軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十話 第一次アデルニア人解放戦争

三月……アデルニア人解放戦争における戦略の最終決定をする会議が始まった。

開催地はファルダーム王の国、首都フィレティア。

アデルニア半島では、ロサイス、レザドの次に人口の多い都市だ。

「さて、諸君。集まって頂き、感謝している」

アデルニア人解放戦争の提唱者である、ファルダーム王が口を開く。

そして淡々と、今までに決まった作戦についての概要を話す。

それはただの各国の軍人や外交官、豪族を集めて決められた戦略の追認であり、特に新しく聞くようなことは無かった。

それに戦略と言っても、どの国がどれくらいの兵力を出し、どこを攻めるか……

程度の内容で、兵站や指揮系統に関しては全く決まっていなかった。

船頭多くして山を登る、とはこのことだ。

「そしてそれぞれの国の軍を率いる将軍とその兵力の詳細な確認をさせて頂きたい」

ファルダーム王はそう言って、まずは自分から将軍の名前と兵士の数を述べた。

将軍は……聞いたことがない。が、多分それなりの身分の豪族か、王族なのだろう。

兵力は一万。

「我が国はトニーノ将軍を司令官に、九千の兵を派遣します」

そう言ったのはドモルガル王の国国王、カルロ。

トニーノ将軍はドモルガル王の国における最高の将軍……ということはドモルガル王の国はこの戦争を本気で取り組むつもりのようだ。

九千という数も、今のドモルガル王の国の国力を考えればかなりの数と言える。

「私は一万二千の兵を出そう」

そう言ったのはギルベッド王だ。

将軍の名前はやはり聞いたことはないが、多分王族だな。

ファルダーム王よりも二千多い、ということは見栄を張ったな?

ロゼルなんぞ攻めてないで、とっとと南部を征服すればいいのに。

まあ、自国の豪族と南部の豪族との婚姻関係が複雑に絡まって、思うように兵を出せないのは分かるが。

そして……

王たちの視線が俺に集まる。

現在、どう考えてもこの中で最も力を持った国は我が国だし、主戦力となる強力な軍隊を持っているのも我が国だからだ。

はあ……

俺はゆっくりと口を開いた。

「ロマリア王国から一万。アルヴァ王国を除く連邦内諸同盟国から二千。アルヴァ王国からは二千。合計、一万四千の兵を出そう。総指揮官は……バルトロ・ポンペイウス」

ファルダーム王は笑みを浮かべ、

ドモルガル王(カルロ) は驚愕で目を見開き、

ギルベッド王は悔しそうに顔を歪めた。

一万四千という数は最大の兵力数だし、将軍バルトロの名前はアデルニア半島で知らぬ者はいない。

一先ず、これで「ロマリア王はアデルニア人解放戦争を真面目にやるつもりがない」と思われることは避けられる。

「ロマリア王、ご協力感謝する」

「私は対ガリア同盟加盟国であり、何よりアデルニア人。アデルニア人解放戦争に参加するのは当然でしょう。それと、礼は勝ってからにして頂きたい」

俺はにこやかに笑って返す。するとファルダーム王も俺に微笑みかけてくる。

お互い、笑顔のまま見つめ合う。

「それよりも早く総司令官を決めてしまわないか?」

ギルベッド王が会議の進行を急かす。

どうせ、我が国が総司令官に相応しい!! とでも言うつもりなのだろう。

「総司令官だが、我が……」

「私はファルダーム王こそが総司令官に相応しいと思います」

俺はギルベッド王の言葉を遮るように、声を張り上げてファルダーム王を推挙する。

瞬間、空気が凍り付く。

俺は凍り付いた空気を読まず、淡々と理由を述べる。

「まず第一にファルダーム王がこのアデルニア人解放戦争の提唱者であること。提唱したからには、相応の責任を負うべきでしょう。第二にファルダーム王の国が最もロゼル王国との交戦経験が多い。第三にこの場で最年長者はファルダーム王であること」

ドモルガル王の国はたった九千しか兵力を出してない以上、選択肢から外れる。

となるとファルダーム、ギルベッド、ロマリアのどれか。

そんな中、最大兵力を有し、高名な将軍を有する俺がファルダーム王をもっともらしい理由で推挙すれば……

ほぼ確実にファルダーム王で決まる。

そして……

「私もファルダーム王が総司令官に相応しいと思います」

ドモルガル王(カルロ) が賛同を示した。

ドモルガル王の国はこの三ヶ国の中で最も国力が劣るため、もともと指導権争いには参加できない。

だからできるだけ波風を立てたくないはずだ。

俺がファルダーム王を推挙した時点で、大まかな流れができる。

となると、この流れに乗る以外の選択肢はできなくなる。

そして四人中、二人の王が推挙すれば……

「ギルベッド王はどうですか?」

「……私もファルダーム王が相応しいと思う」

ギルベッド王も嫌とは言えない。

そして……

「ふむ……私としては御三方の方が相応しいと思うが……しかし推挙されたからには仕事は果たそう」

まあ、断る理由はないな。

不思議そうにこちらに視線を送ってはいるが、俺がファルダーム王を推挙した事実は変わらない。

……

さて、これでギルベッド王とファルダーム王の間に亀裂が入ったのは間違いない。

もともとギルベッド王はロサイス、ドモルガル、ファルダームよりも自分が格上であるかのように振舞ってきた。

実際、国土や人口という面では格上であったかもしれない。

しかしロマリア誕生によって、ギルベッド王は二位に転落した。

そして今回の主導権争いの敗北によって……外交的立ち位置は三位。

ギルベッド王の恨みの矛先は、現在国際政治を表向きに主導しているファルダーム王に向く。

というわけだ。

まあ、イアルの考えた策略なのだが。

おそらく、ギルベッド王は俺とファルダーム王が組んでいると思っているだろうな。

こうして無事に総司令官が決まり、五月の下旬から遠征を始めることが決定。

斯くしてアデルニア人解放戦争が始まる……

と思われた。

それは四月のこと。

各国が持ち寄った武器や兵糧がファルダーム王の国の前線基地に集められ、アデルニア各地で軍隊の編成が始まったころ。

ロゼル王国がファルダーム王の国の侵攻した。

ロゼル王国襲撃から一か月。

「ふむ、情報にあった通りだな。これほどの兵糧が用意されているとは」

ロゼル王国将軍、バルタザールは不敵に笑った。

彼はクリュウ将軍が失脚し、ガリア東北部に飛ばされた後にロゼル王国最高司令官に任じられた将軍である。

反マーリン派、即ち親ロマリア派に属する将軍だ。

バルタザールが率いて来た兵力は約二万。

歩兵一万、騎兵一万だ。

ロゼル王国の内地で兵士を編成をし、ガリア東北部に向かう……

と見せかけて、反転。

騎兵一万だけでファルダーム王の国に奇襲攻撃を仕掛けた。

結果、ファルダーム王が国境に配置していた守備軍は壊滅。

その後、後からやって来た歩兵と合流し、ファルダーム王の国を蹂躙していた。

とはいえ、ファルダーム王は無能ではない。

当然対策を打とうとした。

しかし……

あまりにもロゼル王国の進軍速度が早すぎるのだ。

それもそのはず、ロゼル王国は碌な補給線を用意せずイナゴのように略奪をしながら進軍しているからだ。

騎兵一万で先行し、敵の主力を撃破。

その後歩兵で街を攻撃し、速やかに攻略。兵糧を得る。

実にスムーズな動きだ。

とはいえ、ただの街を略奪し続けるだけでは兵力二万を維持することは難しい。

ということは?

答えは簡単だ。普通の街では考えられない規模の食糧があるところを狙って攻略しているということ。

つまり、

バルタザールが攻略している街や要塞、村は全て……

ファルダーム王の国が用意した、アデルニア人解放戦争に使用する武器、兵糧の集積地であるということだ。

「あのロマリア担当の外交官、えっと……名前は何だったか……まあ、良いか。やつは御手柄だな。ここまで詳細な情報を手に入れるとは」

バルタザールは愉快そうに大笑いした。

「さて、後はファルダーム王が泣きつくのを待つだけだな」

「いやはや、上手く生きましたね」

「全て、計画通りです」

「陛下、兵の編成は終わりました。いつでもロゼルを追っ払いに行けますよ」

全ては我々の計画通りだった。

まず、アデルニア人解放戦争が起こるかもしれないという情報をできるだけ自然な形でロゼル王国の外交官に流す。

あのプリン好き外交官は頭がプリン並みに甘いので、あっさりくらいついてきた。

その後も詳細な軍事情報……兵站基地の場所や攻撃予定地の場所を全て横流しした。

普通ならこんな都合の良いことが有るか? と疑うだろうと思うかもしれないが……

人間、信じたいことは信じたくなってしまうのだ。

そもそも、情報そのものは一部秘匿しているとはいえ全て正確なのだから信じるしかない。

こうしてロゼル王国は「対ガリア同盟共の裏を掻いてやる!!」というノリで襲ってきたわけである。

兵站基地が破壊されれば、アデルニア人解放戦争なんぞやりたくてもできないわけだ。

そしてファルダーム王の国が泣きついてきて、それを追っ払う我が国の名声は高まる。

一石二鳥。

……

いや、ファルダーム王とギルベッド王の仲を引き裂く離間策に、救援のために進軍するついでに通過するギルベッド、ファルダーム、ドモルガル王の国領内の地形も調べられるということも考えると……

一石四鳥の策だな。

「ロマリア本国から二万、同盟国から一万の合計三万。歩兵は二万で騎兵は一万か。まあこれだけあればロゼルに負けることはないだろう」

ロゼル王国襲来の報告から約一か月が経過した。

まあ、一か月もあればこれくらい集めるのはわけない。

尚、ギルベッドとドモルガルは半分も練兵が済んでいないようだった。

何をやっているのか……

「しかしこれだけの兵力、負けたら大変なことに……いえ、バルトロ将軍の能力を疑っているわけではありませんが……」

「それに関しては問題無い。すでにロゼルの外交官と鷹便のやり取りをしている。講和までの時間稼ぎがバルトロの仕事だ」

「ロゼルは略奪しながら進軍しているようですからね。ロゼルの戦略目的はファルダーム王の国の侵略ではなく、アデルニア人解放戦争を中止させ、ついでに小遣い程度でしょう」

最近はロゼル王国に呪術師や間諜を送り込めるようになった。

その情報とプリン外交官との情報を照らし合わせると……

やはりロゼル王国には現在、長期戦をする余裕はなさそうだ。

ガリア北東部の鎮圧に相当手こずっているようだ。

まあ、ガリア人って狩猟民族としての側面を強いみたいだし……

アデルニア人ほど大人しくないのだろう。

あと、ロゼル国王もあまり元気が無いそうだ。

クリュウは左遷、マーリンは旅行中、国王は病気。

これじゃあ大規模遠征なんて無理でしょ。

と、いうわけなのでおそらく三万の大軍勢で押し掛ければロゼルは引くはずだ。

「陛下! ファルダーム王様より親書が届いています!!」

ファルダーム王の国を担当している外交官の一人が駆け込んできた。

俺は親書を紐解く。

そこには俺の望んだ内容が書かれていた。

「では、早速救援に向かえ、バルトロ。ドモルガル王の国とファルダーム王の国には兵站を用意してくれるように頼んでおこう」

こちらは血を流すのだ。

食い物くらい、提供してくれよ?

その後、十五日かけてロマリア連邦軍はファルダーム王の国の国境を越える。

そして五日後、ロゼル王国軍と鉢合わせ、翌日交戦。

その後三日間かけて何度か小競り合いを繰り返したが、バルタザールはバルトロの守りを破れなかった。

そしてその二日後、ロゼル王国の撤兵とアデルニア人解放戦争の中止、及びロマリア軍撤兵を条件に対ガリア同盟とロゼル王国の間に和睦が成立。

約二十五日でロゼル王国と対ガリア同盟の戦争は終結した。

この戦いでロゼル王国は多くの金品を略奪し、何より先の戦争での不名誉を回復。

さらに南の国境の安定化が確定し、結果としてガリア諸部族北東部の鎮圧が好転の兆しを見せ始めた。

ロゼル王国に攻め込まれておきながら、まともに兵を用意出来なかったファルダーム王の国の国威は失墜。

同様に友好国の窮地を指でくわえて見ているしかできなかったドモルガル、ギルベッドも外交的影響力を大きく落とした。

そして一国でファルダーム王の国を救ったロマリア王国及びロマリア連邦の外交的立ち位置は大きく向上した。

南アデルニア半島一の大国はどの国か。

その答えが明確なモノとなったのである。