軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第20話 密談と計画(1)

――ルーザハルの最北端の屋敷

そこは豪奢な広い一室。その部屋の中心のテーブルには十数人の貴族風の男たちが雁首をそろえて真昼間から酒を飲んでいた。

彼らは王女を帝国に売り渡す計画につき、資金を提供したり、帝国と連絡を取り合ったりなど、陰謀に深い関わりのある第一王子ギルバート・ロト・アメリア派の貴族たち。

現場から近いこのルーザハルでは、ギルバート派が推す騎士が神聖武道会に出場している。その応援を名目に吉報を待っていたのである。

「フラクトン卿の失敗はこれで確定か」

樽のような体躯の男が、不機嫌を隠そうともせず、なみなみ 注(つ) がれた果実酒の入った木製のコップをテーブルに乱暴に置く。

「このルーザハルで王女殿下が目撃されている。それは間違いあるまいよ」

がっちりとした体格の頭頂部を残して金色の髪を綺麗に剃っている男が、両腕を組み、難しい顔でそう断言する。

「土壇場になって帝国が裏切ったということか。仮にも王族の婚姻を国王陛下に無断で強引に進めたのだ。フラクトン卿の死罪は確定。我らまで嫌疑をかけられねばよいが……」

真っ青な顔で病的に痩せた貴族がボソリと口にすると、

「じょ、冗談ではないぞ! 貴公らが絶対に成功間違いないというから、私は従っただけだ!」

「儂もじゃ! ギルバート王子殿下のためだというから、名前を貸したにすぎん!」

忽ち、今まで押さえつけていた不安が、同席していた貴族たちの間から噴出した。

「狼狽えるなっ! フラクトン卿が仮に自白しようが、証拠は何もない。嫌疑だけでここにいるすべての貴族を処罰することなど、例え陛下であっても不可能だ。それにしっかり、スケープゴートも用意している。我らが処罰されることは万が一にもない!」

樽のような体躯の男の激高により、周囲の貴族たちも冷静さを取り戻す。

「で? ローゼ王女はどうしてこのルーザハルに? ルンパ卿、貴公ならその理由、掴んでおいでなのだろう?」

パイナップルのような頭をした金髪巨躯の貴族が尋ねると、

「無能だ」

樽のような体躯の男、ルンパは吐き捨てるように答えた。

「は?」

「今開かれている武道会に出場している剣聖の汚点の付き添いだ」

フラクトン卿の件は、ここにいる貴族たちにとって己の運命を左右する死活問題。神聖武道会の観戦をしている余裕など、ありやしなかったのだろう。

「剣聖の汚点? あーあ、あの【この世で一番の無能】とかいう冗談のような 恩恵(ギフト) を保有する不憫な子供か」

その小馬鹿にしたかのような貴族の一人の言葉に、周囲の貴族たちからもどっと笑みが漏れた。

「で? 王女殿下の期待の騎士の結果はどうなったんですかな?」

「そんなの聞くまでもないでしょう。泣いて逃げ回ったのでは?」

「いやいや、他の武術家の覇気に当てられて、失禁して気絶したのやもしれませんぞ?」

樽のような体躯の貴族――ルンパは顔を嫌悪一杯に染めると、

「予選は無能の圧勝だ」

つっけんどんにその解を口にする。

「圧勝? そんな馬鹿な! 【この世で一番の無能】なのであろうっ?」

貴族の一人の頓狂な声に、室内が鳥カゴみたいにざわつく。

「事実だ。私も無能の戦いをみたわけではない。ただ、予選にでていた私の騎士がいうには、カイ・ハイネマンは弱くはなかった。そう強く主張している」

「いや、あり得んだろう! 何か裏があるはずだ!」

「そうだ! 不正をしたに決まっている!」

次々に吐き出される否定の言葉にルンパは大きく頷く。

「儂もそう思う。ローゼ王女の為した策の予想もつく。大会の運営にハイネマン流の師範代が、特殊なアイテムを使ってカイ・ハイネマンが勝利したと抗議していた。もっとも、証拠不十分で相手にもされなかったようだがな」

「神聖なる武道会に、不正とは許しがたし!」

「直ぐにでも告発すべき案件だろう! 大会の運営は一体何をやっている!?」

何の疑義も抱かず、カイ・ハイネマンへの不正を断定し、貴族たちは口から 罵詈雑言(ばりぞうごん) を吐き出す。

そんな貴族たちの誹謗をルンパは、両手を上げて押さえるジェスチャーをする。

「今大会には、ギルバート王子殿下の守護騎士候補も参加しておる。例え卑劣な手であっても、あの王女の騎士候補ごときに負ければそれこそただの恥ではすまん。ギルバート王子殿下のご尊顔に泥を塗ることになるのだ。絶対に勝たねばならん!」

「ルンパ卿の意見には同意するが、実際にそのアイテムとやらで、決勝トーナメントに進出しているのだろう? 運営が不正を認めなければ我らの守護騎士候補殿も敗北する危険性はあるぞ?」

「ふん! 奴のアイテムについては大会の運営側に衣服以外の競技場への持ち込みの一切の禁止を約束させた。それに、我らの手塩にかけた騎士をそんな無能な屑なんぞと対戦させるわけにはいくまい。問題ないさ。手は万端に打ってある!」

ルンパが顔を醜悪に歪めつつも、喉を鳴らして酒を飲み干した。

「そうか。杞憂であったか」

パイナップルのような髪型の貴族も軽く安堵の息を吐くと酒で喉を潤す。

それにつられるように他の貴族たちも悲観的な表情を消して、酒を飲みながらもお目当ての守護騎士と無能の剣士についての噂話に花を咲かせ始めた。