軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第21話 決勝トーナメント第一回戦

決勝トーナメントに進出し、大会運営側からルールの詳しい説明を受けた。

反則による失格負けの際は賞金が没収されるため、本大会ではルール上、各選手の勝敗が決定したあと、まとめて賞金が得られる仕組みとなっている。

ここで棄権自体は試合内外、いつでも可能であり、勝利した分までの賞金は得られるのが通例だ。

だが、この決勝トーナメントは、いわば大会の華。棄権者が続出してしまっては決勝トーナメントが盛り上がらない。そこで、決勝トーナメントに進んだものは、原則事前の棄権は認められていない。

もっとも、あくまで禁止されているのは試合前の棄権であり、試合中、降伏宣言したり、自ら進んで場外へ出るなどの棄権行為は禁止されていないから、事実上、似たような救済処置は用意されている。

さて、試合まで手持ち無沙汰なこともあり、今大会の出場者の試合をみていたが、決勝トーナメントに残ったものは未熟者ばかり。

興味がわいたのは、格闘家ザック・パウアー、ブライなど、幾人かに限られた。

意外だったのは、ザックVSリク戦だった。もちろん、リクとザックでは武術家としての全てが違いすぎる。まさに子供と大人の勝負。てっきり、直ぐにリクが降伏するものと思っていたが、全身傷だらけになりながらも、意識を失うまで抗い続けた。もしかしたら、リクも武術家としての誇りを持ち合わせていたということかもしれない。ま、リクはまだ若い。武術家として伸びるか落ちるかは本人次第ということかもしれぬ。

ともあれ、ザックとは次の2回戦であたる。ザックと勝負し、ローゼのロイヤルガードになることを納得させてから、試合中、棄権することにしよう。

現在、決勝トーナメント第一回戦のために試合会場に向けて歩いている。

今も周囲から、ヒソヒソと感じの悪い噂話が聞こえてきている。よくも飽きもせずに他人を評価したがるものだ。

予選決勝直後、リクたちの引率でついてきた師範代シガが私の不正を訴えたが認められず、その腹いせだろう。無能な私が禁止されていたアイテムを用いて予選の決勝を勝利したと吹聴してまわっている。お陰で有難い噂が都市中に蔓延し、私は晴れてヒールとなった。

そして遂に大会の運営側も看過し得なくなったのか、一部ルールが変更されて指輪や腕輪等のアクセサリー等、指定の衣服以外を身に着ける事が禁止される。

こうした世間の動きなど私としては心底どうでもいいが、この件に関してローゼがやけにピリピリしており、私としてはそっちの方がよほど面倒なわけだが。

試合会場へと到着し、更衣室で大会運営が指定してきた衣服に着替える。その際、身に着けているものは、全てアイテムボックスに放り込んでおく。

「ほう、この衣服、能力制限のアイテムか」

着用するよう求められた衣服には【力】、【耐久力】、【俊敏性】を5~15ほどランダムで低下させる効果があるようだ。だが、いかんせん。私には事実上、まったく効果がない。

うーむ、能力制限を全くせずに人前に出て大丈夫だろうか? 基本、この世界は弱者と強者の差が激しい。一応、このルーザハルへの道中、手加減の訓練は相当程度詰んだから、相手が弱者とさえわかれば多分、殺しまではしないと思う。

むしろ、私の実力は世界で一応上位に位置すると予測される以上、アスタのときのようにそれを鑑定でもされる方が厄介かもな。

ともかく、大会の運営側がこんな衣服を用意することからも、私を勝たせたくはないんだろう。途中で棄権でもしようかと思ったが気が変わった。是が非でも優勝してやる。私はな、天邪鬼なんだ。

私が観客席に囲まれたアリーナに足を踏み入れると、大気が震えるほどのブーイングが巻き起こる。

対照的に、対戦相手である目つきが悪いトゲトゲの髪の男が会場入りをすると、会場が不自然なくらい静まり返る。

うーむ、このトゲトゲ頭、私とは別の意味で好かれてはいないようだ。このトゲトゲ頭の戦闘を私は見ていないが、円武台のすぐ傍に回復系の魔導士がスタンバイしていることからも、相当粗っぽい戦闘スタイルをとるんだろう。

うん? 司会者があの金髪の女から、黒服の男へと変わっている。どうやら、運営側の準備は万端のようだな。

『それでは決勝トーナメント第5組目、まずはこの男、【この世で一番の無能】のギフトホルダー、カイ・ハイネマン! 世界ではなく、この世で最も無能な男! アイテムの不正使用等様々な疑惑の中、決勝トーナメントへ進出しましたぁッ!!』

特大のブーイングが私の頭上に降り注がれる。

このタイミングで、しかも司会者が後々問題になりそうな一方選手へのバッシングをする意義など、そうは多くあるまい。きっと、背後にあるのは、ローゼとギルバート王子とやらの確執だろう。

「ご心配には及びません。大会運営も馬鹿ではない。今回の疑惑のために全選手の衣服は運営側で用意させていただきました。不正などもうできません!」

一斉に歓声が上がる。黒服の男は満足そうに頷くと、唇が太いトゲトゲ頭の男に右手を向けると、

「無能を討伐するのは、選手破壊率70%。火炎系のギフトホルダーであり、生粋のクラッシャー――ディック・バーム。その強さは紛れもない本物です!

さーて、 此度(こたび) 、どのようにして卑劣な無能を壊すのかッ!」

謳うような黒服の男の解説っぷりに、さらに大きな歓呼の声が会場中に響き渡る。

司会者が選手を壊すことを容認するか。どうやらこいつらは司会者としての矜持というものを持ち合わせてはないようだ。さらに観客もそれを容認する。正直、こいつらは私が最も嫌悪する部類の者達だ。

円武台の中心まで歩いていくと、

「だとさぁ、俺より嫌われた奴に初めて会ったぜぇ」

黒色のツンツン頭の男――ディック・バームも薄ら笑いを浮かべながら、私に近づくと、そんな感想を述べてくる。

「そうかい? それはいい経験になったな」

「お前、怖くないのか?」

ディックは右の太い眉をピクリと上げて、私を睨みつけながらも尋ねてくる。

「何にだね?」

「この俺がだ? 俺はお前より圧倒的に強いぞ?」

「ふむ、それはどうだろうな。やってみなければわからんよ。でも君のその自信、今回は多少期待できそうだな」

ディックの強度は私には羽虫以下程度にしか判別できないが、人間相手だと正確性に疑問が残る。何より、ステータスだけで戦士の価値は決まらない。技が著しく優れてさえいれば、ときに圧倒的強者にさえも膝を折らせることができる。それはあの弱者専用ダンジョンで、私が魂から思い知ったこと。

「よくいった、雑魚ぉ! 血祭に挙げてやる! おい、審判、早く開始の合図をしろぉ!」

黒服の司会者は大きく頷き、円武台から降りる。そして審判と思しき正装をしたスキンヘッドの男が円武台に上がってくる。そして両腕をクロスすると、

「ファイト!」

掛け声とともに両腕を水平にする。

「燃えろ、ゴミカスがぁッ!!」

ディックは両腕、両足全体に炎を纏わせ、そんな掛声を上げて突進してくる。

右拳の正拳突きを易々と躱し、ローキックを最小限の歩行移動により避ける。炎を纏った左の裏拳を軽く背中を 反(そ) って回避する。

これはひどい。未熟なリクよりもさらに技術が拙い。しかも武術家に最も大切なスタミナすらもない。ろくに鍛えていないのが丸わかりだ。こんなものは武術ではない。大道芸だ。

凡そ信じられんが、あの司会者の説明が真実ならば、この木偶はこの大道芸で多くの武術家を再起不能にしてきたらしい。

「くそ、なぜ当たらねぇっ!?」

肩で息をしながら私を睥睨するディックに、

「それはお前が武術家ではないからだよ」

私は答えるまでもない真実の指摘をする。

別に私は炎系のギフトやスキルを利用する武術を否定しない。

だが、それはあくまで武術の一つに組み込まれている場合に限る。こいつのように、単に元々あるギフトに振り回されているど素人など私は武術家とは認めない。

「俺は―― 炎涯邪燃流(えんがいじゃねんりゅう) の総師範だっ!!」

「えんがじゃ……? そんな舌を噛みそうな名前の流派など知らんよ。ただ、お前の全てが武術家でないことを語っている」

私は奴に向けてゆっくりと歩いていく。

「ふざけるなっ、俺は――」

私は独自の歩行術で奴まで接近し、左手で奴の顔面を掴むと軽々と持ち上げた。

「んなっ!?」

喚く奴に左手の力を入れていく。

「ぎがぁぁッ! い、いでぇ! は、はなぜぇっ!!」

ディックは必死にじたばたと暴れて、私に炎の柱を放ってくるが、そんなもの炎の同化能力を有する私に効果などあるはずもない。無視して左手の力を入れ続ける。

こいつの実力はわかった。以前私に絡んできたゴロツキと大差ない。【封神の手袋】がなくても、弱者に相応しい扱いをすれば殺しはしないだろう。

「心配するな。この程度の力で頭蓋骨は砕けんよ。なにせ最近毎日、果実や動物の骨を利用して、手加減の訓練をしたから、結構自信はあるんだ」

口端大きく上げて奴を見上げてやると、

「ぃひぃ!」

ディックは小さな悲鳴を上げ、顔を恐怖一色に染め上げる。

「いいか? 私が今お前にしているのは武術でもなんでもない。お前のようなど素人でも至れるであろう単なる力の発露だ。そんな価値のない暴力にすぎん。だがな――お前ごときを潰すには十分な力さ」

右拳を堅く握り、肘を引く。

「ま、参っ――」

「一度だけチャンスをやる。一から出直してこい!」

私は奴にそう吐き捨てると、その全身を殴りつけた。

全身をパンパンに腫らしたディックを円武台の床に投げ捨てる。

「審判」

半口を開けて茫然と眺めていた審判を眼球だけ向けて促すと、

「しょ、勝者、カイ・ハイネマン!!」

右手を私に向けると大声で宣言する。

用は済んだ。こんな場所にはもう微塵も用はない。

円武台を飛び降りると今も耳が痛いほど静まり返っている会場を私は後にした。