作品タイトル不明
第251話 ~道中~
「……で、お前らも着いてくるつもりか?」
日が完全に沈み、昨夜船を出たのとほぼ同時刻。No.7へと向かうメンバーが船の甲板に集まる中、昨日はいなかった勇者と京介、七瀬、津田が準備万端の状態で待っていた。午前中に下船した時にはいなかった津田がいるということは万が一の盾役が欲しいと判断したのだろうか。
「この船に乗るかもしれない人を連れてくるんだろ? なら同船する俺たちもこの目で確かめないとな~」
「俺たちは非戦闘員の細山、上野、和木の名代だ。空を飛んでいる以上逃げ場がなく、非戦闘員も乗っているこの船に不審な者を乗せるわけにはいかない」
「も、もちろん織田君たちの目を疑ってるわけじゃないんだけど、でも危険かどうか判断する目は多い方がいいでしょってことになったんだよね」
七瀬、京介、津田が理由を述べる。彼らの言い分は正しい。俺ももし勇者たちの立場だったら同じことをしただろう。だからこそ船で待っていろとは言えなかった。もっとも、俺が懸念しているのは乗船する予定の三人でもNo.7でもなく、その道中にあるモルテでの勇者たちの行動が読めないことなのだが。
「……おニーサン、そろそろ時間だよ」
落ち着いた調子のラティスネイルに促され、俺はため息を零す。仕方がない。
「分かったよ。ただし……見たくないものは見るな。ここは俺たちが育った平和で安全な場所じゃない。目を逸らしてもいいってことを忘れるな」
「……ああ。分かった」
頷いた勇者の言葉を信じて、俺は夜とラティスネイル、勇者たちと船を降りた。
昨日一緒だったクロウは昨夜の睡眠不足か久々の飲酒? が祟ったのか船に残り、その代わりにノアが来ている。
「しかし、魔族領というのも寂れているな。私が生まれる遥か昔は魔族領といえば技術の最先端と言われて世界中の技術者の羨望の的だったと聞いたんだが」
「ああ、それは初代勇者が魔族領の北部を吹き飛ばす前の事だね。今はない北の方はすごかったらしいよ。今の他種族の技術の数世代は先を行っていたらしいからね! もちろん世代の基準は魔族の寿命だから……」
「それはそれは! 人族の時間感覚で言うならもはや一万年以上前のアーティファクトじゃないか!」
魔族の平均寿命は魔族でもわかっていないらしく、少なくとも五千年は生きた魔族が存在しているらしいというのだから驚きだ。生きていくことに飽きないのだろうか。
ノアはうきうきと頬を緩ませる。周囲に花が飛んでいると錯覚するほどの表情に初めてノアの外見年齢と表情が一致した。
「北部は完全に海の中か?」
「うん。あったはずの文明も、あったばずの人たちも全部消えて海の中だよ。そういえば伯父さんも北部の調査をするべきって主張してたな~。伯父さんに反発してたお父さんが強硬に反対したせいで今もできてないけど」
「……そうか」
ノアは残念そうな顔で頷く。もしも今も沈むことなくそこにあったのなら掘り出してでも調査しただろうような予感がする。今はむしろ沈んでいてくれてよかったかもしれない。
『主殿、どうするつもりだ? 勇者たちを連れるのを嫌がっていただろう』
「……俺にはもうどうすることもできない。起きたことに対して対処するしかないだろ」
後ろの勇者たちがついてきているのを確認しつつ、肩に乗った夜に返答する。
本当にどうなるのかわからない。勇者たちがどう行動するのかが予測できない。だからこそモルテへと向かわないようにしたかった。
予感があったのだ。俺と勇者たちを決定づける何かがあるかもしれないと。
「ラティスネイル、モルテを通らない道はないのか」
「うーん、あるにはあるんだけど、今日はもう時間がないかな。回り道になっちゃうから」
勇者たちに聞こえないように声を潜めてラティスネイルに尋ねるが困った顔をさせてしまった。
「そうか。無理を言ってすまない」
「いーよー……まあ、君がそこまで守らなくても彼らは強いと思うけれどね」
「なんか言ったか?」
「べっつに~?」
最後の言葉が聞き取れなくて首を傾げたが、ラティスネイルは意味深長に笑って足早にノアの隣に行ってしまう。
『主殿は勇者たちに過保護すぎるのだ。雑に扱ったところで潰れるような人間でもあるまい』
「それでも、俺がそうしたいんだ」
グラムを殺して、俺の心は変わってしまった。はっきりと自分でもわかっている。モルテでも、俺はゴミのように打ち捨てられた人を見て目を逸らすことを選んだ。
人の死というものはそれを目撃しただけで心に傷をつける。自分が多少なりとも関わっているのならなおさらに。その心の傷を今の俺は職業かスキルの要因で感じないようになっている。モルテでも俺はゴミのように打ち捨てられ、動くことさえもできなくなった人たちを見て何も思わなかった。だが勇者たちは違う。人を殺した俺と違い、感性は元のままなのだと思う。俺はそれを守らなければならない。
「……やはり」
「朝比奈君?」
「いや、なんでもない」
自己分析に集中していた俺は背後で京介が呟いた言葉に気付かなかった。