軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十話 秘密外交Ⅱ

マーリンとの会談から一週間が経過した。

和平交渉は未だ、纏まっていない。

ロゼル王国は多額の賠償金を支払いたくない。

支払えば、大敗北を認めたことに成るからだ。

それは国威の失墜を意味する。

ロゼル王国としては、少し負けてしまった……で済ませたいのだ。

一方、アデルニア諸国は大金を支払わせたい。

ドモルガル王の国はロゼル王国の侵略により、少なくない損害を受けた。これを補填したいのだ。

ギルベッド王の国とファルダーム王の国は損害こそ受けていないが、あまり領地を得られていない。

論功行賞で支払う土地を、ギルベッド王とファルダーム王は確保することが出来ていない。

となれば、足りない土地は賠償金で補填するか、王家直轄地から切り取るしかない。

ドモルガル王の国もギルベッド王の国も、豪族の力が強い国。

王家直轄地は削りたくない。

と成れば、賠償金しかない。

そして我がロサイス王の国は……

曖昧な立場を貫いている。

あまり和平交渉したそうにすると足元を見られる。

かと言って、戦争をしたいわけでは無い。

だから俺は交渉の場ではあまり口は出さず、ギルベッド王やドモルガル王に任せていた。

さて……

表向きの外交の進展具合はもう良いだろう。

どうせ、このままでは解決することは無いのだから。

秘密外交の話をしよう。

「ライモンド。外交官殿はどうしている?」

「満足して頂けているようです。特にあの『プリン』という食べ物が気に入ったようです」

「プリンがね……俺の唯一まともに作り方が分かるお菓子だったけど……ガリア人の舌にも合うのか。お土産用に追加で十個ほど、生産させておいてくれ」

『外交官殿』というのはマーリン……の部下のことだ。

ロゼル王の意向を伝えるために、ロゼル王国の首都から派遣されて来たのである。

しかし位階はマーリンの方が高く、彼はマーリンの部下のような扱いを受けていた。

まあ、実際部下なのだが彼自身は自分のことをマーリンの部下だとは思っていなかったようである。

年上だからと言って、見た目が自分よりも若い女の元で手足のように働かされる屈辱。

ロゼル王から直接勅を受けているという誇り。

そしてマーリンが中々講和を成立させないことへの不満。

兎に角、その外交官はマーリンへの負の感情を溜めこんでいた。

そこでこちらから声を掛けたのだ。

この外交官を仲介として、マーリンを飛び越してロゼル王と取引する。

それがプランBである。

元々プランAは成功するか怪しい作戦だった。

マーリンは我が国を恐れている。

だから、我が国に多額の賠償金を支払うはずがない。

しかし我が国は多額の賠償金が欲しい。

そこでマーリンの方針に不満を抱いている……具体的には我が国を軽視している人間を介して、ロゼル王と取引することを思いついた。

だからマーリンとの交渉前から丁度良さそうな人を探していたが……

まさか、ここまで条件に合致する人間が見つかるとは思わなかった。

先ほど外交官がマーリンに大きな不満を抱いていることは説明した。

それに加えて、外交官は出世欲が強いようだ。

将来的にはマーリンより偉くなりたい、そのためにはどうにかして功績が欲しい……と考えているみたいだ。

加えて酒好き、女好き、美食好き、宝石好き。

そしてこちらが捕えた千人将の一人が、外交官の遠い親戚だった。

まあ、これに関しては偶然とは言えないか。

試験制度が無い以上、人材は縁故や血縁で採用するしかない。だから国の偉い人同士が親戚……というのはおかしな話ではない。

そんな外交官に声を掛けてみたところ、ホイホイ付いてきた。

マーリンを出し抜くチャンスだと思ったのだろう。

俺は礼を尽くし、腰を低くして対応してやった。

そしたら大喜びされた。

マーリンが俺に怒鳴られて、交渉が打ち切りになったことを知っていたのだろう。

そんな気難しそうなロサイス王が、自分に礼を尽くしている!!

まあ、無理はない。

それだけでは押しが足りないと思ったので、我が国の特産蒸留酒を飲ませ、可愛い女の子を用意して接待させ、戦場で用意出来る最大限の美食を用意した。

「あとは装飾品で止めだな。いつ届く?」

「明日には来ると思いますよ」

我が国の宝物庫にあったちょっとした宝石を最後のごり押しでプレゼントする。

これで外交官の心は掴む

「しかしあんなに丁寧に迎える必要、有りますか?」

「まあ、今回限りの付き合いなら必要ないな。……だけど、今後長い付き合いになる可能性がある」

中国の兵法書でこんな策がある。

有能な使者であったなら何も与えずに追い返し、無能な使者は礼を尽くして歓迎せよ。

そうすれば有能な者は王に遠ざけられて、無能な者が重用されるようになる。

俺としては外交官の功績がロゼル王に認められて、我が国を担当する外交官に成ってくれれば嬉しい。

「明日、交渉しようか。交渉の前に外交官殿の遠い親戚を解放して、宝石を渡す。交渉成立後に土産のプリンを渡す。準備を進めてくれ」

「はい。分かりました」

「いやはや、何もかもありがとうございます。ロサイス王様」

「いえいえ、気にしないでください。あなたのような君子に礼を持って接するのは当たり前です」

俺は外交官に対して、丁寧に接する。

そして褒めたたえてやる。

「あなたのような方がマーリン殿の下に就いて居るのはおかしいと思います」

「はは、大げさですよ。私はそこまでの人間ではありません。……まあ、あの女の地位はおかしいと思いますが」

外交官は機嫌よさそうにマーリンの悪口を言い始めた。

俺は適当に相槌を打ってやる。

知ってるか、陰口叩く人間は、陰口を叩かれるんだぞ。

まあ、わざわざ忠告してやる義理は無いが。

世間話が終わってから、早速本題に入る。

「実はですね……私は後悔しているのです」

「後悔……ですか?」

「ロゼル王国と戦争したことです」

嘘です。

「この戦争でロゼル王国の国力はよく分かりました。今回は たまたま(・・・・) 勝つことが出来ましたが……次は勝てないでしょう。私としては今、講和を結びたい」

これは嘘ではない。

本心と言ったら嘘になるが。

実際、長期戦に成れば我が国は確実に負けるだろう。

「ほう……二十代に満たない若さで即位し、ロサイス王の国を一大強国に変えたアルムス王様にしては弱気ですね」

「過大評価です。たまたまですよ。私が王に成ったのもたまたまです。生まれながらの王者であるロゼル王様には敵いません」

それとなく、ロゼル王を上げておく。

しっかり伝えてくれ。

「だからこの条件を認めてくださいませんか?」

「しかし……あまりにも身代金が……」

俺がマーリンに提示した条件を再び提示すると、外交官は難色を示した。

「我が国の豪族が認めてくれないのです。私の力不足です。この条件を認めてくださらないと、和平を成立させられません。……ロゼル王国としても早く引き上げたいのでは? ……ああ、反乱が起こったという確かな情報を入手しているのは我が国だけです。ご安心を」

他のアデルニア諸国は、我が国のようにキリシア人への太いパイプを持っていない。

そして俺は「もしかしたら北東部で動乱が起こっているのかも」とは伝えたが、「起こっている」とは伝えていない。

……まあ逆に言えば、いつでも伝えることが出来るという意味でもある。

遠回しの脅しだ。

「我が国はロゼル王国と友好的な関係を築きたいのです。考えてみてください。我が国は今までロゼル王国と矛を交えたことはありませんでした。今回の戦争は不幸な行き違いです。どちらも一方の領土を奪ったわけではない。和平さえ成立すれば、友好国に戻れます」

俺は力説する。

『平和・友好・反戦』

良い言葉じゃないか。

ガリア人もアデルニア人も同じ人間。兄弟だ。

争うなんて馬鹿らしい。

平和大好き、友好大切、戦争反対!!

さあ、結ぼう!

「しかし対ガリア同盟はどういうことですか? あれが有る限り我が国とは友好的な関係を結べないと思いますが……」

「対ガリア同盟です。対ロゼル同盟ではありません。それにあれは専守防衛を理念とした防衛協定です。ロゼル王国がどこかの国に攻め込まない限りは、我々とロゼル王国が矛を交えることはあり得ません」

「……」

「もし我が国とロゼル王国の間で友好が結ばれれば……我が国は最大限戦争の回避に努めましょう。停戦協定を破り、隙を見せているロゼル王国を叩こうなどと考える国を、我が国が全力で押さえます」

まあ、実際そんなアホなことを言いだす国が出て来たら友好関係なしに止めるけどね。

まともに戦えばロゼル王国には敵わない。

こう言うことで、ロゼル王国に『ロサイス王の国は潜在的にはロゼル王国の味方』と思わせることが出来る。

勿論、アデルニア諸国には『ロサイス王の国はロゼル王国を防ぐ防壁』と思わせる。

これぞ八方美人外交!

まあ、バレた時を考えると怖いけど、バレた時には手遅れの状況を作りだせば問題ない。

「……なるほど、アルムス王様の意向はよく分かりました。何とかロゼル王様に伝えておきましょう」

「ありがとうございます。これからもあなたとは仲良くしていきたい」

俺は外交官と固く握手した。

土産にプリンを得た外交官は、ホクホク顔で帰って行った。

その二日後、鷹便によりロゼル王の元に外交官の書簡が届いた。

・ロサイス王は取るに足らない小物であること

・ロゼル王を畏怖していること

・ロゼル王国と友好関係を築きたがっていること

・上手く行けば、対ガリア同盟への埋伏の毒になること

マーリンへの不信を抱き始めていたロゼル王は、外交官の書簡を鵜呑みにする。

そして二日後、マーリンの元に秘密条約を締結するように命じる勅命が届いた。