軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第270話 ~入城~

今、俺たちの目の前には視界に収まりきらないほど近くに最終目標、魔王城が存在している。ブライスとの戦闘後から一切邪魔は入らなかった。

マスターの情報にあった城の抜け道へ向かおうとした俺をラティスネイルが止めて城の真正面から堂々と侵入しているにも関わらず、いまだに誰にも止められない。それどころか……。

「お、お帰りなさいませ!! ラティスネイル様!!」

「ラララ、ラティスネイル様!? おかえりなさいませ!!!」

道行く兵や城勤めの者たちがラティスネイルに頭を下げていた。城を警備している兵が目と鼻の先にある城下町で8番手ブライスを倒されたと知らないはずがないというのに。そして現在ラティスネイルが魔王に対する反逆と等しい行動をとっているが、その警戒はなぜかラティスネイルが今までしてきた数多のいたずらへと向いている。俺を含め勇者たちに視線が向けられてもそこには何の警戒もない。同行しているラティスネイルに俺たちのことを聞く者もいない。それはなぜなのか。

「……おいお前、何かしたな」

「ん? なんだいアキラくん?」

おそらくラティスネイルが何かしていたと考えるのが自然だろう。つまり、彼らは俺たちの正体を知ってもなおラティスネイルのいたずらの方が怖いらしい。視界からラティスネイルが消えるまで彼らの視線は怯えを宿したままだった。

クルールの門番との対応の違いに勇者たちも戸惑っている。門番まで通達が行かなかったのか、わざとしなかったのかは分からないが。

「ブライスを倒してここに来るまで増援どころかお前に流された魔物すら戻って来なかった。会敵した場所から一直線に城へ来たにも関わらずだ。あとは十魔会議の一人を倒した俺たちに対する魔王城の兵の対応が普通に変だろ。門番のあれが当然の反応なんだからこっちはお前が何からしらの通達をしていたと考えるのが自然だ」

石畳の上を四人並んで歩く。ここまで止められないなら良いだろうと勇者が提案してきた体力温存に異存はなかった。いいのだろうか。このままあと少しで魔王城の城門に差し掛かるというのに誰にも止められない。そもそも警戒状態にすら移行しない。みんな一様に怯えた目をしてそそくさと去っていく。面倒があちらから逃げていくのはいいのだが釈然としない。

「ま、そうだよね~。話して感じただろうけれど、あのNo.7のマスターは少ない魔力でありながらかつてこの魔王城で次期魔王、サラン・エルメスの側近まで上り詰めた有能な魔族だよ。現在の魔王城でも彼の支持者は少ないけど存在する。そのコネで僕は魔王に謁見を申し込んだ。城の兵たちはその通達がされているんだろう。ブライスくんや門番くんたちは多分僕たちの力量を確かめるために使わされた試金石だったってことだね!」

アマリリスから聞いたが、俺が船を降りている間にラティスネイルがふらりといなくなることが何度かあったらしい。そのときに頼んでいたのだろうか。アマリリスとアメリアとの女子会も毎日していたわけじゃないだろうし暇だったから散歩にでも行っていたのだろうと思っていた。

さらりと言うラティスネイルに思わず半眼になってしまうのは仕方がないだろう。俺も報連相をしない方で最近はそれを反省して改めるように心がけているが、こいつはそもそもそれを悪いと思っていないので改善の余地がない。信頼というよりも理解だろうか。何かあっても俺がなんとかすると知っているのだ。事実、門番もブライス・オットーも俺が倒してしまった。

「それを先に言っとけ」

「だって、彼で測れたのはせいぜいアキラくんの対応力と数枚の手札くらいでしょ」

つまりは俺が戦ったブライスは手加減をした状態のブライスということか。本気の状態で戦いたい欲がさらに強くなった。完全な狂化状態になったらどんな感じで戦うんだろうな。

「そうじゃなく、心の準備とかあるだろ。可哀想に勇者なんか門番の殺気に当てられてビビってたんだぞ。ただの兵士にビビるやつに十魔会議なんか相手にできるか」

「は!? ビ、ビビッてなんか!!」

「はいはい。分かってる分かってる」

ブライスとの戦闘後魔王城の城門前へ走ってくる間、勇者の走るスピードがクルールの門へ向かっていたときよりも格段に落ちていた。見知らぬ人間の殺気が突然自分に向けられたせいで体が強張り動きが鈍ってしまっているのだろう。今まで平和に生きてきたにも関わらず、人から殺意を向けられる側になってしまった人間として当然の反応だ。魔物相手とはわけが違う。

そもそもその場で殺し合いをして重症を負ってもなお戦いを求める俺の方がおかしいのだ。ただし、敵地でその反応は致命的なので早急に何とかしなければならない。やっぱこいつも船に置いてくるべきだったか。だが、俺だけの目線で物事を判断するのは危険だとも思った。特に俺は人を殺した。だから選択肢に殺人が入ってしまう。それが一番手っ取り早いから、思考の選択肢が暴力的になる。魔王と戦いではなく会話するのならラティスネイルや夜に同情することなく、理性的で非戦闘的な考えが必要だと思った。

ってことでこいつは必要なので早急に使えるようにしたい。だから少しからかうように言えば、勇者は顔を赤くして俺を睨みつけてきた。こいつの性格上、俺が茶化せばむきになって俺と同じように冷静であろうとするだろう。

「相変わらず君は彼らに甘いね。戦いに心の準備なんてないでしょ」

「それには同意するが甘いつもりはない」

『いや、主殿はかなりあいつらを甘やかしているぞ』

「夜まで言うか……。必要だと思っているからそうしてるだけだ」

そっと勇者たちには聞こえないように囁いてきたラティスネイルに顔を顰めれば、俺の肩の上にいる夜までラティスネイルと同じことを言いだした。魔王との対面を前に緊張して口数が少なくなっているらしいのになんでこういう時だけラティスネイルの味方しているんだ。

別に甘いことはないだろう。本当に勇者と京介に対して甘いのなら、俺はアメリアのように船に残るように言っていた。俺は自分の異常性を自覚しているだけだ。その上で勇者たちの手を汚したくないと思っているにすぎない。

「それはどうでもいいけどお前、絶対上の立場になるなよ。サラン団長と同じくらい向いてないから」

「ふふ、それを言うのは君くらいかもしれないね」

二人とも天性のものだろうか、人を率いる才能はあっても人を慮ることをしないので確実に下の者が苦労することになる。ジールさんくらい有能な人ならともかく、普通の人間では潰れてしまうだろう。こいつに魔王になればよかったのにと言ったソノラには悪いが向いていないと思う。

城門から歩いてしばらく、俺たちはついに魔王城の中に足を踏み入れた。

誰に止められることもなく魔王城内に入った俺たちはラティスネイルについてレイティス城並みに華美な城内を歩く。はじめこそ誰かが通るたびにビクビクと警戒していた勇者も誰が横切ろうと反応しなくなり、今はきょろきょろと壁にかけられたよくわからん絵や飾ってある豪奢な壺なんかを興味深げに見ている。周りを見る余裕ができて何よりだ。本来の実力が発揮できる状態ならば俺よりも頭と口が回って統率力もあるのだからしっかりしてほしい。

「この絵……」

と、勇者が一枚の絵の前で立ち止まった。

『ほー! まるでこの世界を上空から見たような美しい絵だな。絵自体は新しいが、ヴォルケーノ大陸は初代勇者に北半分が消し飛ばされる前のものだ。当時世界地図は存在していなかったからおそらく想像で補完したのだろうがそうであっても違和感がなく素晴らしい。この魔王城に飾るに相応しい出来だ』

夜が俺の肩の上で絵を見上げ、満足そうに頷く。

本当に見事な絵だった。特にレイティス城なんてまさに写真のように精巧に描かれている。紙の上に人の手で描かれているとは思えないほどの芸術作品だ。

勇者は絵画の隅に書き入れてある作者のサインを指す。

「このサイン、レイティス王のサインだ。しかも王女が教えてくれたことが正しいならこれは王になった後の作品になる」

俺に絵の良し悪しは分からないが、少なくとも王城に飾ってあっても違和感がないほど見事な作品をあのレイティス王が描いたということに驚いた。あの外見とこの繊細なタッチの絵が結びつかない。

全体的には淡い色合いをしているのに近くで見るとたくさんの色を重ねているのが分かる。絵の大きさもそうだが絵そのものから迫る力があり、目が離せなかった。

「今代のレイティス王、エドモンド・ローズ・レイティスは元々五人兄妹の末っ子三男で、元々王位を継承する可能性が低かった。だから本来なら幼少から始まる王位継承者としての勉強もほぼなく自由に育ち、両親や上の兄姉たちが流行り病でバタバタと死んでいき最後の王家となるまでは画家になりたかったそうだよ。これを見てわかるように才能もある。だけど王家最後の一人になってなりたくもない王位につかされてしまった。彼の亡くなった王妃は王子の頃から彼のことを献身的に支えていたそうだ。だから彼女が事故で死んで王は壊れてしまった」

王にさえならなければ歴史に名を残すほどの画家になっていただろうにね。

そう言ってラティスネイルは掲げられた絵画から目を逸らした。

「この絵は魔王とレイティス王の同盟を結んだ際に証として贈られてきたものだと思う。僕もこれは見覚えがないし、僕が家出したあとに飾られたのかな」

レイティス王の目には世界がこれほど美しく映っていたのだろうか。それとも、この絵とは違い魔族領が欠けている今のこの世界が完璧ではないと言いたいのだろうか。

絵画をじっと見ていると、いつの間にか他は少し先まで進んでいた。

「行くよ、アキラくん。謁見の間はすぐそこだ」

「ああ。今行く」

どうして世界は、神は――。