軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十一話 第二次ゾルディアス戦争Ⅰ

戦争が終わってしばらくして、七月になった。

季節は夏、小麦の収穫期である。

今年は天候不順もあってか、アデルニア半島全体での小麦の収穫が悪かったようだ。

ロマリア王国でも、国全体の貨幣経済の浸透、好景気による物価高騰の影響で一時小麦の価格が上昇した。

しかし餓死者は出ていない。

むしろ、小麦を栽培している自作農は小麦価格の上昇によってかなり儲けを出したようだ。

元々我が国は平野が多く、小麦の収穫量があったが……

今までの治水灌漑が功を成したのか、少し不作程度に治まったのだ。

問題が生じたのは都市部での小麦価格の上昇だが、こちらもすぐに治まった。

キリシア商人に一定量の小麦の輸入を一時的に認めたのだ。

おかげで少なくともロマリア連邦内での小麦価格は小康を見せた。

さて、問題はすでに解決したことよりもこれからの外交問題であろう。

先の戦争での火消だ。

それから四か月後の十一月。

少しづつ、涼しいから肌寒く変わりつつある。

とはいえ、少し寒い方が体温調節は楽だ。

おかげで仕事は捗っていた。

その日はライモンドと共に、先のアデルニア人解放戦争未遂事件の火消について話し合っていた。

「やった後から言うのもなんだが、バレないよな?」

俺は少し不安になり、ライモンドに尋ねた。

我が国の陰謀であることが明るみに出たら、大問題になるからだ。

しかしライモンドは首を大きく横に振る。

「少なくとも、現状我が国が事を起こした、という噂はありません。それに証拠がありませんから。有ったとしても、ただの陰謀論で終わります」

それもそうだ。

俺たちがやったのは、こっそりとロゼル側に情報を流した程度。

そしてロゼル王国にどの国が情報を垂れ流したか……そんな証拠はいくら探しても出て来ないだろう。

とはいえ……

「念には念を入れよう。ファルダーム王の国に、ロゼル王国に情報を流したのはギルベッドであるという噂を流す」

ロゼル王国が正確に兵站基地を攻撃した以上、情報がロゼル王国に流れていたのは明確。

そして犯人を断定することはできないにしても、容疑者は限られる。

ロマリアか、ギルベッドか……

はたまたファルダーム王の国内部の親ロゼル派か。

ドモルガル王の国の誰か、というのも可能性として有り得る。

しかしこの中で断トツで怪しいのはロマリアかギルベッドだ。

外交的に一番得をしたのはロマリア。一方、ファルダームに恨みを抱いているのはギルベッド。

我が国に矛先が来ないように、先手を打つ。

一度ファルダームがギルベッドを疑えば……ギルベッドはファルダーム王の能力不足を指摘するだろう。

そうなればますます両国の関係は悪化するというわけだ。

「分かりました。手を打っておきます」

ライモンドは一礼して、退室する。

さて……、書類を片付けるか。

俺は膨大な数の書類の消化に挑もうとした時……

イアルが駆け込んできた。

「陛下!! ゾルディアス王の国が西部諸国に侵攻しました!!」

ほう……

想定以上に早かったな。

ゾルディアス王の国への経済封鎖が始まって、早や一年以上。

間諜の報告によると、ゾルディアス王の国はかなり干上がっているようだ。

「どうやら今回の不作がゾルディアス王の国に深刻なダメージを与えたようですね」

ライモンドはゾルディアス王の国に忍び込ませた間諜からの報告書を読み、総括した。

どうやらゾルディアス王の国の首都では小麦価格が高騰し、農村部では餓死者が続出しているようだ。

穀物の輸入はできない。

かと言って、税金を下げれば国が維持できない。

しかしこのままでは国民が飢え死にするし、場合によっては反乱も起こり得る。

となったら一か八か、西部諸国に侵攻して略奪しかない!!

という思考のようだ。

まあ、仕方が無いとは思う。

ゾルディアス王の国のように山が多く、農作物の収穫量の少ない国は少しづつ衰退するか、博打に出るしかない。

元々、飢饉が起こるたびに周辺諸国を恐喝し、場合によっては攻め込んで略奪を働いて凌いでいたようだし。

昔、山梨県あたりを支配していた戦国大名と似たような国家内情なのだろう。

とはいえ、同情はしても許してやるつもりはない。

「とはいえ、ゾルディアス王の国が侵攻した西部諸国はギルベッド王の国の勢力圏内……と定めてあります。どうしましょうか?」

イアルは西部諸国を指さしながら言った。

なるほど、ここに兵を出すのは条約違反になるな。

「しかし西部諸国は我が国に救援要請をしているのだろう?」

恐らく、ギルベッドにも同様の救援要請をしているだろうが……

まあ、ギルベッド王の国の編成の遅さを考えれば間に合わない。

本命は我が国だろう。

「もうそろそろ良いだろう。ギルベッドとの関係は。あれに礼を取るのも疲れた」

ゾルディアス王の国を滅ぼせば、西部諸国への侵略や容易。

その後、南西諸国を征服すれば南部一帯はロマリアのモノ。

その時点でギルベッドとの関係は無論、対ガリア同盟も要らない……と言いたいところだが、

「一応、一言断っておこう。ギルベッドもそこまで聞き分けは悪くないだろう」

「では、軍を派遣しますか?」

俺はライモンドの問いに頷く。

「ついでに西部諸国の一部もどさくさに紛れてロマリア王国に編入してしまおう」

なに、ギルベッドなんぞ恐れる必要は無い。

「ゾルディアス王の兵力は?」

「報告によると、一万だそうです」

一万……まさに総力だな。

「どれくらいの兵を出すか?」

俺はバルトロに意見を求めた。

バルトロは少し考え込んでから答える。

「四万で行きましょう」

四倍か……

バルトロは圧倒的な数で一網打尽にするつもりのようだ。

「アレクシオス。何か、お前から意見はあるか?」

アレクシオスは身分的にはロマリアの貴族だが、それでも外様。

傭兵等を率いたことはあるが、ロマリア軍そのものを率いたことはないので軍議への参加経験はない。

しかしゾルディアス王の国への経済封鎖はアレクシオスの案。

だからこの場に呼んだのだ。

「僕は一万で挑むべきであると思います」

一万。

それはゾルディアス王の国と同数だ。

軍議に参列している貴族や将軍たちが一斉に眉を顰めた。

「その理由は?」

「多数で攻めればゾルディアス王は必ず逃亡します。山に籠ったゾルディアス王を倒すには長い時間が必要です。ただでさえ、ゾルディアス王の国の食糧事情は危機的状況。その上で長期間戦争をすれば、ゾルディアス王の国は荒廃する。占領した後の旨みは薄れ、国民の恨みはロマリアに向くでしょう」

なるほど……

少数ならばゾルディアス王は決戦を挑んでくるから、それで確実に打ち倒せる。

短期決戦で終わらせられる、ということか。

「まずは一万でゾルディアス王の率いる本隊を徹底的に叩く。その後、圧倒的兵力で 城攻め(・・・) を行うべきです」

……ふむ。

成功すれば遥かにアレクシオスの策の方が効果的で、後の統治も楽だ。

「バルトロ。どう思う?」

「私は反対です。ゾルディアス王は強い。これは確かです。無論、戦って勝てない敵ではありません。しかし、こちらは圧倒的多数の兵力を持っています。敢えて、少数の兵をぶつける必要は無いかと」

俺個人としてはバルトロの方法の方が好きだ。

バルトロのやり方なら、確実にゾルディアス王の国は落とせる。

少数の兵で多数の兵を打ち破る将軍は名将かもしれない。

しかし、その将軍の仕えている君主は有能とは言えないだろう。

真に優れた君主ならば、名将に敵の三倍の兵力を持たせてやるべきだ。

さらに優れた君主なら、そもそも戦争なんて起きないだろう。

戦争は外交上での下策なのだから。

しかし、俺には戦争をやらずにアデルニア半島を統一するほどの能力はない。

これからも俺は武力を用いるだろう。

そしてその後、統治していかなくてはならない。

戦争による占領地の荒廃は避けなくてはならない。

……賭けに出るべきか。

ふと、俺の脳裏にとある歴史上のエピソードが思い浮かぶ。

とある大国がある国を征服する際に、その大国の大王が自分の将軍にどれくらいの兵力が必要か尋ねた。

歴戦の将軍は六十万が必要と言い、若い将軍は二十万が必要と言った。

その大王は若い将軍の、二十万で敵国を征服できるという積極的な策を採用した。

しかしその若い将軍は最後の最後で失敗し、結局歴戦の将軍がその尻拭いをした。

……

……

……

俺は暫く考えてから結論を出した。

「アレクシオス・コルネリウス」

俺はアレクシオスの目を真っ直ぐ見つめた。

「できるか?」

「ご命令とあらば」

……

……

よし、なら良いだろう。

「アレクシオス・コルネリウス。一万の兵でゾルディアス王の軍を討て。バルトロ・ポンペイウスは三万の兵を編成後、待機。ゾルディアス王軍撃破後、ゾルディアス王の国王都へ進撃せよ」