作品タイトル不明
18話:厄介払い*1
そうして、エメディアはダンジョンの核を口にする。
グレイとスファル、ついでにウサミミがそれを見守る中、魔力が渦巻き……ダンジョンの魔力が、エメディアに取り込まれていくのが分かった。
だがやはり、その魔力全てを取り零さずに手に入れることは、難しいようであった。エメディアは『今度こそ!』と意気込みながらも、やはりぼろぼろと魔力を取り零してしまう。
……とはいえ、前回よりは上手にやってのけた。グレイは、『大したもんだ』と素直に称賛した。エメディア自身は、結果に満足のいかない様子であったが……。
「あーあ、また取り逃がした分が結構出ちゃったわ」
エメディアがため息を吐く中、3人は日差しに照らされていた。……無事、脱出したのだ。
エメディアがダンジョンの核を吸収し終えたことで、ダンジョンは消えた。後にはただ、元々そこにあった岩場が広がるばかりである。
3人の他にも、採掘していたのであろう多くの人が地上に放り出されて、『ダンジョンが消えた!?』『クリアされたのか!』とざわめいている。
……中には、『どこのどいつだ!折角の採掘場を駄目にしやがって!』と憤る者もいた。グレイはそれを見て、『こいつは気づかれない内にさっさと逃げた方がいいか』と思ったが……。
「皆!聞け!驚け!」
スファルが、堂々と、そしてのしのしと、歩いて皆の中央へ進み出た。
その堂々たる様子に、皆がぽかんとしつつも黙って、スファルの姿を見つめる。……そしてすぐに、気づくだろう。スファルが抱えているそれが、上等な魔石の塊であり……ゴーレムの頭部であったことに。
「このダンジョンの守護者、魔石のゴーレムは……俺達が倒した!」
スファルがゴーレムの頭部だったそれを掲げると、周囲は大いにざわめいた。
「ダンジョンをクリアしたのは俺達だ!文句がある奴は、このスファル・トゥルバに言いに来い!」
……こうして堂々としているオーガに文句を言いに来る者など、誰も居なかった。それどころか、『なんだ、あんたがやったのか!』『おめでとう!流石はスファルだ!』と称賛する声が上がってくる始末である。
スファルの取り巻きのみならず、それなりに多くの者達が、スファルの宣言を聞いて、称賛を述べ、拍手し始めていた。文句を言いそうだった奴らも、『まあ、スファルがやったことなら……』『ま、まあ、ダンジョンがそのままだと鉱山が枯れるっていうしな……』などと矛を収めていく。
「……すごいわね」
「だな。人望の厚いことで、何よりだ」
……スファルは、『近隣の魔物と戦い、鉱山で労働していた』と語っていたが、その成果がこれなのだろう。
少々柄が悪く、学も足りない部分があるにせよ……鉱山労働者達にとってスファルは頼れる労働仲間であり、自分達に身近であってくれる統治者でもあったはずだ。
堂々と偉ぶって見せながら称賛を浴びて笑うスファルを眺めつつ、グレイは『こいつが統治者になったら、案外、上手くやるのかもしれない』と思った。尤も、彼の父親の様子を見た限り、それは難しそうだが……。
「……彼のお父さんにも、ちゃんと証言しましょ」
エメディアがそう囁くのを聞いて、グレイは頷いた。
まあ、こいつのためなら、多少の厄介ごとは仕方あるまい、と思える程度には、スファルに対して情が湧いていたので。
そうして、スファルの凱旋が始まった。
ダンジョンに居た者達に囲まれながら、スファルはコルザの町へと歩いていく。グレイとエメディアはそれから少し離れて歩きつつ、この様子を温かく見守った。
「……これだけ人に囲まれてても、やっぱり、父親には認められたいものなのかね」
そんな折、ふと、グレイは気になってエメディアに聞いてみた。……聞いてから、『これ、彼女に聞くべきことじゃ、なかったか』と思ったが、口に出してしまった疑問を今更引っ込めるわけにもいかない。
「え?うーん、そう、ね……」
エメディアはグレイの問いに少々面食らった様子であったが、それでも真剣に考え……そして、首を傾げた。
「まあ……多分、そうなんだと思うわ。好きな相手には好かれたい、っていうことなんじゃないかしら。多分ね」
どこか他人事のようにそう言って、エメディアはまたちょっと考えて……それから、へにょ、と、眉尻を下げた。
「あー……ええと、ごめんなさい。私も、ほら、普通の親子、っていうわけじゃないから……一般的なことは言えないと思うの」
「いや、悪かった。その、答えにくいことを聞いて」
「いいえ。特に気にしてはいないのよ。ただ……うーん、まあ、彼にとっては、きっと、大事なことなんだろう、って、思うわ。私自身のことは、上手く言えないけれど」
エメディアの父は、『国王陛下』だ。となると、一般的な親子の話には当てはまらないものも多いのだろうし……エメディアも、答えにくいだろう。グレイは、『やっぱり聞くべきじゃなかった』と、苦い思いで視線を逸らす。
「私は……ほら。ある程度認められていないと、暗殺されちゃう立場だったから……」
「……あー」
案の定、エメディアの話の続きはなんとも気まずいものであった。エメディアほどの王女様が暗殺される立場、となるといよいよこの国も終わりか、という気分になってくるが……実際、彼女はダンジョンに捨て置かれ、実質、見殺しにされかけていたのだ。要は、『暗殺』されかかっていたわけである。
「……難しいわね。無償の愛、みたいなの、あんまりよく分からないの。親子関係はそんなかんじだし、それ以外も……まあ、損得が先に来ないと、命が危なかったし。かといって、損得が関係ない相手は全員、私の恩恵で私のことを好きになってくれるわけでしょう?だから……うーん」
エメディアは『こんな話してもグレイを困らせるだけなのに』というような顔をして表情を曇らせつつ、何やら考えて……一つため息と結論を吐き出した。
「……彼のことがちょっと羨ましいわね」
「……だな」
グレイはグレイで、『親子関係』などというものは分からない。分からないが……ひとまず、今、凱旋しているスファルのことは、羨ましいようにも思える。
なので……スファルが父親と上手くいくといいんだがな、と祈るような気持ちで、凱旋の最後尾を、のんびりと町に向かって進んでいくのだった。
コルザの町に戻った一団は、騒がしくもスファルの功績を喧伝し始めた。
スファル自身の声も大きかったし、それ以上に、スファルを慕う者達がどんどんと噂を広めていったものだから、すぐ、町中に『スファル・トゥルバがダンジョンをクリアした』という報せが知れ渡った。
すると、町の者達は揃って『あのスファルが!』『俺達の仲間が!』と喜びの声を上げ……すぐ、町は飲めや騒げやの様相を呈し始める。
「……すごいわね」
「まあ……こういう奴らが集まりやすいのが、こういうところだ」
早速、賑わっていく街の様子を眺めながら、グレイは『王都の裏通りの方が静かでいいな』と思う。……グレイが以前、このあたりで鉱山の仕事をしていた時も、同じように思ってダンジョンに潜る生活へと戻った。
コルザの町での鉱山労働者のような、連帯感と明るさと思い切りが求められる場所は、『嫌われ者』には少々、生きづらい場所だったので。
当時のことを思い出すと、どうにも、嫌な気分になる。なのでグレイはさっさと思考を打ち切った。かといって、周囲を見ていてもその賑やかさと、賑やかさの中で場違いな自分に嫌気が差す。結果、グレイの視線は自然と、上へ向いて……。
「……ん?」
「どうしたの?グレイ」
「あ、いや……」
グレイは、並ぶ建物の上……屋根の上から、誰かがこちらを見ていた気がして目を凝らす。だが、目を凝らしてもう一度よく見てみよう、とした次の瞬間には、それはもう、消えてしまっていた。
「……屋根の上に何か居る気がした。だが、見間違えだったかもしれない」
ただ、屋根の影にそれが消える直前……ぎらり、と銀色に反射された陽光が目を灼いて、グレイの目の奥に残っているように思えた。
……あれは一体、何だったのだろうか。
何にせよ、気づかれたことに気づいて身を隠すような奴であるならば、碌な相手ではないのだろうが……。
「親父!」
さて。
そうして町中を凱旋した後で、スファルを先頭に、グレイとエメディアも付き添って……いよいよ、老オーガの屋敷へと踏み入った。
屋敷の玄関ホールには、既に老オーガが険しい表情で佇んでいた。この騒ぎは屋敷の中からでも十分に聞こえたらしい。
老オーガは険しい表情であったが、スファルは彼の目の前に、運んできた魔石の塊……ゴーレムの頭であったそれを、どかり、と置いた。
「トゥルバの長へ、こいつを献上する。……ダンジョンの守護者たるゴーレムの、その頭だ!」
陽光の下、燦然と輝く巨大な魔石の塊は、それ自体が極めて上質な代物である。その上、これがゴーレムとなって動いていたのだから……その頭部を持ち帰ったスファルの功績は、非常に分かりやすい。
「ダンジョンが大地の力を枯らし尽くす前に、ダンジョンを潰してきた!これでこの地は守られる!どうだ!これが俺の力だ!」
スファルが意気揚々と宣言する中……老オーガは、忌々し気な顔をしていた。
「……スファル」
老オーガが声を発すると、それだけで、その場の空気が張り詰めるようであった。
何せ……それはこの祝いの場に相応しくない程に、冷たい声であったから。
「これは本当に、『ゴーレムの頭』か?」
「は……?」
「ダンジョンが大地から奪った恵みが、このように魔石の形になった。それをただ、盗んで持ち帰っただけではないのか?」
……静まり返った部屋の中で、老オーガの声が、厳しく響く。
そして。
「……先程、ダハブが『ダンジョンの核』を持ち帰り、目の前で破壊して見せた。私自身が、その証人だ」
老オーガの隣に立ったオーガは……恐らく、スファルの弟だという、『本物の黄金』なのだろう。
「あのダンジョンを制したのは、お前ではない。ダハブだ」
「そ……そんなはずねえ!」
沈黙を破ったのは、スファルの怒声であった。
「エメディアだ!ダンジョンの核を食ったのは、エメディアだ!俺が!この目で確かに見た!ゴーレムは、確かに俺が、グレイとエメディアと一緒に倒した!これだって、間違いなくゴーレムの頭だった!」
スファルの訴えは、怒りであり……同時に、動揺でもあった。自らの動揺を怒りで覆い隠して、スファルは尚も、声を上げた。
「俺だ!ダハブじゃねえ!ダンジョンに潜ったのも、魔物と戦ったのも……俺だ!」
「口では何とでも言えるだろうとも」
……だが、老オーガの言葉は極めて冷ややかであった。その言葉を浴びて、スファルは青ざめる。
「……信じて、くれねえのか?」
「誰がお前など信じる?普段から遊び歩くばかりで、次の長としての自覚に欠けたお前が、どうして信じられると?」
老オーガの言葉に、スファルは何も言えず、ただ黙っていた。
……だが。
「なら私が証言するわ!」
スファルの沈黙の代わりに、エメディアが声を上げていた。
「この私が……エメディア・アンバーローズが、証言する!ダンジョンの守護者であるゴーレムと勇敢にも戦ったのは、このスファル・トゥルバよ!」