軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第11話 裏側の事情

薄暗いバルセの宿の一室で黒一色の上下の衣服を着た金髪の女は、読んでいた本を閉じて脇に置き、部屋の片隅へと視線を向ける。

その女の視線の先に忽然と姿を現す黒装束の男。男は床に片膝を突くと、

「ご指示通り、例のペンダント、渡して来ました」

そう端的に金髪の女に恭しくも報告する。

「ご苦労様、あとは、あの滑稽な道化が私たちの思い通りに踊ってくれることを願うばかりね」

金髪の女はテーブルの上に置かれたグラスに果実酒を注ぎつつ、独り言のように口にした。

「……」

黒装束の男は、その金髪の女の呟きには応えず、俯き気味に下唇を噛み締めるのみ。

金髪の女は目を細めると席を立ち上がり、黒装束の男に近づき、

「うーん、随分、不満そうな顔ね?」

その顔を覗き込みながら訪ねる。

「そういうわけでは……」

「気を使わなくていいわ。私たちの秘宝を薄汚い人間に与えたのが、そんなに気に入らない?」

黒装束の男は、しばし、金髪の女の様子を伺っていたが、

「貴方が決めたことに間違いなどあろうはずもない。ただ、それが最良だと頭ではわかっていても、この魂が納得いかぬのです」

直ぐに、意を決したような顔で喉から声を絞りだした。

「それはそうよぉ。私だって納得いってないもの。でもね、こうでもしないと私たちはこの戦争に負ける」

「伝説の勇者……」

「ええ、奴の戦闘を一目みれば骨身に染みてわかるわ。あれは人という種が生んだ一種のバケモノよ。陛下以外で抗えるとは思えない。さらに厄介なことに……」

「勇者のパーティー」

黒装束の男の言葉に、金髪の女は憎々しげな表情で顎を引いて相槌を打つと、

「勇者だけなら陛下がやや優勢でしょう。でも、賢者と 聖騎士(パラディン) は強力よ。奴らが加われば戦況などあっさりひっくり返る。しかも、大魔導士に、槍王、おまけに新たな剣聖のギフトホルダーが立て続けに生まれてしまった。このまま奴らの戦力の増強を許せば、私たちは確実に負けるわ」

そう断言した。

「そして、敗北は我ら魔族の根絶やし。ホント、嫌になりますね」

「同感よ。でもだからこそ、やり遂げねばならないの」

苦笑しつつも、真剣な表情でそう宣言する。

「あの神託ですか?」

「うん。実際にあの遺跡には神託の儀式場が存在した。十中八九、神託に従って人族数匹を生贄に捧げれば、我らが神をこの世界に呼び寄せることができるわ。そうなれば――」

「奴らを完膚なきまでに捻り潰すことができる!」

そう叫ぶ黒装束の男のギラギラとした瞳の奥には人族に対する強烈で暗い激情が揺らめいていた。

「勇者どもは確かに怪物だけど、それは我ら矮小な物差しの中での話。我らが神には絶対に勝てない」

その金髪の女の妙に熱の籠った断定的な言葉に、黒装束の男は肩を竦めると、

「いくら追い詰められているとはいえ、おとぎ話の神にすがるとは、中々情けない話ではありますね」

疲れたようにため息を吐きながら、そう呟く。

「そうね。でも、もう神託に従う以外に私たちが生き残る道はない。文字通り、決死の策。だからこそ、この作戦は絶対に成功させなきゃならない」

「もし、奴らが失敗したら?」

「もちろん、ペンダントを回収して次の道化候補を見つける必要があるわ。君にはその割り出しを頼むわねぇ。直ぐにとりかかってね」

「了解しました」

黒装束は立ち上がり姿勢を正すと胸に右拳を当てて一礼し、部屋を退出していく。

「アシュ様、必ず私が貴方の夢を叶えてみせます!」

一人残された個室で、金髪の女は決意に満ち溢れた声でそう呟いたのだった。