軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十二話 舞台は整う

ロマリア王国に於いて、元老院は国王に次ぐ政治的な権力を持った集団……

というのはあくまで表向きの話である。

あくまで元老院は国王の諮問機関であり、実質的な協賛機関。

その役割は政務官を選出するだけで、行政的、立法的な権限は一切有していない。

初期のロマリア王国の最大の権力者は国王であり、国王が絶対の権力を有していた。

しかし国王とて、一人で国の方針を決めていたわけでは無かった。

独裁政治ではなかったのだ。

だが国王が政治を相談したり、意見を求めたりする場は元老院ではなかった。

元老院議員は大勢いる。

その大勢と重大な政治方針を相談し合えば、外部へ情報が流出するのは避けられない。

故に、重要な会議は少数の重臣と国王により、王城の奥深くで行われた。

アルムス帝期に見られた、この特殊な、密室で行われる政治を後の歴史家はこう呼んだ。

『王城政治』と。

元老院での表向きの会議が終わった後、俺は王城の奥の部屋にライモンド、バルトロ、イアルの三人を呼びつけた。

表向きではない、裏の話会いをするためである。

「よく集まってくれた。三人とも」

「あの……お一つ宜しいでしょうか?」

イアルが静かに手を上げた。

「……いくら秘密の会議だからといって、蝋燭一つ付けず暗闇と言うのはどうなのでしょうか?」

「雰囲気だよ、雰囲気」

王城の片隅に作られたこの小さな部屋は、まさに密会のために作られたモノだ。

故に窓はなく、ドアは分厚く光りの入る隙間もない。

「陛下。地図を広げたいので蝋燭を付けて宜しいですか?」

「……良いよ」

雰囲気の分からない奴だ。

とはいえ、地図無しで出来るような話ではないのは事実。

俺はランプに火を入れる。

ランプの光が暗闇を斬り割き、辺りを明るく照らした。

「さて、現状を報告してくれ。イアル」

「はい。何とか、細かい利害調整は終わり全ての西部諸国と同盟を結ぶことに成功致しました。各国には大使館を設置し、また我が国の首都にも大使館の設置が完了しています。諸国の有力者の子女も、首都ロサイスへの護送は途中ですが、来週中には終わるかと」

「ありがとう、イアル。ご苦労だった。すでに、西部諸国は我がロマリア連邦の一員、そう見て良いのだな?」

俺がイアルに尋ねると、イアルは静かに頷いた。

直接領土を蹂躙できたわけではなく、あくまで同盟を申し込まれた立場であるため、カルヌ王の国以外の領土は手に入らなかった。

とはいえ、カルヌ王の国だけでも大きな成果。

何より時間の短縮と兵力の温存の恩恵は大きい。

大使館を設置すれば、双方行き違いが発生することも無いし、人質として子女をロマリアに留学させれば、反乱を起こすのも躊躇するだろう。

「西部諸国の王国領土編入はおいおい、じっくりと時間を掛ければ良い」

今は食べることが最優先。

消化は後でも間に合う。

「その他の同盟国は?」

「アルヴァ王国は依然として、友好関係を構築しています。ベルベディル王の国は……我が国に逆らう力も気力もないでしょう。唯一気を付けるべきはエビル王の国ですが、エビル王は愚かではありません。我が国に逆らう愚が侵さないでしょう。南部のキリシア諸都市も我らに牙を向ける気配はありません。すでに彼らの牙を抜けた、と考えても宜しいかと」

つまりロマリア連邦は強固な結びつきを保っている。

ということだ。

母体であるロマリア王国が躓かない限り、連邦は維持出来るだろう。

「ライモンド、国内の状況は?」

「はい。まずは旧ゾルディアス領ですが、落ち着きを取り戻しています。来年からは問題無く税を採ることができるかと。反乱の起きる気配はありません。アデルニア山脈以西の西部は、すでに我が国の法も馴染み、問題なく税を徴収することができています。しかし旧カルヌ領の混乱は未だ収束していません。こちらの地域で税を徴収できるようになるには、あと二年ほど月日が必要になるでしょう」

カルヌ王の国は仕方がない面がある。

何しろ、最大の都市である首都が崩壊したのだから。

とはいえ、復興の目処は立っている。

さほど、心配する必要は無いだろう。

さて……

俺はバルトロに目を向けた。

「今後の国防方針、及び北部征伐について意見を聞かせてくれ」

「まず、南を固めるべきでしょう。ポフェニアの脅威が南にある以上、北に兵を向けられません。ポフェニアとは和を結び、その上である程度の海軍を揃えて備えるべきです。海軍に関しては、アレクシオス・コルネリウス殿に一任するのが宜しいかと」

カルヌ王の国を占領したことで、ポフェニアと我が国は唯一隣り合う隣国となってしまった。

一応トリシケリア島で隔てられてはいるが、双方の勢力圏が触れ合っている点で言えば隣国で良いだろう。

「現在、ポフェニアの主流派は親ロマリアのアズル・ハンノ。何とかなるだろう」

俺はイアルの方を向く。

イアルは静かに頷いた。

「トリシケリア島の利権について、双方線引きをすれば南の安全保障を確保するのはさほど難しくはないかと思います」

メルシナ海峡に関しては譲れないが、その他のトリシケリア島の利権に関しては全面的に認めてやればいい。

今のところ、トリシケリア島への野心はない。

「次の問題はロゼル王国です。大国ロゼル王国が北部三ヶ国側に立てば、我々の勝利は危うくなります。北部征伐からの、ロゼル王国の排除。これは絶対条件です」

北部三ヶ国……ドモルガル、ファルダーム、ギルベッドの三ヶ国ならば十分戦い抜くことはできる。

しかしロゼル王国に介入されれば話は変わる。

ロゼル王国が我が国に立てば、領土の多くを奪われる。

逆に北部に立てば、我が国は厳しい戦いをしなければならなくなるだろう。

「ロゼル王国の排除、か。難しいな……」

現状、我が国とロゼル王国は表向きには敵対しているが裏ではそこそこ仲良くしている。

とはいえ、敵同士である点では同じだ。

「ライモンド、イアル。意見はあるか?」

俺が尋ねると、ライモンドは静かに口を開いた。

「ペルシス帝国にロゼル王国への圧力を掛けてもらう、と言うのはどうでしょうか?」

「……こればかりは頼んでみないと分からないな。一応、俺のアデルニア諸国征服の黙認とロゼル王国への侵攻は認められてるけど、ロゼル王国への圧力までは約束されていない」

クセルクセス帝の約束は三つ。

・第三国との戦争時、ペルシス帝国の好意的中立。

・アデルニア半島侵略の黙認。

・ロゼル、ポフェニアとの紛争発生時に於ける仲裁。

確かに我が国に非常に好意的な内容ではあるが、しかしロゼル王国を押さえてやるとは一言もクセルクセス帝は言ってないのだ。

「イアルはどうだ?」

「ロゼル王国と同盟を結ぶ、というのが妥当なところではないでしょうか? 北部三ヶ国の領土の一部を条件に不介入を約束させるのです。今のロゼル王国は軍事行動にとても慎重になっています。ですから、何のリスクも無しに領土が得られるのであれば乗ってくるかと」

なるほど……

確かにマリリンが居なくなってから、ロゼル王国には覇気が感じられない。

隙あれば戦争をしかけてくる、狂犬のような姿はどこへやら、だ。

すでにガリアの反乱も収まっているだろうし、ゲルマニス人の侵攻も落ち着いているという情報がスウェヴィ族から入ってきているのだが。

やはり、数年前に我が国にこっぴどくやられたのがトラウマになっているのだろう。

……イアル、ライモンド。

双方の策は弱いが……二つ合わされば上手く行くかもしれない。

「さて、バルトロ。ロゼル王国とポフェニア共和国の排除に成功した後の軍事作戦について、お前の意見を聞かせてくれ」

「作戦はシンプルです。奇襲攻撃により大打撃を加えた後、迂回と包囲を繰り返して敵を各個撃破する。具体的には……」

その後、北部征伐は二年後の三月に行う。

ということで決定した。

「……とのことです、陛下。どういたしますか?」

ペルシス帝国宮殿。

ロマリア王国からの要望を、ベフルーズはクセルクセス帝に持ち帰った。

クセルクセス帝は愉快そうに笑みを浮かべる。

「表立って圧力を加えるのはさすがに我が国としても避けたいところだな。しかし……そうだな、ロゼル王国には我々ペルシス帝国とロマリア王国は友好的な関係である。と、伝えてやると返しておけ」

クセルクセス帝はそう言って、愉快そうにグラスに入ったロマリア産の葡萄酒を眺める。

真紅の美しい、最高級の葡萄酒だ。

「さて……アデルニア半島は真っ赤に染まるだろうか? それとも、上手くあの若造が侵略に成功するだろうか? さてさて……」

この戦争でロマリア王国とアルムスを見極める。

クセルクセス帝は心に決めた。

「ゲホ、ゲホ、……それは本当か?」

「はい。ロマリア王国は北部三ヶ国との関係悪化を気にしております。ですから、このようなことをこっそりと伝えて来たのでしょう」

例のプリンの外交官は病床のロゼル王に、ロマリア王国のアルムスの意思を伝えた。

アルムスがプリン外交官に伝えた内容は、

『現在、西部諸国征服の影響で北部三ヶ国と険悪になっている。さすがに我が国も北部三ヶ国と同時に戦争になれば、勝てるか怪しい。だから出来れば好意的な中立を守って欲しい』

というものだった。

さすがにまだ得ていない、得る見込みもない領土の割譲を提案するわけにはいかなかったため、このような内容になったのだ。

ロゼル王国経由で、北部三ヶ国の征服計画が漏れる可能性もある。

というのも、理由の一つだ。

あくまで領土割譲の提案は最後の手段と、アルムスは考えたのだ。

「……我が国にメリットは?」

「もし約束してくれれば、今後アデルニア人解放戦争などというくだらないものには参加しないとのことです」

「……ロマリア王に了解した、と伝えろ」

ロゼル王は静かに、外交官に命じた。

病床のロゼル王にアデルニア半島を南下する気力は無い。

また、対ガリア同盟の結束が揺らぐのであればありがたい話。

という、判断であった。

「……という内容で如何ですか?」

「ええ、構いませんよ。イアル殿。実に有意義な一日でした。早速、本国に戻り議会の議決を採ってきましょう」

アズル・ハンノはイアルと笑顔を浮かべて握手をした。

二人はトリシケリア島のとある都市で会談を行い、ロマリア王国とポフェニアの勢力範囲について話し合いをしたのだ。

結果、トリシケリア島最北部へポフェニアは手を出さない。

ロマリア王国はトリシケリア島に手を出さない。

メルシナ海峡はペルシス帝国を交えた上で、三国の共同管理とする。

ということで決定した。

また、一部の不平等条約もまた緩和され、とてもロマリア王国にとって益の多い条約となったのだ。

軍事大国として台頭しつつあるロマリア王国とは仲良くしておいた方が良い。

あくまで経済大国で、軍事大国ではないという自国の特性を理解した、アズル・ハンノの判断に依るものだった。

斯くして、ロゼル王国とポフェニア共和国は南アデルニア半島から完全に排除された。

舞台は整ったのである。