軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

主君は幸せをお裾分けしたいだけ

天正四年(1576年)一月二十日

遠江国 浜松城内にて

場所は変わり、徳川家の居城である浜松城。徳川家当主の家康は、前年の戦で武田が壊滅的被害を受けて、当面動けないとはいえ、その動きを警戒していた。

そんな中、

「殿。織田様からの文でございます」

「この時期に文とは。本願寺相手に苦戦しておるのかのう?どれ」

文を受け取って、家康は読みだした。すると、

「はあ!?ま、誠か。何とまあ、少々疑ってしまうが、三郎殿が文で虚偽を記すわけが無いから、誠なのじゃろうな」

「殿。織田様は重要な戦が近いと書いてあるのですか?」

「いや。戦や領地の事ではなく、織田家中の事で、慶事なのだがな。お主、柴田殿の事は覚えておるよな?」

「はい。前年の武田との戦で、武田の重臣の内藤某から槍合わせを申し込まれて、見事に勝利した。

織田家随一の猛将で、その嫡男は酒井様と共に武田の砦を壊しながら、武田の兵を全滅させた、あの」

「そう。その父のほうの柴田殿じゃ。どうせじゃ。お主、先程話に出た酒井と、母上を呼んでまいれ」

「は、はい」

そして、酒井忠次と於大が家康の元に到着する。

「殿。何か起きたのですか?」

「二郎三郎。今度はどちらへ出陣ですか?」

「小五郎も母上も。此度の文は、戦に関するものではありませぬ」

「「では、どの様な内容が?」」

「小五郎、織田家の柴田殿を覚えておるな?」

「はい。拙者と歳も近いですし、前年の武田との戦では、歳を感じさせぬ槍合わせで武田の重臣を討ち取ったとも、聞いておりますが」

「二郎三郎。その柴田殿がどうしたのですか?まさか、戦で討死したとか、病気で亡くなったとかですか?だとしたら、

柴田家は六三郎殿だけになってしまいます。いくら六三郎殿が強く賢い若者であったとしても、一人では。私が古茶達を見る事のついでに六三郎殿の側に」

「母上。ご安心くだされ。柴田殿は病気も無く生きて京の警護の役目にあたっているとの事です」

「そうですか。それならば安心です。では、二郎三郎。私と小五郎は何故呼ばれたのですか?」

「まあまあ母上も小五郎も。三郎殿からの文が、とても喜ばしい事であると同時に、儂も三郎殿もまだまだ頑張らないといけない。と思える内容なので、聞いてくだされ」

「「そこまで言うなら、話してください」

「殿。お願いします」

「では。「二郎三郎よ。前年の武田との戦、誠に世話になった。武田に壊滅的被害を与えたとはいえ、武田そのものは残っておる。

そんな武田の動向を領地が近いというだけで、徳川家に担わせて済まぬ。

少々、話は長くなったが、此処からが本題じゃ。儂の家臣の一人である柴田権六が、この度、新たな嫁をもらった。武田との戦が終わった後の話じゃ。

倅の六三郎が三歳の時以来だから、およそ八年振りになる。そして、その新しい嫁は、儂の妹の市じゃ。

これまた普通は逆ではないかと言いたくなる話じゃが、倅の六三郎に対して儂が「領地等は父に加増したが、お主の働きへの褒美として、希望する事を叶えてやる」と言ったら、

六三郎は三つも希望を出して来たが、確約した以上駄目だとは言えぬから聞いたのじゃが、

流石「柴田の鬼若子」、まさかの「父に新しい嫁をくれ」と頼んできおった。これに親父の権六は嗜めたが、

それくらいなら可能であるが、六三郎の新しい母になるのだから、普通の女子では無理だと思い、六三郎に条件を聞いてみたら

「父の尻を叩けて、男子だったら一廉の武将になれるであろう、戦の時には甲冑を着て味方を鼓舞する女傑」と言って来たのじゃが、

確かにそれくらいの女子でないと、柴田家には居られないと思い、市に決めたのじゃ。

そして、二人は長月に領地に戻り、六三郎達に顔合わせをしたのじゃが、此処からが、儂が二郎三郎に話したかった事じゃ

権六は市を嫁にした時点で五十五歳、市は権六より歳下じゃが二十九歳なのじゃが、

まさかのやや子を授かった!六三郎からの文で知ったが、市の歳が高めだから、産婆を含めた者達を領地に行かせるのだが、二郎三郎よ。

権六より若い儂達もまだまだ子作りを頑張らないといかぬな。どちらが先に出来ても、文を送ってくれ」との事じゃ」

「柴田殿に新たな子が」

「五十を過ぎても、あれ程筋骨隆々な身体ならば、それも納得ですが、奥方は織田殿の妹君で、出産する頃には三十ですか。

それは相当辛いでしょうねえ。二郎三郎、二度も世話になっていて、現在も古茶達が世話になっているのですから、

古茶達を引き取る時に、祝いの品でも持っていきましょう」

「拙者もそれが良いと思います。三郎殿がめでたい事であると同時に、互いにまだ子作りを頑張ろうという文で、それを柴田殿と歳の近い小五郎に聞かせて、

更に励んでもらおうと思い、呼んだのです。小五郎、若い側室が居るならば、今日あたり頑張ってみてはどうじゃ?」

「善処します」

「はっはっは。無理にとは言わぬ。だが、柴田殿が出来たのじゃ。小五郎が出来てもおかしくはないぞ」

「こればかりは」

「ふふ。長々と済まぬな。役目に戻ってくれ」

「では、失礼します」

「母上も長々と申し訳ありませぬ。これは岡崎の三郎達にも送って、更に頑張ってもらいましょうか」

「曾孫が増えるのは嬉しいですが、無理をさせてはいけませんよ?」

「それは勿論。母上も部屋に戻って、お休みくだされ」

「そうさせてもらいます」

忠次と於大が部屋を出た後、家康は

「弥八郎。居るか?」

「隣の部屋にて待機しております。入りますぞ」

そう言って本多正信が入ってきた

「弥八郎。隣で聞いていたであろうが、柴田殿に子が出来たそうじゃ。これはもしかしたら」

「産まれてくる子が男児ならば、柴田家の家督が六三郎殿から、その男児に行き、廃嫡された六三郎殿を、

徳川家が召し抱える可能性が出てくる。との事ですな?」

「話が早いのう。あくまで今すぐではないが、それとなく探りを入れるくらいには動いても良かろう」

「殿。戦の世が終わるかもしれない時に、悪い顔をなさいますな」

「これこれ。あくまで儂は、六三郎が廃嫡されたら。の話をしておるだけじゃ」

「そうですな。あくまで「そうなったら」の話ですな」

信長が「勝家より俺達若いんだから、もっと子作り頑張ろうぜ」的な文を送っただけなのに、家康は変な方向に謀略を巡らせていた。