作品タイトル不明
安心の理由と波乱しかない未来
「あの、徳川様?出稼ぎに来ている者が、南伊勢の者か北伊勢の者か、分かりますでしょうか?」
三七様が、俺が聞きたかった事を聞いてくれた。すると、家康は
「恐らく、南伊勢の者の可能性が高い。尾張国の熱田の湊で荷下ろしの仕事や、三河国で綿花栽培の手伝いなどをやっている者に聞いてみたら、
伊勢国は北に行くには、山を越えないといけない。だから、船に乗って尾張国か三河国に行く方が少しは安全だ。と言っておったそうじゃ。それに、南伊勢のほぼ全域を支配しておる北畠家の取り立てが、辛くなってきたそうじゃ。確か北畠家は、三七殿の兄の」
「三介が婿養子に入って家督を継いでおります。徳川様の話を聞いて、確信しました。三河国に出稼ぎが増えている原因は拙者と三介の争いです」
「ほう。別に戦をしておるわけでもないのに、争いとは?」
家康に質問された三七様は、事のあらましを伝える。すると家康は
「三郎殿らしいと言えば良いのかのう。だが、納得も出来る。協力出来ないのならば、一人に任せた方が良い。確かにそうじゃな」
「北伊勢では、六三郎殿が見つけた茶の葉と、茶に合う料理のおかげで百姓の皆の懐が温かいそうなので、それを三介に奪われては、せっかくの平和な北伊勢が
三介によって戦乱に巻き込まれてしまいます。だからこそ拙者は、六三郎殿を始めとした面々の力を借りて、此度の争いに勝利したいのです」
「ふっふっふ。三七殿、三郎殿も今の三七殿と歳が同じくらいの時に、尾張国を統一する為に戦っておったそうじゃ。戦か内政かの差はあれど、
自らが先陣を切るのは、やはり親子である証拠ですな。儂も三郎と於義伊を更に鍛えねばならぬな!
それこそ、最近三男坊が産まれたのじゃから、これからの領地配分も考えないといかんな」
「徳川様。子が産まれたのですか!おめでとうございます」
「おめでとうございます」
「ふっふっふ。儂の前に勘九郎殿に男児が産まれたのだが、もしかしたら三郎殿にも新しい子が出来るかもしれぬぞ?三郎殿も勘九郎殿も、
三七殿と三介殿には、子が産まれた事は全てが終わってから伝えると思うが、その時が来てから祝いの品は持って行っても良いと思うぞ?」
「そう言っていただき、忝い」
「いやいや、粉骨砕身の思いで働いておる若者に無理をさせる事は出来ぬのは、儂も三郎殿も同じじゃ
残り半年をきったが、油断せずに頑張りなされ。美味い飯と酒で良い気分の所に、頑張る若者を見て、久しぶりに気持ちも引き締まったわ。
それでは、儂達は失礼する。銭はこれだけ有れば足りるかのう?」
そう言って家康は、銭の入った小袋を5個置いた。それを
「一袋に百文入っておるから、丁度五百文じゃ。確認しても良いぞ?」
と言って来たが、
「そんな徳川様。確認するなど恐れ多いです。五百文いただきます」
「ふっふっふ。そう言ってもらえてありがたい。年内にまた来る。その時も美味い飯をよろしく頼む!
皆、帰るぞ!歩けなくなる程、酔っている者は捨てて行くぞ!」
家康がそう言うと、家臣の皆が一斉に立ち上がって、家康の前後を挟む。そして、
「では!」
と帰って行った。残業が終わったので、皿洗いだけやって、もう今日は店の中でそのまま寝よう
天正八年(1580年)七月六日
山城国 洛中
「六三郎殿!汁かけの宇治丸を一皿」
「はい!」
「六三郎様!白焼きの宇治丸を二皿」
「はい!」
「六三郎様!宇治丸のお吸物を二人分」
「はい!」
皆さんおはようございます。朝からフル稼働で働いております柴田六三郎です。理由は、今日の朝、店を開けに来た三七様達が、
「昨日の夜、店から漂って来た美味い香りの物を食べたい」と開店待ちのお客さんに問い詰められて、
三七様が「あれは宇治丸の新しい料理だけど。昨日は夜中に貸切にした人達が持って来たから、料理しただけで、自分達は仕入れてない」と言ったら、
「自分達が宇治丸を持って来たら作ってくれるのか?」と聞かれて、「銭は払ってもらうけど、それでも良いなら」と言ったもんだから
店の周辺の人達が魚屋にウナギを買いに行って、魚屋にウナギが無くなれば、川に入って捕獲して、と
軽いパニック状態になりながらも、ウナギが20匹、うちに来まして朝から捌いて、蒸して、焼いて、を繰り返しております
これ、絶対そのうち殿達も来るじゃないか!その時は、ウナギを誰かしら持って来てくださいね?
で、バタバタしながらウナギの時間が終わりまして、通常のお茶や甘味を楽しむ時間も過ぎて、
さあ閉店だ!と、思いながら後片付けをしていたら、
「柴田六三郎殿はおられますでしょうか?」
と、これまた聞いた事のある声で、俺を指名して来ました。
誰かと思って外に出ると、
「市兵衛殿と虎之助殿?」
まさかの2人でした。何やら嫌な予感がするのですが。