作品タイトル不明
毛利家は到着早々
天正十五年(1587年)十一月一日
近江国 安土城
場面は変わり、信長達が堺へ出立した後の安土城。毛利家からの人質一行が、安土城へ到着した場面から始まる
「左中将様!到着が遅くなり、誠に申し訳ありませぬ!」
信忠に到着が遅くなった事を詫びたのは、人質一行よ代表でもある藤四郎である。そんな藤四郎に信忠は
「まあ、安芸守の体調不良と、一部の旧臣達が毛利家の沙汰に従わない為に、戦があったそうじゃからな、
羽柴筑前からも、その戦の事で文が届けられておる。だから、あまり言わないでおこう」
「ありがたき!」
「うむ。それで、小早川藤四郎よ。お主の横に居る女子が、毛利安芸守の娘か?」
「はい。安芸乃姫にございます。安芸乃様、左中将様に御挨拶を」
藤四郎に促された安芸乃は
「安芸乃と申します」
無表情で挨拶する。それを見た信忠は
「はっはっは!緊張しておる様じゃな。だが、少しずつ、ここの暮らしに慣れていけばよい!いざとなれば安芸守が嫁入りしても良いと思える男を探しても良いぞ!」
と、空気を和やかにしようと発言する。その言葉に安芸乃は
「過度な期待をせずに、暮らしに慣れていきたいと思います」
と、抑揚の無い声で返答する。そのやり取りの後、藤四郎だけ大広間に残り、安芸乃達は部屋へ戻される
残された藤四郎は
「左中将様、奥方様!安芸乃様の態度、申し訳ありませぬ」
最初に、安芸乃の態度を詫びた。その事で信忠は
「住み慣れた安芸国を離れて不安なのじゃろう。先程も言ったが、少しずつ慣れていけば良い」
と、藤四郎をフォローするが、側にいた松は
「勘九郎様、甘いです!」
信忠を叱責する。そんな松に信忠は
「松、それ程怒らずとも」
と、宥めようとするが、松は
「いいえ!!あの様な態度を許しては、他の者達に示しがつきません!それこそ、義父上が堺から戻って来た時、あの様な態度を取った場合、
絶対、私達に小言を言ってくる事が見えます!それに、三法師に悪い影響が出るかもしれません!
そうなる前に、注意くらいしておくべきです!そもそも、武家の姫、それも主君の娘ともあろう者が!」
安芸乃の態度に怒りと不安が消えない様だった。そんな松を見た後に信忠は
「藤四郎、来て早々に役目を与えて済まぬが、安芸乃をどうにか、それこそ最低限の態度を取る様に忠告する事も含めて、何とかしてくれぬか?」
藤四郎に遠回しに「安芸乃の態度を何とかしろ!」と命令する。言われた藤四郎は
「な、何とか出来る様に励みます」
そう答えるのが精一杯の中で、大広間を後にした
立場的に仕方ないかもしれないが、毛利家の人質一行の中では、藤四郎がリーダーであり、苦労人ポジションに決まった様だった
そんな事を知らない安芸乃は部屋の中で大人しくしていたが、内心
(あの左中将様が、信長の後継者の信忠でしょ!めっちゃイケメンじゃない!あれ程のイケメンなら、私が側室として入っても問題無いはず!
何とかして、側室ルートを開拓してやる!と、言いたいところだけど、信忠の横に居た美人さん、間違いなく正室だろうなあ。しかも私と違って、気が強そうな美人だった
それを考えると、信忠の側室は無理でも、信忠の兄弟の嫁ルートか可能性が高いかも?いや、もしかしたら、信長の兄弟の嫁ルートも有り得るかも
どちらにしても、織田家の一門に私が嫁入りする事になるし、私と夫婦になる人の働き次第では、毛利家が織田家の天下の中で、発言力を持てる!
そうなる為にも、高嶺の花感を出しておかないと!政治的な話し合いは、藤四郎さん達がやるから、私が口出し出来るわけないし、しばらくは大人しくしておこう)
朝倉家の高代に負けないミーハー心を持ちながら、毛利家の為に、織田家の一門に嫁入りするという野心を燃やしていた
そんな安芸乃の元に、
「安芸乃様!」
「安芸乃殿!」
藤四郎と、吉川元春の三男、吉川又次郎広家が入ってくる。2人は安芸乃に有無を言わさず、
「「左中将様と奥方様に、頭を下げに行きますぞ!」」
と言って、安芸乃を大広間へ連れて行く。あっという間に大広間へ連れて来られた安芸乃に対して、松は
「藤四郎殿、又次郎殿。安芸乃は納得した上で、大広間へ来たのですか?」
ドスの効いた声色で質問する。その声に信忠は
「松。その様に怖い声を出しては」
松を宥めようとするが
「勘九郎様。家中をまとめる為には、必要な事です」
松は一蹴する。2人のやり取りを見た安芸乃は
(今、松って言ってたよね?織田信忠と関係ある松って、甲斐武田家の松姫しかい居ないじゃない!
いくら、史実と色々違うからって、本来結ばれなかった2人が結ばれるなんて!こんなドラマみたいな展開、素敵過ぎるじゃない!これは仲良くなりたい!)
ミーハー心を出していた。そして改めて、
「先程は申し訳ありません!」
平伏して、詫びていた。そんな安芸乃に松は
「安芸乃。先程までの態度を取っていた理由は何故ですか?」
と、質問する。その質問に安芸乃は
(側室になろうと考えていました!なんて言ったら殺される可能性もある!色々と聞きたいから、そんなのはゴメンだわ!)
色々と考えた結果
「左中将様と奥方様の美しさに目を奪われて、あの様な態度になっておりました!申し訳ありません!」
2人の見た目を褒め倒す作戦に出た。見た目を褒められた松は
「あら、勘九郎様は目を奪われてしまう事も分かりますが、私の事も目を奪われてしまう程の美しさと言ってくれるのですか?」
明らかに上機嫌になっていた。松の様子に安芸乃は
(機嫌が良くなったみたいだわ!何とかなるかも!)
内心ガッツポーズしながら
「はい!見た事の無い美しさです!」
更に褒める言葉を使う。安芸乃の言葉に松は
「もう、そこまで言うのであれば、あまりうるさく言わないでおきましょう。勘九郎様、私達を美しいと言ってくれるなんて、良い女子ですね」
完全に掌を返していた。そんな松に信忠は
「松が美しいのは当然じゃ」
惚気ながらも、余計な事が起きない事に安堵していた
それは藤四郎達も同じだった
そんな状況に安芸乃は
(何とか嫌われる事は無くなった!よーし、これで、松姫と信忠に気に入られて、織田家一門への嫁入りの第一歩とするわよ!)
危険な状況を脱した事に安堵しつつ、織田家一門への嫁入りという野心を変わらず燃やしていた。