軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

77 「デミオンはわたくしの婚約者に相応しい殿方になったのだから……身の程を知って、諦めなさい」

「なっ!」

驚く王女へ、呪縛が解けたように王太子が続く。

「……そうだ! アリーシャ、デミオン卿はもう其方の婚約者にはなれぬ。既にカンネール伯爵令嬢と婚約した身、これ以上愚かなことを口にするのをやめるんだ」

「……そんな、狡いわ! だって、デミオンはわたくしの婚約者だったのよ。確かに婚約破棄してしまったけど、王家との婚約だものとても名誉なことよ。ならばわたくしを選ぶはずだわ」

それから、王女はわたしのてっぺんからつま先まで、まじまじと眺めるよう。ベールが揺れた。

「貴女、知ってるわ。可哀想な伯爵令嬢でしょう!! 遠くから見ても地味だと思ったけれども、近くで見ても本当に可愛くない子なのね。だから、捨てられたのだわ」

くすりと笑う。

声が彩るのは嘲りという、哀れみだ。

「でもダメよ。デミオンはわたくしの婚約者に相応しい殿方になったのだから……身の程を知って、諦めなさい」

「素顔も晒せない方が、随分と大きな態度をとるんですね」

「あら、わたくしは王女だもの。貴女のような者に、素顔を晒すわけがないじゃない」

ベール越しに、視線が刺すようだ。

ああ……と、わたしは思う。気がついた。入場してから、こちらを睨んでいたのは王女だったのだ。この鋭さに覚えがある。

「デミオン、こんな子早く捨てなさい。わたくしが、もう一度貴方を婚約者にするのだから、いらないでしょう」

デミオンの肩で、ウミウシ閣下がやれやれと頭を振った。「会話が通じんぞ、コヤツ」とごちる。それにはわたしも頷くしかない。

「……だが、臭うなこの女」

しかし、すぐ妙に低い声で、閣下が王女を眺める。その体を斜めにしたり、伸ばしたりと、角度を変えて何かを見透かそうとする。

(閣下には……何が見えているのだろう?)

ちらりと、視界の端で閣下を眺めていた時だ。

「……王女殿下、では現在の 異母弟(あいて) はどうするのです?」

「それを、わたくしに聞くの? 貴方が何かしたのではなくて? ジュリアンがわたくしに会いに来ないなんて、おかしいもの。彼はわたくしのことを愛してるのだから!」

「では、やはり俺は必要ありませんね」

「まあ……恥ずかしがらなくても良いのよ!! 大丈夫、ジュリアンはわたくしの幸せのためなら、身を引いてくれるわ。だから貴方が嫉妬することはないの」

そんな馬鹿なとは、わたしの心のツッコミだ。取っ替え引っ替えし過ぎだし、都合よく考え過ぎだ。

それでも、王女様の夢物語はまだ止まらない。

「どうしてもと言うならば、わたくしに跪くのよ。許しを乞いなさい。弟の不敬は兄である貴方が償うのが道理。そう……優しいジュリアンのこと、貴方がでしゃばったから、今夜だって側にいてくれなかったんだわ。でもわたくし、謝ったなら許してあげましょう。貴方もよ、デミオン。さあ早く、わたくしの手を取りなさい。当たり前のことをしなさい!!」

(どこも当たり前じゃないしっ!!!)

ベールの向こうで、微笑んでいるだろう相手を、わたしは睨む。

「……俺は承服しかねます」

「デミオン!!」

彼の手が、王女ではなくわたしに触れる。答えだといわんばかりに、しっかりと手を繋いでくれた。

「俺にはもう、大切な方がいますから。手放したものをまた求めるなんて、物語で見かける愚か者の定番ですよ。よく言うでしょう? 溢したミルクを欲しがるな、と。昔の人は上手いこと言うものですね」

「……デミオンッ」

もう一度、王女が彼の名を呼ぶ。けれどもその声は、もう弾んではいない。忌々しいものを踏みつけるような響きをまとう。

「……そんなに、その地味な子が良いなんて、相変わらずつまらない男なのね」

「お褒めにあずかり、恐悦至極に存じます」

煽るよう微笑むデミオンはどこまで美しく、自信に満ち溢れている。それがやはり気に食わないのだろう。

「だったら、口を塞いでしまいましょう。そうだわ! わたくしの護衛騎士と勝負しなさい!!」

「アリーシャ王女。気高き騎士は、遊びで剣を披露しないものですよ」

「あら、わたくしの誇りを守るためだもの、立派な志しでしょう」

その台詞に慌てたのは、王太子殿下だ。

「待て! そんなことに騎士を使うなど、不敬過ぎる!」

「ジェメリオ殿下、俺からもお願いいたします。代わりに、これで俺が勝った暁には王女殿下の狂言は即刻やめていただきましょう。ついでに、二度と俺に命じないでください」

「……そこまで言うなんて、本当に中身は変わらずなのね。お兄様、お聞きになりまして? わたくし、護衛騎士をお借りしますわ。女性では不利ですもの」

「どなたでも構いませんよ。どうぞ、お好きなだけご用意してください」

告げるデミオンは、誰よりも不敵な笑みを刻むのだった。