軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百六十八話 第一次ポフェニア戦争 一年目 Ⅲ

トリシケリア島は非常に暖かい島である。

そして地味も豊かだ。

故に大昔からテーチス海の穀倉地帯として知られていた。

また、テーチス海を東西に分ける戦略的要地である。

そして……

トリシケリア島は非常に起伏に富んだ地形をしている。

大軍が正面から会戦を行えるような、大平原は少ない。

結果、トリシケリア島での戦いは攻城戦と……

その妨害が基本になる。

「メリア、敵の位置はどうだい?」

「ここから南西の方角、数は四万前後よ。……アレクシオス閣下」

妻のメリアからの報告を聞き、アレクシオスは手を顎に乗せて考える。

「敵は四万、こちらは二万。正面から相手をするのは得策ではない。だから決戦は避けるべきだけど……兵を二つに分けられたら厄介だね。挟み撃ちにされる可能性もあるし、アシュタルトを解放されるかもしれない」

何より、地の利はバルカ家にある。

長年、トリシケリア島で活動してきたバルカ家の方が地形に関する多くの情報を持っている。

「では、どうしますか? アレクシオス閣下」

「うーん、そうだね……ここから少し東に行くと、大きな街道がある。ケプカ・バルカがアシュタルトを解放したければ、そこを必ず通るはず。……そこに野戦築城しよう」

「土木工事ですね?」

「そうだね、ロマリア軍の……得意分野だ」

「アレクシオスの奴め……面倒な場所に陣取ったな」

ケプカ・バルカは唸った。

アレクシオスが陣を敷いたのは、アシュタルトに繋がる街道の上。

つまりケプカはアシュタルトを解放するためにアレクシオスを倒さなければならなくなったが……

面倒なことにアレクシオスは野戦築城をして、守りを固めている。

この守りを突破しなければ、どうにもならない。

実際のところ、迂回路は存在する。

しかし迂回路は道が細く、遠回りになってしまう。

長々と隊列を伸ばせば、アレクシオスの奇襲攻撃を受けて敗北してしまうだろう。

アレクシオスはそういう戦法を得意とする男だ。

「アレクシオス。お前が俺のやり方を分かっているように、俺もお前のやり方は分かっている。……その手には乗らないぞ?」

ケプカも同様に離れた位置に野戦築城し、両者は睨みあう形になった。

「攻め手が見つからないな」

ケプカは忌々し気にアレクシオスの築いた陣地を高台から眺める。

面白みが全く無いが、隙が一つもない完璧な築城だ。

さながら、簡易要塞というべき代物である。

アレクシオスは築城や平原での正面からの会戦など、正攻法は苦手とする。

故に築城を設計したのはアレクシオスではない、という事は分かる、

間違いなく、バルトロ・ポンペイウスの作品であることは間違いない。

バルトロ・ポンペイウスがアレクシオスを指導したか、それともマニュアルが用意されているのか、そのどちらかであろう。

すでに睨み合いから一か月。

そろそろアシュタルトも限界だ。

攻めなくてはならない。

「あまり奇策は得意ではないが……策を弄さねばならないな」

ケプカはこの土地の詳細な地図、情報を取り出す。

そして策を練る。

「……精鋭を集めろ、今夜奇襲をする」

ケプカは副官に命じた。

トリシケリア島は起伏に富んだ地形であることは先に述べた。

故に障害物となるモノはたくさんある。

つまり……

伏兵を用いる戦い方ができる、ということだ。

「良いか、絶対に音を立てるな?」

ゆっくりと、闇夜に紛れてポフェニア軍がロマリア軍に接近する。

ロマリア軍は松明を焚き、周囲を警戒しているが……

丁度、起伏が光を遮り、死角になる場所がある。

ポフェニア軍がそこに潜んでいた。

音を立てず、慎重に近寄る。

夜襲はリスクが高いが、しかし大きな効果を得られる。

戦局を変えることができる、唯一の戦法だ。

ポフェニア軍は限界まで近づく。

そして……

「未だ!! 行け!! 突撃!!」

ポフェニア軍は雄叫びを上げて、ロマリア軍に突撃した。

そして……

「来たぞ!! 矢を放て!!」

予め夜襲を察知していたロマリア軍の矢がポフェニア軍に降り注ぐ。

そしてロマリア軍の兵士が陣地から飛び出し、次々とポフェニア軍の兵士を斬り殺していく。

夜襲は完全に失敗した。

「全く、僕を相手に夜襲をするなんて、ね。夜襲は僕の専売特許だよ?」

アレクシオスは自らの眼帯に触れる。

アレクシオスは梟を使い、予めポフェニア軍の動きを完全に見切っていたのだ。

そして……

「さて、次はこちらの番だよ」

一方その頃、ポフェニア軍の陣地に忍び寄る軍勢があった。

「音を立てるな、絶対にだ」

ロマリア軍の兵士たちである。

アレクシオスは築城した段階で、ケプカがいつか夜襲を仕掛けてくるだろうと予想していた。

人は攻撃している時、自分が攻撃されるとは思わない。

だからアレクシオスはケプカの夜襲に合わせ、夜襲を仕掛け返してやろうと考えていた。

今回も同様に、アレクシオスは兵士たちに梟の瞳を共有させていた。

これで暗闇はよく分かる。

日頃の訓練の賜物だ。

「……行くぞ、今だ!! 突撃!!!」

ロマリア軍の歩兵がポフェニア軍の陣地に突撃する。

「敵襲!!!」

見張りが声を張り上げ、敵の攻撃を味方に伝える。

だが……

「投擲開始!!」

ロマリア軍の歩兵は火を付けた黒色火薬の手投げ爆弾を次々と敵に投げ込んでいく。

より煙がたくさん出るように改良されたその爆弾から、白煙が噴き出る。

元々暗闇で見えにくかったのが、さらに白煙で視界が封じられる。

「敵襲!! 敵襲!!」

「見えないぞ、どこだ!!」

「松明を、松明を持ってこい!!」

「待て、俺は味方……ぐあああ!!!」

「お、お前は味方……いや、敵? ぎゃあああ」

ポフェニア軍は大混乱に陥った。

その間、ロマリア軍はポフェニア軍の陣地の奥深くに侵入し、大量の油入りの黒色火薬爆弾を投げつける。

爆発と同時に油が飛び散り、燃え広がっていく。

攻撃を済ませたロマリア軍はそうそうにポフェニア軍の陣地から撤退した。

あとは放っておいても、ポフェニア軍の同士討ちで数は減るのだから。

「落ち着け!! 敵はもういない!! 武器をしまえ!!!」

ケプカは声を張り上げ、混乱を収めようとする。

幸い、前回と同じ失敗は繰り返さないように予め合言葉や集合場所を決めていたおかげで被害は最小限に済んだ。

この奇襲でケプカは五千の兵を失った。

「うーん、さすがに三度目は無いか……」

相互夜襲から再び一か月後。

アレクシオスは再び夜襲を仕掛け……失敗した。

幸い、撤退がスムーズに行われたことで損害は軽微であったが。

ケプカも馬鹿ではない。

今度は鼠一匹見逃さない、と言わんばかりの警戒だ。

「さて……このままだと不味いなあ」

アレクシオスの目的はケプカの足止めだが……

ケプカの目的もアレクシオスの足止めであることを忘れてはならない。

これから続々とポフェニア本国から敵の兵士が送られてくるのだ。

「アレクシオス閣下!! ご報告があります!!」

「どうした?」

伝令の兵士がアレクシオスの天幕に駆け込んできた。

「新たにポフェニア軍五万がトリシケリア島に上陸した模様!! 戦象の姿も確認されています!!」

「はあ、面倒なことになったね」

これで敵の数は九万。

それにポフェニアはさらに兵力を送り込んでくることは間違いない。

「アレクシオス閣下!!」

「今度は何だね?」

新たな伝令がアレクシオスに情報を伝え……

「どうやら悪い事ばかりでもないね」

アレクシオスは笑った。