軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第208話 ~もう一つの選択肢~ クロウ目線

「選べ。お飾りの剣にするか、使い勝手は悪くても戦いに使うか」

真っ二つに折れた剣を抱えて俯きながらやってきたジール坊に俺はそう言った。

私は魔法使いではなく鍛冶師である。たまに二つに折れた剣を元通りに実戦用として戻してほしいと頼んでくる阿呆もいるが、どれほど愛着があろうと私にできるのは別の物に打ち直すかただくっつけるだけ。

一度全てを溶かして打ち直せばよく似た物にはできるだろうが、私が打った剣になってしまう。それでは意味がないのだと考える人間がほとんどだろう。

どれだけ大切に扱って手入れをしていようが、実戦で使っているのなら剣は消耗品だということは戦う者ならわかっていることだ。

他の人間ならば何も言わず、無感情に突き返すが、相手はそれなりに情が移ったジール坊。しかも折れた剣は私のかつての友人であるサランの形見だったらしい。私もそのまま突き返すほど非情になれなかった。

答えが出ないまま黙り込むジール坊に私は大きくため息をつく。

「わかった。もし何日も考えて答えが出なければまた私のところに来い」

ジール坊が頷いたのを確認して、その日はそのまま部屋に帰した。

そして言葉通り数日間も考え込んで答えを出さなかったジール坊に、私はもう一つの選択肢を与えることにした。

「ついて来い」

空挺船が完成し、必要なものの準備や積み込みを勇者たち若い者に任せて、私はジール坊を連れて勝手知ったる建物の中の、とある部屋に来ていた。おそらく今日か明日にでも出発することになるだろうから、近いうちに回収に来ようとは思っていたのだ。

角部屋にあたるその部屋は、よく気配を探ってみると小部屋一つ分ほどの空白が壁側に存在する。部屋の中の本棚にある取り出せない本を奥へ押し込むことで本棚が横に移動して隠し扉が現れる。よくあるような仕掛けだ。

「ここは……?」

突然現れた部屋に驚いたジール坊が半歩後ろに下がるのを後目に、隠し部屋の電気を手さぐりでつけた。

元々は私たち先代勇者パーティのセーフハウスとして使っていたこの建物は、いつの間にか住み着いていた母が所々いいように改造しているが、本当に大切な場所には一切触れられていない。認めたくはないが、あの人の察しの良さは素晴らしいと思う。

空き部屋の隠し扉を通らないと入れないこの部屋もあの頃のままの状態で埃が積もっていた。

近くにあった装置のボタンを押せば、一瞬にして埃は消え失せ、剣や刀、弓、杖などがすぐに使える状態で現れる。

「ここは、先代勇者パーティの武器庫だ。すべて私が私とあいつらのために打った。そしてこの部屋は万が一の襲撃にあったときのため、そしてこれから魔王と戦うかもしれない後輩たちのために先代勇者が作ったものだ」

私は近くにあった護身用の短剣の鞘を撫でた。ここの部屋にある全ての武器を覚えている。

人族・大和の国の一の姫だったアオイ・ミヤコは、今のアキラやキョウスケが使っているような斬ることに特化した片刃の刀が武器だった。だから、どんなに硬い敵でも斬ることができる、刃が高速で振動している刀を作った。

当時エルフ族随一の弓矢の使い手だったルーク・ラピスラズリのために、敵に必ず貫通して自動で矢筒に戻ってくる矢を十本作った。もちろん折れてしまっても少し魔力を消費しただけで直る。

私の幼馴染だった獣人族のリッター・ガナドールはすでに聖剣を得ていたため、致命傷を一度だけ肩代わりする短剣を作った。

私はどんな武器をも使いこなせる。だから、この世に存在する全ての武器を作った。剣や短剣だけではなく、鉄扇や戦斧、モーニングスターなどのマイナーな武器まで全部だ。

その半分以上が、この部屋で本来の持ち手に触れられることもなく朽ちていくのは惜しい。

「この部屋の中にある武器をあの時持っていたなら、きっとあいつらは生還したことだろう。だがそれは叶わなかったばかりか、私だけが無様に生きている。正直、悔しいよ」

自嘲気味に笑って私がそう言うと、ジール坊がはくりと口を動かしたのが見えた。何を言おうとしたのかはわからないが、それは音になることなく消えた。

「お前は、生きろ。ここから先魔族領では誰が死んでもおかしくはない。だから、お前だけでも生きていてほしい。それが私の願いだ。今度こそ、私は間違えたくない」

妹が危機の時に側にいることができなかった。親友の死に目にも会えなかった。ジール坊の母親を含めてたくさんの弟子を犠牲にした。自分の妹の仇をとるためにアキラという若者を利用した。実の母親の心情すら第三者の介入なしには知ることができなかった。情報に通じているくせに友の死すら知らなかった。その他にも、失敗や後悔ばかりしている気がする。恥の多い人生だった。

聞けば、ジール坊は剣が折れた後戦意を喪失したらしいじゃないか。もしその場所にアキラがいなければ、キョウスケ・アサヒナがいなければ、俺の弟子の忘れ形見すら今頃この世にいなかっただろう。

私は長い人生の中で失敗ばかりしていた。もう、後悔はたくさんだ。