軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十三話 第二次ゾルディアス戦争Ⅲ

「うむ……予想が外れたな」

ゾルディアス王は一人、天幕の中で唸っていた。

現在、ゾルディアス王の国の食糧事情は最悪。

となれば、戦争で奪うしかない。

だから西部諸国に侵攻した。

そしてそれを名分にロマリアがゾルディアス王の国に侵攻する……というのは十分に予想できた。

しかしロマリア軍の数と、率いてくる将軍が違った。

ゾルディアス王の読みでは、将軍は間違いなくバルトロ・ポンペイウス。そしてロマリア軍は三万以上の大軍で来るはずだった。

というのも、ロマリア王国には一万以上の大軍を率いて自分と戦える将軍はバルトロ・ポンペイウス以外存在せず、バルトロ・ポンペイウスは王道的な戦い、つまり相手よりも兵の数と質での優位を持って包囲し、押し潰す戦いを好む将軍であるからだ。

無論、それができないときは奇襲もするし、奇策も練る。

しかし王道的な戦いができる時は必ず王道通り、兵法通りの戦いをするのがバルトロ・ポンペイウス。

バルトロ・ポンペイウスの今までの戦績、戦い方、性格までゾルディアス王は調べ上げていた。

何も、この一年で調べたことではない。

バルトロ・ポンペイウスがロゼル王国に勝利した時点でゾルディアス王は情報を集め始めていた。

徹底的にバルトロ・ポンペイウスの兵法は計算済み。

だからゾルディアス王はバルトロ・ポンペイウス相手ならば勝てる算段があった。

小競り合いを繰り替えし、撤退するように少しづつ自国に逃げ込む。

そして自国に深く食い込んだ時を見計らい、地形を利用して退路と補給を断つ。

あとは少しづつ嬲り殺しにすれば良い。

しかし……

「アレクシオス・コルネリウス。数は一万。はあ……」

アレクシオス・コルネリウス。

その名は当然、ゾルディアス王は知っていた。しかし、来るはずがないと思っていた。

いくらロマリア王が有能であれば外国人でさえ登用するような王だとしても……

まさか、一軍を任せるとは考えられなかったのだ。

せめてアレクシオス・コルネリウスの情報がゾルディアス王の手元にあれば、まだ良かった。

しかし、アレクシオス・コルネリウスは外国人でアデルニア半島での戦いは数えるほどしかない。

情報不足だ。

アレクシオス・コルネリウスがどれほどの能力で、どのような戦術を好むのか。

未知数。

代わりに自分の戦術は……

「西部諸国とは長い付き合いだからな……」

ゾルディアス王はため息をついた。

自分のやり方や自国の将兵の性質は看破されていると考えて行動した方が良いだろう。

しかし……

「ともかく、勝つしかあるまい」

ゾルディアス王が覚悟を決めたその直後だった。

「大変です!! ゾルディアス王様!!」

「取り乱すな。仮にも一将軍。貴様が騒げば兵士が動揺する。で、何が起きた?」

「こ、これをご覧ください……」

ゾルディアス王の配下の将軍が、一枚の筒状に丸められた紙をゾルディアス王に手渡した。

ゾルディアス王は紐を解き、そこに書かれていた文字を読む。

『ゾルディアス王とその将兵共。

読んでいるか? 良く、目を見開いて読めよ?

僕はアレクシオス・コルネリウス。国王陛下に命じられ、君たちを討伐しに来た。

全く、人様の畑に土足で踏み込み、食糧を奪うとは。

最近の猿は恐ろしい。

聞くところによると、君たちは鉄の武器を持っているそうじゃないか。猿の癖に大した知能だ。

しかし、しょせん猿だ。

君たちは我々人間には勝てない。

大人しく降参しろ……と言いたいところだが、君たちのような猿は力で思い知らせてやらないと分からないだろう。

だから、戦おうじゃないか。

ここから南西のカラノ村というところで僕は待っている。

僕らは逃げも隠れもしない。

早く来ると言い。

まあ、キーキー泣きながら山に逃げ帰るならば勝手にすると良いけどね』

グシャリ

紙が潰れる。

「ふざけるな!!!」

ゾルディアス王は紙を引き裂き、地面に叩きつけ、踏みつけた。

何度も、何度も踏みつける。

そして将軍を睨みつけた。

「おい、この手紙はどこから来た? ここには『ゾルディアス王とその将兵共』と書かれているが、まさか……」

「も、申し訳ありません。呪術師により空から大量に投下されたようです。呪術師には逃げられました……今、手紙は回収させています」

ゾルディアス王は強く、歯軋りをした。

「くそ、やられた……」

「国王様!! すぐさま、カラノ村に向かいましょう!! 明日の昼までには到着できます! ロマリア軍をズタズタにしてやりましょう!!」

「そうです。このようなことをされ、黙っていては世間の笑いものにされます!!」

「兵士たちも怒りに震えています。後悔させてやりましょう!!」

幕僚たちは口々にゾルディアス王に決断を迫る。

ゾルディアス王は歯を食いしばった。

(ふざけるな、俺だって腹立たしいさ。だが……)

どこからどう見ても、罠だろう。

分かりやすいほどの罠だ。

このような罠、乗ってやる方が愚か。

しかし……

(この挑戦に応じなければ、間違いなく豪族たちに見限られる。兵士たちに反乱を起こされる可能性もある。……クソ、ふざけやがって)

ゾルディアス王は拳を強く握りしめた。

「分かった。ロマリア軍を八つ裂きにしてやろう。カラノ村に向かう!!」

大歓声が上がった。

「おい、進軍速度が早すぎる。落とさせろ」

ゾルディアス王は伝令兵に命じる。

すぐさまゾルディアス王の命令は各部隊を動かす豪族たちに伝わり、少しだけ進軍速度が落ちる。

「早すぎれば体力を疲弊する。そんなことも分からないか。馬鹿共め。確かに逸る気持ちは分かるが……」

怒りに震える兵士たちの足が自然と早くなり、進軍速度が上がってしまったのだ。

本来はそれを押さえるのが将軍、つまり豪族たちの役割だが彼ら自身も怒りで突き動かされているため、制御しきれていなかった。

「おい、また速度が上がっている!」

速度が上がるたびに下げさせ、を何度も繰り返しているうちにゆっくりと日が傾き始める。

ゾルディアス王は予め、斥候に調べさせていた野営に適した場所に到着すると進軍停止を命じた。

西側には幅が狭く、浅い川。その向こうには広い平原と森。

東側には鬱蒼と茂る森が広がっている。

薪にも、水にも困らない。理想的な場所だ。

「一先ず、朝まできちんと休ませよう」

ゾルディアス王は兵士たちに休息をしっかりと取るように厳命した。

そして呪術師たちを集める。

「良いか、今日のような失敗は許さない。夜は梟を、日が昇ったら鷹を飛ばして最大限の警戒をしろ」

「「「は!!!」」」

その後、ゾルディアス王は幕僚を集める。

「兵士たちには必ず休養を取らせるように。兵が疲弊していては勝負にならない。それと夜襲の警戒、特に東の森の方向には最大限の警戒をしろ。あそこは伏兵を隠すには丁度良過ぎる」

ゾルディアス王はそう告げてから、作戦会議を解散させた。

会議を長引かせても、「自分たちがどれくらいロマリア軍に怒っているか」で終始してしまうからだ。

「まあ、一晩寝れば冷静になるだろう」

「敵襲!! 敵襲!!」

ゾルディアス王は不愉快な朝を迎えた。

すぐさま、将軍が飛び込んでいる。

「王様!! 敵の朝駆けです!!」

「見張りは何をしていた!!!!」

ゾルディアス王は大声で怒鳴りつけた。

将軍は身を縮こまらせた。

「も、申し訳ありません……」

「敵はどこからだ? 森か?」

「い、いえ……川からです」

ゾルディアス王は首を傾げた。

川の向こう岸には平原が広がっている。兵士が隠れることができる場所は無いはずだ。

無論、限界まで近づくことはできるだろう。

森の中を通っていけば平原の手前までは近づける。しかしそこからゾルディアス軍に気付かれないように接近するのは不可能だ。

夜でも松明で平原を照らし、東側の森と比べれば少ないが見張りも立てている。

奇襲が成功するとは思えない。

「まあ、良い。どちらにせよ敵は少数だ」

ゾルディアス王は剣を腰に帯び、鎧も着ずに外へ出る。

奇襲の混乱を収束させ、撃退するためだ。

ひんやりとした朝の空気がゾルディアス王の意識を覚醒させる。

「……なるほどな」

ゾルディアス王は目の前に広がる薄い霧の海を見渡す。

その霧は薄い。少し視界が悪くなる程度だ。

しかし……

(この薄い霧で奇襲が成功するはずがない。となると、少し前まではもっと濃かったかそれとも川沿いが発生源でそこだけが濃い……と考えるのが自然か)

温かい水の表面に冷たい空気が触れることで、川霧別名蒸発霧と呼ばれる現象が発生する。

ゾルディアス軍が野営地に選んだのは、この周辺の村々ではそこそこ有名な川霧のスポットだったのだ。

「やられた……せめてここら周辺の村人でも捕まえて……いや、俺たちに教えてくれるはずも無いか」

侵略者に道案内をしてくれる親切な者はいない。

とにかく、今は混乱の収束と撃退を第一に考えるべきだ。

そう考えたゾルディアス王は早速事態の収拾に乗り出した。

約二時間後、ゾルディアス軍はようやく混乱を収めた。

ゾルディアス王による陣頭指揮により、早期に混乱が治まったため致命的な事態は避けられた。

ゾルディアス軍、死者は二百名。負傷者は八百名。合計千の損害。

一方、全身に真っ白い服を着たロマリア軍の兵士の死体は八十三しか見つからなかった。