作品タイトル不明
第250話 〜復讐心〜 アメリア・ローズクォーツ目線
アキラがついて行こうとした私を抑えて夜と会議室を出ていったあと、リリスも薬を取りに部屋を出た。勇者召喚者の人たちも一度状況を整理したいのか、机を囲んであまり理解できていなかった二人に魔王の計画について噛み砕いて教えている。
彼らはきっと大丈夫だろう。ならば、今私が側にいるべきなのは……。
「リア、大丈夫?」
痛そうに頭を抱えるノアの代わりにその背を摩った。
「……私の家族は、死んだ人間を生き返らせたいというだけで死なねばならなかったのですか?」
リアが囁くようにして呟いた。
「実の父は私が生まれる前に死に、産みの母は幼い頃に魔物に襲われて死にました。私に家族というものを教えてくれたのは彼らだった」
リアの持つ杖がわずかに震えた。
泣いていないというのに、その瞳から涙が流れ落ちていると思うほどに感情の失せた瞳がどこかを見ている。
「なぜ私の家族だったのでしょう。なぜ、小さな村で慎ましく暮らしていただけの私の家族がまるでゴミのようにその命を消費されなければならなかったのでしょう」
ラスティの言い方では、おそらくリアの家族は遺体すら残っていないのだろう。生贄の中にはエルフ族も居たと言っていた。つまり同胞の遺体もすでにない。お父様に言って攫われた民の特定をしてきちんと弔ってあげなければ。
ハイエルフの私にとってエルフの民は家族そのもの。私にとっても魔王の計画は怒りを覚えるものだった。今取り乱していないのはひとえに生きた年数からだ。だから一番年下の異世界召喚者たちが今は理解を優先しているとはいえ取り乱さなかったのは賞賛に値すると思っている。今までアキラの付属品くらいにしか思っていなかったけれど大した精神力だ。アキラも含め異世界の者は皆こうも大人びているのだろうか。
「……私は、魔王を許せません」
リアの言葉に暗い響きを感じて私は息を呑んだ。
「リアっ……」
「復讐ならばやめておけ」
何を言うべきか分からなくなり、咄嗟に出た名はその後に響いた声にかき消された。
顔を上げると、クロウがリアのそばでその頭を見下ろしている。ラスティの話の間も何も発言せずに静かにしていたからとっくに部屋を出ていると思ったのに。
「少なくとも復讐を遂げたあなたは今リアの気持ちを否定する立場にないんじゃないの」
最終的にアキラ本人が決めたこととはいえアキラの手を汚させたことを許したわけではない。
高い位置にあるその顔を睨みつけるが、クロウの視線はリアから外れない。
「復讐を遂げたからこそだ」
私たちが船を降りている間に二人で話ができるように取り計らったら、船に戻った瞬間喜色満面のリアに自分の気持ちをまっすぐに伝えられたと礼を言われた。クロウからの返答はリアが望まなかったそうだが、それでも一歩前進だろう。それを嬉しく思っていた気持ちもラスティの話を聞いてかき消えてしまったけれど。
「お前は、私の最期の瞬間まで隣で過ごすのだろう。復讐などにかまけて自分で言った約束を違える気か?」
「クロウ様……」
「少なくとも、お前の母リリアは復讐など関係なくお前がただ幸せに生き続けることを願っているぞ。少ないが共に過ごした私が保証する。リリアの親戚だという育ての母もおそらくそうだろう。……母親とはそういうものだ」
最後の言葉の際にチラリとノアの方を見たのを私は見逃さなかった。
ノアはリリスから受け取った薬を飲んでいて気づいていなかったが。この素直になれない親子は最近のアキラの悩みの種だったがようやく解放されそうだ。
クロウの言葉でリアの綺麗な瞳に浮かんでいた暗い光が消えた。
「私は、どう生きればいいのでしょうか。知ってしまったからには知らなかった頃には戻れません。私はこれからどうすれば……」
リアはクロウを知るためにウルク王家に養子入りしていたのだと聞いた。そのウルク王家から出た今、帰る家もなく宙ぶらりんなのだろう。だからこそ無意識に復讐に走ろうとしたのかもしれない。少なくとも復讐を考えている間は自分のことを考えずに済むから。
「もしも帰る場所がないのなら私が用意する。エルフ族領は確かにエルフ族が多いけれど他の種族が一人もいないわけじゃない。港の方には特に貿易船関係の仕事がいっぱいあるし、元王女なら獣人族領との橋渡し役に推薦できる。それに私の連れてきた人ならリアも歓迎されると思う」
“守り手”という珍しい職業の者をエルフ族領で保護したいというハイエルフとしての考えもあるが、それ以上に初めての友人としてリアという人間を守りたいと思った。国王であるお父様も事情を説明すればきっと賛同してくれるだろう。
「アメリア様……」
「グラムが死んだ今、エルフ族領の人攫いも落ち着いているはずだ。素直に甘えておけ」
「は、はい! その時はクロウ様共々よろしくお願いします!」
私はリアだけのつもりだったけど、いつの間にかクロウもついてくることになっている。
でもこれからどう転ぶかは分からないが、おそらく今からエルフ族領に向かってもクロウの寿命はもう……。
「……そうね。その時はあなたも来るといい」
「……」
リアの手前クロウにそう言ったが、クロウは返事をしなかった。きっとクロウ自身が一番わかっているだろう。
ニコニコとしているリアだけがまだわかっていない。
クロウの寿命はおそらくあと一週間と持たない。