再度借り入れができれば、装備の更新が容易になる。更にある程度級が上がれば借りられる金額の上限を増やせるシステムにしておけば、自分の能力に見合った装備の更新が行える。

そして、金融業者側の利点に冒険者ギルドからの低利の融資を加えておく。ギルドから、年利五パーセント程度で借入れ、冒険者に二十パーセントで貸出せば、それだけでも利益につながる。もちろん、事務手続きなどの諸経費が掛かるため、単純十五パーセントの利ザヤが確保できるわけではないが、自らの資金がリスクにさらされるわけではない。

一方、冒険者ギルドもメリットはある。

元々、融資制度があるため、貸出しのリスクは変わらない。金利分の利益は失われるが、利益を上げるための制度ではないため、大きな障害にはならない。逆に事務手続きを 外注(アウトソース) するため、その分の経費が浮くことになる。

ここまで説明したところで、マクラウドは俄然やる気になった。そして、精力的に冒険者ギルドのドクトゥス支部に働きかけ、遂に支部の専属業者となった。

最初のうちは、報酬額から自動的に天引きされるシステムが信用できないと、冒険者たちから敬遠されていたが、ギルドがこの制度の信頼性を保証すると宣言したところで一気に借り手が増えた。

ギルドとしても冒険者たちの安全は懸案事項であったため、装備の更新に有利になる今回の制度を積極的に支援したのだ。

爆発的に借り手が増えたところで、ギルド内では金利分の利益を確保しようと、ギルド自らが融資制度を行うべきだと言う話が出たそうだ。だが、煩雑な計算をこなすだけの人員が確保できず、断念したようだ。

一方、マクラウドの商会では、俺の教えた簡単な経理知識を従業員に教えていたため、すぐに対応できた。更に冒険者ギルドとの専属契約後は、商業ギルドを通じて若い従業員を多く雇ったそうで、彼らにも経理知識を付与しているらしい。

今では冒険者ギルドの総本部があるペリクリトルでも同じシステムの導入が検討されており、その専属業者としてマクラウド商会の名前が挙がっている。更に商業ギルド内でも同じような融資制度を作り、中小の業者に融資を行っているそうだ。マクラウド商会は、ドクトゥスのみならず、ペリクリトルでも金融業者として頭角を現しつつある。

これに関し、俺はマクラウド商会から報酬を受けるつもりはなかった。

勿体ないと思わないでもないが、報酬を受けなかった理由としては、マクラウドを信用しきれていないことがあった。もし、彼が不正を働いた場合、報酬を受けていれば、俺にも責任が生じる可能性があったからだ。更に言えば、彼がここまで成功するとは、正直な話、思っていなかった。

マクラウドは俺が無報酬でいいと言っていたにもかかわらず、事業の成功後に俺のところに報酬と言って、いくつかの宝石を持ってきた。鑑定してもらうと、総額で五万 C(クローナ) 、約五千万円ほどだった。

これは彼が単に“人が好い”という理由ではない。抜け目のないマクラウドは、俺から更なるアイデアを引き出すこと、更には他の業者にアイデアを渡さないために、俺を取り込もうとしたのだ。

そして、彼の抜け目のなさは、宝石を持って来たことだ。それもリディたちに渡してほしいと言って、五種類の宝石を持ってきたのだ。

リディには瞳の色に合わせてエメラルド、ベアトリスには髪の色や尾の色に合わせてトパーズ、メルには髪の色に合わせてルビー、シャロンは瞳の色に合わせてサファイアと憎い演出をしていた。

ちなみにダンにも同じように宝石を持ってきている。マクラウドはダンも俺の“愛人”の一人だと認識しているようだ。俺はその宝石――ダイヤモンド――を見て、思いっきりため息をついた。

(ダイヤモンドは“純潔”を意味したんじゃないか? この世界でもそういう意味かは知らないが、同性の愛人に贈るものじゃないだろう。それとも嫌味か?)

俺はチラリとそう考えた後、マクラウドの誤解を解こうとした。だが、横からリディが「受け取っておいたら」と口を挟んだため、マクラウドは俺の“男色”が事実だと確信したようだ。

彼が帰ってから、リディに文句を言うと、「いいじゃない。折角くれるっていうんだから」とあっけらかんと言われてしまった。更に「それに誤解させておけば、ダンの分を毎回持ってくるのよ。その方が儲かるじゃない」と付け加える。

俺がそういう問題じゃないだろうと言うと、「いいんじゃないの。ここにはそんなに長いこといないんだから」と気にする様子がない。

相変わらずリディの考えにはついていけないが、確かに卒業とともにこの街を去るつもりだから、何を言われようが気にする必要はないかもしれない。

そう考えて、あえて否定しなかったのだが、さすがにマクラウドの情報管理はきちんとしているのか、特に変な噂が広がることはなかった。

(よく考えれば、俺を取り込もうとしているマクラウドが俺の機嫌を損ねるようなことはしないか。さすがにやり手ということか)

そして、その宝石なのだが、すべて石だけだった。カットなどの加工がされているだけの 裸石(ルースストーン) だったのだ。

どんなアクセサリーがいいか聞いてみると、ダン以外の四人は即座に指輪と答えてきた。この辺りもマクラウドの作戦なのかもしれない。ちなみにダンは石のまま持っていると答えた。密かにホッとしながら、もし、指輪と言われたら、俺はどうしたんだろうと考えてしまった。

話は変わるが、もう一人のサイ・ファーマンについてだ。現在、俺は彼と長期契約を結んでいる。彼を通じ、ドクトゥスの街に流れる情報を定期的に確認できるようにした。

そして、彼のことをワーグマン議長――当時は議員だったが――に紹介もしている。

当時のワーグマンはイシャーウッド参事との決別を考えており、自らの情報収集能力を上げたいと考えていた。それを知っていた俺は、サイの情報収集能力と分析力をワーグマンに伝えた。

もちろん、これには理由がある。

一番の理由はサイの支援だ。俺がこの街、ドクトゥスにいるのは卒業までだ。世話になっている彼にその後も活躍してほしいという想いがあり、この街一番の権力者、評議会議長とのパイプを作らせたのだ。もちろん、権力者とのコネクションは、いいことばかりではない。この諸刃の刃とも言えるコネクションでも、サイならうまく利用できるだろうと信じているから、俺は仲立ちしたのだ。

二つ目の理由は、ワーグマンの情報をサイを通じて得ることだ。もちろん、サイがワーグマンのすべてを知りえるわけではないが、それでも情報ソースとしては十分に役に立つだろう。

三つ目の理由は、ワーグマンに俺が彼に関する情報を握っている、または握る能力を持っていると示唆させたかったことだ。要はサイをワーグマンに対する牽制として使おうと考えたのだ。

なぜこのような回りくどいことをしたかと言えば、未だに俺はワーグマン議長を信用していないからだ。

マクラウドのことといい、ワーグマンのことといい、猜疑心が強いと思われるかもしれないが、俺は自分と仲間を守るため、最善の努力を惜しまないつもりだ。そのためには、不安要素には可能な限り保険を掛けておきたい。

もちろん、彼が俺に対して何か仕掛けてきたわけではないし、その兆候があったわけでもない。だが、自分の価値を客観的に見れば、抜け目のないワーグマンが何かの機会に、俺を“嵌め”に来ないとも限らない。

リディ辺りに話すと考え過ぎと言われるが、彼に弱みのようなものを握られてしまうとかなり厄介だ。

ワーグマンは俺の政治的な部分を過大評価している節がある。

今のところ、彼の明確な政敵は存在しない。しかし、潜在的な敵として俺のことを見ている可能性はある。また、新たな政敵が現れた時に、俺を使って排除しようとする可能性もある。そんな面倒なことにならないようサイを送り込んで 圧力(プレッシャー) を掛けておこうと思ったのだ。

もちろん、サイには正直にそのことを話した上で協力してもらっている。彼にとっても議長とのコネクションは、今後を見据えればまたとない好機だ。一介の冒険者が非公式とはいえ、魔術師ギルドの最高責任者とコネクションを持つことは大きな意味を持つ。彼はそのことを理解した上で、俺に協力してくれることにしたようだ。

今では魔術師ギルドから定期的な仕事が入るようになり、同じように体を壊して引退せざるを得なかった冒険者を集めてチームを作り、さまざまな情報収集に当たっているそうだ。

推薦した手前、情報の分析については俺も手伝いをしている。

商業や政治に関する読みについては、未だに俺のほうが勝っているからだが、サイも最近ではかなりその辺りの知識に詳しくなり、そろそろ俺の助力は必要なくなるだろう。

商業ギルドからも情報を買いたいと言う話が出ているそうで、そのうち、彼のチームが情報提供会社を立ち上げるかもしれない。

この件で最も助かったことは、俺が故郷ラスモア村に関する情報を多く得られたことだ。

サイからの情報が無ければ、ロックハート家は非常に苦しい立場に立たされただろう。そして、彼の情報は思わぬところで、国際政治に大きな影響を与えていたのだ。