軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第218話 〜襲撃〜

「みんな衝撃に備えろ!!!!!!!!」

船の上空から急接近してきた気配を察知して一瞬で意識が覚醒し、飛び起きるのと同時に勇者の怒号が船内に響き渡る。

切羽詰まった声音のその言葉に従って部屋の出入り口の木枠を掴んだ瞬間、激しい衝撃が船を襲った。

ジェットコースターの急降下時と同じ、内臓が浮くような感覚とともに固定されていない物が全て浮き上がり、床にぶつかる。先程まで寝ていたベッドも持ち上がる程の衝撃だ。木枠を掴んでいなければ俺も投げ出され叩きつけられていただろう。

船のあちこちから物が落ちる音や壊れる音がする中、それに混じってワイバーンの咆哮も聞こえてきた。

「上空より敵襲!!! 甲板前方にワイバーンが攻撃を集中させている!!」

「……チッ。今来たのか」

再び勇者の声が響く。俺の『気配察知』から得られた情報とも一致していた。今この瞬間にも上では夜達が戦闘をしている。

「アキラ! 怪我は!?」

隣の部屋からアメリアが飛び出してきた。

他の部屋からも京介やノア達が船前方へと加勢に飛び出している。

「無事だ。アメリアも大丈夫そうだな」

「うん。早く上に応援に行こう。多分ワイバーンの本隊が来てる」

最初に襲ってきた極限まで腹を空かせたワイバーン達が先行隊だとするならば、今来ているのは群れの本隊。数が多いため夜がついていても厳しいかもしれない。

早く向かおうと駆け出したアメリアの手を咄嗟に掴む。

まとめて奴らを海に落とすことができる『重力魔法』が使えるアメリアを早く向かわせるべきなのはわかっているが、何やら嫌な予感がした。

『気配察知』や『危機察知』には何も反応はない。が、何か落ち着かないというか、収まりが悪くて気持ちが悪い。俺には京介のような『勘』のスキルはないが、戦闘経験からくる第六感というものだろうか。それが後方こそ警戒すべきだと訴えてきている。しかも、察知系のスキルは自身よりもレベルが高いもしくは隠蔽系のスキル持ちがいる場合はあてにならないため、勘などの感覚に従った方が良いとカンティネン迷宮で学んだ。

その上で脳裏に過ったのはブルート迷宮で見たアウルムのステータスだった。もし魔族が来ているのなら俺のこの感覚も杞憂ではないかもしれない。

「アキラ?」

「おかしい。どうしてワイバーンは前方を集中して襲っている? 先行部隊のワイバーンは理性がない本能のままに襲ってきていたのに」

船の前方を執拗に襲うワイバーンの行動は、ブルート迷宮で見た魔族の号令で動く魔物たちと同じように感じた。交代した際に夜と勇者が前方、その他の3人が後方に向かったのを見ている。空腹ならば、理性がないなら、より人数が多い方を選ぶべきなのでは? 前方から来て目についた夜たちを襲っているとしても、数匹は後方に行くのではないだろうか。

先行部隊ほどでは無いかもしれないが、本隊のワイバーンも腹を空かせているはずだ。なのに、『気配察知』で探っても統制が取れているように感じる。

アメリアも今気がついたように目を丸くしていた。きっと戦闘に集中している上の人間は誰も気づいていないだろう。後方を担当していたジールさん、和木、上野も先ほどの勇者の叫びを聞いて前方に行ってしまった。現在後方には誰もいない。

今なら魔族が忍び込んでも他の人間は気が付かない。

「わかった。私が夜たちの援護に回るからアキラは自分の思うがままに動いていい。アキラはそっちの方が向いている」

前方の援護は任せてと頷くアメリアに礼を言って、俺は攻撃を受けている船前方ではなく、手薄になっている船の後方に向かった。もし俺の杞憂だったとしても夜を通して念話で戦闘状況を確認し、すぐに駆け付けることができる。

夜に念話でアメリアにも言ったことを伝えると、こちらは任せろと力強い返事がかえってきた。

「思い違いであるのならそれに越したことはないんだがな」

獣人族領を出発して半日が過ぎている。魔族領までまだあと2日はかかるのでこんなところに魔族がいるのは可能性としては低いはずなのだが。もちろん、空を飛ぶ魔物に命じてその背に乗ってこない限りは。

気のせいであれと思っていられたのは甲板に出るまでだった。

「ありゃ? 陽動に引っ掛からなかった賢い子がいるとは思わなかったなぁ。でも、君一人じゃ意味ないと思うのだけれど」

後方の甲板へつながる階段を駆け上がり、空の下に出た瞬間頭上から知らない声が降ってきた。場所は帆の先端にある見張り台から。反射的に見上げると太陽を背にして立つ人間が1人。

強風でエルフ族領の森を思わせるようなその深緑の髪が巻き上がる。

「俺が誰かって? 俺はダリオン・シンク。勇者くんを殺すためにわざわざ来てあげたんだ」

ダメじゃないか、勇者なんて職業の人間を魔族領に入れようとしちゃ。そう言って微笑むが、その蜂蜜を溶かしこんだような色の瞳は冷え切っていた。

殺気というにも自然すぎるそれに思わず呼吸が乱れる。

「さ、勇者くんがどこにいるのか教えてくれるよね?」

さもないと力加減を間違えて殺してしまうかもしれないよ。

瞬きの間に、ダリオン・シンクは俺の目前まで迫り、腰に差している双剣を抜いて俺の首に突きつけていた。薄皮が斬れて生暖かい血が首を伝う。

予備動作はおろか音すらない早技。反応できない速度の急所への攻撃に歯を食いしばった。

意識して息を吸い“夜刀神”の柄に手をかける。

こいつが警戒しているのは勇者のみ。それが気に入らなかった。

「……さてな。俺を殺せばわかるかもしれない」

「たかが人族如きが生意気だね。首を刎ねてしまおう」

首に突きつけられた双剣の刃がさらに狭まる。

「やってみろよ。やれるものなら」

滴り落ちる自分の血を気にもせずニヤリと笑い“夜刀神”を抜いた。