作品タイトル不明
第227話 〜正体〜
「僕たち魔族が暮らしているのは他の種族の大陸よりも北の方の不毛な大地。食物は育たないから餓死なんかで人が死んでいくようなあまり恵まれたとは言えないヴォルケーノ大陸だよ。僕が育った魔王城は清潔だし管理が行き届いているから僕は病気とかあまり罹ったことないけど、魔王城から出たら外はあまり綺麗じゃない感じ。昔はそうじゃなかったらしいんだけど、初代勇者の攻撃で北半分が吹き飛んじゃったからそこにあった文献とか、知識を持った人間も軒並みいなくなっちゃったからね」
初めて聞いた魔族領の話に思わず眉を顰めた。明らかに他種族と文明レベルに差がある気がするのは一度文明が崩壊したからか。
初代勇者が何をして北半分を吹き飛ばしたのかはわからないが、移す街があったアドレアとは違いそこにあった文明も何もかもが吹き飛んでしまったらしい。ダリオンはわざわざ大陸に入る前に勇者を殺しにきたと言っていたが、その理由はここからだろうか。
「魔王は僕の父親。母は僕が小さい頃に勇者に憧れた人族に殺されてる」
ラティスネイルの言葉で空気が凍った中、俺はどこかで聞いた話だと夜を見た。
確か、獣人族領で攫われたアメリアを取り戻しにブルート迷宮を駆け降りている時に夜の背中の上で聞いたはずだ。夜はそれを何代か前の魔王のこととして言っていたが、今代の魔王のことだったのだろうか。争いごとが嫌いで他種族へ平和協定を結ぼうと持ちかけたのに、どこぞのバカに妻を殺された魔王。
同じくその話を夜の背中の上で聞いていたリアもハッとして夜を見た。
当の夜はどこか混乱した様子で口をハクハクと動かしている。
『それは、何代か前の魔王の話だと、魔王様が……』
「それ嘘だよ。そもそもその時父さんは魔王じゃなかったし。もし君が君の中にあるものに気づいているのなら嘘の理由もわかるよね?」
二人にしかわからない内容のため完全に置いて行かれているが、察するに夜の中にある何かのために魔王が夜に嘘を教えたということだろうか。
混乱の渦の真っ只中にいる夜のことを置いて、話を戻すよとラティスネイルは再び話し始める。
俺たちとしてはありがたいが、後で二人で話す時間が必要だろう。
「正直僕は父さんのことを父親だと思ったことがあまりなかったんだ。小さい頃に母が殺されてから引きこもっちゃった父さんじゃなくて、父さんの兄つまりは伯父に育てられていたからね」
君たちもよく知る人だよと言われて顔を見合わせて首を傾げた。
ノアとクロウとジールさん、アメリアの四人は知っているらしくむしろ首を傾げている俺を驚きの表情で見ていた。
俺が初めて出会った魔族はアウルム・トレースだし、その次は真尋でその次はラティスネイルだ。だがラティスネイルは俺と勇者たちを見て言った。ということは俺が濡れ衣を着せられて城を出ていく前か獣人族領で合流した後ということになるが。全く心当たりがない。
「あれ? 君たちが召喚されたのはレイティス城でしょ? そこの騎士団長やってたって聞いたんだけどな」
レイティス城の騎士団長といえば一人しかいない。
“最後の砦”と呼ばれ、純白の鎧を身につけた人。俺たちの目の前で死んだ俺の師。今でも、嬉々として俺にたくさんのことを教えてくれた姿が目に浮かぶ。
喉の奥でヒュッと音が鳴った。
「……サラン団長が、魔族?」
「まさか知らなかったの?」
そういえば俺が『世界眼』を初めて使ったのは二度目のカンティネン迷宮でだ。レイティス城にいた時は一度も使ったことがなかった。当然、サラン団長のステータスを見たことはない。
いや、サラン団長が魔族だからどうなのだ。魔力量が寿命と比例しているそうだし、見た目どおりの年齢でないのならむしろあの知識量には納得だろう。
だというのに、俺は今一体何にショックを受けたのだろうか。
「私はサラン団長がアキラくんには教えていると思っていました」
「私もだ」
ジールさんの言葉にノアが同意する。
「ん? もしかして俺がカンティネン迷宮で俺がサラン団長の名前を出した時にアメリアと夜が微妙な顔をしていたのは魔族だということを知っていたからか?」
「うん。その時はアキラが勇者召喚者として魔王を倒すために動いていると思っていたから。恩師が倒すべき相手の身内だったなんてショックだろうし、私たちから言っていいのか分からなかった」
確かに、サラン団長を亡くしてあまり時間が経っていないその時言われていると俺も混乱していただろう。
「そういえばそのことで私も聞きたいことがあったのですが、魔族の遺体は消えるのですか?」
話の腰を折って申し訳ないと言いながらジールさんが手を上げて発言した。
どうやら俺が城を出る時の混乱の最中にそのままになっていたサラン団長の遺体がいつの間にかなくなっていたらしい。魔法による痕跡もなく、魔族だと知っていた王や王女、ジールさんは魔族の遺体は消えるのだろうと思っていたそうだ。
「え、あのお墓の下には何もないのですか?」
「ええ。サラン団長は国民にも慕われた方でしたので遺体がなくてもお墓は必要ですから」
「え? もちろん魔族も死んだら死体は残るよ? 僕たちのことなんだと思っているのさ。ただ魔力量が多かったり魔物に命令したりできるだけで他は変わらないって〜。急所を一突きすれば死ぬしね〜」
サラン団長の墓参りをしたことがあるらしい勇者と上野が目を見開き、ラティスネイルの言葉を聞いたジールさんはサッと顔を青く染めた。
さすがにレイティス王も王女も遺体を弄ぶようなことはしないだろうが、確かに気になる話だ。
「その話はまた後でしてくれ。今は魔族の話だ」
冷静なノアの声に俺たちは揃って着席した。