軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

伝えなければならない事

天正四年(1576年)一月三十日

美濃国 柴田家屋敷にて

「やあ!」

「「やー!」」

「えい!」

「「えーい」」

「それでは、今日の朝の鍛錬は終わりです。奥方様と茶々様、初様の身体を冷やさぬ様、汗を拭いて差し上げてください。

そして、茶々様と初様。汗を拭いたら、朝食をしっかりと取ってから古典や和歌を学んでくださいね」

「嫌です」

「初も嫌です。赤備えの皆と走ったり、ここで長刀を振ったりしたいです」

「これ!茶々、初」

「「兄上。母上が怖いです」」

皆さんおはようございます。現在、我儘を言ってお袋に怒られている妹達の避難場所になっております柴田六三郎です。

去年、お袋からの新婚2ヶ月目の妊娠報告を受けまして、その事を親父に伝えて欲しいから、殿に文を送ったのですが、殿から

「流石のお主でも出産に関しては何も出来ないだろうから、此方から産婆を含めた出産を助けられる者達を派遣させるぞ

親父の権六にも伝えておくし、産まれる前には側に居てやれる様に調整するから、それまでは、お主と周りの者達で支えてやってくれ」

と、殿からの文が来ました。俺ひとりだけが知っていても駄目なので、お袋は勿論、利兵衛と赤備え達、つるさん達女中、それだけでなく水野家の皆さん、古茶さんにも、

その事を伝えて、お袋に安心して出産出来る様に協力してもらっております

それこそ、お袋が身体を動かすのは、朝の長刀の鍛錬の時くらいで。

食事に関しては、つるさん、伊都さん、智さんの出産経験有る三人が知恵を出しあって、安全な物を出してくれてます

万が一、妹達がお袋にぶつかりそうな時は、赤備えの誰かしらが常に見張っているので、見つけて高い高いをしているうちに、

別の場所で遊んでくれたりします。戦と土木工事以外で、あの筋肉が役立つ事を嬉しく思います

で、現在我儘を言っている妹達を嗜める為に、

「茶々、初。そんなに古典や和歌を学ぶ事よりも、赤備えの皆と走ったり、長刀を振りたいか?」

「「はい」」

「ならば、赤備えの皆と走って、長刀を振った後に、兄と一緒に古典や和歌を学んでくれるか?」

「「兄上が一緒ならば」」

「よし分かった。母上。2人はやると言いましたので、拙者も付き添います」

「六三郎も、少しは妹達を叱っても良いのですよ?」

「母上。身体を動かして、しっかりと学んで、ちゃんと食べて、長く眠れば、すくすくと身の丈が伸びて、

母上に勝るとも劣らぬ美女になって、ゆくゆくは何処ぞの大名や、公卿に嫁入りするかもしれませぬ

だからこそ、拙者も側に居て、共に古典や和歌を学びます」

「もう。朝から母を美女だなんて。分かりました。茶々、初。兄上が一緒に居ると約束してくれたのですから、しっかりと学ぶのですよ?」

「「はい!」」

何とか勉強してくれる様です。

で、時間にして30分くらい、走って、長刀を振って、

古典と和歌の勉強の時間です。

およそ2時間ですが、昔から文化系な事には一切触れてなかったので、辛かったですが、何とか終わりました。

で、夕方くらいになりまして、妹達も疲れはてて爆睡してます。史実だと茶々の身長は170センチ前後と、

男の平均身長が160センチくらいの安土桃山時代では圧倒的に高いし、平成令和の男の平均と同じくらいだから、平成令和の言葉を使うなら、

スーパーモデルクラスの美女か。そりゃ自分に無い物として、低身長の秀吉は、近くに置いて自慢したい!みたいな気持ちになるか

で、俺も部屋に戻りまして、文の整理をしていたのですが、そこで見つけてしまいました。

絶対に伝えないといけない、名将からの文を。ただ、これは俺1人だけたと万が一の時に止められないから、

「利兵衛!」

「若様。何かありましたか?」

「源太郎と源次郎、そして嫁の光と花を儂の部屋へ連れて来てくれ。利兵衛も同席してくれ」

「は、はあ」

困惑しながらも利兵衛は、4人を呼びに行った。

そして4人と利兵衛が到着した

「「若様、お呼びとの事ですが?何かありましたでしょうか?」

「六三郎様。源太郎様が何か不手際でも?」

「まさか源次郎様もですか?」

「源太郎と源次郎が何かしたわけではないから、安心してくれ」

「「良かった」」

うん。嫁達が落ち着いたから、始めよう。

「さて。4人を呼んだ理由じゃが、源太郎と源次郎にある事を伝える為であり、光と花には2人を宥めてもらいたいから呼んだ」

「「「「は、はあ」」」」

「では、改めてじゃか。前年の武田との戦が終わった後の事じゃ。儂は殿と父上から、儂へ届けて欲しいと

ある者から受け取ったそうじゃ。真意を問いたくとも、文を受け取った時点で、その者は死んでいたそうじゃ」

「あの若様?そんな死者からの文など、信じられないのですが?」

「源次郎。若様がホラ話の為だけに、儂達どころか嫁達まで呼ぶわけなかろう。最期まで聞かぬか」

「は、はあ。若様申し訳ありませぬ」

「源太郎、済まぬな。源次郎も気にするな。儂も最初は信じられなかったからな。

話し終えたら文そのものを、源太郎と源次郎にも見せる。その時は破るでないぞ」

「「はい」」

「それでは読むぞ。「この書状を書いた拙者の名は、山県三郎兵衛慰昌景と申す。書状が読まれている頃、拙者は間違いなく死んでおりましょう。

そこで、この書状を願わくば織田家家臣の柴田殿へお渡し願いたい。

柴田殿がこの書状を読んでおります事を信じて、書を認めております。

柴田殿へ、拙者は武田の忍び、織田家では間者と呼んでおる者からの報告で、嫡男の「柴田の鬼若子」殿に

拙者の甥の飯富兄弟を始めとする者達が仕えている事を知りました。

そこで鬼若子殿を通じて、甥達に伝えていただきとうございます。甥達は信じてくれぬかもしれませぬが、

甥達の父親で、拙者にとって兄にあたる赤備えを創設した飯富兵部少輔虎昌の死について、

甥達は父親が信玄公の命令で自害したと思っているでしょう。自害の理由も傅役を務めていた、

当時の武田家嫡男だった太郎義信様を止められなかった責を負わされたと思っているはずです。

その太郎様は御正室の実家である今川家を弱体化から救おうと考えていたのですが、

父であり武田家当主の信玄公は、領地拡大方針で駿河国を奪おうと考えており、対立しておりました。

そこで太郎様は信玄公を追放して、家督を奪う計画を兄に伝えたのですが、兄は武田家中が割れてはいけないと判断し、

拙者を通して信玄公に計画を伝え、謀反を企てたとして罪を全て自分が受けるから、太郎様の罪は問わないでくれと

懇願し、信玄公もそれを受け入れ、兄が切腹したのです。その結果、拙者は兄の領地と赤備えを引き継ぐ事になったのですが、

甥達は、その様な複雑な事情を知らないので、拙者の事は「父の全てを奪った男」と恨んでいるでしょう

今更、甥達に弁明の機会など無いので、甥達の主君である柴田の鬼若子殿にこの事を甥達に伝えていただきたく。

そして、もしも、拙者の倅や娘達が武田を見限って鬼若子殿の元へ来ましたら、小者の様な低い立場でも構いませぬので、召し抱えてくれませぬか?

この書状を見せたら、子らが有り得ぬ程の阿呆でないかぎり納得するはず。

無様に戦で討死した敗軍の将なれど、親として残された子の行末は気になるので、何卒」と、

お主達兄弟が心の底から憎んでいる男であり、叔父でもある山県殿の人生最期の文であろう。

何か言いたいのであれば、儂が、いや、儂もお主達の嫁も居るし、利兵衛も居る。思いの丈を出してくれ」

「拙者からで良いですか?」

「源次郎からか。申してみよ」

「では。若様。父は、父上は、太郎様を守る為に、武田家中が割れない為に、自ら全ての罪を被って切腹したのに、それを信玄公も知っていたのに、何故!

信玄公は周りに居る父上を愚弄する者達を止めてくれなかったのですか!その者達のせいで!母上は心を病んで、自ら命を絶ったのですぞ!

信玄公や重臣達が周りの者達を止めてくれたなら、母上は!母上はあああ!」

「源次郎様」

「花。済まぬ。しかし、それでも、ううう」

「源太郎も思いの丈を出して良いのだぞ?」

「では、お言葉に甘えて。あの頃、拙者も源次郎も、今の若様より歳下の小童だったからこそ、叔父である山県を恨みました。

「何故、父上の全てを奪ったのか?何故、父上と共に動いてくれなかったのか?」と。ですが、今ならば、

父上が自ら全ての罪を被り切腹したか理解出来ます」

「兄上!?理解出来たからといって、母上が」

「源次郎!母上の事は儂も許せぬ!それこそ、信玄公も山県達重臣達も、父上の事を愚弄した者達を諌めてくれなかったせいで、母上が自ら命を絶った事実は消えぬ!

あの頃の儂達は幼子だった。元服していたら間違いなく父上の連座で斬首されていたであろう。

だが、幼子だったからこそ生き延びて今が有る。嫁をもらい、足軽から武将になった今だからこそ、

主君と嫡男が同じ方針でないと家中がまとまらずに、最悪の場合、内紛が起きてしまう。

その様な事が起きない為に父上は自ら全ての罪を被って切腹したのじゃ!

もし、柴田家でその様な事が起きたならば、儂も父上と同じく切腹を選ぶかもしれぬ。だからこそ、だからこそ。うわああああ!」

源太郎も源次郎も思いの丈を全部出せたかな?嫁達が寄り添ってくれているから、大丈夫だと思うが。