軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

78 「白百合は剣の技術もずっと磨いていた。どんな騎士だろうと、負けたりはしないぞ!」

楽団は完全に役目を失い、立食用の食事も同じか。

人々は自然と後退りし、中央から離れていく。それもそのはず、ステップを踏む大広間は今や勝敗を決める場となった。冬入りの舞踏会は、急遽ダンスの代わりに決闘場へと変えたのだ。

「卿は、本気でこのような茶番をするつもりか?」

王太子殿下が、デミオンへと尋ねる。

「……どこまで本気の脅しか分かりませんが、折角の機会だと思いました。ジェメリオ殿下立会の元俺が勝てば、もはや誰であろうと何も言わないでしょうし」

そして、彼らは声を潜める。

「王女殿下がどうやって毒とあの扇を手に入れたか、すぐにお調べになったほうが良いかと」

「ああ、今城へ人を向かわせた。女官たちを集めて、調べさせる。卿はどこから来たと思う?」

「……外部でしょうね。侯爵は知らないと思いますよ。国へは忠実な人間ですから。侯爵夫人も良い意味で普通のご婦人なので、関わってはいないでしょう」

デミオンの台詞は、ある方向を示す。

(それって……誰が犯人かほとんど言ってるようなものじゃ)

「……無理矢理取り上げるのは、まずいか?」

「王女殿下のご性格を考えれば、悪手かと」

「分かった」

そこで、話を切り上げたのだろう。王太子殿下が手を叩き、騎士たちを集める。

「すまないが、妹の我儘に付き合ってやって欲しい。デミオン卿、彼らの名誉のためにも手加減無しで行うが、それでもいいだろうか?」

「ええ、どうぞ。王女殿下の望むようにお願いします」

その後、王太子の命で儀典用の刃のない剣が人数分用意された。万が一のことも考えられ、西公側の護衛騎士も集められ、警備を強化する。

「では、これより 決闘(デュエル) を行う。ただし、舞踏会の余興なので、命を扱うわけにはいかぬ。各々、胸に刺した薔薇を散らされた時点で敗者とする。もしくは、それに準ずる状況になった場合でも同じだ。順番は……」

そこで、王女が異を唱えた。

「お兄様、それではつまらないわ! ひとりひとり相手をしては時間がかかるもの、一斉に行いましょう!!」

「アリーシャ、そなた正気で言っているのか?」

「だって、デミオンへの罰だもの。簡単なものでは反省しないわ」

扇の針が 照明(シャンデリア) の下、きらりと輝く。

同じく、見えないベールの向こうで彼女の瞳も光ったような心地になる。映らぬ朱唇が残酷に微笑んだようにも感じた。

「わたくしを選ばなかったことを後悔させて、間違いだったと謝らせないと。どちらが上か分からせるのよ」

「……何故、そこまでする」

「お兄様が王太子である事と同じでしょう。わたくしは王女なのだから、口答えするものを許してはいけないわ」

生憎と、王太子の表情の細かなところまで、わたしには見ない。だが、王女の言葉を快くは感じていないのだろう。

(……一見正しい気もするけど、本当にそうなのだろうか? そのために、苦しめる必要があるのだろうか?)

それは、ただの恐怖であり、嫌がらせでしかない気がする。

けれども、王女にとって間違いなどないのだ。

王太子が手を上げる。王族の護衛騎士たちが五名横並びに立ち、デミオンと対峙した。先程デミオンがいった通り、王女の望むようにしたのだろう。

わたしは、王女と王太子の向かい側になる位置に立つ。握りしめる両手には閣下がちょんと居座っている。

ウミウシ閣下は剣技の邪魔だと、デミオンにいわれたのだ。そこで渋々肩から降りたらしい。本来ならば物理防御を展開したいのだそうだが、それでは騎士との決闘にならない。

「……我輩、仕事にならぬのではないか」

しゅんとした声が、手の上で愚痴っている。

「閣下はデミオン様を信じないのですか?」

「白百合のことは信じているさ。だが……万が一がある。……あの王女、どうも気になるしな」

「アリーシャ王女殿下が、ですか?」

「ああ……あのベール、普通のベールではない。こちらの感覚を鈍らせる。そのせいで、見えそうで見えないのだ」

「それは、デミオン様が危ないと言う事ですか?」

「いや……それがよくわからないのだ。何かを隠しているのは確かだが、何を隠しているのか……」

閣下が、こちらを見上げる。

「娘、あまり心配するな。側にいなくとも、我輩であれば白百合を守ることは可能であるし、そもそも白百合には恩寵というとびきりの守りがある。白百合は剣の技術もずっと磨いていた。どんな騎士だろうと、負けたりはしないぞ!」

その声が、まるで開始の合図かのよう。

閣下の声に合わせて、王太子殿下がハンカチを振り下ろす。

「始めっ!!」

デミオンへ、五名銘々が剣を身構えた。大広間には勝敗を、ことの成り行きを見守る人々の緊張が広まるばかり。

わたしも、彼の勝利を思う。

願い、そっと祈る。

そうして、自分の都合よさにわたしは苦さを感じた。

(……愛し子だと人外に怒りながら、同時にあやかろうとするんだから、わたしも大概身勝手だ)

それでも、それでも……願わずにはいられない。

どうかデミオンが傷つかないようにと、叶うならば勝利して欲しいと、ご都合主義な我儘を求めるのだ。