軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十一話

それから二か月が経過して、ついに新年を迎えることとなった。

例の如く、俺は一歳年が増加して二十四歳となった。早いものだ。

あと一年経てば、人間五十年の半分まで来たということになる。

時が経つというのは恐ろしい。

とはいえ、二十四歳でここまで国が拡大させられることができたのだからあまり文句は言えない。

ユリアも俺と同い年の二十四歳。テトラは二十二歳。

二人とも、女性として絶頂期を迎えている。

絶頂期、ということはつまり山頂でそれ以降は……

というのは気にしないお約束である。

というか、俺も人のことは言えない。

つい少し前まではまだまだ子供気分だったのか、少々我儘や駄々が目立つところがあったのだが最近は随分と落ち着きを見せている。

正真正銘、大人の女性に成ったと言えるだろう。

我らの子供も随分と、大きく成長した。

長男のアンクス(テトラ子)と長女のフィオナ(ユリア子)は数え年で六歳となり、次男マルクス(ユリア子)や次女ソフィア(ユリア子)、三女フローラ(テトラ子)は三歳となった。

数え年なので、日本での年齢では五歳と二歳程度だろう。

いや、マルクス、ソフィア、フローラは確か新年の数か月前に産まれたから……

誕生日―数か月―新年(去年)―一年―新年二回目(今年)

一歳 二歳 三歳

ということを考えると、一年と数か月になるのか?

数え年システムはみんな一斉に年を取るから分かりやすいのだが……同い年でバラつきがあり過ぎて難しい。

おや、この理論だと俺は二十二、三歳じゃないか。

日本だと大学卒業とほぼ同じ年齢。

何だ、まだまだピチピチじゃないか。

と、思い直していると……

「あの……陛下、ご相談が……」

アリスが執務室に入って来た。

普段は天上に張り付いて俺を護衛しているアリス。

それが地上を歩いているだけで、中々の珍事。

さらに執務室にドアを開けて入るとは。いつもは上から登場するのに。

極めつけには相談と来た。

何だろうか?

天変地異の前触れ?

「どうした、アリス。そんな深刻な顔をして」

「その……出来ちゃったかもしれません」

「何がだ?」

「……赤ちゃん」

あー、なるほど……

うん、まあそれは……別に不思議なことじゃないな。

「別に堕ろしたいわけじゃないんだろ?」

「それは、勿論です。陛下の赤ちゃんなら、でも……」

「産めばいいだろう。安心しろ、国には一流の呪術師が大勢いる。心配は要らないさ。何なら、妖精を脅して安産の加護でも用意して貰えばいい。……堕胎させろ、だなんて言わないよ。好きな女が自分の子供を孕んでくれる。これほど嬉しいことはない」

俺が笑みを浮かべてそういうと、アリスは顔を輝かせた。

「はい、頑張ります!!!」

さて、俺も頑張んないとな。

「ふーん」

「へえー」

アリスが妊娠しちゃった。

ということをユリアとテトラに報告すると、二人はジト目でこちらを見て来た。

「えっと、怒ってる?」

「別に、ついに孕んじゃったかと思って」

「やればできる。当たり前」

そういう二人は、特に怒っているというわけではなさそうだった。

……まあ、アリスに関しては二人に許可はとってあるので当たり前かもしれないけど。

「ところで、アリスの子供はどういう扱いになるの? 認知するの?」

「それとも側室にする?」

「認知はするけど、側室への格上げは無いよ。反発も強いだろうし」

アデルニア半島では結婚の法整備は進んでいないので、妻や子供の立場に関する明確な区分けは存在しない。

しかし一応、慣習として以下のような区分けがある。

正室……正式な妻。序列一位。その子供が第一位の相続権を得る。

側室……正式な妻。但し、あくまで正室の次として扱われる。その子供は相続権を持つが、正室の子供が優先される。(テトラの場合、ロサイス氏族との交渉の結果、事実上王位継承権は一切無い。但し、慣習としては依然として存在する)

妾……非公式の妻、または男女関係にある女性。家庭内、家庭外の両方に於いて使用人、家臣、正室のお付きとして扱われる。その子供は相続権を有さず、正室側室の子と区別して庶子と呼ばれる。

という感じだ。

俺の場合、正室はユリア。側室はテトラ。妾がアリスとなる。

側室と妾の間には大きな身分的差があるのは言うまでもない。

アリスは生まれがお世辞にも良くないので、彼女を側室に繰り上げすることは難しい。

まあ、俺の権力ならばできなくはないのだが……アリスを側室とする意味は果たしてあるのか、と考えると、欠点しかない。

側室となれば、アリスは俺の妻として社交界で振舞わなければならなくなる。

それはかなり辛いだろうし、汚い言葉を投げかけられるかもしれない。

アリス自身も側室、妾にさほどこだわりは無さそうなので繰り上げは無い。

「認知する、ってことは庶子か……まあ、必要かもね」

「うん大切」

意外にもユリアとテトラはアリスの子供に好意的なようだった。

国王の庶子というのは絶対に裏切らない家臣になるので、案外正室や側室からは歓迎されるのだ。

自分の子供にとって兄弟だから信頼できるし、また相続権を持たないので敵にも競争相手にもならない。

後の家臣として、非常に優良な人材となる。

……アリスを側室にしたら、二人のアリス虐めが発生したりするのだろうか?

ユリアとテトラの二人は元々友人同士だし、気も合うようだから二人の対立は基本小康状態を保っていて、敵というよりはライバルという関係と言えるのだが……

アリスとは親しくなって日が浅いからなあ。

仮にアリスが側室となり、その子供に相続権が発生すれば間違いなく敵になるだろう。

二人にとって共通の敵というわけだ。

俺はユリアとテトラの二人がとても優しく、人格的にも優れていて、理性的であるということは分かっているのだが、同時に二人は『人間』で『女』である。

決して聖人ではない。

アリスが二人の敵になり、虐めの対象になれば、共同作業によってユリアとテトラの仲がさらに深まる……

ということを考えると、強ち否定できない話だ。

まあ、虐めが発生するかどうかは分からないが二人のアリスへの態度が急速に冷たくなるのは間違いないし、皮肉の一つや二つ直接言うことは間違いないだろう。

うん、やはり妾のままが一番だな。

アリス妊娠が確定してから三日後。

王宮に再び例の人物がやって来た。

「お久しぶりです、ロマリア王陛下。ご依頼のモノが完成致しましたので持って参りました」

砂漠の民族長、アイーシャである。

アイーシャは軽く一礼してから、後ろに控えていた部下の持っている、赤い布に包まれた箱を手に取り、俺の側に近づく。

「どうぞ、お確かめください」

「ああ」

俺は布を取ると、美しい宝石箱がまず目に入る。

キラキラと金銀、ルビー、そしてグラナダの鱗が光り輝いている。

「余った素材で作ってみました。特別サービスです。さあ、箱を開けてください」

俺は期待に胸を膨らませて、宝石箱を開けた。

中には美しい真紅の宝石が入っている。

大きさは鶏の卵よりも一回り大きい。

俺は慎重にルビーを手に取る。

溜息が出てしまうほど、美しい。

「何か、名前を付けてみたら如何ですか?」

「そうだな……『ヒュドラの血涙』、というのが良いかな」

まあ、泣く前に死んだけど。

さて次は……

アイーシャは今度は大きな箱を持ってきた。

俺は促されるままに、木箱を開ける。

やはり中には鎧兜が一式、入っていた。

一応、サイズは俺に合わせている。

しかし……やっぱり着るのやめようかな。

グラナダの呪いが掛かるような気がする。

「さて……最後の剣を見せて貰えないかな?」

「はい。どうぞ」

アイーシャは赤い布に包まれた、長い棒状のようなモノを俺に差し出した。

布を剥ぎとり、現れた剣を手に取る。

それはとても簡素な鞘に納められていた。

重さは普通の剣とさほど変わらない。

少なくとも、鞘に納められているのを見ただけではありふれたロングソードだ。

ゆっくりと、鞘から剣を引き出す。

木目状の模様が浮かび上がった、美しい鋼が姿を現した。

「試し切りしてみないと、分からんな」

「そう仰るかと思いまして、試し切り用のドラゴン・ダマスカス鋼を用意しました」

そう言ってアイーシャは半径十センチほどの鉄の棒を持ってきた。

「ちなみに、陛下が以前使用されていた剣と同じ質のドラゴン・ダマスカス鋼です。この鋼の棒は我々が本気で鍛え上げたモノで強度は申し分ありません」

「……斬って良いのか?」

「ええ、私も我々の打った最高傑作の剣の切れ味を知りたいのです。まあ、もしかしたら斬れないかもしれませんが。何しろ、試し切り用に用意したこの鋼も最高級のモノで、我々が魂を注いで鍛えたものですから」

そういうアイーシャの目はキラキラと輝いていて、早く試してくれと言わんばかりだった。

「試していないのか、お前たちは」

「お客様の剣を無断に使用するはずないでしょう」

成る程、仰る通りだ。

俺は召使に指示を出し、台を用意させて、その上にドラゴン・ダマスカス鋼の円柱を固定させた。

剣を引き抜いて、円柱を睨みつける。

……こんな分厚いドラゴン・ダマスカス鋼を斬れるだろうか?

ふと不安に思い、俺はグラナダの心金で作られた剣を見る。

決して薄いわけではないが、さすがに円柱と比べると分厚くない。

某Zソードのようなことにはならんだろうか?

……まあ、折れたら折れたで仕方が無いか。

俺は勢いよく、ドラゴン・ダマスカス鋼の円柱を斬りつけた。

まるでバターのように、ドラゴン・ダマスカス鋼の円柱は真っ二つに裂けた。

……これは凄いな。

「やはり私の見立て通り……その剣と同等の剣はこの世に二つとしてありませんよ。最高にして最強の剣です」

アイーシャは誇らしげに言った。

「名付けるとするならば、 竜殺し(ドラゴン・キラー) かな」

まあ、この剣で殺したわけではないんだけどね。

______________

『 竜殺し(ドラゴン・キラー) 』

別名『魔女殺し』

アルムス帝の討伐したヒュドラの心金で折られた剣。

木目状の模様が特徴のダマスカス鋼と心金の合金、ドラゴン・ダマスカス鋼で作られている。

後にマルクス帝に受け継がれて以降、皇位継承の証の象徴としての役割を果たしている。

後に内戦に乗じて魔女が強奪し、一時皇帝の手元から姿を消すが、奪還に成功してユリウス・カエサル家の手元に戻った。

その後、様々な経緯により真っ二つに破壊されてしまうが当時最高峰の鍛冶師の手によって修復、強化された結果、『神殺し』の名で呼ばれるようになる。

幾度も帝国の敵を討ち取ってきた剣であり、帝国の武力、領土拡張を象徴する剣。

勝利そのものであり、『聖剣』として名高い。

しかし、そもそもロマリア皇帝自らが前線に立つことは少ない。

それどころか、多くのロマリア皇帝は戦場に直接立つことすら少なかった。

……そのため、この剣は外の敵よりも内の敵を大勢斬り裂いている。

別名、『ユリウス殺し』または『カエサル殺し』

故に『魔剣』、『呪剣』とも呼ばれる。

ロマリア帝国、そしてユリウス・カエサル家の光と影の歴史を象徴する剣である。