作品タイトル不明
第232話 ~神子という職業~ アメリア・ローズクォーツ目線
「ではまず、先程お話した初代神子様についてです。一説によりますと初代神子様は神アイテルの娘だと言われており、先程も言ったように現代の神子にはないお力があったとされています」
「え!?」
初めて聞いた情報に身構えてはいたものの、思わず声が出てしまった。
自分の口を手で塞いでジェスチャーで続きを促す。
「まずは予言。これまで成された予言は全部で十を超えており、そのほとんどを一度も外すことなく終わりました。そして最後に残っているのが先程の、おそらくアキラ様方への予言です」
一度も外すことがなかった予言とは凄まじい。もし初代神子がアイテルの娘だというのが本当だとするのなら、それはもはや神からの啓示や神託と言っても良いのではないだろうか。
そして、どうしてエルフ族には初代神子についてそれらしい話が流れてこなかったのだろう。私が神子という職業であることがわかってから“大和の国”などからは特にそれらしき情報を仕入れていたというのに。
「次に星読みですが、これは予言よりも直近の未来を知るためのものらしいです。おそらく文字通り星を読むのでしょうが、その技術は一切知られておりません。……神子の力はずっととある一家が独占しておりますので」
嫌悪の滲む表情でアマリリスは最後の言葉を吐き捨てた。
ほとんどの感情がフラットなアマリリスがここまで負の感情を露わにするのも珍しい。その一家に何かされたのだろうか。
「それが代々神子を輩出してるっていう一族?」
「ええ。“ 神成家(かみなり) ”は初代神子様から先代神子まで代々神子という職業を継いできた家系です。後継ぎが神子の職業ではなかったためもうそうではないようですけど。……まだアメリア様方が彼らと出会ってない時にこういうことを言うのは好まないのですが、その、神成家の人間は大変秘密主義なのです。初代神子様の予言も長らく神成家が独占していたせいで避けることができたはずの災害にも見舞われ、大勢が死にました。それが予言されていたと噂が流れ、激しい批判にあった神成家はそこでようやく重い腰を上げて予言が公表されたため私も予言の内容を知っていたということです」
私の質問にとても言いづらそうにアマリリスが答えた。
聞くところによると、アマリリスの親戚がその災害で亡くなっているらしい。もし神成家が予言を伝えていれば親戚は逃れられたかもしれないと思うと、それは確かに恨んでしまうだろうし、もし関係なくても印象は悪いだろう。
にしても、『神成家』か。どこかで聞いたことがあるような?
「もしかするとその一族は予言を避けてはいけないと教えられたのかもしれないね! まあ未来っていうのは普通わかるものじゃないから未来を知る者としての覚悟とか役目とかがあるのかもしれない」
自分の考えを言ってどうだと胸を張るラティスネイルにアマリリスはぱちりと瞳を瞬かせた。まさに晴天の霹靂といったような表情だ。
「……その考えはありませんでした。神成家の遠い親戚もその災害の被害者にいたそうですし、私が知らないだけで神成家には神成家の言い伝えや教えがあるのかもしれません。……だとしても大勢の死を回避させることができる予言を秘匿したのはやはり褒められたことではないでしょう。外から見ると予言を確かに成すために黙っていたように見えますもの」
一瞬は納得したような顔をしたアマリリスだったが話しているうちにやはり思い直したのかむすっとした顔に戻ってしまった。
「ごほん。初代様のことは置いておいて、今のように昔の神子は様々なことができたのですが、現代の神子にはこの力がほとんど継承されてないそうです。先ほど言った星読みのような技術的に神子以外にも可能なことは神成家が独占しており、外へ出ることはありません。ですので、私が知っている神子という職業の情報はもしかすると正確ではないかもしれませんので、実際に今のアメリア様に当てはめてお考えください」
もう一度前置いてアマリリスは現代の神子について話し始めた。
「まず、他の大陸には伝わっているかもしれませんが、神子という職業の者の願いはほとんど叶えられます。お金持ちになりたいのなら突然事業が成功するか、玉の輿に嫁げるか。もちろん好きな人と結ばれたいといった可愛らしい願いも叶えられます。私が知るところによると相手が自分を好きになるようにすることも可能だそうです。つまりは人間の心も変えてしまうようですね」
これまで、私は自分の願いが叶えられたという自覚はない。というか妹に洗脳されて家族に裏切られて家を追い出されることを望むのはおかしいだろう。だが、アキラと出会ったのは私の願いではなく偶然だったのだろうか。それにしては奇妙な点が多いが。
今までは神子として覚醒していなかったそうだし、これからは容易に願いを考えないようにしなくてはならないかもしれない。
「願いを叶えるのは神アイテルだと言われています。というか、神子は神に体をお貸しして神の端末の一つとして動く代わりに褒美として願いを叶えると言われているので、他に伝わっているのは順序が逆なのです」
そう締めてアマリリスはほっと息をついた。どうやらこれでおしまいらしい。
薬草の話以外でこんなに話すアマリリスは初めて見たが、主に喉に無理をさせてしまったのかもしれない。あとでお茶を入れてあげよう。
「今のところ私に願いが叶えられている自覚はないかも。叶えられるのは明確に願ったことだけなのかしら。それとも無意識のうちに願ったことも叶えれるのかしら」
首を傾げて尋ねると、アマリリスは申し訳なさそうに首を振った。
「私は神成家とは敵対している家系の方が近く、そのために細かいことは知らないのです。ただ、もしこれから“大和の国”へ行かれるようでしたら神成家の人を紹介できるかもしれません」
友人の一人が神成家の人と仲が良いらしく、もしかしたらその人経由で神成家の神子の話を聞けるかもしれないとのことだ。
“大和の国”はアキラたちが住んでいたところに似ているらしく、“おんせん”などの観光地でもある。そういえばいつだったかアキラと一緒に“こんよく”に入ろうと約束した気がする。
もし魔王城でアキラたちが帰る手段を入手できなかった時は次の目的地に“大和の国”を提案してみよう。この前もアキラはお米が食べたいと寝言を言っていたから即答してくれるだろう。
「それにしてもラスティは多面的に考えることができるのがすごいわね」
二人で挟みながらも空気を読んでか会話に入ることがなかったラティスネイルに話を振った。
先ほどの神成家にも事情があるのかもしれないという考えには意表を突かれた。物事を一方からしか見ることしかできない私にはない才能だ。何せ今まで長く生きたと言ってもほとんどエルフ族領から出たことがなかったし、王女の言うことに意見する者も少なかったので。
「なんたって僕たち魔族は他種族に嫌われていることに定評があるからね! 嫌われている側の気持ちはよく分かるのさ!」
先程と同じようにラティスネイルは胸を張ったが、自慢気に言うことではないと思う。
アマリリスも悲しそうに顔を歪めているが、きっと私も同じような表情をしているだろう。
「そんなこと言わないで。少なくとも私たちはラスティのことは好きです。ね、アメリア様」
慣れてくると距離感がバグるらしいアマリリスがラティスネイルを抱きしめた。目配せされたので私もおずおずと反対側からラティスネイルをアマリリスごと抱きしめる。
ふんわりと柔らかい感触と共に花のような良い匂いが香ってきて、思わずそのまま硬直してしまった。前に妹のキリカを抱きしめた時はキリカも鍛えているからか、こんなに柔らかくなかったと思うのだが。ラティスネイルもアマリリスも前衛の戦闘職ではないからだろうか。
戦闘中にアキラに抱き上げられながら退避したことはあるが、当然ながら戦闘中にこんなことを考える余裕はなく、こんなに充足感が得られるものだったとは知らなかった。あとでアキラに改めて正面からしてもらおう。
「ふふふ! 僕もアメリアとリリアたんが大好き! 嬉しいなぁ。僕今すごい幸せだよ」
満足そうに微笑むラティスネイルに言いようのない不安が襲ってきてさらに私は強く二人を抱きしめた。