作品タイトル不明
第247話 ~違和感~
ヒラエスたち“龍の巣”から穏便に立ち去ることができた後、自分たちよりもはるかに強い存在が多数近くにいたために思ったよりもストレスを感じていたのか、それともあの不思議な音色のような言葉のせいか、アメリアと夜以外は巣から離れた瞬間地面に座り込んでしまった。ついでに普段は使わない声で話したせいか喉もガラガラだ。
「アキラ!」
『正気か、主殿』
ぐわりと揺れる頭を押さえて手で返事をする。
『一体何を話していた?』
アメリアが差し出してくれた水を礼を言って受け取り、一気に飲み干した。
小さい魔石を取り出し水を補充してアメリアに返しつつ、どう答えたものか考える。
「ヒラエスは……」
『待て待て、ヒラエスとは何だ』
言葉が通じていないというのは思ったよりも面倒だ。
「ヒラエスは長の名前だ。ヒラエスは俺たちに人族領レイティス国のとある水晶を破壊してほしいと頼んできた」
そういえばあの魔法は結局かけられたんだろうか。世界眼で確認しても自分のステータスにそれらしき表示がないから、もしかすると件の水晶が目の前にあって初めて効果が出るのか?
それと、No.7のマスターが三人の人間の亡命の対価として俺たちに売る三つの情報の中に“魔族が人族に卸しているとある水晶の情報”があったが、もしも同じ水晶のことなら在り処も知っているかもしれない。人族領全体からレイティス国に範囲が狭まったが、それでも人族最大国家だから広いのだ。もしもレイティス城内に限定されても探すのは骨が折れるだろう。同じ水晶のことであってほしいものだ。
「あとはそうだな……魔王とレイティス王が同盟を結んでいるらしいってことくらいか」
今思えば、魔族であるラティスネイルが、人族が起こし獣人族が多数犠牲となった勇者召喚について、正しく知っているのはおそらく同盟に勇者召喚や生贄についても深く関わっているからだろう。
“龍の巣”とは知らずに侵入してきた俺たちを見逃すこと、七瀬がもらったおそらく竜種を呼び出せる笛、そしてこの情報が水晶破壊に対する俺たちへの対価だと思われる。
『それだけか? 最後、魂が何とかと言っていなかったか』
夜がゆらりと尻尾を揺らす。
「ああ、ヒラエスから魔王への伝言を頼まれたんだ“魂が無い者は生き返らんぞ”ってさ」
『そう、か。龍の長が……。もう本当に後戻りできんのだな』
「夜?」
顔を俯かせて何かを呟く夜に俺は首を傾げるが、夜の様子がおかしかったのはその一瞬だけだった。
『さ、主殿。もう立ち上がれるか? ここは無防備すぎるからせめて船に戻ろう。おいそこのもさっさと立て!』
「ハイハイ、俺らと晶の扱いの差よ……」
くわりと口を開けて勇者たちを急かす夜はいつもと変わらないように見える。
ただ、その様子がどこかわざとらしく思えてしまうのは気にしすぎだろうか。
「アキラ、大丈夫?」
「ああ。早く船に戻ろう」
少し頭が痛いが、動けないほどでもない。よっこらせと立ち上がり、服についた砂を払い落とした。
「そういえば、話が途中だったんじゃなかったか?」
船に戻り、日が暮れる前に全員が揃った夕食の途中、ふとノアがラティスネイルを見て言った。
突然空挺船に飛び乗ってきたラティスネイルだったが、本人も食料は自分の持ち物があると遠慮しているのを細山たちが押し切って一緒に食べるようになった。幸いにも食料は十分すぎるほどあるからアメリアくらい食べなければなんてことない。船を襲ってきたワイバーンも海に落ちたもの以外は解体してそれぞれ船の補修や食料に充てているので資源的には今までの旅の中で一番潤っているかもしれない。
まあ、細山が彼女を引き留めたのは彼女の荷物の中にあった調味料目当てだろうけど。主に辛味系の。
「ん~? あ! そうだったそうだった!」
ノアの言葉に一瞬きょとんと目を丸くしたラティスネイルだったが、すぐに思い当たったのか頷く。
「そういえば魔族領についての説明が途中だったね。……でもせっかくの美味しい料理が不味くなったらいけないから食べ終わってちょっとしてからにしよ!」
明るい口調で言うが、話そうとしている内容は勇者召喚でリアの家族を含む多くの人間が生贄になったことだろう。
もしも勇者たちが俺よりも繊細な心をもっていたら、もしかするとせっかく食べた食事も無駄になるかもしれないが。
そういえば、あの時ラティスネイルが夜の中にある何かについて言っていたが、結局何のことだったのだろうか。魔王が妻を人族に殺されたことについて夜に嘘を教えた理由となるもの?
だめだ、全く分からない。そもそものヒントが足りないのかもしれないが、こういう解明系は向いてないんだよな。