軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第18話 過去の因縁 ルーカス・ギージドア

己が主であるフェリス・ロト・アメリアが両目を堅く閉じているのを横目で確認し、ルーカス・ギージドアの中で、安堵、憐憫、後悔等、様々な矛盾した感情が湧き上がり、混じり合うのを感じていた。

姫様は あ(・) れ(・) を呼び出すことを、極端に忌避していた。 あ(・) れ(・) が姫様の願いを聞くということは、すなわち、多くの命が失われると言う事に等しいから。

おそらく人が扱えるものには、限界があるのだ。 あ(・) れ(・) は、本来、人間種に過ぎない姫様の手に負えるような存在ではない。だからこそ、姫様の魔力だけでは全く足りず、他者の生命の源たる 生命力(マナ) を要求するのだ。

もちろん、姫様の差し出す対価は、御自身の 生命力(マナ) を使おうとするだろう。

しかし、既にルーカスと風猫の住民は姫様には内密に あ(・) れ(・) と契約を結んでいる。それは、ルーカス及び風猫から平等に一定量の 生命力(マナ) を捧げること。これなら即死にはなるまい。元より、このまま手をこまねいていれば、全滅するのだ。その程度のリスク、もはや躊躇する理由にはならない。

問題は我らの次の行動指針だが、ここからの風猫全員の脱出は非現実的だ。もし、できたとしても、お尋ね者のルーカス達を迎えてくれる場所など、この王国内にはない。

ならば、姫様が選択する道は一つだけ。ローズマリー殿下の下へ使者を送ってこの地を殿下の直轄領と宣言してもらうこと。

今、ケッツァー伯爵がこのイーストエンドの地に領軍を送り込めるのは、ローズマリー殿下の公式の宣言が成されていないから。宣言がなされれば、ケッツァー伯爵の領軍はこの地から退却せざるを得なくなる。

無論、ローズマリー殿下が王位選定戦で敗北すれば、この地の支配者は場所的にもケッツァー伯爵のものとなる。

しかし、どの道、このままでは風猫は滅びるのだ。ローズマリー殿下の領民となれば、王位選定戦の間の4年間は、生存権を得られるのだ。もはや、選択の余地はあるまい。

ならば、姫様が あ(・) れ(・) に、この地の守護を命じ、ルーカスが姫様の使者としてアキナシ領にいるローズマリー殿下の元へ走って、その意思を伝える。その上で、ローズマリー殿下のイーストエンド支配の宣言の親書をケッツァー伯爵と王都に送り付けて、軍を引かせる。これしかあるまい。

ならば、今はこの目の前のクズの排除を優先すべきだ。

顔の左半分が焼けただれた男、カエサルは大剣の剣先をルーカスに向けると、

「あんたに焼かれてから俺ぁ、あんたを八つ裂きにするのを夢見て――」

長々と口上を垂れようとする。それを長剣を向ける事で途中で遮って、剣先をカエサルに向け、

「カエサル、少々今は立て込んでいます。早くこの茶番を終わらせたい。どこからでもかかってきなさい」

まるで初めて騎士団に入隊したばかりの新米団員のような扱いをしてやる。

「てめえッ!!」

案の定、顔中に無数の血管が浮き出して怒号を上げるカエサルに、大きく息を吐き出す。

長い年月が経つというのに、この男はまったく成長していないらしい。

政府の命を受けて辺境での反乱を収めた際、カエサルは無辜の民を無意味に多数殺した。一般人の理由のない殺害は、団の数少ない禁則事項。それに抵触したカエサルを、ルーカスは全団員の前で徹底的に叩きのめす。その後、団から姿を消したが、まさかこんな場所で剣を合わせる事になろうとは思わなかった。

「今度は私も躊躇はしません。確実に殺します」

ルーカスはそう吐き捨てると、精神を戦闘に特化させていく。

尋常ではない速度のカエサルの大剣が、ルーカスの脳天を両断せんと振り下ろされるが、それを僅かな重心移動で避ける。

「無駄だぁっ!」

カエサルの歓呼ともに、避けたはずのルーカスの左腕に鋭い痛みが走る。カエサルから、距離をとって視線を左腕に落とすと無数の穴が空いていた。

「ほう……水魔法ですか」

剣から無数の細い水滴を圧縮した上で高速で放ったのだろう。これは、当時部隊長だったゲラルトが得意とする戦術。回避の方法、有無にかかわらず、敵を殺傷する悪質極まりない術だ。

「ああ、あれからあんたを殺すために、鍛錬に鍛錬を重ねたからなぁ。いまじゃ、ゲラルトよりも上手く操れる自信はあるぜぇ」

まったく、十数年の修行の成果がこの程度か。どうやら、先は見えたな。

「やれやれ、他者の物真似でもう勝ったつもりですか?」

肩を竦めて大きなため息を吐くと笑みを浮かべながら、当然の問いかけをする。

「強がんなよ。もう左腕は使い物にならねぇはずだ。俺の勝ちだぁ!」

「君などこの右腕一本で十分です」

「ほざけぇっ!!」

突進してくるカエサルから地面を蹴って後方へ移動する。

「逃げても無駄――」

勝利を確信したのだろう。顔中を狂喜に歪ませてさらに追撃してくるカエサルに向けて、逆に地面を全力で蹴る。

「ふお?」

頓狂な声を上げて、たたらを踏むカエサルに長剣を無造作に叩きつける。

態勢を崩した状態でルーカスの長剣をその大剣で受けるが――。

「ぐがぁーーっ!?」

突如、ルーカスの長剣から巻き起こった猛火がカエサルの上半身をすっぽりと包み込む。

悲鳴を上げて空手の左手で炎を払おうとするカエサルに突進し、長剣を叩きつける。

カエサルは、必死の形相でそれを大剣で受けようとするが、燃え上がり、熱風が吹き荒れる。

「愚かですねぇ。そんな技、阿呆でも思いつくものです。剣そのものの技術が増していなければ意味などありませんよ」

ゆっくりとカエサルに近づくと、

「ちょ、待て――」

連撃を浴びせていく。その度に吹き荒れる炎と熱風。

「や、やめ――」

カエサルが何やら命乞いのようなものをしていたが、ルーカスは構わず剣を振るい続ける。

遂に黒く炭化した死体がドサッと地面へ倒れ込む。同時に今まで練っていた 炎輪(フレイムリング) を発動。

一瞬で姫様と風猫に狙いを定めていた黒蠍はもちろん、その全身を雁字搦めに拘束していた粘土をも焼却する。

そして、無精髭を生やした紺色のローブの男――ルビーに剣先を向けると、

「形勢逆転です」

力強く勝利を宣言する。

圧倒的な強者であったカエサルの呆気ない敗北により、取り囲む兵士たちの間に動揺が走る。そんな混乱の極致の中――。

「たっく、結局、僕が直々に手を下すのか。こんなことなら、端からあんなプライドだけの木偶の坊など無視すりゃよかった」

顎の無精髭を摩りつつ、ルビーはそう独り言ちるとカエサルの死体に右手を向ける。

「これ以上、一歩でも動けば殺します。追跡はしませんから、兵を引いて尻尾を巻いて逃げなさい!」

数歩を踏み込み、ルビーとの距離を詰めると長剣を喉笛に突き付けて、低い声で忠告する。

ここでそれなりの腕のある魔導士であるルビーがこの戦場から逃走すれば、兵士たちは少なからず混乱する。特に奴らの身のこなし。そのほとんどは一時的に雇われた傭兵だろう。ならば、あんなどうでもいい領主のために命を懸けるなどという愚行は冒すまい。

「僕が逃げる? それは悪い冗談だねぇ」

背筋に冷たいものが走り、ルビーの首を刎ねんと横一文字に一閃するが――。

「んなっ!?」

一瞬で眼前に出現した豪奢な法衣を纏った黒色の骸骨の目と鼻の先で、ルーカスの長剣は止まっていた。

その眼窩の奥の赤色の光で射抜かれ、背筋に冷たいものが走る。刹那、地面を蹴ると奴から間合いを取って姫様を背に構えをとる。

「バ、バケモノッ……」

骸骨の怪物の出現に、生存本能が刺激されたのか風猫の洞窟を取り囲んでいた兵士たちはジリッと後退する。

「デイモスリッチ、盟約だ。こいつらから、 生命力(マナ) を好きなだけ持っていくがいい。それでこの茶番に付き合ってよ」

『いいだろう』

脳に直接響く低い男の声と同時に、バタバタと伏していく敵方の兵士たち。

さらに、骸骨の怪物は骨の右手を掲げ、

『【不死化】』

魂が凍るような冷たい言霊を吐き出すと、奴の右手の先に無数の黒色の塊が顕現する。

その蠢く無数の塊を視界にいれ、身体中の血液が逆流するような感覚に襲われて、

「ケット! 姫様たちを守れっ!!」

声を喉の底から張り上げる。まさに間一髪とはこのことだろう。ルーカス達は透明の青色の被膜に包まれ、無数の黒色の塊から高速に伸びた漆黒の骨は眼前で風化していた。

そして、ルーカス達とは対照的に無数の黒色の骨は地面に伏したカエサルと兵士たちの胸を刺し貫いている。忽ち全身が毒々しい色に変わっていくカエサルと兵士たち。

「さーて、第二ラウンドだ」

ルビーがパチンと指を鳴らすと、不自然な挙動で勢いよく立ち上がるカエサルと兵士たちの死体。そして同時にその全身がボコボコと盛り上がり、膨れ上がっていく。

僅かの間で、カエサルと兵士たちだったものは、青白い肌のアンデッドへと変貌していた。

「その女以外、全て殺せ」

ルビーの指示を契機に新たな戦いの鐘は鳴る。