軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十四話 第二次ゾルディアス戦争四

「報告します。全体、二個中隊三百二十のうち未帰還者八十三。負傷者十七。損害は百です」

「うん、ありがとう。ロン・アエミリウス殿。危険な任務、任せてすまない」

奇襲攻撃から帰還したロンをアレクシオスは労った。

相手にどれだけの損害を与えたかは分からない。

しかし明け方早朝に奇襲で起こされて、穏やかな者はいないだろう。

敵兵士は寝不足で怒り狂っているはずだ。

アレクシオスの狙いは敵兵士の精神状態を不安定化させること。

奇襲による敵の損失はあくまで補助に過ぎない。

「勉強になります。アレクシオス殿。地形と情報の大切さがよく分かりました」

「これくらいは当然さ。まあ、今回は丁度都合のいい地形が有ったから使っただけだよ。普段はそう上手くいかない。名将の僕でもね」

アレクシオスは誇らしげに胸を張る。

ナルシストな性格さえ直せば良い人なのに……とロンは思いながら尋ねた。

「しかしこの後どうするのですか? 敵は奇襲で数を減らしたとはいえ、元々一万、減って精々千程度でしょう。我々は一万。どちらにせよ、殆ど同数の戦いになるのでは?」

「そうだよ。だから奇襲した。なに、心配は無用だよ。しばらくしたらロズワード・ファビウス殿とグラム・カルプルニウス殿が来る。その時、作戦の概要を説明する」

「ふむ、有利な地形は取られた後か」

ゾルディアス王はロマリア軍の布陣を見て、そう呟いた。

カラノ村近郊の平野には押さえなければならない四つの地形的要素がある。

一つは西の水深の深い川。

中央の平原。

東の小高い丘。

さらに東に広がる森。

軍隊をまともに動かすことが出来るのは、小高い丘と中央の平原の身。

そしてこの二つを合わせても、ようやく一万の軍隊が横に並んで精一杯程度の狭い空間だ。

つまり、軍隊の機動性は大きく失われる。

少なくとも大胆な動きはできない。

そして敵の配置は……

「ロマリア軍左翼騎兵約二千、中央歩兵約五千は平野部。右翼は丘の上に歩兵約三千。なるほど、丘の上で俺たちの左翼を食い止め、その間に左翼と中央を右回転させて反包囲に持ち込むつもりか。西側は森だから、逃げ場はない。実質的には包囲になる」

見事と言わざるを得ない。

地形的不利は覆すことは不可能だろう。

しかし……

「ここに俺を追い込むためにばら撒いた手紙。おかげでこちらの士気は高まっている。良いだろう。簡単な話だ。包囲されるより先に丘を奪えばいい」

ゾルディアス王の国は山岳国家。

丘を登ることに掛けては並ぶものはいない。

「災い転じて福となす。この戦い、勝って見せようじゃないか」

ゾルディアス王は将軍たちを自分の天幕に集めた。

「これより、アレクシオス・コルネリウスを討つ!! 諸君、奴らに怒りをぶつけろ!!」

「「「おおおお!!!!」」」

斯くして、カラノの戦いが始まった。

ゾルディアス王の立てた作戦は次のとおりである。

まず、ロマリア軍左翼騎兵二千を止めるために、右翼にゾルディアス軍全騎兵千を配置。

ロマリア軍中央五千の旋回を防ぐために、中央に三千の歩兵。

そしてロマリア軍右翼三千が守る丘を奪取するために、左翼歩兵五千。

右翼と中央で持ち堪え、左翼で丘を奪う。

そのまま丘を西へ一気に駆け下り、敵左翼と中央の側面に襲い掛かる。

ロマリア軍の西側は深い川。

逃げ場は無い。

敵の包囲を破り、逆に包囲する。

それがゾルディアス王の作戦だ。

「左翼、突撃開始!!!!」

ゾルディアス王自らが率いる左翼が動き出すと、、それに送れるように中央、右翼が動き出す。

斜線陣である。

数で劣る中央と右翼の会敵を遅らせ、左翼が丘を奪取する時間を稼ぐのが目的だ。

経済封鎖をされ、猿と馬鹿にされ、明け方に不愉快な起こし方をされたゾルディアス軍の士気は非常に高い。

元々、ゾルディアス兵はアデルニア一の強兵だ。

少なくとも、個の強さであるならばロマリアを圧倒する。

それがゾルディアス王自らに率いられているのだ。

当然、強い。

確かにロマリア軍は高所を取り、坂を下ることで勢いをつけている。

しかし……

「数はこちらが有利。そして坂の上で我らは負けん! 行くぞ!!!!」

ゾルディアス軍左翼とロマリア軍右翼が激突する。

初めは高所を取るロマリア軍右翼が押すが、少しづつゾルディアス軍左翼が押し上げていく。

少しづつ、少しづつ……

ゾルディアス軍とロマリア軍は丘を登り始めた。

一方、ゾルディアス軍右翼及び中央。

こちらは奮戦してはいるが、少しづつ押されていた。

特に状況が悪いのは右翼の騎兵。

ロマリア軍の騎兵の大部分はアルヴァ王国からの援軍。

山岳国家で元々騎兵そのものが強くないゾルディアス騎兵と生まれながらのアルヴァ騎兵。

勝負は目に見えている。

しかしそれでもゾルディアス騎兵は踏みとどまっていた。

自分たちの国王を信じているからだ。

「俺の名はルキウス・パピウス!! 俺を倒せる奴は居るか!!」

ゾルディアス軍の騎兵隊長は大きな槍を手に暴れ回る。

次々とアルヴァ騎兵を打ち破っていく。

「そこまでだ。俺の名はロズワード・ファビウス。ロマリア軍近衛騎士隊長であり、左翼騎兵隊長!!」

ロズワードとルキウスの槍が交錯する。

二人に加勢するために、邪魔をさせないために、二人の周りを中心にロマリア軍の騎兵とゾルディアス軍の騎兵が死闘を繰り広げる……

一方中央。

こちらでは戦況がロマリア優位に傾き始めていた。

それはロンの堅実で確かな指揮のおかげだ。

ゆっくりと、確実にロマリア歩兵がゾルディアス歩兵をチームワークで押し込んでいく。

「このままゆっくりと圧力を掛けたまま、旋回する。中央右翼はその場に止まれ。中央中央は笛の合図で一歩。中央左翼は二歩前進!!」

中央右翼を軸に、少しづつ左翼側が旋回を始めていく……

そして勝敗を決する重要な丘の上……

ゾルディアス軍はすでに中腹を越え、ロマリア軍を頂上まで押し込んでいた。

「行け!! 押し込むぞ!! 頂上にさえ出れば、蹴りがつく!!!」

ゾルディアス王自ら剣を振るい、丘を登る。

怒りに燃えるゾルディアス軍の進撃は止まらない。

「ふむ、これはこれは。さすがはゾルディアスだね。坂を上るのが上手い。猿というのは失礼だった」

そんなゾルディアス軍を丘の上からアレクシオスは見下ろす。

ロマリア軍右翼は総司令官であるアレクシオス自らが率いていた。

「あなたは名将だ。それは認めよう。この不利な状況で、ここまで持ち込んだのだ。僕の包囲の裏を掻き、逆に包囲しようとするとはね。……しかし、予想通りだ」

アレクシオスはゾルディアス王がどのような作戦を立てるか、五パターンほど考えていた。

その全てのパターンの中でベストをゾルディアス王は選んだ。

ゾルディアス王は名将。

しかし、あくまでアレクシオスの考えうる範囲に過ぎなかった。

「あなたは僕と同じ名将だ。だからこそ、考えが読みやすい」

アレクシオスは笑みを浮かべた。

「僕の勝ちだ」

アレクシオスが勝利を宣言するのと同時に、ゾルディアス軍の先頭が丘の頂上に立つ。

先頭を駆けるゾルディアス王は宣言した。

「俺の勝ちだ!!」